【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日
Posted: 2022年5月08日(日) 20:25
【日 付】 2022年5月2日(月)
【山 域】 奥越
【天 候】 晴れのち曇りのち雪や雨が降ったり止んだり陽が射したり
最後は雨
【メンバー】山日和さん sato
【コース】 鳩ヶ湯~たんどう谷右岸尾根~赤兎山山頂~避難小屋~・1530~
たんどう谷左岸尾根~鳩ヶ湯
緑の波に飲みこまれそうになりながら、車は打波川に沿った道を進んでいく。
下打波の集落は、鮮やかな春色に包まれていた。
「あっ」緑の中に浮かぶ水場に目が留まる。萌え出ずる春の息吹の中、山から湧き出た水は、
勢いに流されることなく、ひと月ちょっと前、雪で覆われていた時と同じように静かに流れ落ちていた。
移りゆく時と変わらぬ流れ。あれから、もうひと月以上経ったのだ。
あれから、まだひと月ちょっとしか経っていないのに。
ひと月という時は長いのか短いのか、集落を彩る色彩の変化に目を見張る。
車は、数日前に開通した道をさらに上流へと進んでいく。
暮らしの営みが途絶えた上打波の集落を通り、上から石が落ちてきそうな崖の下を走り抜け、登山口の鳩ヶ湯に到着した。
鳩ヶ湯温泉の敷地内に車を置かせていただき、澄み渡った青い空を仰ぎ見る。
「参りました」あの日、大嵐山先の展望地でお会いしたまっしろな赤兎山の女神さまにご挨拶をする。
今日はどんなお姿を見せてくださるのだろう。わくわくしながら、お社の横から杉林に入る。
木立の間には今が摘み頃のコゴミが並び、カタクリ、スミレ、ミヤマカタバミもぽつぽつと咲いていた。
春の草花は、何故こんなにも人のこころをときめかせるのだろう。わぁっ、とうれしくなる。
尾根には杣道が続いていた。広葉樹の箇所もあり暗さは感じない。
朝の光を浴び煌めく木々の葉の緑が目に染みる。足取りも気持ちも軽やか。
春の空気を、すぅっと吸いながら、高度を上げていく。
気になっていた標高1000mあたりからの緩やかに広がっていく地形に入ると、
杉林の中に、ちいさな白い花がたくさん咲いていた。オウレンだった。
緩やかな広い地形を利用して、ここでオウレンを栽培していたのだ。
雪融けの今しか見ることの出来ない風景との出会いに胸が高鳴る。
尾根はさらに広がっていき、ちいさな谷地形の入るあたりまでくると二次林に。こころ待ちしていた雪も現れた。
下りでは迷いそうな、新緑とまだら雪で飾られたうねりの中を△1205.2奥の塚を目指し登っていく。
奥の塚から片側杉林の尾根を進むと、浅い谷が入った平坦地になり、
右側の木々の枝をかき分けると落ち葉が折り重なった登山道が見えた。
少し前は雪が出てよろこんでいたのに、今度は地面が出ていてよかったとよろこび、急こう配の道を一気に登る。
登りきった先には、ゆったりとブナが立ち並ぶのびやかな台地が広がっていた。
こんなに開放感のある場所だったのだ。
8年くらい前の夏に訪れた時の記憶、緑の迷宮に迷い込んだような深い深い森の風景と重ならず、
青空の下、枝を気持ちよさげに伸ばし、無数のやわらかな葉一枚一枚に太陽の光を浴びさせているブナを見上げ、
うっとりとなる。そして、はっ、と息を呑んだ。
昭文社の地図に記された奥の塚峠はこの辺りだった。
峠とは山越えの道の頂点。辿ってきたオウレン畑の跡、ちいさな谷が入り組んだ緩やかな地形、
そしてたんどう谷沿いの登山道、わさび田の跡が繋がっていく。
わたしが今日見た風景、かつて見た風景は、
上打波に生きた人々が亥向谷を遡り、この峠を越え、出作りを営んでいた地だったのだ。
峠からは、ブナの間を通り抜ける爽やかな5月の風にのって、口笛を吹きながら歩きたくなるような、
やさしい光に満ちた風景が続いていった。
谷間の向こうには、黒々としたお姿にびっくりしつつもうつくしい石徹白の山やまが連なり、
たんどう谷左岸尾根の奥には、白く輝く白山がお顔を覗かせていた。
なんていい景色なのだろう。なんていい尾根なのだろう。なんていいお天気なのだろう。
上機嫌で歩いていると、標高1490mの広い台地に着いていた。
山頂まであともう少し。青い空、白い雲、まだら模様の赤兎山。
走れないけれど走り出したくなるような牧歌的な風景を仰ぎ見て、
はやる気持ちを抑え、お昼前には山頂に着きますね、とひと息つき、最後の登りにさしかかる。
と、その時、白灰色の雲が流れてきて、あれよあれよという間に青空を覆ってしまった。
あぁ、白山はお隠れになってしまったかも。杭が見え、よいしょ、と最後の一歩を登ると、
周りをササで囲まれた小石の散らばる黒茶色の山頂に出た。
くるりと見渡すと、広い山上台地も見事なまだら模様だった。
可憐にして逞しく生きる花ばなが眠る大雪原を描いていたが、白い世界はすでに過ぎ去っていた。
白山はお隠れになっていなかった。
青灰色の空の下に屹立するお姿はまだまだ白く、その透明な輝きに思わず手を合わせてしまう。
風が冷たいので、お昼ご飯は避難小屋でいただくことに。
ササヤブの中の道を通っていると、すぐそばでうぐいすが鳴いた。そう、お山の上も春なのだ。
まだら模様の女神さま。お天気は今一つになってしまったけれど、
わたしたちだけの貸し切りの赤兎山で、春の息吹に華やぐ女神さまの秘密の表情に出会えた気分になり、
うれしくなって、ホーホケキョとうぐいすのまねをしていると、白いものが舞ってきた。
えっ?雪!?と思っているうちに風が強まりアラレのようになり、急いで雨具を着る羽目に。
白い世界は過ぎ去ってしまった、などと言ったので、女神さまが、ではもう一度雪を味わわせてあげよう、
といたずらごころを起こされたのか。
寒い寒いといいながら駆け込んだ避難小屋はあたたかく、ガラス窓で明るく居心地がいい。
降りしきる雪を眺めながら、そのうちに止むだろう、とありがたく雨宿りならぬ雪宿りをさせていただく。
5年前に山日和さんが訪れた時は、この小屋は屋根より下は埋まっていたとか。
この冬は5年前より降り積もったと感じるけれど、4月半ばくらいから雪融けが一気に進んだように見える。
1時間半ほど経つと、空が明るくなった。外に出ると青空も覗いていた。
白山はより白く光り輝いている。さぁ、出発しましょうか。
下りはアイゼンを履こうとリュックから取り出して装着し、高揚感に包まれ・1530へと向かう。
ルンルン気分で辿り着いた・1530。でも、その先、たんどう谷左岸尾根にはほとんど雪が残っていなかった。
うつくしいブナ林にはササと灌木が飛び出していた。
斜面には中途半端に雪が残り、滑ると危ないのでアイゼンを履いたまま下っていく。
爪がササの葉や灌木の枝にひっかかり、何度もつんのめりそうになり、思うように進めない。
雪が無くなりアイゼンを外してからも、すたすたとは歩けない。
朝、歩き始める前は、16時半前には下山出来るかなと思っていたけれど、見通しが甘かった。
16時になってもまだ枝をかき分けていた。
たおやかでうつくしい女性的な山容といわれる赤兎山の、ワイルドな表情を味わっているわたしたち。
ブナ林の中の快適な雪尾根歩きより、ある意味楽しんでいるのかな、と可笑しくなる。
悠長に構えられるのは、山日和さんがこのルートをご存知だからなのだが。
今度は雨が降ってきた。幸い雨は直に止み、植林地帯に入り、やれやれ楽に歩けると下っていると、
地図には無い林道に突き当たった。降りやすい斜面を探し、後ろ向きでそろそろと下る。
その先も林道に出る度、そろそろ下りを繰り返す。最後、階段を下り時計を見ると17時20分を回っていた。
ふぅ、とため息をつき、階段横でやさしく見送ってくれたムラサキヤシオにありがとう、
とお礼を言おうと振り返ると、ぱらぱらとまた雨が降ってきた。
えぇっ?また女神さまのいたずら?今度は強くなりそう?
最後の最後まで楽しませてくださった赤兎山。笑いながら車へと走る。
sato
【山 域】 奥越
【天 候】 晴れのち曇りのち雪や雨が降ったり止んだり陽が射したり
最後は雨
【メンバー】山日和さん sato
【コース】 鳩ヶ湯~たんどう谷右岸尾根~赤兎山山頂~避難小屋~・1530~
たんどう谷左岸尾根~鳩ヶ湯
緑の波に飲みこまれそうになりながら、車は打波川に沿った道を進んでいく。
下打波の集落は、鮮やかな春色に包まれていた。
「あっ」緑の中に浮かぶ水場に目が留まる。萌え出ずる春の息吹の中、山から湧き出た水は、
勢いに流されることなく、ひと月ちょっと前、雪で覆われていた時と同じように静かに流れ落ちていた。
移りゆく時と変わらぬ流れ。あれから、もうひと月以上経ったのだ。
あれから、まだひと月ちょっとしか経っていないのに。
ひと月という時は長いのか短いのか、集落を彩る色彩の変化に目を見張る。
車は、数日前に開通した道をさらに上流へと進んでいく。
暮らしの営みが途絶えた上打波の集落を通り、上から石が落ちてきそうな崖の下を走り抜け、登山口の鳩ヶ湯に到着した。
鳩ヶ湯温泉の敷地内に車を置かせていただき、澄み渡った青い空を仰ぎ見る。
「参りました」あの日、大嵐山先の展望地でお会いしたまっしろな赤兎山の女神さまにご挨拶をする。
今日はどんなお姿を見せてくださるのだろう。わくわくしながら、お社の横から杉林に入る。
木立の間には今が摘み頃のコゴミが並び、カタクリ、スミレ、ミヤマカタバミもぽつぽつと咲いていた。
春の草花は、何故こんなにも人のこころをときめかせるのだろう。わぁっ、とうれしくなる。
尾根には杣道が続いていた。広葉樹の箇所もあり暗さは感じない。
朝の光を浴び煌めく木々の葉の緑が目に染みる。足取りも気持ちも軽やか。
春の空気を、すぅっと吸いながら、高度を上げていく。
気になっていた標高1000mあたりからの緩やかに広がっていく地形に入ると、
杉林の中に、ちいさな白い花がたくさん咲いていた。オウレンだった。
緩やかな広い地形を利用して、ここでオウレンを栽培していたのだ。
雪融けの今しか見ることの出来ない風景との出会いに胸が高鳴る。
尾根はさらに広がっていき、ちいさな谷地形の入るあたりまでくると二次林に。こころ待ちしていた雪も現れた。
下りでは迷いそうな、新緑とまだら雪で飾られたうねりの中を△1205.2奥の塚を目指し登っていく。
奥の塚から片側杉林の尾根を進むと、浅い谷が入った平坦地になり、
右側の木々の枝をかき分けると落ち葉が折り重なった登山道が見えた。
少し前は雪が出てよろこんでいたのに、今度は地面が出ていてよかったとよろこび、急こう配の道を一気に登る。
登りきった先には、ゆったりとブナが立ち並ぶのびやかな台地が広がっていた。
こんなに開放感のある場所だったのだ。
8年くらい前の夏に訪れた時の記憶、緑の迷宮に迷い込んだような深い深い森の風景と重ならず、
青空の下、枝を気持ちよさげに伸ばし、無数のやわらかな葉一枚一枚に太陽の光を浴びさせているブナを見上げ、
うっとりとなる。そして、はっ、と息を呑んだ。
昭文社の地図に記された奥の塚峠はこの辺りだった。
峠とは山越えの道の頂点。辿ってきたオウレン畑の跡、ちいさな谷が入り組んだ緩やかな地形、
そしてたんどう谷沿いの登山道、わさび田の跡が繋がっていく。
わたしが今日見た風景、かつて見た風景は、
上打波に生きた人々が亥向谷を遡り、この峠を越え、出作りを営んでいた地だったのだ。
峠からは、ブナの間を通り抜ける爽やかな5月の風にのって、口笛を吹きながら歩きたくなるような、
やさしい光に満ちた風景が続いていった。
谷間の向こうには、黒々としたお姿にびっくりしつつもうつくしい石徹白の山やまが連なり、
たんどう谷左岸尾根の奥には、白く輝く白山がお顔を覗かせていた。
なんていい景色なのだろう。なんていい尾根なのだろう。なんていいお天気なのだろう。
上機嫌で歩いていると、標高1490mの広い台地に着いていた。
山頂まであともう少し。青い空、白い雲、まだら模様の赤兎山。
走れないけれど走り出したくなるような牧歌的な風景を仰ぎ見て、
はやる気持ちを抑え、お昼前には山頂に着きますね、とひと息つき、最後の登りにさしかかる。
と、その時、白灰色の雲が流れてきて、あれよあれよという間に青空を覆ってしまった。
あぁ、白山はお隠れになってしまったかも。杭が見え、よいしょ、と最後の一歩を登ると、
周りをササで囲まれた小石の散らばる黒茶色の山頂に出た。
くるりと見渡すと、広い山上台地も見事なまだら模様だった。
可憐にして逞しく生きる花ばなが眠る大雪原を描いていたが、白い世界はすでに過ぎ去っていた。
白山はお隠れになっていなかった。
青灰色の空の下に屹立するお姿はまだまだ白く、その透明な輝きに思わず手を合わせてしまう。
風が冷たいので、お昼ご飯は避難小屋でいただくことに。
ササヤブの中の道を通っていると、すぐそばでうぐいすが鳴いた。そう、お山の上も春なのだ。
まだら模様の女神さま。お天気は今一つになってしまったけれど、
わたしたちだけの貸し切りの赤兎山で、春の息吹に華やぐ女神さまの秘密の表情に出会えた気分になり、
うれしくなって、ホーホケキョとうぐいすのまねをしていると、白いものが舞ってきた。
えっ?雪!?と思っているうちに風が強まりアラレのようになり、急いで雨具を着る羽目に。
白い世界は過ぎ去ってしまった、などと言ったので、女神さまが、ではもう一度雪を味わわせてあげよう、
といたずらごころを起こされたのか。
寒い寒いといいながら駆け込んだ避難小屋はあたたかく、ガラス窓で明るく居心地がいい。
降りしきる雪を眺めながら、そのうちに止むだろう、とありがたく雨宿りならぬ雪宿りをさせていただく。
5年前に山日和さんが訪れた時は、この小屋は屋根より下は埋まっていたとか。
この冬は5年前より降り積もったと感じるけれど、4月半ばくらいから雪融けが一気に進んだように見える。
1時間半ほど経つと、空が明るくなった。外に出ると青空も覗いていた。
白山はより白く光り輝いている。さぁ、出発しましょうか。
下りはアイゼンを履こうとリュックから取り出して装着し、高揚感に包まれ・1530へと向かう。
ルンルン気分で辿り着いた・1530。でも、その先、たんどう谷左岸尾根にはほとんど雪が残っていなかった。
うつくしいブナ林にはササと灌木が飛び出していた。
斜面には中途半端に雪が残り、滑ると危ないのでアイゼンを履いたまま下っていく。
爪がササの葉や灌木の枝にひっかかり、何度もつんのめりそうになり、思うように進めない。
雪が無くなりアイゼンを外してからも、すたすたとは歩けない。
朝、歩き始める前は、16時半前には下山出来るかなと思っていたけれど、見通しが甘かった。
16時になってもまだ枝をかき分けていた。
たおやかでうつくしい女性的な山容といわれる赤兎山の、ワイルドな表情を味わっているわたしたち。
ブナ林の中の快適な雪尾根歩きより、ある意味楽しんでいるのかな、と可笑しくなる。
悠長に構えられるのは、山日和さんがこのルートをご存知だからなのだが。
今度は雨が降ってきた。幸い雨は直に止み、植林地帯に入り、やれやれ楽に歩けると下っていると、
地図には無い林道に突き当たった。降りやすい斜面を探し、後ろ向きでそろそろと下る。
その先も林道に出る度、そろそろ下りを繰り返す。最後、階段を下り時計を見ると17時20分を回っていた。
ふぅ、とため息をつき、階段横でやさしく見送ってくれたムラサキヤシオにありがとう、
とお礼を言おうと振り返ると、ぱらぱらとまた雨が降ってきた。
えぇっ?また女神さまのいたずら?今度は強くなりそう?
最後の最後まで楽しませてくださった赤兎山。笑いながら車へと走る。
sato