【飛騨】庄川右岸 極上の無名峰逍遥その3
Posted: 2021年3月29日(月) 23:38
【日 付】2021年3月27日(土)
【山 域】飛騨 庄川右岸域
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】木谷集会所7:25---8:45野々俣谷右岸尾根取付き---11:30三角点名古谷---12:15 P1743m14:00---14:45 Ca1755m
---16:05白弓スキー場下降点---16:55駐車地
いきなり出鼻を挫かれた。荘川から平瀬へ向かう国道156号は、なんと6時まで夜間通行止め。解除を待って車を進めた
が、早朝から歩き出す目論見は見事に崩れてしまった。
これでは予定のコース完遂は望めない。気を取り直して、白弓スキー場近くの集会所に駐車して林道へ踏み出した。
林道には重機が入っており、昨年のスノー衆で歩いた野々俣谷左岸尾根の取付きまでは完全に除雪されている。
これは楽勝かもと、野々俣谷の左岸沿いに進んで行くと雪に覆われ出し、ついに滑り台が現れた。雪はカチンカチンに締
まっており、路肩から谷へは一直線。安全を期してアイゼンを装着、ピッケルを手にして難場に備える。
進むにつれデブリの傾斜が強まり、気の抜けない時間が続く。
目的の野々俣谷右岸尾根の取付きまで1時間半近くかかってしまった。6年前に訪れた時にはほとんど雪がなく、今回より
30分早く着いたのだ。
尾根上にはまったく雪が無いが、明瞭な踏み跡が続いており、ヤブも被っていないので苦労することはない。
Ca1200mあたりでようやく雪が繋がった。ここまでも気持ちのいい自然林だったのだが、ここからはほぼブナの純林に変
わる。東の市村境界尾根から顔を出した太陽が、ブナ林を明るく照らし、やわらかで温かみのある森の風景に包まれた。
隣の左岸尾根は同じような位置でも300m近く標高が低く、見下ろすような感じである。そのおかげで樹間越しではあるが、
左岸尾根の奥に急激に立ち上がる三方崩山方面の迫力ある眺めを満喫できる。
ここでスノーシューを装着。よく締まった雪に食い込むスノーシューのフレームが心地良い。
ブナの森の中、ヒールリフターを効かせて気分良く高度を上げて行くと、急に傾斜が緩んだ。1721.6mの三角点「名古谷」
山頂だ。ここから白川村と高山市の境界稜線へは緩やかなアップダウンを描く。
これまでのブナの純林から、ダケカンバの白い木肌と黒々としたオオシラビソの林が目立つようになった。大蛇のように
うねったり、横に大きく腕を伸ばしたような白いダケカンバの佇まいは独特で、潤いのあるブナの森とはまた違った良さ
がある。歩みを進める尾根は広く、目の前に広がる大雪原が心を浮き立たせる。
尾根上からは庄川を挟んだ白山方面の大展望が開けた。白山北方の大門山から奈良岳、大笠山、笈ヶ岳、三方岩岳、野
谷荘司山と続き、ひときわ白く輝く剣ヶ峰と御前峰から別山への純白の稜線が胸を打つ。
御前峰の下に目を遣ると、どこまでも白い斜面に続く雪の台地が目を惹いた。白山東面台地である。
10年ほど前、DOCを駆ってその懐に通ったことが懐かしく思い出された。情けないが、今はもうそんな気力も体力もない。
その山稜の手前には三方崩山と日照岳という白山前衛の秀峰がどっしりと存在感を示している。どちらも鮮烈な記憶を残
した山である。
市村界稜線直下の鞍部の大雪原では、正午の太陽に照らされたブナの千手観音のような枝が、雪面に丸い影を描いて面
白い。
稜線の名も無き1743mピークは広大な雪原にポツポツとブナやダケカンバを配置した素晴らしい山頂である。
白山を真正面に望む緩斜面に陣取れば、意外に風も弱く、春の日差しを全身に受けて極上の一杯を楽しむことができた。
頭上の青空には幾筋もの飛行機雲が白いラインを引いている。
今日は貸切りかと思われた稜線上には、意外にも新しいスキーのトレースが残されていた。
白弓スキー場から御前岳の往復なのだろう。こちらも本当は御前岳を往復するつもりだったのだが、予定外の出遅れが響
いてしまった。しかし、自分的には御前岳の山頂よりもこちらの無名峰の方がビールが美味いと思うのである。
山の良さは名前の有無、有名無名には比例しない。私にとっては極上の無名峰だ。
稜線からは、遠くに黒い三角錐が見えた。剱岳である。広濶なブナの疎林の尾根を南下して行くと、御前岳に隠れてい
た北アルブスの山々が姿を現した。5年前のスノー衆の舞台となった栗ヶ岳は半分ササの露出した三角錐となっていた。
野々俣谷左岸尾根のジャンクションとなるCa1755mピークの手前から、林相がガラッと変わってオオシラビソの森とな
る。葉を落とした開放的なブナの林から薄暗い針葉樹の森への極端な変化が面白い。
実は初めてここを訪れた時、ニホンヤマネに出遭った。その時はネズミみたいなヤツだと思っていたのだが、その後金
草岳でヤマネとじゃれ合うという得難い体験をして、ここで出遭ったのもヤマネだったのだと思い至ったのである。
もう二度と出遭うことはないだろうか。
オオシラビソの森は、高度を下げるにつれてダケカンバとブナの森に戻って行った。
こちらの尾根のブナ林も見事だ。幹周3mオーバーの巨木が普通に散在している。
ここを歩くのも、もう4度目である。昨年のスノー衆でも使ったお気に入りの尾根でもある。ここがスノー衆のランチ場
だったと懐かしく思い出しながら、下山はスキー場への最短ルートを選ぶ。
最初の時こそ末端近くまで尾根を辿ったが、次からはすべて隣の谷を使った。急峻な尾根下りと違って、雪の詰まった谷
は足元に気を遣う必要がないので仕事が速いのである。
営業の終わったスキー場というのはうら寂しいものがある。それまでツボ足でズボズボ潜っていた雪が、突然バーンの
ような雪質に変わった。少し前まで営業していた時の圧雪の名残りだろう。
ひと気のないスキー場のセンターハウスを横目で見て駐車地への近道を行く。
山麓ではフキノトウが盛りだ。
山日和
【山 域】飛騨 庄川右岸域
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】木谷集会所7:25---8:45野々俣谷右岸尾根取付き---11:30三角点名古谷---12:15 P1743m14:00---14:45 Ca1755m
---16:05白弓スキー場下降点---16:55駐車地
いきなり出鼻を挫かれた。荘川から平瀬へ向かう国道156号は、なんと6時まで夜間通行止め。解除を待って車を進めた
が、早朝から歩き出す目論見は見事に崩れてしまった。
これでは予定のコース完遂は望めない。気を取り直して、白弓スキー場近くの集会所に駐車して林道へ踏み出した。
林道には重機が入っており、昨年のスノー衆で歩いた野々俣谷左岸尾根の取付きまでは完全に除雪されている。
これは楽勝かもと、野々俣谷の左岸沿いに進んで行くと雪に覆われ出し、ついに滑り台が現れた。雪はカチンカチンに締
まっており、路肩から谷へは一直線。安全を期してアイゼンを装着、ピッケルを手にして難場に備える。
進むにつれデブリの傾斜が強まり、気の抜けない時間が続く。
目的の野々俣谷右岸尾根の取付きまで1時間半近くかかってしまった。6年前に訪れた時にはほとんど雪がなく、今回より
30分早く着いたのだ。
尾根上にはまったく雪が無いが、明瞭な踏み跡が続いており、ヤブも被っていないので苦労することはない。
Ca1200mあたりでようやく雪が繋がった。ここまでも気持ちのいい自然林だったのだが、ここからはほぼブナの純林に変
わる。東の市村境界尾根から顔を出した太陽が、ブナ林を明るく照らし、やわらかで温かみのある森の風景に包まれた。
隣の左岸尾根は同じような位置でも300m近く標高が低く、見下ろすような感じである。そのおかげで樹間越しではあるが、
左岸尾根の奥に急激に立ち上がる三方崩山方面の迫力ある眺めを満喫できる。
ここでスノーシューを装着。よく締まった雪に食い込むスノーシューのフレームが心地良い。
ブナの森の中、ヒールリフターを効かせて気分良く高度を上げて行くと、急に傾斜が緩んだ。1721.6mの三角点「名古谷」
山頂だ。ここから白川村と高山市の境界稜線へは緩やかなアップダウンを描く。
これまでのブナの純林から、ダケカンバの白い木肌と黒々としたオオシラビソの林が目立つようになった。大蛇のように
うねったり、横に大きく腕を伸ばしたような白いダケカンバの佇まいは独特で、潤いのあるブナの森とはまた違った良さ
がある。歩みを進める尾根は広く、目の前に広がる大雪原が心を浮き立たせる。
尾根上からは庄川を挟んだ白山方面の大展望が開けた。白山北方の大門山から奈良岳、大笠山、笈ヶ岳、三方岩岳、野
谷荘司山と続き、ひときわ白く輝く剣ヶ峰と御前峰から別山への純白の稜線が胸を打つ。
御前峰の下に目を遣ると、どこまでも白い斜面に続く雪の台地が目を惹いた。白山東面台地である。
10年ほど前、DOCを駆ってその懐に通ったことが懐かしく思い出された。情けないが、今はもうそんな気力も体力もない。
その山稜の手前には三方崩山と日照岳という白山前衛の秀峰がどっしりと存在感を示している。どちらも鮮烈な記憶を残
した山である。
市村界稜線直下の鞍部の大雪原では、正午の太陽に照らされたブナの千手観音のような枝が、雪面に丸い影を描いて面
白い。
稜線の名も無き1743mピークは広大な雪原にポツポツとブナやダケカンバを配置した素晴らしい山頂である。
白山を真正面に望む緩斜面に陣取れば、意外に風も弱く、春の日差しを全身に受けて極上の一杯を楽しむことができた。
頭上の青空には幾筋もの飛行機雲が白いラインを引いている。
今日は貸切りかと思われた稜線上には、意外にも新しいスキーのトレースが残されていた。
白弓スキー場から御前岳の往復なのだろう。こちらも本当は御前岳を往復するつもりだったのだが、予定外の出遅れが響
いてしまった。しかし、自分的には御前岳の山頂よりもこちらの無名峰の方がビールが美味いと思うのである。
山の良さは名前の有無、有名無名には比例しない。私にとっては極上の無名峰だ。
稜線からは、遠くに黒い三角錐が見えた。剱岳である。広濶なブナの疎林の尾根を南下して行くと、御前岳に隠れてい
た北アルブスの山々が姿を現した。5年前のスノー衆の舞台となった栗ヶ岳は半分ササの露出した三角錐となっていた。
野々俣谷左岸尾根のジャンクションとなるCa1755mピークの手前から、林相がガラッと変わってオオシラビソの森とな
る。葉を落とした開放的なブナの林から薄暗い針葉樹の森への極端な変化が面白い。
実は初めてここを訪れた時、ニホンヤマネに出遭った。その時はネズミみたいなヤツだと思っていたのだが、その後金
草岳でヤマネとじゃれ合うという得難い体験をして、ここで出遭ったのもヤマネだったのだと思い至ったのである。
もう二度と出遭うことはないだろうか。
オオシラビソの森は、高度を下げるにつれてダケカンバとブナの森に戻って行った。
こちらの尾根のブナ林も見事だ。幹周3mオーバーの巨木が普通に散在している。
ここを歩くのも、もう4度目である。昨年のスノー衆でも使ったお気に入りの尾根でもある。ここがスノー衆のランチ場
だったと懐かしく思い出しながら、下山はスキー場への最短ルートを選ぶ。
最初の時こそ末端近くまで尾根を辿ったが、次からはすべて隣の谷を使った。急峻な尾根下りと違って、雪の詰まった谷
は足元に気を遣う必要がないので仕事が速いのである。
営業の終わったスキー場というのはうら寂しいものがある。それまでツボ足でズボズボ潜っていた雪が、突然バーンの
ような雪質に変わった。少し前まで営業していた時の圧雪の名残りだろう。
ひと気のないスキー場のセンターハウスを横目で見て駐車地への近道を行く。
山麓ではフキノトウが盛りだ。
山日和