【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日

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sato
記事: 417
登録日時: 2019年2月13日(水) 12:55

【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日

投稿記事 by sato »

【日 付】 2022年5月2日(月)
【山 域】 奥越
【天 候】 晴れのち曇りのち雪や雨が降ったり止んだり陽が射したり
      最後は雨
【メンバー】山日和さん sato
【コース】 鳩ヶ湯~たんどう谷右岸尾根~赤兎山山頂~避難小屋~・1530~
      たんどう谷左岸尾根~鳩ヶ湯

緑の波に飲みこまれそうになりながら、車は打波川に沿った道を進んでいく。
下打波の集落は、鮮やかな春色に包まれていた。
「あっ」緑の中に浮かぶ水場に目が留まる。萌え出ずる春の息吹の中、山から湧き出た水は、
勢いに流されることなく、ひと月ちょっと前、雪で覆われていた時と同じように静かに流れ落ちていた。
移りゆく時と変わらぬ流れ。あれから、もうひと月以上経ったのだ。
あれから、まだひと月ちょっとしか経っていないのに。
ひと月という時は長いのか短いのか、集落を彩る色彩の変化に目を見張る。

車は、数日前に開通した道をさらに上流へと進んでいく。
暮らしの営みが途絶えた上打波の集落を通り、上から石が落ちてきそうな崖の下を走り抜け、登山口の鳩ヶ湯に到着した。

鳩ヶ湯温泉の敷地内に車を置かせていただき、澄み渡った青い空を仰ぎ見る。
「参りました」あの日、大嵐山先の展望地でお会いしたまっしろな赤兎山の女神さまにご挨拶をする。
今日はどんなお姿を見せてくださるのだろう。わくわくしながら、お社の横から杉林に入る。
木立の間には今が摘み頃のコゴミが並び、カタクリ、スミレ、ミヤマカタバミもぽつぽつと咲いていた。
春の草花は、何故こんなにも人のこころをときめかせるのだろう。わぁっ、とうれしくなる。
IMG_2104_1.JPG
尾根には杣道が続いていた。広葉樹の箇所もあり暗さは感じない。
朝の光を浴び煌めく木々の葉の緑が目に染みる。足取りも気持ちも軽やか。
春の空気を、すぅっと吸いながら、高度を上げていく。

気になっていた標高1000mあたりからの緩やかに広がっていく地形に入ると、
杉林の中に、ちいさな白い花がたくさん咲いていた。オウレンだった。
緩やかな広い地形を利用して、ここでオウレンを栽培していたのだ。
雪融けの今しか見ることの出来ない風景との出会いに胸が高鳴る。
IMG_2110_1.JPG
尾根はさらに広がっていき、ちいさな谷地形の入るあたりまでくると二次林に。こころ待ちしていた雪も現れた。
下りでは迷いそうな、新緑とまだら雪で飾られたうねりの中を△1205.2奥の塚を目指し登っていく。

奥の塚から片側杉林の尾根を進むと、浅い谷が入った平坦地になり、
右側の木々の枝をかき分けると落ち葉が折り重なった登山道が見えた。
少し前は雪が出てよろこんでいたのに、今度は地面が出ていてよかったとよろこび、急こう配の道を一気に登る。
IMG_2153_1.JPG
登りきった先には、ゆったりとブナが立ち並ぶのびやかな台地が広がっていた。
こんなに開放感のある場所だったのだ。
8年くらい前の夏に訪れた時の記憶、緑の迷宮に迷い込んだような深い深い森の風景と重ならず、
青空の下、枝を気持ちよさげに伸ばし、無数のやわらかな葉一枚一枚に太陽の光を浴びさせているブナを見上げ、
うっとりとなる。そして、はっ、と息を呑んだ。

昭文社の地図に記された奥の塚峠はこの辺りだった。
峠とは山越えの道の頂点。辿ってきたオウレン畑の跡、ちいさな谷が入り組んだ緩やかな地形、
そしてたんどう谷沿いの登山道、わさび田の跡が繋がっていく。
わたしが今日見た風景、かつて見た風景は、
上打波に生きた人々が亥向谷を遡り、この峠を越え、出作りを営んでいた地だったのだ。

峠からは、ブナの間を通り抜ける爽やかな5月の風にのって、口笛を吹きながら歩きたくなるような、
やさしい光に満ちた風景が続いていった。
谷間の向こうには、黒々としたお姿にびっくりしつつもうつくしい石徹白の山やまが連なり、
たんどう谷左岸尾根の奥には、白く輝く白山がお顔を覗かせていた。
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なんていい景色なのだろう。なんていい尾根なのだろう。なんていいお天気なのだろう。
上機嫌で歩いていると、標高1490mの広い台地に着いていた。
山頂まであともう少し。青い空、白い雲、まだら模様の赤兎山。
走れないけれど走り出したくなるような牧歌的な風景を仰ぎ見て、
はやる気持ちを抑え、お昼前には山頂に着きますね、とひと息つき、最後の登りにさしかかる。
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と、その時、白灰色の雲が流れてきて、あれよあれよという間に青空を覆ってしまった。
あぁ、白山はお隠れになってしまったかも。杭が見え、よいしょ、と最後の一歩を登ると、
周りをササで囲まれた小石の散らばる黒茶色の山頂に出た。

くるりと見渡すと、広い山上台地も見事なまだら模様だった。
可憐にして逞しく生きる花ばなが眠る大雪原を描いていたが、白い世界はすでに過ぎ去っていた。
白山はお隠れになっていなかった。
青灰色の空の下に屹立するお姿はまだまだ白く、その透明な輝きに思わず手を合わせてしまう。
IMG_2206_1.JPG
風が冷たいので、お昼ご飯は避難小屋でいただくことに。
ササヤブの中の道を通っていると、すぐそばでうぐいすが鳴いた。そう、お山の上も春なのだ。
まだら模様の女神さま。お天気は今一つになってしまったけれど、
わたしたちだけの貸し切りの赤兎山で、春の息吹に華やぐ女神さまの秘密の表情に出会えた気分になり、
うれしくなって、ホーホケキョとうぐいすのまねをしていると、白いものが舞ってきた。

えっ?雪!?と思っているうちに風が強まりアラレのようになり、急いで雨具を着る羽目に。
白い世界は過ぎ去ってしまった、などと言ったので、女神さまが、ではもう一度雪を味わわせてあげよう、
といたずらごころを起こされたのか。
寒い寒いといいながら駆け込んだ避難小屋はあたたかく、ガラス窓で明るく居心地がいい。
降りしきる雪を眺めながら、そのうちに止むだろう、とありがたく雨宿りならぬ雪宿りをさせていただく。
5年前に山日和さんが訪れた時は、この小屋は屋根より下は埋まっていたとか。
この冬は5年前より降り積もったと感じるけれど、4月半ばくらいから雪融けが一気に進んだように見える。
IMG_2212_1.JPG
1時間半ほど経つと、空が明るくなった。外に出ると青空も覗いていた。
白山はより白く光り輝いている。さぁ、出発しましょうか。
下りはアイゼンを履こうとリュックから取り出して装着し、高揚感に包まれ・1530へと向かう。

ルンルン気分で辿り着いた・1530。でも、その先、たんどう谷左岸尾根にはほとんど雪が残っていなかった。
うつくしいブナ林にはササと灌木が飛び出していた。

斜面には中途半端に雪が残り、滑ると危ないのでアイゼンを履いたまま下っていく。
爪がササの葉や灌木の枝にひっかかり、何度もつんのめりそうになり、思うように進めない。
雪が無くなりアイゼンを外してからも、すたすたとは歩けない。
朝、歩き始める前は、16時半前には下山出来るかなと思っていたけれど、見通しが甘かった。
16時になってもまだ枝をかき分けていた。
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たおやかでうつくしい女性的な山容といわれる赤兎山の、ワイルドな表情を味わっているわたしたち。
ブナ林の中の快適な雪尾根歩きより、ある意味楽しんでいるのかな、と可笑しくなる。
悠長に構えられるのは、山日和さんがこのルートをご存知だからなのだが。

今度は雨が降ってきた。幸い雨は直に止み、植林地帯に入り、やれやれ楽に歩けると下っていると、
地図には無い林道に突き当たった。降りやすい斜面を探し、後ろ向きでそろそろと下る。
その先も林道に出る度、そろそろ下りを繰り返す。最後、階段を下り時計を見ると17時20分を回っていた。

ふぅ、とため息をつき、階段横でやさしく見送ってくれたムラサキヤシオにありがとう、
とお礼を言おうと振り返ると、ぱらぱらとまた雨が降ってきた。
えぇっ?また女神さまのいたずら?今度は強くなりそう?
最後の最後まで楽しませてくださった赤兎山。笑いながら車へと走る。

sato
バーチャリ
記事: 547
登録日時: 2011年3月12日(土) 20:58

Re: 【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日

投稿記事 by バーチャリ »

sato さん こんにちは


【天 候】 晴れのち曇りのち雪や雨が降ったり止んだり陽が射したり

目まぐるし一日でしたね。

【コース】 鳩ヶ湯~たんどう谷右岸尾根~赤兎山山頂~避難小屋~・1530~
      たんどう谷左岸尾根~鳩ヶ湯


だいぶ前いや昔です。
3月中旬か4月初旬だと思いますが GWにたんどう谷の飛び石を渡り 赤兎に登っています


車は、数日前に開通した道をさらに上流へと進んでいく。
暮らしの営みが途絶えた上打波の集落を通り、上から石が落ちてきそうな崖の下を走り抜け、登山口の鳩ヶ湯に到着した。


昔はここまで除雪してあつたのか
雪がなかったのか定かではないですが



今日はどんなお姿を見せてくださるのだろう。わくわくしながら、お社の横から杉林に入る。
木立の間には今が摘み頃のコゴミが並び、カタクリ、スミレ、ミヤマカタバミもぽつぽつと咲いていた。
春の草花は、何故こんなにも人のこころをときめかせるのだろう。わぁっ、とうれしくなる。


sato さんもお花に興味を持たれているのですね。
私は最初の頃は雪山を優先してましたが
最近は花🌸方を優先しています(*_*)


尾根には杣道が続いていた。広葉樹の箇所もあり暗さは感じない。
朝の光を浴び煌めく木々の葉の緑が目に染みる。足取りも気持ちも軽やか。



尾根に杣道が有るのですか知りませんでした。


気になっていた標高1000mあたりからの緩やかに広がっていく地形に入ると、
杉林の中に、ちいさな白い花がたくさん咲いていた。オウレンだった。
緩やかな広い地形を利用して、ここでオウレンを栽培していたのだ。
雪融けの今しか見ることの出来ない風景との出会いに胸が高鳴る。


福井県はオウレンの栽培が良くされているのでしょうか



尾根はさらに広がっていき、ちいさな谷地形の入るあたりまでくると二次林に。こころ待ちしていた雪も現れた。
下りでは迷いそうな、新緑とまだら雪で飾られたうねりの中を△1205.2奥の塚を目指し登っていく。


△1205.2は記載されていない :evil:


奥の塚から片側杉林の尾根を進むと、浅い谷が入った平坦地になり、
右側の木々の枝をかき分けると落ち葉が折り重なった登山道が見えた。
少し前は雪が出てよろこんでいたのに、今度は地面が出ていてよかったとよろこび、急こう配の道を一気に登る。


めちゃ等高線が混んでますね。


私もここまで来るのにふうふう言いながら登っていましたが
この景色を見て感動した記憶が鮮明に残っています。


昭文社の地図に記された奥の塚峠はこの辺りだった。
峠とは山越えの道の頂点。辿ってきたオウレン畑の跡、ちいさな谷が入り組んだ緩やかな地形、
そしてたんどう谷沿いの登山道、わさび田の跡が繋がっていく。



自然のわさびだと思っていましたが
わさび田があつたのですね。


峠からは、ブナの間を通り抜ける爽やかな5月の風にのって、口笛を吹きながら歩きたくなるような、
やさしい光に満ちた風景が続いていった。
谷間の向こうには、黒々としたお姿にびっくりしつつもうつくしい石徹白の山やまが連なり、
たんどう谷左岸尾根の奥には、白く輝く白山がお顔を覗かせていた。


雪原のブナ林の光景は今でも忘れる事が出来ません。
ホントに素晴らしかったです。
GWの印象は少し薄いです('_')


と、その時、白灰色の雲が流れてきて、あれよあれよという間に青空を覆ってしまった。
あぁ、白山はお隠れになってしまったかも。杭が見え、よいしょ、と最後の一歩を登ると、
周りをササで囲まれた小石の散らばる黒茶色の山頂に出た。


残念ですね。
又来てちょうだいと言って見えるのでしょう。


風が冷たいので、お昼ご飯は避難小屋でいただくことに。
ササヤブの中の道を通っていると、すぐそばでうぐいすが鳴いた。そう、お山の上も春なのだ。


小屋でランチですかゆっくり出来ていいですね。


寒い寒いといいながら駆け込んだ避難小屋はあたたかく、ガラス窓で明るく居心地がいい。
降りしきる雪を眺めながら、そのうちに止むだろう、とありがたく雨宿りならぬ雪宿りをさせていただく。


この日は下界も寒く 家に中は寒く外の陽にあたる方が暖かったですよ。



5年前に山日和さんが訪れた時は、この小屋は屋根より下は埋まっていたとか。
この冬は5年前より降り積もったと感じるけれど、4月半ばくらいから雪融けが一気に進んだように見える。


今年は雪も良く降りましたが雪融けも早かったですね。


1時間半ほど経つと、空が明るくなった。外に出ると青空も覗いていた。
白山はより白く光り輝いている。さぁ、出発しましょうか。


白山が望めて良かったですね。
ここまで来たら白山を見なくてはね('_')


16時になってもまだ枝をかき分けていた。


4時で :o :shock: :mrgreen:


ふぅ、とため息をつき、階段横でやさしく見送ってくれたムラサキヤシオにありがとう、
とお礼を言おうと振り返ると、ぱらぱらとまた雨が降ってきた。
えぇっ?また女神さまのいたずら?今度は強くなりそう?
最後の最後まで楽しませてくださった赤兎山。笑いながら車へと走る。



お疲れ様でした。
思い出深い赤兎山のレポをありがとうございました。

  バーチャリ
sato
記事: 417
登録日時: 2019年2月13日(水) 12:55

Re: 【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日

投稿記事 by sato »

バーチャリさま

こんばんは。
バーチャリさんにとって赤兎山は思い出深いお山なのですね。
持篭谷山右岸尾根をご一緒させていただいた時もお話しされていましたね。
20年くらい前?は、4月上旬には鳩ヶ湯まで車が入れたようですね。
バーチャリさんは、白い世界を味わわれたのですね。
奥の塚峠から先の伸びやかな地形に広がるブナ林、山上台地は、
夢のようにうつくしい世界だったのだろうなぁ、と想像します。

わたしはその頃はまだ、奥越のお山を知りませんでした。
今暮らす地に来て、増永廸男さんの本や、『福井の雪山』に出会い、魅了されていきました。
打波川、九頭竜川、真名川上流の道路は、本が書かれた頃より開通時期が遅くなっていますね。
通行止め解除を待つと、お山はヤブが出ている状態。

5月2日は、各地の山で雪が降ったのですね。
赤兎山は、晴天、春の雪、何度かのにわか雨と、めまぐるしく変わるお天気でしたが、
そのくるくる変わるお天気によって、より深くより面白く赤兎山を味わうことが出来ました。

お花を眺めるのは大好きですよ。生態にも興味があります。
20代の頃、山に咲く花の移り変わりを見ていきたいと思い、
北アルプスのお山で、ひと夏、高山植物保護パトロールをしたことも。

春から秋にかけて、山中に暮らしながら、焼畑、養蚕、製炭などを行ってきた打波川流域の村に生きた人びと。
雪の季節には見ることの出来ない暮らしの痕跡を、この時期に歩くことによって見ることが出来ました。
オウレンは大きな現金収入源だったそうです。オウレンは種まきしてから収穫まで15年くらいかかるそうです。
世代を超えて引き継がれた生業だったのですね。
越前では、平安時代からオウレンが栽培されていたようです。
今は、商用として栽培されているのは大野市内で10戸ほどとか。
谷を歩いていると、時々、こんなところにと思う場所で、ワサビ田の跡に出会います。
鈴鹿の山中でも見られますね。ワサビも貴重な現金収入になったのでしょうね。

バーチャリさんは、GWに訪れた時は、登山道を登られたのですね。
急斜面トラバース地帯の雪の状態が気になります。たんどう谷渡渉も。わたしは夏に訪れた時、靴を脱いで渡りました。
1351mピークまでも尾根の末端からからの距離の1.5倍くらいありそう。
鳩ヶ湯から山頂まで8キロと看板に書かれていました。
ふうふう言います(笑)。
そう、△1205.2は紙地図には記載されています。

避難小屋はありがたかったです。白山とその周辺の避難小屋はどこも素晴らしいですね。
神鳩、ゴマ平、奥長倉避難小屋に泊まったことがありますが快適でした。
学生の頃泊まった甚ノ助小屋はなんとなく怖かった記憶が。今は立派ですね。

そうなのです。この冬は雪が多かったので、残雪も多いと思っていました。
一面雪原の山上台地を思い描いていました。
下りの左岸尾根は、猛烈なヤブではないのですが、パチパチからだに当たるヤブが続きました。
わたしは、不整地のヤブの下りになると、ちょっと左足に不自由さを覚え、遅れがちになるのですが、
この日は膝痛もあり、もたもた歩き。
山日和さんの頭の中では、もう少し早く植林地帯に入る予定だったと思います。
ゆったりと構えてくださり感謝です。楽しんで下ることが出来ました。

コメントありがとうございました。
バーチャリさんの思い出深いお山を、わたしも深く味わえました。

sato
アバター
山日和
記事: 3573
登録日時: 2011年2月20日(日) 10:12
お住まい: 大阪府箕面市

Re: 【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日

投稿記事 by 山日和 »

satoさん、こんばんは。お疲れさまでした。

下打波の集落は、鮮やかな春色に包まれていた。
「あっ」緑の中に浮かぶ水場に目が留まる。萌え出ずる春の息吹の中、山から湧き出た水は、
勢いに流されることなく、ひと月ちょっと前、雪で覆われていた時と同じように静かに流れ落ちていた。
移りゆく時と変わらぬ流れ。あれから、もうひと月以上経ったのだ。


あの時はそこら中雪に包まれていたのに、季節の移ろいはあっという間ですね。

「参りました」あの日、大嵐山先の展望地でお会いしたまっしろな赤兎山の女神さまにご挨拶をする。

何に降参したのかと思ったら、やって参りましたですね。 :lol:

尾根には杣道が続いていた。広葉樹の箇所もあり暗さは感じない。
朝の光を浴び煌めく木々の葉の緑が目に染みる。足取りも気持ちも軽やか。


ちょっと踏み跡薄めの登山道といった感じで歩きやすい道でした。

IMG_2106_1.JPG

気になっていた標高1000mあたりからの緩やかに広がっていく地形に入ると、
杉林の中に、ちいさな白い花がたくさん咲いていた。オウレンだった。
緩やかな広い地形を利用して、ここでオウレンを栽培していたのだ。
雪融けの今しか見ることの出来ない風景との出会いに胸が高鳴る。

池ヶ原もそうですが、奥越ではオウレンを栽培していたところが多いですね。姥ヶ岳の平家平もそうですね。

下りでは迷いそうな、新緑とまだら雪で飾られたうねりの中を△1205.2奥の塚を目指し登っていく。

その三角点って、地形図にないですよね?名前は聞いたことあったけど、紙地図にだけ載ってるの?
基準点成果等閲覧サービスにないってことは、今は撤去されたのかな?

右側の木々の枝をかき分けると落ち葉が折り重なった登山道が見えた。
少し前は雪が出てよろこんでいたのに、今度は地面が出ていてよかったとよろこび、急こう配の道を一気に登る。


あの急登は地面が出ていて助かりました。

IMG_2142_1.JPG

登りきった先には、ゆったりとブナが立ち並ぶのびやかな台地が広がっていた。
こんなに開放感のある場所だったのだ。
8年くらい前の夏に訪れた時の記憶、緑の迷宮に迷い込んだような深い深い森の風景と重ならず、
青空の下、枝を気持ちよさげに伸ばし、無数のやわらかな葉一枚一枚に太陽の光を浴びさせているブナを見上げ、うっとりとなる。そして、はっ、と息を呑んだ。


私もたんどう谷遡行の下りでここを通った時は、見晴らしもなくわしゃわしゃの林床であまり好印象ではなかったんだけど、この季節に訪れると素晴らしい場所ですね。


パノラマ1_1.jpg

昭文社の地図に記された奥の塚峠はこの辺りだった。
峠とは山越えの道の頂点。辿ってきたオウレン畑の跡、ちいさな谷が入り組んだ緩やかな地形、
そしてたんどう谷沿いの登山道、わさび田の跡が繋がっていく。
わたしが今日見た風景、かつて見た風景は、上打波に生きた人々が亥向谷を遡り、この峠を越え、出作りを営んでいた地だったのだ。


そうだったんですか。よく勉強してますね。 :D

なんていい景色なのだろう。なんていい尾根なのだろう。なんていいお天気なのだろう。
上機嫌で歩いていると、標高1490mの広い台地に着いていた。
山頂まであともう少し。青い空、白い雲、まだら模様の赤兎山。
走れないけれど走り出したくなるような牧歌的な風景を仰ぎ見て、
はやる気持ちを抑え、お昼前には山頂に着きますね、とひと息つき、最後の登りにさしかかる。


5年前は下山時にこのあたりで雨が降り出したので、今日こそはという感じでしたが・・・ :oops:

経ヶ岳の眺め
経ヶ岳の眺め

と、その時、白灰色の雲が流れてきて、あれよあれよという間に青空を覆ってしまった。
あぁ、白山はお隠れになってしまったかも。杭が見え、よいしょ、と最後の一歩を登ると、
周りをササで囲まれた小石の散らばる黒茶色の山頂に出た。


あらまあ、5年前と同じ曇り空。白山はなんとか姿を見せてくれました。

えっ?雪!?と思っているうちに風が強まりアラレのようになり、急いで雨具を着る羽目に。
白い世界は過ぎ去ってしまった、などと言ったので、女神さまが、ではもう一度雪を味わわせてあげよう、といたずらごころを起こされたのか。


青天の霹靂とはこのことでした。「聞いてないよ~」という感じでしたね。 :lol:

寒い寒いといいながら駆け込んだ避難小屋はあたたかく、ガラス窓で明るく居心地がいい。
降りしきる雪を眺めながら、そのうちに止むだろう、とありがたく雨宿りならぬ雪宿りをさせていただく。
5年前に山日和さんが訪れた時は、この小屋は屋根より下は埋まっていたとか。
この冬は5年前より降り積もったと感じるけれど、4月半ばくらいから雪融けが一気に進んだように見える。


この時は赤兎山でよかったと心から思いましたよ。他の山だったらランチタイムどころじゃなかったですね。
5年前の小屋の様子です。今年はびっくりするぐらい雪融けが早いですね。

5年前の避難小屋
5年前の避難小屋

1時間半ほど経つと、空が明るくなった。外に出ると青空も覗いていた。
白山はより白く光り輝いている。さぁ、出発しましょうか。
下りはアイゼンを履こうとリュックから取り出して装着し、高揚感に包まれ・1530へと向かう。

のんびりランチタイムした甲斐がありました。再び展望も出てきて気分もアゲアゲ。
出だしで雪に釣られてルートミスをしてしまい、登り返しに余計な労力を使ってしまいました。

ルンルン気分で辿り着いた・1530。でも、その先、たんどう谷左岸尾根にはほとんど雪が残っていなかった。
うつくしいブナ林にはササと灌木が飛び出していた。


あの時は愕然としましたよ。この状態なら下山にどれだけ時間がかかるのか・・・ :oops:

IMG_2254_1.JPG

斜面には中途半端に雪が残り、滑ると危ないのでアイゼンを履いたまま下っていく。
爪がササの葉や灌木の枝にひっかかり、何度もつんのめりそうになり、思うように進めない。


悪戦苦闘でしたね。少し雪が繋がるとホッとしました。

朝、歩き始める前は、16時半前には下山出来るかなと思っていたけれど、見通しが甘かった。
16時になってもまだ枝をかき分けていた。


尾根の下部は植林で杣道があるのがわかってたので、これほど植林を待ち遠しく思ったことはありません。 :mrgreen:

たおやかでうつくしい女性的な山容といわれる赤兎山の、ワイルドな表情を味わっているわたしたち。
ブナ林の中の快適な雪尾根歩きより、ある意味楽しんでいるのかな、と可笑しくなる。
悠長に構えられるのは、山日和さんがこのルートをご存知だからなのだが。


楽しんでると言えば言えなくもないけど・・・ :lol:

IMG_2282_1.JPG

今度は雨が降ってきた。幸い雨は直に止み、植林地帯に入り、やれやれ楽に歩けると下っていると、
地図には無い林道に突き当たった。降りやすい斜面を探し、後ろ向きでそろそろと下る。
その先も林道に出る度、そろそろ下りを繰り返す。最後、階段を下り時計を見ると17時20分を回っていた。

植林バンザイ!! :mrgreen:
しかし今度は林道の法面のガケがお出迎え。 :o

ふぅ、とため息をつき、階段横でやさしく見送ってくれたムラサキヤシオにありがとう、
とお礼を言おうと振り返ると、ぱらぱらとまた雨が降ってきた。
えぇっ?また女神さまのいたずら?今度は強くなりそう?
最後の最後まで楽しませてくださった赤兎山。笑いながら車へと走る。

変化に富んだ一日でした。赤兎山恐るべし。 :mrgreen:

                  山日和
sato
記事: 417
登録日時: 2019年2月13日(水) 12:55

Re: 【奥越】味わい深し 新緑とまだら雪の赤兎山に遊んだ一日

投稿記事 by sato »

山日和さま

こんにちは。
春の勢いに圧倒されていたら、初夏になっていました。
季節の移ろいは、ほんとうにあっという間ですね。
赤兎山は、今、どんなお姿なのでしょうね。

ゴールデンウイークは残雪の山を楽しみたい、と思っていました。
たんどう谷両岸尾根は気になっていたコースでした。でも、他にも浮かんだお山がいくつかありました。
最終的に赤兎山がこころを占めました。ですので「やって参りました!」と大きな声でご挨拶をする感じではなく、
ちょっと照れた感じの「参りました」でした(笑)。

標高1000mくらいまでは、ヤブもそんなに被っていない道が続いていきましたね。
埋もれつつある道を歩いていると、気が付けば、あれこれ思いを巡らせています。
踏み跡を辿っていた先で出会ったオウレンの群落は、こころに訴えてくるものがありました。
やっぱりここでも栽培していたのだ、と。
日本固有種のオウレン。その根に含む薬用成分は貴重。
山に暮らす人々びとにとって大きな現金収入となった植物なのですね。
平家平では今なお栽培されているオウレン畑を見ることが出来るのですね。

5万分1、2万5千分1地形図に記載されている△1205.2。
地理院地図には何故無いのかなと思いました。撤去されたのですか?

奥の塚峠への急坂は雪で覆われていたら、ふうふう息をつきながらの登りでしたね。
道ってすごいなぁ、と思いました。
整備された道を歩いている時は、なんか物足りないとか、何だかなぁとか思う時もあるのですが。
登りきると、素晴らしい風景が続いていきましたね。
新緑のブナが立ち並ぶ雪残る伸びやかな台地の情景に、一期一会の輝きを感じました。

山と歴史と文化はわたしの中で繋がっているのですね。
加越国境の赤兎山は、北に越前禅定道も越える小原峠、東には白峰の三ツ谷と上小池を結ぶ杉峠があり、
歴史や文化という面から眺めても興味深いお山です。
上小池は、白峰の村びとが峠を越え出作りし、定住するようになり出来た集落といわれ、
上打波と下打波の人びとの話す言葉は少し違うそうです。

山日和さんは、5年前は逆コースで味わわれ、白山はお隠れになっていたのですね。
今回は、拝ませていただくことが出来てよかったですね。曇っても雪が降るとは思いませんでした。
避難小屋さまさまでしたね。5年前はこんなに雪が残っていたのですね。
この春の雪融けの早さにはびっくりです。(昨春も同じことを言っていたような)

山日和さん、靴を脱いですっかりくつろがれ、出発できるのかなぁ、と心配になりましたが(笑)、
天気が回復すると、さぁっと立ち上がり、小屋から出てお写真を撮り、勢いよく急斜面を下っていきました。
後を追いましたが、なんか変。GPSで確認すると、やっぱり間違っていました(笑)。

左岸尾根は右岸尾根よりすっきりしていて、2時間半くらいで下れるだろうとお聞きしていたので、
小屋を出たのが13時45分頃でしたが楽観的でした。
思っていたのとは違う状況に、えぇっ?でしたね。
この時点で、わたしは、今日も17時半下山になるのだなぁ、と思いました。
尾根芯はヤブが濃いので斜面に逃げると雪。急斜面もありアイゼンを外せませんでした。
悪戦苦闘でしたが面白かったです。

「植林バンザイ!!」山日和さんのお口からこんな言葉が出るとは(笑)
山を歩いていると、自分勝手、ご都合主義の自分を感じることが度々(わたしのことです(苦笑))
伐採された斜面にこころを痛めながらも、展望の雪尾根によろこんだり、
植林にあれこれ思いながらも、疲れが溜まった下りでは楽が出来るとほっとしたり・・・。

林道の法面を降りるのにも、ちょっと時間を取りましたね。
山日和さん、林道にぶつかると、すべてショートカットされましたね。わたしは急がば回れと思いましたが(笑)。
でも、うろうろ、そろそろ歩きも面白かったです。

お山もお天気も変化に富んだ一日でした。
赤兎山の味わい深さをあらためて感じた山旅でした。
ありがとうございました。
地図を見ていると、しようつ山も気になります。
あのうねり魅惑的です。植林、ヤブかもしれませんが。

sato
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