【 山 域 】奥越
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】一日目;快晴、二日目;曇り
【 ルート 】(一日目);真名川ダム右岸の駐車地10:31〜12:27持篭谷山12:33〜13:01ca1180m14:14〜15:00p1265〜15:55荒島岳15:59〜17:06 ca1180m
(二日目);テントサイト6:12〜7:12縫ヶ原山〜10:24駐車地
持篭谷山と縫ヶ原山を回る周回コースはは最近もsatoさんと山日和さんのrepがアップされたところであるが、マリベさんとkeikokuさんも同じ日に訪れておられたようで、やぶメンがよく出没する山域のようだ。この山に行くなら同時に荒島岳の南尾根を辿りたいと以前より機会を伺っていたところろだった。常に荒島岳を正面に見て、山頂にダイレクトに飛び出すこの尾根は、荒島岳へと至る最高のルートではないか・・・
〜山日和さんの縫ヶ原山のrepより
今週は晴天の日が続くが、週末は春の嵐となるようだ。雨の振り出しは早くても土曜日の夜であり、土曜日の日中までは晴天の予報である。金曜日に休みを取得することが出来たのでテン泊で上記のコースを辿ることにする。
金曜日に家内が車を使う予定があるので福井でレンタカーを借りることになる。登山の出発が遅くなるが、テン泊の予定地には十分にたどり着けるだろう。早朝に登山口にたどり着くことができれば日帰りでも十分に可能なコースではあるが、荒島岳の南尾根でのテン泊は十分に魅力的に思われる。
福井からはR158を通って大野盆地に入る。大野のスーパーで食料を調達すると、スーパーの片隅で採れたての蕗の薹が安く売られていたので頂くことにする。R157に入ると広い田畑の彼方に大野盆地を取りまく雪の山々を眺めるのが愉しい。荒島岳、経ヶ岳はいずれも先週よりも明らかに雪が少なくなっているようだが、銀杏峰〜部子山の稜線は純白に輝いている。
R157を南下すると国道はまもなく真名川に沿って深い山合いへと入ってゆく。周囲の山肌には全く雪がない。真名川ダムに至るとダムのアーチを渡り、モニュメントの前の道路余地に車を停める。
右岸の舗装林道を歩くとすぐに尾根への取り付きを示すピンクテープがある。道路脇のコンクリートの擁壁には積雪時にはいとも簡単に登れるのだろうが、雪がないせいで容易には登れない。擁壁の上の低木を掴んで何とか攀じ登った。
斜面には既に低木の藪が繁茂しているが古い道の跡が続いている。道は尾根にたどり着いたところで不明瞭になる。そのまま尾根芯の急登を登りかけたところでカメラを入れるポシェットからカメラが数メートル下に転がり落ちる。これを拾いに急斜面を再び降りることを余儀なくされるのだが、これは怪我の巧妙だったかもしれない。カメラを取りに戻ると尾根の手前の杉の植林の中にピンクテープがあり、登りやすい踏み跡が続いているのに気がつく。
テープと踏み跡を辿るとすぐに斜面には緑色のロープが現れ、ロープの助けを借りて登りつめると途端に広々としてなだらかな尾根に乗ることが出来た。
尾根上には勿論、登山道はない。疎らに繁茂する笹の間を縫うように鹿の踏み跡が続いており、鹿道を追う。やがて笹の間に進路を塞ぐようにヤブツバキの濃密な藪が現れる。しかし、鹿のトレースは確実にヤブツバキの藪の薄いところへと誘導してくれる。
尾根は一向に高度が上がる気配がない。気がつくと尾根はミズナラやカエデなどの広葉樹の大樹の樹林となる。標高750mあたりでようやく雪が現れたと思うと、そこからは林床は一気に雪に覆われるようになった。
スノーシューを履くが、気温が暖かい割には足元の雪の沈み込みは少なく、快調に尾根を辿る。やがて樹林の林相はいつしか樹高の高い山毛欅の壮麗な樹林へと変わる。蒼空に向かって山毛欅の樹々が伸ばす箒状の繊細なシルエットがなんとも美しい。
樹林の間の展望地からは北側に荒島岳を大きく望む。その肩からは純白の白山が姿を見せる。手前の斜面には疎らに生える杉の樹々が白い雪面の間に動物の毛皮のような黒い模様をリズミカルに刻んでいる。
広々とした樹林の中を辿るうちに尾根の先に樹林のないピークが見えてきた。早くも持篭谷山の山頂のようだ。わずかにひと登りでピークにたどり着くと、一気にパノラマが広がった。山頂から先はジャンクション・ピークp1209の鋭鋒に向かって吊尾根が続いている。
その南側斜面は山毛欅と思われる樹林が広がっているが、北側斜面は雪面が広がっており、針葉樹の若木が疎らに生えているばかりだ。その右手にはこれから辿ることになる荒島岳へと連なる長い尾根が目に入る。
背後を振り返ると麻那姫湖の湛える緑碧の湖面が否応なく目を惹く。その彼方に聳える銀杏峰と部子山はこの角度から眺めると二つの山というよりは一つの白い山塊となって広がっている。
ジャンクション・ピークに向かって、北側には荒島岳と大野盆地のパノラマを眺めながら尾根を辿る。ピークが近づくと樹林が少なくなり樹々も疎らになり、パノラマの尾根となる。右手には明日の下山で辿る予定の縫ヶ原山からの長い稜線とその彼方に姥ヶ岳と能郷白山が見える。ジャンクション・ピークに到達すると巨大な飛行船を思わせる縫ヶ原山の山容が視界に大きく飛び込む。
ジャンクション・ピークの山頂部は狭く、傾斜しているので、テントを張れるような場所ではない。荒島岳への稜線を北に辿ると、ca1180mの北端に程よい平坦地を見つけることが出来た。担いできたスコップでテントのスペースの分を雪を掘り、テントを設営する。
時間はまだ14時をまわったところだ。日没までに荒島岳を往復するだけの時間の余裕があるだろうと踏む。雪も程よく締まっているようなので、スノーシューは諦めて、12本アイゼンを装着する。
アップダウンの少ないなだらかな尾根を快調に進み、山頂の手前1kmほどの標高点p1265までは45分で到着することが出来る。近づくにつれ荒島岳の山容が大きくなってゆくが、気になるのは山頂直下で雪が切れて、西側に藪が露出していることだ。
急登が近づくと尾根芯の露出した笹薮との間に大きな雪割れが生じている。敢えてクレバスの中を通過する。やがてca1410mあたりで荒島岳の山頂にかけての急登が始まると雪が繋がっているのは東側の急峻な斜面である。斜面をトラバースして、雪の急斜面を登る。ここはアイゼンとピッケルなくしては登れないところであった。一度、足を滑らせればそのまま谷底まで滑落することになるだろう。
やがて目の前には尾根上の大きな赤黒い巨岩が東側斜面を塞ぐように迫る。巨岩の下には雪があるものの多数の雪割れを生じており、悪意ある獣のような口を開けている。左手の尾根芯は密生した笹薮だが、ここは選択の余地はない。思い切って笹薮の中に飛び込む。
笹薮の中は一筋の獣道を探り当てることが出来て、しばらくはその踏み跡を登ってゆくことが出来る。尾根を登行するにはこの笹薮を漕ぐのが正解だったようだ。というのも間も無く尾根はすぐに痩せ尾根となるのだが、先ほどの大岩を右手から巻いて東側斜面から尾根に乗るのは斜面が急過ぎて到底、無理だったであろう。
しかし足元の獣道を見失ったのか、獣道が不明瞭になると途端に密生した笹薮の登行は非常に困難となり、なかなか進むことが出来ない。辛抱して笹薮の中を進むしかない。傾斜が緩くなり始めたところでようやく尾根に雪が現れた。最後は緩やかに尾根を歩くと忽然と雪の中に祠が現れ、山頂にたどり着いたことを知る。時間はほぼ16時になっていた。急登が始まってからわずか300mほどの距離に40分ほどを費やしたようだ。
山頂にたどり着くと期待通り、まず白山が視界に大きく飛び込む。そして左手には赤兎山、大長山、経ヶ岳、右手には野伏ヶ岳、小白山と大日ヶ岳、その手前には先週に登ったばかりの木無山を望む。遠くに望む御嶽山はこの日はかなり霞んでいる。相変わらず快晴微風の天気が続いている。当然ながらこの時間に山頂に立っているのは他にはいない。山頂でゆっくりしたいところではあるが、藪漕ぎに思いのほか時間を要してしまったので、早々に下山の途につく。
笹薮の藪漕ぎはルートがわかっている限り、下山は早い。藪をこぐうちに足元には再び獣道が現れ、まもなく先ほどの大岩の下にたどり着いた。
急斜面の下降で一瞬、足元が崩れ、図らずも数mの尻セードとなる。気がついたらカメラのシャッター・ボタンが失くなっていた。何とも無念なことにカメラのシャッターが切れなくなっていた。
急斜面のトラバースを無事通過すると後は危険な箇所はない。テントを目指して緩やかに波打つたおやかな尾根を戻る。尾根の左手の縫ヶ原山が斜陽に黄金色に染まる山肌と青白い谷間が美しいコントラストを見せているが、カメラのシャッターが使えないのが残念だ。iphoneでも写真を撮ってみるが、目に映った美しいコントラストは到底、再現出来ていなかった。
カメラのシャッター・ボタンを押さずとも液晶パネルに触れることでシャッターを切る性能があったことを思い出したのはテントを目前にしたところだった。振り返ると荒島岳の斜面も黄金色に染まっている。
風は相変わらずほとんどないのだが、テントの西側に少し雪を積み上げておく。作業をしているうちに西の空に陽が落ちてゆく。西の空が霞んでいるせいだろうか、この日は西の空は茜色に染まることなく、徐々に暗くなっていった。
夕焼けを諦めてテントに潜り込むと、焼豚としめじの炒め物をあてに早速にも焼酎の雪割から始める。不穏な風が吹き始めたのは日が暮れてまもなくだった。風は急速に強さを増し、テントを揺さぶる。大野のスーパーで入手したハンバーグと湖北の富田酒造の七本槍を呑む。
夜半にテントの風上側のペグが飛ばされるので、ペグの代わりにピッケルを差し込む。何度か浅い睡眠をとるが、テントを蹂躙する風の音で頻繁に起こされることになる。しかしテントの性能のお陰か、寒さを一向に感じることがないのは有難かった。どうやらこの日は焼酎と日本酒が多すぎたのかもしれない。日中はほとんど喉が乾かなかったのだが、やたらと喉が渇き、持参した水を瞬く間に飲み干してしまう。雪を溶かして翌日のための水を作る。
【二日目】
早朝になっても一向に風は治る気配はないどころかますますひどくなったようだ。急ぐ山旅ではないので吹き荒ぶ風の音を聞きながら朝はゆっくりと過ごす。テントから外に出てみるとテントの周りは雲の下だが、荒島岳は雲の中だ。雲は縫ヶ原山の山頂とほぼ同じ高さのようだ。
いざテントの撤収にかかるが、風が強すぎてテントを畳むのが到底困難である。少しでも油断するとテントが風に飛んで行きそうである。適当に丸めてもなんとか収納袋に収まってくれたのは有難かった。
強風のせいで往路を引き返して下山することも考えたが、縫ヶ原山にかかる雲が上がってくれることを期待して、予定通りの周回ルートを辿ることにする。ジャンクション・ピークに登り返すと、所々で藪が露出した尾根を鞍部に向かって下降する。途端に風の陰に入ったのだろう、先ほどまでの強風が嘘のように風は感じられなくなった。縫ヶ原山への登り返しは緩やかな二重尾根となり、ブナの樹々が立ち並ぶ美しいところだ。
尾根は徐々に気が少なくなり、山頂が近づくと樹木のない雪稜となる。振り返ると昨日辿った荒島岳への南尾根の彼方で朝陽に輝く経ヶ岳や大日岳が見える。どうやら雲がかかっているのはこの稜線を含め、荒島岳から東のあたりのみのようだ。
縫ヶ原山の稜線に上がると完全に雲の中に入る。稜線に上がって驚いたのは急峻な南側斜面の上には雪庇が張り出してると思っていたが、雪庇はなく、斜面の藪が露出している。どうやら既に雪庇が崩落したのだろう。稜線の北側の急斜面をトラバースしながら歩くことになるが、ここはアイゼンがしっかりと効いてくれる。
稜線を辿るうちにすぐに雲の下に出る。尾根のすぐ南側で均整のとれた山容を大きく広げているのは人形山を手前に擁した堂ヶ辻山だろう。振り返ると雪庇の崩落した稜線からは痛々しいまでに藪が露出している。
昨日も幾度となく雪を踏み抜いたが、この日は悪天候の割には意外と気温が下がらなかったようだ。朝から踏み抜きを連発するが、堪らなかったのは雪で覆われた雪割れに肩まで落ち込んだことであった。幸いにも両腕が雪の上に引っか他ので、足元の雪の壁にアイゼンを食い込ませてなんとか脱出することが出来る。
気がつくと先ほどまでの北側の急峻な斜面はいつしか緩斜面となり、気持ちの良さそうなブナの疎林が広がっている。この緩斜面を下降することも考えたが、昨日、持篭谷山から眺めた尾根に雪が繋がっていたことを思い出し、尾根をたどり続けることを選択する。しかし、この判断根拠は間違っていた。尾根が北西に向きを変えるとすぐにも尾根芯の雪は消失する。仕方ないので雪を拾いながら尾根の右手をトラバース気味に歩く。
登りの尾根と同様、頻繁に現れるブナの大樹が目を愉しませてくれる。しかし、標高が低くなるにつれてブナの樹々は急に姿を消す。登りの尾根より雪が下まであるように見えたのは確かに正しかった。標高630mのあたりまで雪があったからだ。雪が消えると煩わしい藪尾根となるが、尾根芯には細い掘割の古道が現れる。しかし、その古道も尾根を下るにつれて不明瞭となり、最後はひたすら藪の急下降となる。下りだからまだいいように思うが、雪のない状況でこの藪をかき分けて急斜面を登るのは相当な苦行だろう。
やがて林道が急斜面の下に見えると、法面が崖となっていることを心配したが、最後は尾根筋の濃密な藪を掻き分けて無事林道の着地することが出来た。林道は北側斜面ではまだ10cm以上は積雪していたが、持篭谷にかかる大きな橋からは途端になくなる。静かな緑碧の湖面を振り返ると対岸では道斉山が雪の消えた裾野を広げている。
車を停めたモニュメントに戻るとそれは慰霊碑であり、石碑には7名の氏名と北斗七星が刻まれていた。ダム工事の殉職者を慰霊するためのものであった。ダム工事の殉職者といえば黒部ダム工事に伴う殉職者の171名という犠牲者の数に唖然とするが、他のダム工事もかなりの犠牲を伴っている。相模ダムの83名という数字も相当だ。近いところでは王滝川の三浦ダムは33名、揖斐川の徳山ダムは10名の殉職者らしい。この真名川ダムの7名の殉職者を多いと見るべきか、少ないと捉えるべきなのか。
帰りは越前大野に立ち寄るとまずは南部酒造場で花垣の「亀の尾」の、純米生原酒と”FUNASHIBORI”(槽搾り)、伊藤潤和堂の銘菓「芋きんつば」を手にいれる。通りを挟んで反対側の荒木味噌店はまるで商売気のないところだが、ここの味噌はどれも秀逸だ。ランチは福そばの越前そばを楽しみにしていたのだが、なんと店は更地になっている。店の建て替えとやらでしばらく休業らしい。場所を移動して「梅林」で蕎麦を頂いた。
福井への帰路から伊自良温泉に寄り道する。この4月から入浴料が値上がりして¥350になるらしい。温泉の受付では蕗の薹を含む山菜の天ぷら盛り合わせが¥100で売られている。
福井のレンタカー店に戻ると駅の周辺でもかなりの強い風が吹いている。前日に応対してくれた受付の女性も登山をされる方らしく、山の上ではさぞかし風が強いだろうと心配をして下さっていた。サンダーバードの指定席はそれなり混んでいたが、列車の到着まで時間があるので、人のいないホームのベンチでビールと共に山菜の盛り合わせを頂く。冷めていても蕗の薹の天ぷらはビールのつまみとしては十分に上等に思えるのだった。