【但馬】蘇武岳 ブナ林と巨樹の回廊を歩く
Posted: 2021年6月22日(火) 23:47
【日 付】2021年6月20日(日)
【山 域】但馬 蘇武岳
【天 候】晴れ
【コース】万場登山口8:15---8:40中ノ滝---9:25東尾根---10:45蘇武岳12:10---13:05大杉山---13:55あがりこブナ
---14:20谷筋14:50---15:20駐車地
兵庫の未踏の山シリーズ第2弾(そんなものはないが)である。
但馬の名峰、蘇武岳はブナの山で有名ではあるが、稜線上を延々と走る林道が登行欲を減退させて、優先順位を
低いものにしていたのだ。
東床尾山の時と同じく、下道を走って神鍋高原へ向かう。途中、遠坂トンネルの通行料320円だけ払えば、氷上
インターから先は無料の自動車道で快適に走ることができる。東へ向かう時は名神に乗らない選択肢はないのだが、
こちら方面は家の近くから交通量の少ない国道(夜間限定の話だが)を使って、比較的短時間で登山口まで到達でき
るのだ。緊急事態宣言で高速の休日割引がない今は、あの手この手でコスト削減を図らなければならない。
スキーシーズンは大賑わいであろう神鍋高原も、グリーンシーズンの今は静かなものである。
さすがに人気の山だけあって、万場の登山口には数台の車が止まっていた。
スキー場のゲレンデの中を進んで行くと谷沿いの登山道に入って行った。口の滝、中の滝という小滝を見ながら
巨木の谷コースに入ると、ここまでの雑然とした谷の空気が変わった。
すっきりとした広い谷には、名前の通りトチやカツラの巨木が散在し、なにか厳かな雰囲気を感じられる。
最大の巨木は「親分カツラ」と名付けられた、幹周10mを超す大カツラだ。ここから道は右岸の斜面を大きく巻
いて行く。水平道に変わったところで、下流方向にも道が続いていたので気になって辿ってみると、見事なトチの
巨木があった。この道はどこまで続いているのだろうか。
見下ろす谷にはちょっとした連瀑帯が見えるが、それほど大したものではない。
再び谷筋に出合うと、尾根はもうすぐそこに見えている。ここで忘れずに水を汲んで行かないと、昼飯がお預け
になってしまう。尾根の手前は緩やかな源頭台地になっていて、なかなかいいところだ。
尾根には林道が上がってきており、「名色コース」という道標があったが、終始林道を歩くコースをわざわざ選ぶ
登山者がいるのだろうか。
ここから木の階段が整備された道を行くと、いよいよお待ちかねのブナ林の始まりである。ほとんどが細く若い
ブナだが、世代交代した極相林だろうか。たまに少し太いヤツが出てくるが、目を瞠るような巨木はない。
林床をイワウチワ(カガミか)のグリーンで彩られたブナ林は爽やかで、吹き抜ける風も涼しく暑さ知らずのいいプ
ロムナードである。
アカショウビンの声が聞こえた。最近は西床尾山でも聞いたし、なんと家のベランダからも聞くことができた。
なかなかお目にかかれない鳥らしいが、ずいぶんアカショウビンづいているものだ。もっともその姿は見たことが
ない。
ブナ林は進むにつれその雰囲気を高揚させて行き、大杉山の分岐近くで最高潮となる。茶褐色の落ち葉で埋めら
れた、上がって来る谷の源頭の佇まいとブナ林の調和が素晴らしく、アカショウビンの涼しげな声がその情景を一
層引き立たせていた。
ここからもブナ林は続くが、右下にチラチラと舗装された林道が覗いているのがマイナスポイントだ。左に首を
ひねっていいところだけを見て歩こう。
突然樹林が切れて、無味乾燥な場所に出た。右上に人影が見えるところが山頂らしい。
ひと登りで芝生敷きの蘇武岳山頂に到着。なるほど、展望は360度の「らしい」山頂だ。
時間はずいぶん早いがランチタイムとしよう。本当は山頂へ至るのに違うことを考えていたのだが、起きた時にモ
チベーションが下がってしまい、普通の登山道を歩いて来たのだった。
山頂に着いた時には2人しかいなかったので、その辺に陣取ろうかとも思ったが、思い直して南側に少し離れた
ところでザックを降ろした。結果的にこれが正解で、次から次へと登山者が上がってきた。半数近くはトレランの
ランナーだ。林道からだとすぐなので、普通の恰好をした家族連れなどもいる。山頂に背中を向けて座っていたの
で、何人上がって来たのかはわからないが、人声が絶えることはなかった。
人が山頂に求めるものはなんだろうか。一般的には展望なのだろう。山頂から眺める景色が最高というのはよく
言われる話だ。ここは昔はブナ林で包まれていたはずだ。人工的に作り出された展望には魅力を感じないと同時に、
この山頂が鬱蒼としたブナ林の中にあればどれだけ素晴らしかっただろうと思う。これはここまでのブナ林を歩い
て来た実感だ。
景色については馴染みのない山ばかりというのもマイナス要素である。これが奥美濃や越美国境の山頂なら山座
同定の楽しみもあるが、知っているのは氷ノ山ぐらいでは興味も湧かないのだ。
まあ、蘇武岳にはなんの罪もないのだが。
だんだん暑くなってきたのを潮に山頂を後にした。今度は分岐を大杉山に向かう。大杉山というぐらいだから杉
林が多いのかと思っていたら、ずっとブナ林が続いたのはうれしい誤算だった。(単なる勉強不足か)
こんなことなら、ここまで来てからランチタイムにすればよかったと後悔の念に襲われたが後の祭りである。
メシは山頂でという固定観念に囚われないと自分で言ってたはずなのに、情けないことだ。
ともあれ、一つ山から四つ山という小ピークを越えて、大杉山までアップダウンが連続するが、ブナ林が途切れ
ることはなく、右から上がって来る谷の源頭もそれぞれが魅力的だ。
大杉山の謂われとなった大きな杉は山頂のすぐ下にあった。確かに太い杉ではあるが、京都北山の台杉を見慣れ
ている目にはさほど巨木には見えない。
ブナ林はこの先も続いているが、ブナにつられて直進してしまうと大きな目的を見逃してしまうのだ。
今日の目的の一つは、この尾根の支尾根にあるという「あがりこブナ」だ。
「あがりこ」とは、伐られた枝から新しい芽が吹いて再生した木のことである。いくつもの断面から新しい枝が
次々に伸びて、怪異な形になったものをそう呼んでいる。
下り始めは植林がちの面白くもなんともない細尾根だったが、高度が下がるにつれて尾根が広がり、右手の谷が
近付いてくると、なんとも言えない雰囲気を醸し出してきた。尾根上のブナの大木と、谷側にはトチの巨木がその
空気を作り出している。
そして、標高700mあたりまで下ったところにそのブナはあった。遠目に見ても凄いと思わせる、迫力ある姿形
である。幹周は6m、いや7mはあるだろうか。この木を見ただけでも今日の蘇武岳登山は成功だ。
このブナほどではないが、それでもそこそこの大きさのブナが数本、間隔を置いて佇んでいた。
5mオーバーのトチも普通に点在している見事な森だった。
谷を下り立ったところで、2回目のコーヒータイムを楽しむ。植林の際のなんということもない水辺だが、苔む
した岩を噛む流れと、対岸から落ちる滝。道具立ては必要にして十分である。
サワグルミの根に腰掛けて、ゆっくりとコーヒーを味わう。
谷沿いには明瞭な道があった。植林の作業道なのだろう、林道跡と思われる広いところもあり、問題なく歩くこ
とができる。ただ、ひたすら前だけを見ていると宝物を見逃してしまうのだ。
右下の谷筋を気にしながら歩いていると、とんでもないものが目に入った。カツラか。とてつもなく大きい。
思わず駆け下りて木の前に立つ。カツラの巨木と言えば、普通はひこばえの集合体みたいな形が多いのだが、この
木は2本の野太い主幹が力強く伸びている。幹回り10mはありそうな巨木だった。
林道の際の斜面にはトチの巨木も多いのでぼんやり歩けない。
あがりこを見た後は駐車地まで急ぐだけと思っていたが、最後の最後まで楽しませてくれるルートだった。
山日和
【山 域】但馬 蘇武岳
【天 候】晴れ
【コース】万場登山口8:15---8:40中ノ滝---9:25東尾根---10:45蘇武岳12:10---13:05大杉山---13:55あがりこブナ
---14:20谷筋14:50---15:20駐車地
兵庫の未踏の山シリーズ第2弾(そんなものはないが)である。
但馬の名峰、蘇武岳はブナの山で有名ではあるが、稜線上を延々と走る林道が登行欲を減退させて、優先順位を
低いものにしていたのだ。
東床尾山の時と同じく、下道を走って神鍋高原へ向かう。途中、遠坂トンネルの通行料320円だけ払えば、氷上
インターから先は無料の自動車道で快適に走ることができる。東へ向かう時は名神に乗らない選択肢はないのだが、
こちら方面は家の近くから交通量の少ない国道(夜間限定の話だが)を使って、比較的短時間で登山口まで到達でき
るのだ。緊急事態宣言で高速の休日割引がない今は、あの手この手でコスト削減を図らなければならない。
スキーシーズンは大賑わいであろう神鍋高原も、グリーンシーズンの今は静かなものである。
さすがに人気の山だけあって、万場の登山口には数台の車が止まっていた。
スキー場のゲレンデの中を進んで行くと谷沿いの登山道に入って行った。口の滝、中の滝という小滝を見ながら
巨木の谷コースに入ると、ここまでの雑然とした谷の空気が変わった。
すっきりとした広い谷には、名前の通りトチやカツラの巨木が散在し、なにか厳かな雰囲気を感じられる。
最大の巨木は「親分カツラ」と名付けられた、幹周10mを超す大カツラだ。ここから道は右岸の斜面を大きく巻
いて行く。水平道に変わったところで、下流方向にも道が続いていたので気になって辿ってみると、見事なトチの
巨木があった。この道はどこまで続いているのだろうか。
見下ろす谷にはちょっとした連瀑帯が見えるが、それほど大したものではない。
再び谷筋に出合うと、尾根はもうすぐそこに見えている。ここで忘れずに水を汲んで行かないと、昼飯がお預け
になってしまう。尾根の手前は緩やかな源頭台地になっていて、なかなかいいところだ。
尾根には林道が上がってきており、「名色コース」という道標があったが、終始林道を歩くコースをわざわざ選ぶ
登山者がいるのだろうか。
ここから木の階段が整備された道を行くと、いよいよお待ちかねのブナ林の始まりである。ほとんどが細く若い
ブナだが、世代交代した極相林だろうか。たまに少し太いヤツが出てくるが、目を瞠るような巨木はない。
林床をイワウチワ(カガミか)のグリーンで彩られたブナ林は爽やかで、吹き抜ける風も涼しく暑さ知らずのいいプ
ロムナードである。
アカショウビンの声が聞こえた。最近は西床尾山でも聞いたし、なんと家のベランダからも聞くことができた。
なかなかお目にかかれない鳥らしいが、ずいぶんアカショウビンづいているものだ。もっともその姿は見たことが
ない。
ブナ林は進むにつれその雰囲気を高揚させて行き、大杉山の分岐近くで最高潮となる。茶褐色の落ち葉で埋めら
れた、上がって来る谷の源頭の佇まいとブナ林の調和が素晴らしく、アカショウビンの涼しげな声がその情景を一
層引き立たせていた。
ここからもブナ林は続くが、右下にチラチラと舗装された林道が覗いているのがマイナスポイントだ。左に首を
ひねっていいところだけを見て歩こう。
突然樹林が切れて、無味乾燥な場所に出た。右上に人影が見えるところが山頂らしい。
ひと登りで芝生敷きの蘇武岳山頂に到着。なるほど、展望は360度の「らしい」山頂だ。
時間はずいぶん早いがランチタイムとしよう。本当は山頂へ至るのに違うことを考えていたのだが、起きた時にモ
チベーションが下がってしまい、普通の登山道を歩いて来たのだった。
山頂に着いた時には2人しかいなかったので、その辺に陣取ろうかとも思ったが、思い直して南側に少し離れた
ところでザックを降ろした。結果的にこれが正解で、次から次へと登山者が上がってきた。半数近くはトレランの
ランナーだ。林道からだとすぐなので、普通の恰好をした家族連れなどもいる。山頂に背中を向けて座っていたの
で、何人上がって来たのかはわからないが、人声が絶えることはなかった。
人が山頂に求めるものはなんだろうか。一般的には展望なのだろう。山頂から眺める景色が最高というのはよく
言われる話だ。ここは昔はブナ林で包まれていたはずだ。人工的に作り出された展望には魅力を感じないと同時に、
この山頂が鬱蒼としたブナ林の中にあればどれだけ素晴らしかっただろうと思う。これはここまでのブナ林を歩い
て来た実感だ。
景色については馴染みのない山ばかりというのもマイナス要素である。これが奥美濃や越美国境の山頂なら山座
同定の楽しみもあるが、知っているのは氷ノ山ぐらいでは興味も湧かないのだ。
まあ、蘇武岳にはなんの罪もないのだが。
だんだん暑くなってきたのを潮に山頂を後にした。今度は分岐を大杉山に向かう。大杉山というぐらいだから杉
林が多いのかと思っていたら、ずっとブナ林が続いたのはうれしい誤算だった。(単なる勉強不足か)
こんなことなら、ここまで来てからランチタイムにすればよかったと後悔の念に襲われたが後の祭りである。
メシは山頂でという固定観念に囚われないと自分で言ってたはずなのに、情けないことだ。
ともあれ、一つ山から四つ山という小ピークを越えて、大杉山までアップダウンが連続するが、ブナ林が途切れ
ることはなく、右から上がって来る谷の源頭もそれぞれが魅力的だ。
大杉山の謂われとなった大きな杉は山頂のすぐ下にあった。確かに太い杉ではあるが、京都北山の台杉を見慣れ
ている目にはさほど巨木には見えない。
ブナ林はこの先も続いているが、ブナにつられて直進してしまうと大きな目的を見逃してしまうのだ。
今日の目的の一つは、この尾根の支尾根にあるという「あがりこブナ」だ。
「あがりこ」とは、伐られた枝から新しい芽が吹いて再生した木のことである。いくつもの断面から新しい枝が
次々に伸びて、怪異な形になったものをそう呼んでいる。
下り始めは植林がちの面白くもなんともない細尾根だったが、高度が下がるにつれて尾根が広がり、右手の谷が
近付いてくると、なんとも言えない雰囲気を醸し出してきた。尾根上のブナの大木と、谷側にはトチの巨木がその
空気を作り出している。
そして、標高700mあたりまで下ったところにそのブナはあった。遠目に見ても凄いと思わせる、迫力ある姿形
である。幹周は6m、いや7mはあるだろうか。この木を見ただけでも今日の蘇武岳登山は成功だ。
このブナほどではないが、それでもそこそこの大きさのブナが数本、間隔を置いて佇んでいた。
5mオーバーのトチも普通に点在している見事な森だった。
谷を下り立ったところで、2回目のコーヒータイムを楽しむ。植林の際のなんということもない水辺だが、苔む
した岩を噛む流れと、対岸から落ちる滝。道具立ては必要にして十分である。
サワグルミの根に腰掛けて、ゆっくりとコーヒーを味わう。
谷沿いには明瞭な道があった。植林の作業道なのだろう、林道跡と思われる広いところもあり、問題なく歩くこ
とができる。ただ、ひたすら前だけを見ていると宝物を見逃してしまうのだ。
右下の谷筋を気にしながら歩いていると、とんでもないものが目に入った。カツラか。とてつもなく大きい。
思わず駆け下りて木の前に立つ。カツラの巨木と言えば、普通はひこばえの集合体みたいな形が多いのだが、この
木は2本の野太い主幹が力強く伸びている。幹回り10mはありそうな巨木だった。
林道の際の斜面にはトチの巨木も多いのでぼんやり歩けない。
あがりこを見た後は駐車地まで急ぐだけと思っていたが、最後の最後まで楽しませてくれるルートだった。
山日和