【湖北】大音波谷の謎を解明した今シーズン初沢旅
Posted: 2022年5月18日(水) 20:36
【日 付】2022年5月15日(日)
【山 域】湖北 下谷山周辺
【天 候】曇り
【メンバー】sato、山日和
【コース】余呉高原スキー場第2P 7:50---8:30大音波谷左俣下降点---10:30二俣---12:15 2段滝---13:10国境稜線14:50
---15:50音波16:15---16:50栃ノ木---17:35駐車地
昨秋に積み残した課題を片付けるため、再び大音波谷を訪れた。正しいルートを歩いていたはずなのに、いつ
の間にか隣の谷に入っていて思わぬトラバースを強いられたのである。
その時は本来の谷に辿り着いて少し下流方向を探ったが、滝の気配でストップ。両岸は急斜面のV字谷で、そこか
ら下の様子はわからなかった。いったいどこで間違えたのか。
今度こそは正攻法で他正しい谷を遡り、下谷山直下の不思議な江越国境稜線に到達したい。
前回と同じアプローチでは芸がない。北国街道沿いの余呉高原スキー場第2駐車場からスタートして、ベルク余
呉スキー場跡の北側から大音波谷左俣の源頭へ下りるコースを選択した。
この谷はスキー場開発の時に無茶苦茶な工事で荒れ果てているらしい。なんせゲレンデの最下部が谷芯なのである。
滝らしいものもない源頭部を下って行くと、程なく広い平流に出た。面白くも何ともないが、行程を稼ぐには持
って来いだ。
二俣に出た。さあここからは慎重にルートを探らねばと右俣をしばらく遡上したところでGPSを確認すると間違
いに気が付いた。本当の二俣のはるか手前の支流を歩いていたのである。この風景は見覚えがあるなんて話してい
たが、まったくの記憶違い。ほんの半年前のことなのに情けない限りである。
分岐に戻って広い谷を進む。コゴミの群落があちこちにあるが、それより目立つのはスキー場の残骸の大ゴミで
ある。ビニールシートやパイプ、土管etc.。産廃の花盛りだ。
前方に異様な構造物が現れた。リフトの始点の鉄柱だ。右側の斜面は大きく削られて、稜線に向かってケーブル
の外されたリフトが続いている。谷には導水管が設置されていたが、流れが変わったのか水流は別のところを流れ
て、土をえぐった溝から滝が落ちていた。これまた異様な風景である。
スキーブームに乗って隣接する余呉高原スキー場(ヤップ)と同時期にオープンしたが、その後のブーム衰退で2010年
に閉鎖に追い込まれたスキー場である。レストハウスを始めとする施設は放置されたまま。斜面には土砂崩れの痕
が散見される。無責任な開発業者の姿勢には怒りを禁じえない。
閑話休題。本当の二俣に到着した。右俣も広い谷で、なんでさっきの支流を右俣と思ったのか不思議なほどだ。
左俣からずっとニリンソウの群落が続いている。タチツボスミレやツボスミレも多く、昨秋の紅葉に代わって目を
楽しませてくれる。
しばらく歩いたところで、今度は本当の記憶にあるトチとサワグルミの小台地に着いた。
さあ、これからが本日のメインディッシュである。
昨年入った谷を見送って、次に右から入るであろう目的の谷を注意深く見ながら進んだ。ところが、GPSで確認
すると、ここだと思った地点を過ぎている。ここまでには分岐する谷はなかった。どういうことだ。
これ以上進むと下谷山と音波山の間の稜線に出てしまう。やっぱり去年の谷が正解で、途中で分岐する支谷を見逃
していたのだろうか。
戻って半信半疑で昨年の谷に入る。するとすぐに左に分岐する支谷が現れた。地形図には谷の形はまったくなく、
昨年はノーマークだった。と言うより気付いていなかったのかもしれない。これしかなかろうとその谷に入るとな
かなかいい雰囲気である。
もう5月も半ば、標高600mほどしかないというのに、谷間には大きな雪のブロックが残っていた。
5mほどの斜瀑を快適に直登すると、両方に小滝をかけた二俣。右を選んで直登すると、小滝が連続し、あたりは
美しい樹林に包まれた。左岸の壁が立ってきて、これは何かあると思わせた。
果たして、そこには2段10mほどの連瀑が立ちはだかった。下段は直登したものの、上段はちょっと微妙だ。
行って行けないこともなさそうだが、ここは安全第一。チェーンスパイクを装着して右岸からの巻きを選択する。
ズルズルの斜面を這い上がって小尾根に乗ればひと安心だが、見下ろす谷はV字の急斜面が続いて、復帰するのが困
難に思える。
最悪はこのまま稜線まで上がるつもりで進むと、わずかに傾斜が緩んだラインが見えた。これをトラバースすれば
谷に復帰できそうだ。と言ってもホールドも乏しい急斜面であることに変わりはない。
一歩一歩慎重にステップを刻みながら前進する。ようやく谷芯が近付いてきた。なんとか復帰できたようである。
下流方向を見ると、見覚えのある風景がさこにあった。昨年下って来てストップしたブナの木だ。これで繋がった。
懸案の課題が片付いたことに満足して再び遡行を開始。8mほどの滝を快適に直登した後、次の5m滝は前回同様
に右岸から巻き上がる。上流はいよいよ雪が増えて、雪渓歩きの場面が続いた。
雪が薄いところも多く、不用意に足を置くとドスッという音と共に落ちてしまう。とは言え、50センチほどの落ち
込みなので、ビックリする以外の実害はないのだ。
昨年の紅葉の森も良かったが、新緑のブナ林は瑞々しく活気に溢れている。
目の高さに江越美国境稜線の鞍部が現れた。これで本日のミッションは完了である。
この稜線でありながら谷底のような不思議な場所でランチタイムを取るのは何度目だろうか。
何度訪れても飽きることのないお気に入りの場所だ。
下谷山の山頂は割愛して、栃ノ木峠への国境稜線を辿る。ブナ林が延々と続く素晴らしい稜線なのだが、登山用
とは思えないピンクのテープと白いビニールひもが嫌な予感を与える。ここにも風力発電の計画が迫っているのだ。
やがてこの稜線にもブナの代わりに風車が立ち並ぶのだろうか。
音波山の先で思わぬ出会いに遭遇した。目の前に何かいるなと思ったら、生まれて間もないと思われるバンビと
目が合った。逃げる素振りもなく、道の真ん中でじっとしている。頭を撫でても嫌がらず、顎の下を撫でると気持
ち良さそうに首が伸びていくのが微笑ましい。
山の中てシカに会うのは日常茶飯事だが、これだけ文字通り触れ合ったのは初めてだ。
金草岳のヤマネに続いて本当の動物との触れ合いを楽しんだひと時だった。
その楽しかった時間も林道に出ると現実に引き戻された。風況観測塔には新たな構造物が増えており、荒々しい
林道が以前より広げられているようだった。
地球温暖化防止と再生エネルギー推進の間のジレンマ。
もう引き返すことはできないのだろうか。
山日和
【山 域】湖北 下谷山周辺
【天 候】曇り
【メンバー】sato、山日和
【コース】余呉高原スキー場第2P 7:50---8:30大音波谷左俣下降点---10:30二俣---12:15 2段滝---13:10国境稜線14:50
---15:50音波16:15---16:50栃ノ木---17:35駐車地
昨秋に積み残した課題を片付けるため、再び大音波谷を訪れた。正しいルートを歩いていたはずなのに、いつ
の間にか隣の谷に入っていて思わぬトラバースを強いられたのである。
その時は本来の谷に辿り着いて少し下流方向を探ったが、滝の気配でストップ。両岸は急斜面のV字谷で、そこか
ら下の様子はわからなかった。いったいどこで間違えたのか。
今度こそは正攻法で他正しい谷を遡り、下谷山直下の不思議な江越国境稜線に到達したい。
前回と同じアプローチでは芸がない。北国街道沿いの余呉高原スキー場第2駐車場からスタートして、ベルク余
呉スキー場跡の北側から大音波谷左俣の源頭へ下りるコースを選択した。
この谷はスキー場開発の時に無茶苦茶な工事で荒れ果てているらしい。なんせゲレンデの最下部が谷芯なのである。
滝らしいものもない源頭部を下って行くと、程なく広い平流に出た。面白くも何ともないが、行程を稼ぐには持
って来いだ。
二俣に出た。さあここからは慎重にルートを探らねばと右俣をしばらく遡上したところでGPSを確認すると間違
いに気が付いた。本当の二俣のはるか手前の支流を歩いていたのである。この風景は見覚えがあるなんて話してい
たが、まったくの記憶違い。ほんの半年前のことなのに情けない限りである。
分岐に戻って広い谷を進む。コゴミの群落があちこちにあるが、それより目立つのはスキー場の残骸の大ゴミで
ある。ビニールシートやパイプ、土管etc.。産廃の花盛りだ。
前方に異様な構造物が現れた。リフトの始点の鉄柱だ。右側の斜面は大きく削られて、稜線に向かってケーブル
の外されたリフトが続いている。谷には導水管が設置されていたが、流れが変わったのか水流は別のところを流れ
て、土をえぐった溝から滝が落ちていた。これまた異様な風景である。
スキーブームに乗って隣接する余呉高原スキー場(ヤップ)と同時期にオープンしたが、その後のブーム衰退で2010年
に閉鎖に追い込まれたスキー場である。レストハウスを始めとする施設は放置されたまま。斜面には土砂崩れの痕
が散見される。無責任な開発業者の姿勢には怒りを禁じえない。
閑話休題。本当の二俣に到着した。右俣も広い谷で、なんでさっきの支流を右俣と思ったのか不思議なほどだ。
左俣からずっとニリンソウの群落が続いている。タチツボスミレやツボスミレも多く、昨秋の紅葉に代わって目を
楽しませてくれる。
しばらく歩いたところで、今度は本当の記憶にあるトチとサワグルミの小台地に着いた。
さあ、これからが本日のメインディッシュである。
昨年入った谷を見送って、次に右から入るであろう目的の谷を注意深く見ながら進んだ。ところが、GPSで確認
すると、ここだと思った地点を過ぎている。ここまでには分岐する谷はなかった。どういうことだ。
これ以上進むと下谷山と音波山の間の稜線に出てしまう。やっぱり去年の谷が正解で、途中で分岐する支谷を見逃
していたのだろうか。
戻って半信半疑で昨年の谷に入る。するとすぐに左に分岐する支谷が現れた。地形図には谷の形はまったくなく、
昨年はノーマークだった。と言うより気付いていなかったのかもしれない。これしかなかろうとその谷に入るとな
かなかいい雰囲気である。
もう5月も半ば、標高600mほどしかないというのに、谷間には大きな雪のブロックが残っていた。
5mほどの斜瀑を快適に直登すると、両方に小滝をかけた二俣。右を選んで直登すると、小滝が連続し、あたりは
美しい樹林に包まれた。左岸の壁が立ってきて、これは何かあると思わせた。
果たして、そこには2段10mほどの連瀑が立ちはだかった。下段は直登したものの、上段はちょっと微妙だ。
行って行けないこともなさそうだが、ここは安全第一。チェーンスパイクを装着して右岸からの巻きを選択する。
ズルズルの斜面を這い上がって小尾根に乗ればひと安心だが、見下ろす谷はV字の急斜面が続いて、復帰するのが困
難に思える。
最悪はこのまま稜線まで上がるつもりで進むと、わずかに傾斜が緩んだラインが見えた。これをトラバースすれば
谷に復帰できそうだ。と言ってもホールドも乏しい急斜面であることに変わりはない。
一歩一歩慎重にステップを刻みながら前進する。ようやく谷芯が近付いてきた。なんとか復帰できたようである。
下流方向を見ると、見覚えのある風景がさこにあった。昨年下って来てストップしたブナの木だ。これで繋がった。
懸案の課題が片付いたことに満足して再び遡行を開始。8mほどの滝を快適に直登した後、次の5m滝は前回同様
に右岸から巻き上がる。上流はいよいよ雪が増えて、雪渓歩きの場面が続いた。
雪が薄いところも多く、不用意に足を置くとドスッという音と共に落ちてしまう。とは言え、50センチほどの落ち
込みなので、ビックリする以外の実害はないのだ。
昨年の紅葉の森も良かったが、新緑のブナ林は瑞々しく活気に溢れている。
目の高さに江越美国境稜線の鞍部が現れた。これで本日のミッションは完了である。
この稜線でありながら谷底のような不思議な場所でランチタイムを取るのは何度目だろうか。
何度訪れても飽きることのないお気に入りの場所だ。
下谷山の山頂は割愛して、栃ノ木峠への国境稜線を辿る。ブナ林が延々と続く素晴らしい稜線なのだが、登山用
とは思えないピンクのテープと白いビニールひもが嫌な予感を与える。ここにも風力発電の計画が迫っているのだ。
やがてこの稜線にもブナの代わりに風車が立ち並ぶのだろうか。
音波山の先で思わぬ出会いに遭遇した。目の前に何かいるなと思ったら、生まれて間もないと思われるバンビと
目が合った。逃げる素振りもなく、道の真ん中でじっとしている。頭を撫でても嫌がらず、顎の下を撫でると気持
ち良さそうに首が伸びていくのが微笑ましい。
山の中てシカに会うのは日常茶飯事だが、これだけ文字通り触れ合ったのは初めてだ。
金草岳のヤマネに続いて本当の動物との触れ合いを楽しんだひと時だった。
その楽しかった時間も林道に出ると現実に引き戻された。風況観測塔には新たな構造物が増えており、荒々しい
林道が以前より広げられているようだった。
地球温暖化防止と再生エネルギー推進の間のジレンマ。
もう引き返すことはできないのだろうか。
山日和