【加越国境】取立山から天上の桃源郷 判官堂湿原へ
Posted: 2023年5月31日(水) 20:36
【日 付】2023年5月28日(日)
【山 域】加越国境 取立山周辺
【天 候】曇りのち晴れ、最後に雨
【メンバー】sato、山日和
【コース】駐車場7:00---8:10取立山---9:00板谷の頭---下降点9:25---10:20支谷出合---11:50判官堂湿原13:30
---15:00板谷の頭15:20---16:15こつぶり山---17:00大滝---17:20駐車場
ミズバショウの群生地で有名な取立山。朝が早いこともあり、盛りを過ぎた今日は車も少ない。
料金徴収のおじさんに500円を払って歩き出そうとしたところで、とんでもないことに気が付いた。デジカメと
GPS専用のスマホを忘れてしまったのだ。愕然としたがしょうがない。通信用のスマホに1台2役頑張ってもらお
う。専用機はどちらもストラップでバックアップしているので、開けたままのポーチからさっと取り出せるのだ
が、通信用のスマホは落とさないようにいちいちファスナーを閉めないといけないので面倒だ。
人気の山だけあって、登山道は踏まれ過ぎるぐらい踏まれている。
取立山の周回コースを歩く登山者は、まず大滝を目指す時計回りコースが多いようだが、今日のこちらにとって
は取立山の山頂は単なる通過点である。
30年ほど前と20年ほど前のいずれもGWに歩いているが、今日は違う目的があるのだ。
登山道脇は花が多く、チゴユリやユキザサ、マイズルソウといった白い花ばかりが盛りを迎えていた。
花の写真を撮りながらゆっくり歩いても1時間余りで山頂に到着。今日は高曇りながらも空気が澄んでいるようで、
白山の姿もくっきりと見える。
ザックを降ろすこともなく、ミズバショウ群生地に背を向けて加越国境稜線を東へと足を踏み出した。
この稜線は地形図には破線が入っているものの、かつては積雪期限定のヤブ尾根で、無雪期に歩くには相当な
覚悟が必要だった。20年前に訪れた時に少し様子を伺ってみたのだが、とても歩けそうにないのですぐにあきら
めたのだ。しかし最近になって、大長山までしっかりした登山道が切り開かれたのである。
もう少しササをかき分けながら歩くような道を想像していたのだが、これがいい方に期待を裏切られた。
足だけで歩くことができる完全な登山道である。刈り開いたばかりの登山道によくある、ササの根元が飛び出した
りということもなく、足元が完全に踏み固められているのは昔の破線の名残だろうか。これはありがたい。
快適にペースを上げてと言いたいところだが、足元のツバメオモトの花にペースダウンを余儀なくされる。
潅木のヤブの中の見通しの利かない道だが、1383mの板谷の頭のピークが小広く刈られており展望が開けた。
白山と北方の山々、反対側には経ヶ岳が大きい。鞍部を挟んで目の前に見えるのは1477mピークと鉢伏山だ。
鉢伏山との鞍部まで下り、北側の明谷源頭に向けて下降を開始した。幸い、先ほどの尾根の両側のような密な
ヤブは無く、放置植林のような林相ながら歩きやすいので文句はない。
谷芯に雪渓が残っていたのでこれ幸いと歩いてみたがすぐに切れた。
標高差50mばかり下ると水流が現れる。ピンクのテープがあるところを見ると、目的を同じくする登山者のも
ののようだ。明谷川本流に出合うここで渓流シューズに履き替えた。
谷筋はまったく穏やかで滝のひとつもない。ところどころにいい林があるものの、可もなく不可もなしという
ところか。
3つ目の右岸からの支流に入った。ここにもテープがあるので間違いないだろう。
水量チョロチョロの細い谷だが、ヤブもなくすっきりとして歩きやすい。たまに滝とも呼べないような滝が現れ
るが、快適に登ることができる。この調子なら楽勝で目的地に到達できるかもしれない。
源頭部に入るとブナ林が広がり、いよいよ水切れとなった。
しかし思い通りには行かないもので、ブナ林の切れたところで潅木のブッシュに突入となる。
ヤブの薄いところを探しながらの歩行はガクッとペースが落ちた。たまに先ほどからのピンクテープがあり、た
ぶん目的地に導いてくれるのだろうという安心感はある。
ヤブの中の足元にはツバメオモトやミツバオウレンが咲き、ヤブ漕ぎの慰めに目を楽しませてくれた。
気が付くと、思っていた方向ではなく南の方へ向いている。目的地として目星を付けている場所へは遠回りだ。
このあたりは地形図に表れない小さな谷が入り組んでおり、なかなか複雑である。
その谷を利用して軌道修正しながら、いつの間にか見失ったテープが再び現れると、ヤブの向こう側に広い空が
見えた。ここか。
潅木をかき分けて広大な空間に飛び出した。判官堂湿原だ。真正面には白山の姿が大きい。
高曇りだった空はいつの間にかちぎれ雲が浮かぶ青空へと変わっていた。
やっと辿り着けた喜びに胸が震える。もう少し後ならコバイケイソウ、7月ごろにはニッコウキスゲが咲き乱れる
だろうが、何もなくても十分に美しい。
濃密なヤブの中にぽっかりと開けたこの湿原は、まさに山上の別天地。桃源郷だ。
雪解け直後なら豊かな水を湛えた池塘の水面に逆さ白山が映ることだろう。かなり乾燥化が進んだ笠場湿原より
潤いがある。
シカの足跡が点々と残っているところを見れば、動物の水飲み場になっているのだろう。
湿原の端っこにシートを敷いて、極上のランチタイムを楽しんだ。
この判官堂湿原を訪れる登山者は年に何人いるのだろうか。検索してもこの3年間で3組の記録しかヒットしな
かった。2020年以前の記録は皆無だ。(よく考えたらokuちゃんの記録があった。さすがと言うしかない。)
積雪期には山スキーのコースとして判官堂尾根を滑った記録がそこそこ見られるが、雪の下に密かに眠る湿原を
想像もできないだろう。
去り難い場所だが帰らねばならない。後ろ髪を引かれる思いでザックを担ぐ。
実はもう一か所湿原があるはずだが見つけることができなかった。
帰路は登りに取った谷の一本南側の谷を下る。その右岸の斜面が意外に歩きやすく、谷芯に下りることなく
明谷川の本流へ下り立つことができた。次回があるならこのルートを上がる方が早いかもしれない。
加越国境稜線に上がるところで、往路では気付かなかったサンカヨウが2株だけ咲いていた。
最後に一番好きな花まで見ることができた幸運をかみしめながら、再び稜線へと辿り着く。
板谷の頭で再び登山靴に履き替えた。白山はもう雲の中に隠れている。
取立山経由で下山するのが最短コースだが、それでは面白くない。ひょっとしたら名残りのミズバショウが見ら
れるかもと、こつぶり山から大滝コースを選ぶ。
この時間になるとさすがに登山者の姿はまったく見えない。短時間で楽しめる山に夕方までいる好き物の登山
者はいないのだろう。
あまり期待はしていなかったが、やはりという感じで花が終わって巨大化したミズバショウの群落に迎えられ
た。辛うじて花を残していたものが数株。それでも今年初めて見るミズバショウはうれしいものである。
再び曇り空となったこつぶり山から加越国境稜線に別れを告げて大滝へと下る。この2か月ほどの間遊ばせて
くれた大日山とその周辺の山々の姿を正面に見ながら歩く。
大滝に向かって谷へ下りていくとだんだん薄暗くなってきた。立派な登山道だが、石のごろごろした歩きにく
い道である。
堂々と水を落とす大滝を姿を愛でてトラバース道を進んで行くうちに雨が降り始めたが、別に嫌だとも思わな
かった。
充実した一日の火照った心を落ち着かせるには、ちょうどいい雨なのかもしれない。
山日和
【山 域】加越国境 取立山周辺
【天 候】曇りのち晴れ、最後に雨
【メンバー】sato、山日和
【コース】駐車場7:00---8:10取立山---9:00板谷の頭---下降点9:25---10:20支谷出合---11:50判官堂湿原13:30
---15:00板谷の頭15:20---16:15こつぶり山---17:00大滝---17:20駐車場
ミズバショウの群生地で有名な取立山。朝が早いこともあり、盛りを過ぎた今日は車も少ない。
料金徴収のおじさんに500円を払って歩き出そうとしたところで、とんでもないことに気が付いた。デジカメと
GPS専用のスマホを忘れてしまったのだ。愕然としたがしょうがない。通信用のスマホに1台2役頑張ってもらお
う。専用機はどちらもストラップでバックアップしているので、開けたままのポーチからさっと取り出せるのだ
が、通信用のスマホは落とさないようにいちいちファスナーを閉めないといけないので面倒だ。
人気の山だけあって、登山道は踏まれ過ぎるぐらい踏まれている。
取立山の周回コースを歩く登山者は、まず大滝を目指す時計回りコースが多いようだが、今日のこちらにとって
は取立山の山頂は単なる通過点である。
30年ほど前と20年ほど前のいずれもGWに歩いているが、今日は違う目的があるのだ。
登山道脇は花が多く、チゴユリやユキザサ、マイズルソウといった白い花ばかりが盛りを迎えていた。
花の写真を撮りながらゆっくり歩いても1時間余りで山頂に到着。今日は高曇りながらも空気が澄んでいるようで、
白山の姿もくっきりと見える。
ザックを降ろすこともなく、ミズバショウ群生地に背を向けて加越国境稜線を東へと足を踏み出した。
この稜線は地形図には破線が入っているものの、かつては積雪期限定のヤブ尾根で、無雪期に歩くには相当な
覚悟が必要だった。20年前に訪れた時に少し様子を伺ってみたのだが、とても歩けそうにないのですぐにあきら
めたのだ。しかし最近になって、大長山までしっかりした登山道が切り開かれたのである。
もう少しササをかき分けながら歩くような道を想像していたのだが、これがいい方に期待を裏切られた。
足だけで歩くことができる完全な登山道である。刈り開いたばかりの登山道によくある、ササの根元が飛び出した
りということもなく、足元が完全に踏み固められているのは昔の破線の名残だろうか。これはありがたい。
快適にペースを上げてと言いたいところだが、足元のツバメオモトの花にペースダウンを余儀なくされる。
潅木のヤブの中の見通しの利かない道だが、1383mの板谷の頭のピークが小広く刈られており展望が開けた。
白山と北方の山々、反対側には経ヶ岳が大きい。鞍部を挟んで目の前に見えるのは1477mピークと鉢伏山だ。
鉢伏山との鞍部まで下り、北側の明谷源頭に向けて下降を開始した。幸い、先ほどの尾根の両側のような密な
ヤブは無く、放置植林のような林相ながら歩きやすいので文句はない。
谷芯に雪渓が残っていたのでこれ幸いと歩いてみたがすぐに切れた。
標高差50mばかり下ると水流が現れる。ピンクのテープがあるところを見ると、目的を同じくする登山者のも
ののようだ。明谷川本流に出合うここで渓流シューズに履き替えた。
谷筋はまったく穏やかで滝のひとつもない。ところどころにいい林があるものの、可もなく不可もなしという
ところか。
3つ目の右岸からの支流に入った。ここにもテープがあるので間違いないだろう。
水量チョロチョロの細い谷だが、ヤブもなくすっきりとして歩きやすい。たまに滝とも呼べないような滝が現れ
るが、快適に登ることができる。この調子なら楽勝で目的地に到達できるかもしれない。
源頭部に入るとブナ林が広がり、いよいよ水切れとなった。
しかし思い通りには行かないもので、ブナ林の切れたところで潅木のブッシュに突入となる。
ヤブの薄いところを探しながらの歩行はガクッとペースが落ちた。たまに先ほどからのピンクテープがあり、た
ぶん目的地に導いてくれるのだろうという安心感はある。
ヤブの中の足元にはツバメオモトやミツバオウレンが咲き、ヤブ漕ぎの慰めに目を楽しませてくれた。
気が付くと、思っていた方向ではなく南の方へ向いている。目的地として目星を付けている場所へは遠回りだ。
このあたりは地形図に表れない小さな谷が入り組んでおり、なかなか複雑である。
その谷を利用して軌道修正しながら、いつの間にか見失ったテープが再び現れると、ヤブの向こう側に広い空が
見えた。ここか。
潅木をかき分けて広大な空間に飛び出した。判官堂湿原だ。真正面には白山の姿が大きい。
高曇りだった空はいつの間にかちぎれ雲が浮かぶ青空へと変わっていた。
やっと辿り着けた喜びに胸が震える。もう少し後ならコバイケイソウ、7月ごろにはニッコウキスゲが咲き乱れる
だろうが、何もなくても十分に美しい。
濃密なヤブの中にぽっかりと開けたこの湿原は、まさに山上の別天地。桃源郷だ。
雪解け直後なら豊かな水を湛えた池塘の水面に逆さ白山が映ることだろう。かなり乾燥化が進んだ笠場湿原より
潤いがある。
シカの足跡が点々と残っているところを見れば、動物の水飲み場になっているのだろう。
湿原の端っこにシートを敷いて、極上のランチタイムを楽しんだ。
この判官堂湿原を訪れる登山者は年に何人いるのだろうか。検索してもこの3年間で3組の記録しかヒットしな
かった。2020年以前の記録は皆無だ。(よく考えたらokuちゃんの記録があった。さすがと言うしかない。)
積雪期には山スキーのコースとして判官堂尾根を滑った記録がそこそこ見られるが、雪の下に密かに眠る湿原を
想像もできないだろう。
去り難い場所だが帰らねばならない。後ろ髪を引かれる思いでザックを担ぐ。
実はもう一か所湿原があるはずだが見つけることができなかった。
帰路は登りに取った谷の一本南側の谷を下る。その右岸の斜面が意外に歩きやすく、谷芯に下りることなく
明谷川の本流へ下り立つことができた。次回があるならこのルートを上がる方が早いかもしれない。
加越国境稜線に上がるところで、往路では気付かなかったサンカヨウが2株だけ咲いていた。
最後に一番好きな花まで見ることができた幸運をかみしめながら、再び稜線へと辿り着く。
板谷の頭で再び登山靴に履き替えた。白山はもう雲の中に隠れている。
取立山経由で下山するのが最短コースだが、それでは面白くない。ひょっとしたら名残りのミズバショウが見ら
れるかもと、こつぶり山から大滝コースを選ぶ。
この時間になるとさすがに登山者の姿はまったく見えない。短時間で楽しめる山に夕方までいる好き物の登山
者はいないのだろう。
あまり期待はしていなかったが、やはりという感じで花が終わって巨大化したミズバショウの群落に迎えられ
た。辛うじて花を残していたものが数株。それでも今年初めて見るミズバショウはうれしいものである。
再び曇り空となったこつぶり山から加越国境稜線に別れを告げて大滝へと下る。この2か月ほどの間遊ばせて
くれた大日山とその周辺の山々の姿を正面に見ながら歩く。
大滝に向かって谷へ下りていくとだんだん薄暗くなってきた。立派な登山道だが、石のごろごろした歩きにく
い道である。
堂々と水を落とす大滝を姿を愛でてトラバース道を進んで行くうちに雨が降り始めたが、別に嫌だとも思わな
かった。
充実した一日の火照った心を落ち着かせるには、ちょうどいい雨なのかもしれない。
山日和