【飛越国境】北アルプスの展望台 超マイナーピークの御鷹巣山を歩く
Posted: 2024年4月08日(月) 23:19
【日 付】2024年4月6日(土)
【山 域】飛越国境 水無山周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】羽根公民館7:10---10:05三角点志んのさく10:25---11:00飛越国境稜線---11:25御鷹巣山(三角点東俣)13:20
---14:25 P1328m--15:30 -P1054m---16:35上ヶ島16:50---17:05駐車地
すっかり雪の消えた山麓の道を走りながら、山の選択を間違えたかと少し後悔の念が頭をもたげた。
今シーズンの雪山納めのつもりで選んだ山だったが、少し遅かったか。
飛騨河合の羽根の公民館の駐車場に車を止めさせてもらう。すぐ上には埴土(はに)神社の小さな社があり、狭く急
な階段の両脇には、天然記念物に指定されているトチとスギの巨木が脇侍のように階段に食い込んで屹立していた。
神社の裏手から斜面に取り付くと地図にない林道に出た。それを辿って終点から尾根に乗る。植林の尾根上には
杣道が続き、心配していたヤブはまったくないが、なかなかの急傾斜である。
登山開始前には雪の無さを憂いていたが、逆にペースが上がるので助かった。人間とは勝手なものだ。
1時間ほど歩いたところでスノーシューを装着。わずかな積雪だが不規則な踏み抜きは疲れるし、精神衛生上よろ
しくない。
暗い杉林を抜けてようやく足元に光が届くようになったと思ったら落葉松の植林だった。
2年前に隣の水無山に登った時もそうだったが、この近辺は落葉松の植林が多い。
そこから雑木林に変わり、やがてブナが現れ始めた。あがりこと思われる奇妙なブナの大木が林立していて驚く。
ここから尾根芯より右側にはブナの尾根が続いたが、残念ながら左側は一面の植林である。
背後でsatoさんが素っ頓狂な叫び声を上げた。「クマっ!!」前方を見ると20mほど先でクマがこちらを見つめてい
る。こちらも様子を見ていたら、いきなりこっちに向かって突進して来て、3mほど手前で立ち止まった。
クマと目を合わせてストックを構え、大声で威嚇すると、クマは左の谷の方へ逃げて行った。
睨み合っていた時も襲われる感じはしなかった。クマも人間が恐かったのだろう。
進行方向の尾根にはクマの足跡が延々と続いていた。
satoさんと歩いてクマに出会うのはもう6~7回目だろうか。かなり高い遭遇率である。
1265.8mの三角点には「志んのさく」という変わった名前が付けられている。どういう由来なのだろう。
地形図では広々とした雪のドームを想像して楽しみにしていたが、実際には杉の植林に覆われた平凡な山頂だった。
鬱陶しい杉林を抜けると爽快な雪尾根歩きが始まった。広く傾斜の緩い尾根上にはブナ林が続き、山頂までの
標高差は200m足らず。想定よりも早い時間でここまで来ている。
これなら十分昼までに山頂に着けそうだ。やはり雪が締まっていると速い。
ひと登りで飛越国境稜線に到達。ようやく白山が姿を現わした。そして北アルプスの姿も。
今日は空気があまり澄んでいないと思っていたが、意外にクッキリとその姿を浮かび上がらせている。
目の前の小ピークを越えて次のピークが本日の目的地、1443.8mの三角点「東俣」である。
小ピークと山頂の間の鞍部の風景が素晴らしい。西側から上がって来た谷の源頭から東俣へ続く広大な斜面。
まばらに立つブナの巨木の佇まいに心を奪われた。
いつもなら早く山頂に着いてほしいと思うのだが、ずっとこの斜面を歩いていたいと思わせるような心躍る時間
だった。
東俣の山頂はほぼ無木立の広い雪のドームだった。思わず歓声を上げてしまうような見事な展望が広がる。
特に北アルプスの展望は素晴らしく、剱から薬師、黒部五郎、鎗、穂高、笠、乗鞍、御嶽とビッグネームが並ぶ。
間近には金剛堂山と白木峰がまだまだ白い。
西から南西方面はブナの高木が邪魔をしているが、少し位置を変えれば白山と三ヶ辻山、人形山の展望も得られた。
4週連続で白山遥拝ランチタイムをとも思ったが、今日は趣向を変えて北アルプスを正面に眺める場所にスノー
スコップをふるう。気温が高くポカポカ陽気で暑いぐらいだ。
雪原の真ん中に1本立っている潅木に付けられたプレートには予想外の名前が書かれていた。東俣と書いてある
のかと思ったら、そこには「御鷹巣山」の文字があった。これはどこから来た名前だろうか。
帰宅してから調べてみても、出てくるのは日航機墜落事故で有名になった「御巣鷹山」ばかりで「御鷹巣山」は
ヒットしない。
検索結果の中で1件だけ「利賀村水無」という項があった。その中身を見てみると、かつて富山県利賀村(現在は南
砺市)最奥に水無という集落があり、加賀の殿様(前田氏か)が鷹のヒナを捕らえるために一軒の家を置き、その名残
としてこのピークを御鷹巣山と呼んだらしい。牛首峠から楢峠までの富山・岐阜県境一帯を巣原と呼んだという。
そして、水無の集落から飛越国境稜線のJPを経て、この日歩いて来た尾根を羽根に至る「利賀道(羽根道)」という
道があり、鞍部はノタノオ峠という名前で関所が設けられていたというから驚いた。
今日辿って来た尾根がまさに「利賀道」だったのである。この道はスタンフォード大の旧5万図にはっきりと書か
れている。
先々週、白木山に登った時の白木越もそうだったが、歴史の中に埋もれてしまった道を知らない内に通過していた
というのは実に感慨深いものだ。
到着が予定より早かったこともあり、実に2時間もまったりとしてしまった。距離だけで言えば帰りの方が長い
のでそろそろ腰を上げないといけない。
先ほどのジャンクションピークまで、再び滋味あふれるブナ林と地形を楽しみながら戻る。
ここから延びる飛越国境稜線は、一昨年歩いた水無山と北ソウレ山へと続いている。
この先は先ほどまでの原生と思われるブナ林とは違い、少し趣きに欠けるものがあるが、稜線の東側の展望は
伐採のおかげで全開だ。右手にブナ林、左手に北アルプスのパノラマを楽しみながらの稜線漫歩となった。
1380.9mの三角点「羽根北」を越え、次の1328mピークで国境稜線を離れるのだが、下り口が少々わかりにくい。
尾根の形がはっきりとしない急斜面の先に尾根があるのを確認して一気に落ちて行く。
ここは植林なしのブナ林で、思いのほかいい尾根だった。この先の尾根が痩せた部分の通過を懸念していたが、
幸い雪がしっかり着いてヤブに悩まされることもなかった。
まったく期待していなかった尾根だが、大部分でブナ林が残されており、北アルプスがずっと視界に入るのが
予想外の喜びだった。
雪がある限りしつこくスノーシューを履いていたので、スノーシューは杉の落ち葉まみれになってしまった。
ようやく雪が切れると最後は植林の杣道を辿って上ヶ島の集落に着地。
どこから下に見える国道へ出ようかと土手の上を歩いていると、足元に黄色い絨毯が現れた。フクジュソウだ。
国道との間の土手は一面フクジュソウの大群落となっていた。残念ながら夕刻で花を閉じてしまっているが、
これはかなりの規模の群落だ。
国道を見下ろすと移動販売の車のまわりに数人がたむろして、異邦人を眺めるようにこちらを見上げている。
そりゃそうだろう。こんなところから人が現れるなんて尋常ではない。
車のところまで下りて行くと小さな子供からおばあちゃんからみんなに質問攻めに遭った。
移動販売車を囲んで地元の人々と突然の闖入者の間に暖かい時間が生まれたのである。
客のひとりからは、今買ったばかりのアイスモナカを分けてもらい恐縮する。
その中で、羽根の公民館から登ったと言った時におばあちゃんから聞いた「あそこからなら登れるな」という
ひと言が、前述した利賀道(羽根道)に繋がったのだった。
もらったアイスモナカをかじりながら、小鳥川沿いの国道を歩いて行く。
土手に咲いていた、花びらを閉じたキクザキイチゲや道端のお地蔵さんも、雪融け水が迸る小鳥川の流れもすべ
てが愛おしく思えるフィナーレだった。
朝の気分とはまったく逆に、雪山納めをここにしてよかったと心から思った。
山日和
【山 域】飛越国境 水無山周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】羽根公民館7:10---10:05三角点志んのさく10:25---11:00飛越国境稜線---11:25御鷹巣山(三角点東俣)13:20
---14:25 P1328m--15:30 -P1054m---16:35上ヶ島16:50---17:05駐車地
すっかり雪の消えた山麓の道を走りながら、山の選択を間違えたかと少し後悔の念が頭をもたげた。
今シーズンの雪山納めのつもりで選んだ山だったが、少し遅かったか。
飛騨河合の羽根の公民館の駐車場に車を止めさせてもらう。すぐ上には埴土(はに)神社の小さな社があり、狭く急
な階段の両脇には、天然記念物に指定されているトチとスギの巨木が脇侍のように階段に食い込んで屹立していた。
神社の裏手から斜面に取り付くと地図にない林道に出た。それを辿って終点から尾根に乗る。植林の尾根上には
杣道が続き、心配していたヤブはまったくないが、なかなかの急傾斜である。
登山開始前には雪の無さを憂いていたが、逆にペースが上がるので助かった。人間とは勝手なものだ。
1時間ほど歩いたところでスノーシューを装着。わずかな積雪だが不規則な踏み抜きは疲れるし、精神衛生上よろ
しくない。
暗い杉林を抜けてようやく足元に光が届くようになったと思ったら落葉松の植林だった。
2年前に隣の水無山に登った時もそうだったが、この近辺は落葉松の植林が多い。
そこから雑木林に変わり、やがてブナが現れ始めた。あがりこと思われる奇妙なブナの大木が林立していて驚く。
ここから尾根芯より右側にはブナの尾根が続いたが、残念ながら左側は一面の植林である。
背後でsatoさんが素っ頓狂な叫び声を上げた。「クマっ!!」前方を見ると20mほど先でクマがこちらを見つめてい
る。こちらも様子を見ていたら、いきなりこっちに向かって突進して来て、3mほど手前で立ち止まった。
クマと目を合わせてストックを構え、大声で威嚇すると、クマは左の谷の方へ逃げて行った。
睨み合っていた時も襲われる感じはしなかった。クマも人間が恐かったのだろう。
進行方向の尾根にはクマの足跡が延々と続いていた。
satoさんと歩いてクマに出会うのはもう6~7回目だろうか。かなり高い遭遇率である。
1265.8mの三角点には「志んのさく」という変わった名前が付けられている。どういう由来なのだろう。
地形図では広々とした雪のドームを想像して楽しみにしていたが、実際には杉の植林に覆われた平凡な山頂だった。
鬱陶しい杉林を抜けると爽快な雪尾根歩きが始まった。広く傾斜の緩い尾根上にはブナ林が続き、山頂までの
標高差は200m足らず。想定よりも早い時間でここまで来ている。
これなら十分昼までに山頂に着けそうだ。やはり雪が締まっていると速い。
ひと登りで飛越国境稜線に到達。ようやく白山が姿を現わした。そして北アルプスの姿も。
今日は空気があまり澄んでいないと思っていたが、意外にクッキリとその姿を浮かび上がらせている。
目の前の小ピークを越えて次のピークが本日の目的地、1443.8mの三角点「東俣」である。
小ピークと山頂の間の鞍部の風景が素晴らしい。西側から上がって来た谷の源頭から東俣へ続く広大な斜面。
まばらに立つブナの巨木の佇まいに心を奪われた。
いつもなら早く山頂に着いてほしいと思うのだが、ずっとこの斜面を歩いていたいと思わせるような心躍る時間
だった。
東俣の山頂はほぼ無木立の広い雪のドームだった。思わず歓声を上げてしまうような見事な展望が広がる。
特に北アルプスの展望は素晴らしく、剱から薬師、黒部五郎、鎗、穂高、笠、乗鞍、御嶽とビッグネームが並ぶ。
間近には金剛堂山と白木峰がまだまだ白い。
西から南西方面はブナの高木が邪魔をしているが、少し位置を変えれば白山と三ヶ辻山、人形山の展望も得られた。
4週連続で白山遥拝ランチタイムをとも思ったが、今日は趣向を変えて北アルプスを正面に眺める場所にスノー
スコップをふるう。気温が高くポカポカ陽気で暑いぐらいだ。
雪原の真ん中に1本立っている潅木に付けられたプレートには予想外の名前が書かれていた。東俣と書いてある
のかと思ったら、そこには「御鷹巣山」の文字があった。これはどこから来た名前だろうか。
帰宅してから調べてみても、出てくるのは日航機墜落事故で有名になった「御巣鷹山」ばかりで「御鷹巣山」は
ヒットしない。
検索結果の中で1件だけ「利賀村水無」という項があった。その中身を見てみると、かつて富山県利賀村(現在は南
砺市)最奥に水無という集落があり、加賀の殿様(前田氏か)が鷹のヒナを捕らえるために一軒の家を置き、その名残
としてこのピークを御鷹巣山と呼んだらしい。牛首峠から楢峠までの富山・岐阜県境一帯を巣原と呼んだという。
そして、水無の集落から飛越国境稜線のJPを経て、この日歩いて来た尾根を羽根に至る「利賀道(羽根道)」という
道があり、鞍部はノタノオ峠という名前で関所が設けられていたというから驚いた。
今日辿って来た尾根がまさに「利賀道」だったのである。この道はスタンフォード大の旧5万図にはっきりと書か
れている。
先々週、白木山に登った時の白木越もそうだったが、歴史の中に埋もれてしまった道を知らない内に通過していた
というのは実に感慨深いものだ。
到着が予定より早かったこともあり、実に2時間もまったりとしてしまった。距離だけで言えば帰りの方が長い
のでそろそろ腰を上げないといけない。
先ほどのジャンクションピークまで、再び滋味あふれるブナ林と地形を楽しみながら戻る。
ここから延びる飛越国境稜線は、一昨年歩いた水無山と北ソウレ山へと続いている。
この先は先ほどまでの原生と思われるブナ林とは違い、少し趣きに欠けるものがあるが、稜線の東側の展望は
伐採のおかげで全開だ。右手にブナ林、左手に北アルプスのパノラマを楽しみながらの稜線漫歩となった。
1380.9mの三角点「羽根北」を越え、次の1328mピークで国境稜線を離れるのだが、下り口が少々わかりにくい。
尾根の形がはっきりとしない急斜面の先に尾根があるのを確認して一気に落ちて行く。
ここは植林なしのブナ林で、思いのほかいい尾根だった。この先の尾根が痩せた部分の通過を懸念していたが、
幸い雪がしっかり着いてヤブに悩まされることもなかった。
まったく期待していなかった尾根だが、大部分でブナ林が残されており、北アルプスがずっと視界に入るのが
予想外の喜びだった。
雪がある限りしつこくスノーシューを履いていたので、スノーシューは杉の落ち葉まみれになってしまった。
ようやく雪が切れると最後は植林の杣道を辿って上ヶ島の集落に着地。
どこから下に見える国道へ出ようかと土手の上を歩いていると、足元に黄色い絨毯が現れた。フクジュソウだ。
国道との間の土手は一面フクジュソウの大群落となっていた。残念ながら夕刻で花を閉じてしまっているが、
これはかなりの規模の群落だ。
国道を見下ろすと移動販売の車のまわりに数人がたむろして、異邦人を眺めるようにこちらを見上げている。
そりゃそうだろう。こんなところから人が現れるなんて尋常ではない。
車のところまで下りて行くと小さな子供からおばあちゃんからみんなに質問攻めに遭った。
移動販売車を囲んで地元の人々と突然の闖入者の間に暖かい時間が生まれたのである。
客のひとりからは、今買ったばかりのアイスモナカを分けてもらい恐縮する。
その中で、羽根の公民館から登ったと言った時におばあちゃんから聞いた「あそこからなら登れるな」という
ひと言が、前述した利賀道(羽根道)に繋がったのだった。
もらったアイスモナカをかじりながら、小鳥川沿いの国道を歩いて行く。
土手に咲いていた、花びらを閉じたキクザキイチゲや道端のお地蔵さんも、雪融け水が迸る小鳥川の流れもすべ
てが愛おしく思えるフィナーレだった。
朝の気分とはまったく逆に、雪山納めをここにしてよかったと心から思った。
山日和