【越美国境】賞味期限寸前の三周ヶ岳と夜叉ヶ池裏の知られざるパラダイス
Posted: 2021年3月23日(火) 21:20
【日 付】2021年3月19日(金)
【山 域】越美国境 三周ヶ岳周辺
【天 候】晴れ
【コース】広野ダム7:00---7:35岩谷キャンプ場跡7:50---10:55P1144m11:10---12:15三周ヶ岳13:30---夜叉ヶ池14:35
---15:50登山口---16:55広野ダム
たっぷり積もったはずの雪も、2月以降の雪解けのスピードが速く、越美国境稜線も賞味期限ギリギリかもしれ
ない。広野ダムから夜叉ヶ池登山口への林道は完全に除雪されていた。
岩谷川の流れは雪解け水を集めてしぶきを上げている。以前は林道脇にフキノトウがたくさん見られたものだが、
まったく姿をみることがなかった。
岩谷のキャンプ場跡からP1144mへの尾根に取り付く。左手の植林斜面が楽だという記憶だったが、回り込みが
中途半端で倒木とヤブの鬱陶しい斜面を登る羽目に。序盤は雪無しが織り込み済みだったものの、これなら手前の
潅木斜面の方がよかった。
林道の方からエンジン音が聞こえたと思ったら、ゲートのところに止まっていた除雪車が上流に向かって走って
行くのが見えた。
雪が出てきてスノーシューを装着するも、すぐに切れて、手にぶら下げて歩くようになる。しかしいつまでも地肌
が見えたままで、仕方なくスノーシューをザックに付け直した。
お気に入りのブナ林に着いても落ち葉に覆われた地面が見えるだけで、初冬の山を歩いているようだ。
900mを超えてやっと雪が繋がった。ここからCa1030mにかけて続くブナの森が美しい。
今日は残念ながら霧氷ができる条件ではないが、朝日に照らされたブナが雪面に映すシルエットが心に響く。
岩谷林道終点からの尾根を合わせる手前の北側斜面が素晴らしい。広く緩やかな谷状の雪原に、トチの大木が点
在するパラダイスである。このルートを下山に使う時は、尾根芯ではなくこの谷へ駆け下り、あるいは滑り降りて、
この開放的な空間を楽しむのが常だ。
パラダイスが終わって尾根に戻ると現実に引き戻される。痩せた尾根は再び雪もまばらになり、スノーシューを
履いたままでは歩きにくいことこの上ない。P1144mにまっすぐ伸びるここは、雪がたっぷりあれば美しいナイフ
リッジがピークに向かって突き上げる、胸のすくような光景を味わえる場所なのだが。
いつもなら雪のドームになっているP1144mも切れ味が鈍く、もっさりとした感じだ。
ここからは越美国境稜線が始まる。視界を遮られていた三周ヶ岳の姿が初めて現れた。
ここから見る三周はずいぶん近く、すぐそこに見えるのだが、実際には稜線をぐるっと迂回していかなければなら
ない。正直、序盤の登りで疲れてしまい、三周に立つ必要もないかなどと心が折れかけていた。
しかし時間を考えればここでやめるわけにはいかない。何度も訪れている雪の三周、別に新たな感動が待っている
わけでもないが、山頂に立つことに意味を見出すとしよう。
左側に見下ろす金ヶ丸谷の源流は雪に包まれてやさしい曲線を描いている。本当は一度源頭へ下りて遊ぼうと思
っていたのだが、体力も気力もなくなってしまった。
小さなアップダウンをこなして、国境稜線から美濃側へ出べそのように飛び出している三周ヶ岳とのジャンクショ
ンに到達。目前の高丸と奥美濃の山々の展望が一気に広がった。
ここから見る三周の山頂への雪稜は迫力がある。右の根洞谷側斜面は崩れた雪庇の断面が荒々しい姿を見せる。
雪割れがそこここに始まっているが、雪そのものは安定しているようだ。
やはり雪の三周はいい。やや霞み気味ではあるが、白山をはじめ、加越、奥越、越美国境、奥美濃、江美国境、
江越国境の山々が一望である。着いた瞬間はたいした感慨も湧かなかったが、すっかり見慣れた景色を眺めている
内に、心の中の思いが風景と共鳴し始めたのかもしれない。
意外に風も弱いので、山頂でランチタイムを楽しむことができる。
さあ、ビールをとザックの中を探ると、詰め込んだ荷物が湿っぽい。水の類はインナーバッグの外に入れている。
とすれば、この原因は一つしかない。ビールを取り出すとずいぶん軽い。ペットボトル用のクッションケースに
入れていたのに、何かの拍子に穴が開いてしまったようだ。ガックリである。
すっかり気の抜けた、ただの麦汁と化したわずかなビールを流し込む。
ビールで濡れた荷物を干しながら、今シーズン最後かもしれない鍋を楽しんだ。しかしこの最高の状況でビール無
しとは、まさに画竜点睛を欠くとはこのことである。
先ほどのジャンクションまで戻ると、雪が切れて夏道が出ていた。雪もよく締まっているし、スノーシューを脱
いでアイゼンに履き替えよう。潜ってもくるぶし程度ならこちらの方が快適だ。
尾根の細い部分は雪が消え、この時期の越美国境稜線とは思えない。岩稜上か基部を巻くか選択を迫られる場所
では、雪の繋がった左の谷側の斜面から回り込むとスムーズに通過できた。
夜叉ヶ池までもう少しというところで、今まで気になっていた場所に寄り道することにした。
夜叉ヶ池の北東、稜線の右下に長細く伸びる平坦地である。ヤブの切れ目から40mほど駆け下りると広大な雪原に
立った。無雪期のここはどんな状況なのだろう。地形図では広葉樹林だらけの中に、ここだけが草地の記号が付け
られている。
立ち木もほとんどない台地はすり鉢状で、すり鉢の縁にはブナ林が広がっている。その縁の向こうには一段下がっ
てまた別のすり鉢があった。もっと時間をかけて遊んでみたい場所だ。特に山頂を目的とせずに、夜叉ヶ池とその
周辺を探索するのも面白いだろう。
想像を上回るパラダイスの発見に気を良くしてすり鉢の縁を上がって行くと、夜叉ヶ池の裏手のブナ林に出る。
そして、あっけらかんと広がる夜叉ヶ池の大雪原に到着。霧氷もなく、これだけ晴れ渡った真っ白な池は、神秘的
なものをまったく感じさせない代わりに、平和な午後の雰囲気を漂わせていた。
豊潤なブナの森が広がる夜叉ヶ丸の北斜面をトラバースして、夜叉ヶ丸ダイレクト尾根へ。
上部はブナ林を楽しみながらの広い雪尾根歩きだが、雪の消えた下部ではアイゼンを脱ぐと滑って苦労する。
こういう場面ではチェーンスパイクが重宝するのだが。
登山口に着くと完璧に除雪が完了していた。舗装が濡れているところを見ると、朝の除雪車が最後の区間の作業
をしていたようだ。
山日和
【山 域】越美国境 三周ヶ岳周辺
【天 候】晴れ
【コース】広野ダム7:00---7:35岩谷キャンプ場跡7:50---10:55P1144m11:10---12:15三周ヶ岳13:30---夜叉ヶ池14:35
---15:50登山口---16:55広野ダム
たっぷり積もったはずの雪も、2月以降の雪解けのスピードが速く、越美国境稜線も賞味期限ギリギリかもしれ
ない。広野ダムから夜叉ヶ池登山口への林道は完全に除雪されていた。
岩谷川の流れは雪解け水を集めてしぶきを上げている。以前は林道脇にフキノトウがたくさん見られたものだが、
まったく姿をみることがなかった。
岩谷のキャンプ場跡からP1144mへの尾根に取り付く。左手の植林斜面が楽だという記憶だったが、回り込みが
中途半端で倒木とヤブの鬱陶しい斜面を登る羽目に。序盤は雪無しが織り込み済みだったものの、これなら手前の
潅木斜面の方がよかった。
林道の方からエンジン音が聞こえたと思ったら、ゲートのところに止まっていた除雪車が上流に向かって走って
行くのが見えた。
雪が出てきてスノーシューを装着するも、すぐに切れて、手にぶら下げて歩くようになる。しかしいつまでも地肌
が見えたままで、仕方なくスノーシューをザックに付け直した。
お気に入りのブナ林に着いても落ち葉に覆われた地面が見えるだけで、初冬の山を歩いているようだ。
900mを超えてやっと雪が繋がった。ここからCa1030mにかけて続くブナの森が美しい。
今日は残念ながら霧氷ができる条件ではないが、朝日に照らされたブナが雪面に映すシルエットが心に響く。
岩谷林道終点からの尾根を合わせる手前の北側斜面が素晴らしい。広く緩やかな谷状の雪原に、トチの大木が点
在するパラダイスである。このルートを下山に使う時は、尾根芯ではなくこの谷へ駆け下り、あるいは滑り降りて、
この開放的な空間を楽しむのが常だ。
パラダイスが終わって尾根に戻ると現実に引き戻される。痩せた尾根は再び雪もまばらになり、スノーシューを
履いたままでは歩きにくいことこの上ない。P1144mにまっすぐ伸びるここは、雪がたっぷりあれば美しいナイフ
リッジがピークに向かって突き上げる、胸のすくような光景を味わえる場所なのだが。
いつもなら雪のドームになっているP1144mも切れ味が鈍く、もっさりとした感じだ。
ここからは越美国境稜線が始まる。視界を遮られていた三周ヶ岳の姿が初めて現れた。
ここから見る三周はずいぶん近く、すぐそこに見えるのだが、実際には稜線をぐるっと迂回していかなければなら
ない。正直、序盤の登りで疲れてしまい、三周に立つ必要もないかなどと心が折れかけていた。
しかし時間を考えればここでやめるわけにはいかない。何度も訪れている雪の三周、別に新たな感動が待っている
わけでもないが、山頂に立つことに意味を見出すとしよう。
左側に見下ろす金ヶ丸谷の源流は雪に包まれてやさしい曲線を描いている。本当は一度源頭へ下りて遊ぼうと思
っていたのだが、体力も気力もなくなってしまった。
小さなアップダウンをこなして、国境稜線から美濃側へ出べそのように飛び出している三周ヶ岳とのジャンクショ
ンに到達。目前の高丸と奥美濃の山々の展望が一気に広がった。
ここから見る三周の山頂への雪稜は迫力がある。右の根洞谷側斜面は崩れた雪庇の断面が荒々しい姿を見せる。
雪割れがそこここに始まっているが、雪そのものは安定しているようだ。
やはり雪の三周はいい。やや霞み気味ではあるが、白山をはじめ、加越、奥越、越美国境、奥美濃、江美国境、
江越国境の山々が一望である。着いた瞬間はたいした感慨も湧かなかったが、すっかり見慣れた景色を眺めている
内に、心の中の思いが風景と共鳴し始めたのかもしれない。
意外に風も弱いので、山頂でランチタイムを楽しむことができる。
さあ、ビールをとザックの中を探ると、詰め込んだ荷物が湿っぽい。水の類はインナーバッグの外に入れている。
とすれば、この原因は一つしかない。ビールを取り出すとずいぶん軽い。ペットボトル用のクッションケースに
入れていたのに、何かの拍子に穴が開いてしまったようだ。ガックリである。
すっかり気の抜けた、ただの麦汁と化したわずかなビールを流し込む。
ビールで濡れた荷物を干しながら、今シーズン最後かもしれない鍋を楽しんだ。しかしこの最高の状況でビール無
しとは、まさに画竜点睛を欠くとはこのことである。
先ほどのジャンクションまで戻ると、雪が切れて夏道が出ていた。雪もよく締まっているし、スノーシューを脱
いでアイゼンに履き替えよう。潜ってもくるぶし程度ならこちらの方が快適だ。
尾根の細い部分は雪が消え、この時期の越美国境稜線とは思えない。岩稜上か基部を巻くか選択を迫られる場所
では、雪の繋がった左の谷側の斜面から回り込むとスムーズに通過できた。
夜叉ヶ池までもう少しというところで、今まで気になっていた場所に寄り道することにした。
夜叉ヶ池の北東、稜線の右下に長細く伸びる平坦地である。ヤブの切れ目から40mほど駆け下りると広大な雪原に
立った。無雪期のここはどんな状況なのだろう。地形図では広葉樹林だらけの中に、ここだけが草地の記号が付け
られている。
立ち木もほとんどない台地はすり鉢状で、すり鉢の縁にはブナ林が広がっている。その縁の向こうには一段下がっ
てまた別のすり鉢があった。もっと時間をかけて遊んでみたい場所だ。特に山頂を目的とせずに、夜叉ヶ池とその
周辺を探索するのも面白いだろう。
想像を上回るパラダイスの発見に気を良くしてすり鉢の縁を上がって行くと、夜叉ヶ池の裏手のブナ林に出る。
そして、あっけらかんと広がる夜叉ヶ池の大雪原に到着。霧氷もなく、これだけ晴れ渡った真っ白な池は、神秘的
なものをまったく感じさせない代わりに、平和な午後の雰囲気を漂わせていた。
豊潤なブナの森が広がる夜叉ヶ丸の北斜面をトラバースして、夜叉ヶ丸ダイレクト尾根へ。
上部はブナ林を楽しみながらの広い雪尾根歩きだが、雪の消えた下部ではアイゼンを脱ぐと滑って苦労する。
こういう場面ではチェーンスパイクが重宝するのだが。
登山口に着くと完璧に除雪が完了していた。舗装が濡れているところを見ると、朝の除雪車が最後の区間の作業
をしていたようだ。
山日和