【比良】武奈ヶ岳〜釣瓶岳〜コヤマノ岳☆黎明の西南稜から比良のブナ林を逍遥
Posted: 2023年2月10日(金) 21:19
【 日 付 】2023年2月4日(土)
【 山 域 】比良
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】晴
【 ルート 】坊村4:40〜6:06御殿山6:15〜6:48武奈ヶ岳7:23〜8:09釣瓶岳8:17〜8:50広谷〜9:42コヤマノ岳〜10:03シャクシコバの頭〜10:55口ノ深谷の滝11:07〜11:10出合〜11:48坊村
前日は京都の北山から比良の界隈は雪が降っていたようだが、前日になって夜半から晴れの予報となる。御池岳への山行を考えていたが、前回の山行で辿り着けなかった武奈ヶ岳の北稜への憧憬が比良への再訪を促す。久しぶりに武奈ヶ岳へのご来光登山を試みることにする。この日は美しい霧氷も期待できることだろう。
早朝、4時に家を出ると、空には雲一つなくすっかり晴れ渡っているようだ。花折峠の北側の路面の凍結が心配であったが、道路は凍結している気配はなく、先行する車がないこともあって坊村には丁度4時半に到着する。すぐ隣に停められた車の男性がヘッデンを装着して出発して行かれるのが目に入る。
明王院を過ぎて尾根に取り付くと雪の上のトレースを辿るうちにいつもの登山道よりも谷寄りの見慣れないルートに入り込む。トレースを追うしかないのだが、右岸の急斜面を登るうちに踏み固められたトレースに合流する。
雪の上につけられた真新しいvibramソールの足跡が先行する男性のものだろう。アイゼンやチェーン・スパイクを装着している様子はない。トレースは凍結している気配はなく、ステップが明瞭に刻まれていることもあり、私もチェーン・スパイクなしで登る。この坊村からの登山道は積雪期の武奈ヶ岳へのスタンダードとなっているが、私がここを通るのは未明か夕方の時間なのでほとんど人と遭った覚えがない。
P846のあたりでようやく先行する男性に追いつく。樹間から西の空に眺める月の写真を撮っておられるようだった。樹間からは西の空を沈んでゆく朱い月が目に入る。ご挨拶して先に行かせて頂くと「この先には誰も歩いていないと思いますよ」と仰る。昨日のうちにわずかに雪が降ったのだろう。確かに真新しい靴の跡はなくなった。
御殿山の手前、夏道との合流地点の手前に展望地点があるのだが、すでに月は山の彼方に沈んだあとだった。冬型の気圧配置の時は御殿山への尾根にはかなり冷たい風が吹き付けるのだが、この日はほとんどが風が感じられない。アウターを脱いで登る。
御殿山では東の空の一端が橙色に染まっている。西南稜はまだ黎明の中だ。写真を撮っているとすぐにも先ほどの男性が登って来られる。ワサビ峠を経て西南稜のピークca1120mに向かうと急速に明るくなってゆく。
ご来光前に急速に変化してゆく景色を楽しむことが出来るという点においてもこの西南稜は非常に魅力的だ。ブルーアワーの藍色に染まっていた雪面は急速に明るい浅葱色へと変化してゆく。
西南稜の手前の小ピークca1120mに乗ると武奈ヶ岳にかけて稜線の西側の斜面は霧氷で覆われていることに気が付く。昨日のうちに発達したものだろう。先週はコヤマノ岳も霧氷で真っ白になっていたが、この日は生憎、これから向かう予定のコヤマノ岳には霧氷はついていないようだ。
西南稜からの眺望を堪能していたこともあり、ここで急速にペースダウンする。結局、山頂に到着したのは6時48分だった。琵琶湖の上や安曇川の谷沿いには広く雲海がかかっている。周囲の景色を眺めているうちに藤原岳のシルエットから朝日が昇り始めた。しかし、すぐにも太陽は東の空にかかる雲の背後に隠れてしまう。
再び雲の上から太陽が顔を出すのを待ちながら朝の静謐な景色を堪能する。単独行の男性は姫路から来られたらしい、朝の2時にご自宅を出発されたとのこと。琵琶湖周辺の山を聞かれるので、主な山座を男性にご説明申し上げる。霊仙山の左手には恵那山が見えていることに気がつく。
いよいよ東にかかる空の上から太陽が再び顔を出す。当然ながら朝陽には赤味がかなり失われてはいるが、それでも途端に足元の雪、そして周囲の斜面が一瞬にして橙色に染まるのは感動的だ。すでに太陽がある程度昇っているせいもあり、琵琶湖の湖面には黄金色の反射が現れる。
背後の白倉三山、その背後の三国岳から南へと続く城丹国境の稜線も瞬く間に柑橘色に染まってゆく。
ドラマチックに朝陽が周囲の山々を染め上げてゆく時間が、再び太陽が雲に隠れることで唐突に終わるまでそう長くは長くはかからなかった。遠く北山の彼方の愛宕山だけが朝陽を浴びて輝いていた。男性にお別れするとここでスノーシューを装着して釣瓶岳に向かうことにする。
朝陽が雲に隠れた後は途端にモノクロームの世界となるが、それはそれでかえって単色の雪景色の美しさを再認識することになる。北稜はやはりノートレースであった。そして期待通りに北稜の西側のブナの樹々には霧氷がしっかりと付いている。
雪庇が発達することによって広々とした尾根となったこの北稜を霧氷の樹々と広谷を眺めながら下降してゆくのは積雪期ならではでの爽快感だ。足元の雪は先週とはまるで違ってスノーシューの沈み込みはせいぜい10cmくらいだろう。下降するにつれて西側斜面のブナの霧氷は急に薄くなり、細川越と呼ばれる鞍部に至る頃にはすっかり消えてしまう。
振り返ると霧氷を纏う武奈ヶ岳の美しい姿が目に入る。多くの山は角度によって表情が異なるのは当然だが、武奈ヶ岳は南から眺めるのと北から眺めるのとでは同じ山とは思えぬほど極端に表情が違うものだ。
先週は新雪でスノーシューでもほぼ膝近くまで沈み込んだのだったが、この一週間でかなり雪がしまったようだ。登りでも沈み込みは20cmもないだろう。釣瓶岳に到着するとこちらは霧氷はほとんど発達していないが、モンスターのように杉の樹々が纏う雪は先週と同様であった。
細川越を過ぎて釣瓶岳へ向かう尾根の塔中の小ピークca1040mは雪原の広がる小さな台地となっており、360度の展望が広がる。釣瓶岳への登りから振り返るとモンスターのような杉の合間に再び霧氷を纏う武奈ヶ岳の勇壮な姿が見える。
釣瓶岳の山頂に到着すると先週に我々が刻んだトレースはすっかり消えているのだった。山頂でコーヒーとよもぎ大福で一息つくと、ナガオに踏み出す。山頂直下はしばらくは雪を纏った杉の回廊となっているが、尾根が南に向かって大きく向きを変えるあたりに来るとリョウブを中心とした自然林の疎林が広がるようになる。
再び雲の間から太陽が顔を出し、眩い光を放ち始める。通常であれば晴天を喜ぶべきところであるが、この日はあまり有難くない理由があった。というのも出発してからサングラスを車の中に、そして日焼け止めを自宅に忘れてきたことに気が付くのだった。こちらの思いとは裏腹に頭上の雲は薄れて、急速に蒼空が広がってゆく。
このナガオの尾根にはca1050mの小ピークが二つあるが、いずれも積雪期は武奈ヶ岳の好展望が広がり、武奈ヶ岳の好きな展望ポイントの一つだ。先ほどの釣瓶岳の手前のca1040mから眺める武奈ヶ岳とはわずかな角度の違いではあるが、武奈ヶ岳の山容がかなり違った印象になることに今更ながらに驚く。
尾根が再び東に大きく方向を転じた後の最初のピークca1040mから広谷に向かって下降する支尾根を下る。緩やかに下る尾根には幹は太くはないもののいくつかの台杉が現れ、目を愉しませてくれる。
広谷の細い流れは容易に渡渉することが出来る。渡渉した対岸の尾根に取り付く。この尾根にも何本かの台杉が散見する。尾根は上部に至ると尾根の形は不明瞭となり、緩やかな斜面にブナの疎林が広がるようになる。左手から上がってくる谷の源頭が描く緩やかな円弧にブナのシルエットが美しい紋様を刻んでいる。改めてこのあたりのブナの樹林の美しさを再認識するのだった。
上空を見上げるとすっかり雲がなくなり紺碧の空が広がっていた。コヤマノ岳が近付くと左手に武奈ヶ岳から続くトレースが目に入る。熊鈴の音がしてコヤマノ岳の山頂から単独行の男性が降りて来られる。金糞峠から登って来られたそうだ。結局、山中ですれ違った唯一の方となる。
コヤマノ岳からは正面に蓬莱山を眺めながら雪庇の発達した尾根を歩いて、中峠に向かう。期待通り、この尾根にもトレースはない。中峠のあたりもブナの樹林の佇まいが良いところだ。
シャクシコバの頭に向かってブナが続く尾根を登り返すと雪庇の上からは武奈ヶ岳とコヤマノの岳の展望が大きく広がる。武奈ヶ岳の西南稜は登山者が往来しているのが目に入る。比良の中央にあって森山岳と同様にこのピークの眺望と静謐なブナ林はやはり魅力的なところだ。
シャクシコバの頭で再び蓬莱山の展望を確認すると、ここからは南西に向かって下降する尾根を進む。しばらくは自然林の穏健な尾根が続くがca950mで植林となり、ここで尾根は二股に分かれるので右手の尾根を進むことになる。
ここから尾根は急に斜度を増し、下降するにつれてさらに斜度が増してゆく。足元の雪は急速に腐れ気味になってゆく。頻繁にテープが誘導してくれるので、ルート・ファインディングには苦心しないが、雪が中途半端に少ない状態での下降は滑りやすく危険を伴うものになるだろう。
谷の入口が近づき、尾根が平坦になると右手から滝の音が聞こえてくる。以前、無雪期に滝を訪れたことがあったが久しぶりに滝を訪れてみる。この時間帯は谷に光が差しこまないので、谷全体が陰鬱な印象だが、流心にあたる木漏れ陽が滝を明るく輝かせていた。
明王谷林道に着地するとツボ足のトレースがあった。どうしたことかトレースは丁度、このあたりで引き返したようだ。林道には数本の真新しい倒木が現れる。おそらくは最近の豪雪で倒木したのだろう。最後は林道をショートカットして坊村の集落の裏手に直接、下降する。
坊村の駐車場はほぼ満車であった。山頂でご一緒した男性の姫路ナンバーの車はまだ駐車場に停められたままだった。武奈ヶ岳の魅力ををゆっくり堪能しておられるといいのだが。既に武奈ヶ岳から下山して来られた登山者が「実にいい山でした」と他の登山者に向かって感想を述べておられるのが聞こえてくる。京都に帰ると空には急速に雲が広がり、予報通りの曇天になるのだった。
【 山 域 】比良
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】晴
【 ルート 】坊村4:40〜6:06御殿山6:15〜6:48武奈ヶ岳7:23〜8:09釣瓶岳8:17〜8:50広谷〜9:42コヤマノ岳〜10:03シャクシコバの頭〜10:55口ノ深谷の滝11:07〜11:10出合〜11:48坊村
前日は京都の北山から比良の界隈は雪が降っていたようだが、前日になって夜半から晴れの予報となる。御池岳への山行を考えていたが、前回の山行で辿り着けなかった武奈ヶ岳の北稜への憧憬が比良への再訪を促す。久しぶりに武奈ヶ岳へのご来光登山を試みることにする。この日は美しい霧氷も期待できることだろう。
早朝、4時に家を出ると、空には雲一つなくすっかり晴れ渡っているようだ。花折峠の北側の路面の凍結が心配であったが、道路は凍結している気配はなく、先行する車がないこともあって坊村には丁度4時半に到着する。すぐ隣に停められた車の男性がヘッデンを装着して出発して行かれるのが目に入る。
明王院を過ぎて尾根に取り付くと雪の上のトレースを辿るうちにいつもの登山道よりも谷寄りの見慣れないルートに入り込む。トレースを追うしかないのだが、右岸の急斜面を登るうちに踏み固められたトレースに合流する。
雪の上につけられた真新しいvibramソールの足跡が先行する男性のものだろう。アイゼンやチェーン・スパイクを装着している様子はない。トレースは凍結している気配はなく、ステップが明瞭に刻まれていることもあり、私もチェーン・スパイクなしで登る。この坊村からの登山道は積雪期の武奈ヶ岳へのスタンダードとなっているが、私がここを通るのは未明か夕方の時間なのでほとんど人と遭った覚えがない。
P846のあたりでようやく先行する男性に追いつく。樹間から西の空に眺める月の写真を撮っておられるようだった。樹間からは西の空を沈んでゆく朱い月が目に入る。ご挨拶して先に行かせて頂くと「この先には誰も歩いていないと思いますよ」と仰る。昨日のうちにわずかに雪が降ったのだろう。確かに真新しい靴の跡はなくなった。
御殿山の手前、夏道との合流地点の手前に展望地点があるのだが、すでに月は山の彼方に沈んだあとだった。冬型の気圧配置の時は御殿山への尾根にはかなり冷たい風が吹き付けるのだが、この日はほとんどが風が感じられない。アウターを脱いで登る。
御殿山では東の空の一端が橙色に染まっている。西南稜はまだ黎明の中だ。写真を撮っているとすぐにも先ほどの男性が登って来られる。ワサビ峠を経て西南稜のピークca1120mに向かうと急速に明るくなってゆく。
ご来光前に急速に変化してゆく景色を楽しむことが出来るという点においてもこの西南稜は非常に魅力的だ。ブルーアワーの藍色に染まっていた雪面は急速に明るい浅葱色へと変化してゆく。
西南稜の手前の小ピークca1120mに乗ると武奈ヶ岳にかけて稜線の西側の斜面は霧氷で覆われていることに気が付く。昨日のうちに発達したものだろう。先週はコヤマノ岳も霧氷で真っ白になっていたが、この日は生憎、これから向かう予定のコヤマノ岳には霧氷はついていないようだ。
西南稜からの眺望を堪能していたこともあり、ここで急速にペースダウンする。結局、山頂に到着したのは6時48分だった。琵琶湖の上や安曇川の谷沿いには広く雲海がかかっている。周囲の景色を眺めているうちに藤原岳のシルエットから朝日が昇り始めた。しかし、すぐにも太陽は東の空にかかる雲の背後に隠れてしまう。
再び雲の上から太陽が顔を出すのを待ちながら朝の静謐な景色を堪能する。単独行の男性は姫路から来られたらしい、朝の2時にご自宅を出発されたとのこと。琵琶湖周辺の山を聞かれるので、主な山座を男性にご説明申し上げる。霊仙山の左手には恵那山が見えていることに気がつく。
いよいよ東にかかる空の上から太陽が再び顔を出す。当然ながら朝陽には赤味がかなり失われてはいるが、それでも途端に足元の雪、そして周囲の斜面が一瞬にして橙色に染まるのは感動的だ。すでに太陽がある程度昇っているせいもあり、琵琶湖の湖面には黄金色の反射が現れる。
背後の白倉三山、その背後の三国岳から南へと続く城丹国境の稜線も瞬く間に柑橘色に染まってゆく。
ドラマチックに朝陽が周囲の山々を染め上げてゆく時間が、再び太陽が雲に隠れることで唐突に終わるまでそう長くは長くはかからなかった。遠く北山の彼方の愛宕山だけが朝陽を浴びて輝いていた。男性にお別れするとここでスノーシューを装着して釣瓶岳に向かうことにする。
朝陽が雲に隠れた後は途端にモノクロームの世界となるが、それはそれでかえって単色の雪景色の美しさを再認識することになる。北稜はやはりノートレースであった。そして期待通りに北稜の西側のブナの樹々には霧氷がしっかりと付いている。
雪庇が発達することによって広々とした尾根となったこの北稜を霧氷の樹々と広谷を眺めながら下降してゆくのは積雪期ならではでの爽快感だ。足元の雪は先週とはまるで違ってスノーシューの沈み込みはせいぜい10cmくらいだろう。下降するにつれて西側斜面のブナの霧氷は急に薄くなり、細川越と呼ばれる鞍部に至る頃にはすっかり消えてしまう。
振り返ると霧氷を纏う武奈ヶ岳の美しい姿が目に入る。多くの山は角度によって表情が異なるのは当然だが、武奈ヶ岳は南から眺めるのと北から眺めるのとでは同じ山とは思えぬほど極端に表情が違うものだ。
先週は新雪でスノーシューでもほぼ膝近くまで沈み込んだのだったが、この一週間でかなり雪がしまったようだ。登りでも沈み込みは20cmもないだろう。釣瓶岳に到着するとこちらは霧氷はほとんど発達していないが、モンスターのように杉の樹々が纏う雪は先週と同様であった。
細川越を過ぎて釣瓶岳へ向かう尾根の塔中の小ピークca1040mは雪原の広がる小さな台地となっており、360度の展望が広がる。釣瓶岳への登りから振り返るとモンスターのような杉の合間に再び霧氷を纏う武奈ヶ岳の勇壮な姿が見える。
釣瓶岳の山頂に到着すると先週に我々が刻んだトレースはすっかり消えているのだった。山頂でコーヒーとよもぎ大福で一息つくと、ナガオに踏み出す。山頂直下はしばらくは雪を纏った杉の回廊となっているが、尾根が南に向かって大きく向きを変えるあたりに来るとリョウブを中心とした自然林の疎林が広がるようになる。
再び雲の間から太陽が顔を出し、眩い光を放ち始める。通常であれば晴天を喜ぶべきところであるが、この日はあまり有難くない理由があった。というのも出発してからサングラスを車の中に、そして日焼け止めを自宅に忘れてきたことに気が付くのだった。こちらの思いとは裏腹に頭上の雲は薄れて、急速に蒼空が広がってゆく。
このナガオの尾根にはca1050mの小ピークが二つあるが、いずれも積雪期は武奈ヶ岳の好展望が広がり、武奈ヶ岳の好きな展望ポイントの一つだ。先ほどの釣瓶岳の手前のca1040mから眺める武奈ヶ岳とはわずかな角度の違いではあるが、武奈ヶ岳の山容がかなり違った印象になることに今更ながらに驚く。
尾根が再び東に大きく方向を転じた後の最初のピークca1040mから広谷に向かって下降する支尾根を下る。緩やかに下る尾根には幹は太くはないもののいくつかの台杉が現れ、目を愉しませてくれる。
広谷の細い流れは容易に渡渉することが出来る。渡渉した対岸の尾根に取り付く。この尾根にも何本かの台杉が散見する。尾根は上部に至ると尾根の形は不明瞭となり、緩やかな斜面にブナの疎林が広がるようになる。左手から上がってくる谷の源頭が描く緩やかな円弧にブナのシルエットが美しい紋様を刻んでいる。改めてこのあたりのブナの樹林の美しさを再認識するのだった。
上空を見上げるとすっかり雲がなくなり紺碧の空が広がっていた。コヤマノ岳が近付くと左手に武奈ヶ岳から続くトレースが目に入る。熊鈴の音がしてコヤマノ岳の山頂から単独行の男性が降りて来られる。金糞峠から登って来られたそうだ。結局、山中ですれ違った唯一の方となる。
コヤマノ岳からは正面に蓬莱山を眺めながら雪庇の発達した尾根を歩いて、中峠に向かう。期待通り、この尾根にもトレースはない。中峠のあたりもブナの樹林の佇まいが良いところだ。
シャクシコバの頭に向かってブナが続く尾根を登り返すと雪庇の上からは武奈ヶ岳とコヤマノの岳の展望が大きく広がる。武奈ヶ岳の西南稜は登山者が往来しているのが目に入る。比良の中央にあって森山岳と同様にこのピークの眺望と静謐なブナ林はやはり魅力的なところだ。
シャクシコバの頭で再び蓬莱山の展望を確認すると、ここからは南西に向かって下降する尾根を進む。しばらくは自然林の穏健な尾根が続くがca950mで植林となり、ここで尾根は二股に分かれるので右手の尾根を進むことになる。
ここから尾根は急に斜度を増し、下降するにつれてさらに斜度が増してゆく。足元の雪は急速に腐れ気味になってゆく。頻繁にテープが誘導してくれるので、ルート・ファインディングには苦心しないが、雪が中途半端に少ない状態での下降は滑りやすく危険を伴うものになるだろう。
谷の入口が近づき、尾根が平坦になると右手から滝の音が聞こえてくる。以前、無雪期に滝を訪れたことがあったが久しぶりに滝を訪れてみる。この時間帯は谷に光が差しこまないので、谷全体が陰鬱な印象だが、流心にあたる木漏れ陽が滝を明るく輝かせていた。
明王谷林道に着地するとツボ足のトレースがあった。どうしたことかトレースは丁度、このあたりで引き返したようだ。林道には数本の真新しい倒木が現れる。おそらくは最近の豪雪で倒木したのだろう。最後は林道をショートカットして坊村の集落の裏手に直接、下降する。
坊村の駐車場はほぼ満車であった。山頂でご一緒した男性の姫路ナンバーの車はまだ駐車場に停められたままだった。武奈ヶ岳の魅力ををゆっくり堪能しておられるといいのだが。既に武奈ヶ岳から下山して来られた登山者が「実にいい山でした」と他の登山者に向かって感想を述べておられるのが聞こえてくる。京都に帰ると空には急速に雲が広がり、予報通りの曇天になるのだった。