【 日 付 】2023年4月28日(金)〜29日(土)
【 山 域 】越前
【メンバー】山猫、家内
【 天 候 】二日とも晴れ
【 ルート 】(一日目)じょんころ広場12:07〜14:36北丈競山〜15:06丈競山〜15:45浄法寺山〜16:16丈競山(泊)
(二日目)丈競山5:37〜6:03浄法寺山〜6:42冠岳〜6:56ca830mピーク7:00〜7:18尾根の下降点〜7:53林道終点〜8:54じょんころ広場
少し前までは週末の土曜日29日は雨の予報であったが、日が近づくにつれて予報では雨の降り出す時間が遅くなってゆく。28日に休みを取っていたので、久しぶりに家内と泊まりがけの山行を考える。金曜日は夕方までは天気が良さそうなので、夕陽が綺麗に見える好展望の小屋・・・と考えると、丈競山が候補の筆頭に挙がる。
丈競山は先月のはじめ、まだ雪深い時に泊まりがけで登ったばかりであるが、快適な避難小屋の土産話に加えて、この時期は様々な春の花が期待できそうなこともあり、家内の食指が動く。私自身、無雪期の山の表情を見てみたいこともあって再訪することにした。
前回は林道の途中からca830mのピークを経て冠岳に登り、浄法寺山から高水山を往復してから丈競山に至ったのだが、今回は時計回りの周回コースを考える。というのも榿ノ木谷の長い林道歩きは下山時の方が望ましいからだ。
朝は足の怪我から回復してまだ日が浅い娘を学校の近くまで送ってから福井へ向かう。福井平野に入ると真正面に浄法寺山が視界に飛び込んでくる。まずは福井大学病院前のスーパーに立ち寄って、ここで永平寺揚げと称される分厚い厚揚げを入手する。花垣の純米にごり酒も入手することが出来た。
龍ヶ鼻ダムにたどり着くとダム湖の周囲の新緑がなんとも鮮やかだ。前回はダムから先は冬期通行止めであったが、登山口となるじょんころ広場まで難なく到達することが出来る。駐車場には数台の車が停められている。
広場を出発するとすぐに榿ノ木谷川水力発電所の小さな建物がある。前回は雪解けで水量が増し、囂々と水が流れて印象があるせいで、この日は発電所から流れ落ちる水がかなり穏やかに感じられる。
古い電話ボックスがある登山口から小さな谷に沿って登り始めると、谷奥に小さなじょんころ滝が現れる。この滝もかなり水量が少なくなっている。滝を過ぎると、鮮やかな新緑の中を左岸の斜面をジグザグと登ってゆく。
急登が落ち着くと、ホオノキの大樹が並ぶ樹林に入ってゆく。尾根に乗ると下から涼しい風が吹いてくる。足元には数多くの稚児百合の花が咲いている。小さな青紫色の花弁を上に向けて咲いているのは筆竜胆だろう。尾根を進むと次々と色鮮やかな躑躅が現れる。(雪国三葉躑X→)ムラサキヤシオの花だ。関西でよく見かける三葉躑躅よりも赤味がかった色合いをしている。
しばらくはなだらかな尾根が続くお陰で、距離を稼ぐことが出来る。時折、白い錨草の花が咲いている。関西で見かけるものは花弁の中心部が赤紫をしているが、この山で見かけるものは白いは花ばかりだ。Ca700mの小ピークは樹林を抜け出し、尾根の先に北丈競山、丈競山、浄法寺山が視界に飛び込む。日当たりのより尾根道にはところどころに石楠花も現れる。
北丈競山への登りは足元にアルミ製の階段が設けられいるお陰で楽に登ることが出来る。登山道の周囲は身の丈を越える笹や低木が広がっているが、前回、雪の季節にこの斜面を下降した時にはこれらは全て雪に埋もれていたのだった。当然ながら広く切払いされたこの登山道など同定すべくない。当たり前といえばそうなのだが、わずか2ヶ月足らず前との景色の変わりように今更ながらに驚くのだった。
登山道の両側では数多くの岩団扇や猩猩袴の薄紫色の花が連綿と続いている。斜度が緩くなるとまもなく北丈競山の山頂にたどり着く。山頂からは一気に彼方に斑らに雪が残る白山とその手前に大日山の展望が視界に飛び込む。そしていよいよ目の前には可愛らしい避難小屋を山頂に戴く丈競山が目の前に聳える。丈競山の山頂の周辺では新緑はまだのようだ。
丈競山への登り返しに入ると登山道沿いは石楠花が続くが、残念ながらほとんどが蕾の状態だ。あともう一週間もすると花盛りになることだろう。
雪の季節は山頂部は一面の雪原で好展望が広がっていたのだが、今は身の丈を越える笹のせいで展望が遮られている。小屋の前には星霜を経た石仏の三尊像と方位版があることに気がつく。これらも三月の上旬はまだ雪の下だったのだ。
まだ時間が早いので浄法寺山を往復することにする。明日の朝も向かうところではあるが、目当てはピークを踏むこととは別にある。緩やかな吊尾根を下り始めるとタムシバの花が咲いている。丈競山への登りでも多くの花を見かけが、ほとんどは花期の終盤であったが、この樹の花はまだ蕾も散見することからすると、まだ咲き出したばかりなのだろう。ここでも尾根には延々と岩団扇と猩猩袴の花々が続く。時折、白花の岩団扇も咲いている。
鞍部のあたりは笹原の道となり、両側に展望が広がるパノラマ尾根となる。左手には秀麗な高平山の彼方で西陽が白山の残雪を輝かせている。鞍部を越えて浄法寺山への登り返しになると道端に片栗の花がちらほらと現れたかと思うとやがて一面に片栗の群落が広がった。ほとんどの花は咲き始めたところなのだろう。勢いよく花弁を後ろに反り返らせている。花弁を横に広げた状態のもの既に花盛りを過ぎているようだ。しかし、100メートルも行かないうちに片栗の群落は唐突に終わる。
やがて浄法寺山の山頂が近づくと堀割の登山道には雪が現れる。日当たりの悪い北斜面だからなのだろう。残雪には周囲の樹々の枝が埋もれており、途端に歩きにくい。残雪地帯を過ぎるとすぐにも展望台のある浄法寺山の山頂に到着する。前回は展望台の上に設けられた方位表がほとんど雪に埋もれていたので、2m以上の積雪があったのだろう。隣の大葉山に向かう東側斜面は一面の雪原だったのだが、今や足を踏み入れることを拒むかのような濃密な笹藪と低木の樹林が広がっていた。
尾根を引き返して避難小屋に戻る。まずは小屋の外のベンチで白山を眺めながらビールで乾杯する。西側では夕方の斜陽をうけて日本海が眩いばかりの黄金色の光を反射していた。小屋に入るとストーヴのための灯油を入れたポリタンクはずっしりと重い。丸岡山の会のどなたかが再び灯油を担ぎ上げて下さったようだが、この日は小屋の中はむしろ暑いくらいだ。窓を少し開けると流れ込む涼気が心地よく感じられる。
少し時間は早いが夕食の調理を始める。この日はまずソーセージを炒める。次は牛肉と新玉ねぎ、ハナビラタケ、舞茸のソテーと共に赤ワインを味わう。後半は永平寺揚げをフライバンで温め生姜醤油をあわせる。このために今回は生姜とすりおろし器を持ってきたのだった。これにはにごり酒がよく合う。気が付くと日没の時間になっていた。残照を楽しむ前に急速に眠りに落ちていった。
夜中に風鳴りの音で目が覚める。夕方まではほとんど風もなかったが、外では強風が吹き始めたらしい。小屋の中に風が感じられると思えば、強風で小屋の扉が開いている。入口の近くにあった思い袋で扉を塞ぐ。
翌朝も相変わらず風が強い。曇りの予報ではあったが、空はおおむね晴れているようだ。白山の上に顔を出す朝陽を拝んでから、小屋を出発する。外に出るとやはり強風のせいで体感温度がかなり低い。しかし有難いことに浄法寺山への吊尾根を降りはじめると急に風が弱くなる。
浄法寺山への登りに差し掛かると、予想されたことではあったが、昨日は勢いよく花弁を反り返らせていた片栗の花は見事なまでに花を閉じていた。花を閉じていないのは盛りを過ぎた花のみだ。
浄法寺山に到着すると太陽がすりガラスのような薄雲の向こうで朧げな光を放っている。白山は逆光のせいで黒いシルエットとして見えるばかりだ。白山に別れを告げて尾根を西に下る。相変わらず足元には多くの岩団扇と猩猩袴が咲いている。白花の猩猩袴はこれまでに見かけた覚えがない。下山後に写真を確認するとピントが外れていたことに気がつかなかったのが悔やまれる。
台地状の浄光寺山の山頂も積雪期はブナがわずかに点在する雪原が広がっていたが、ブナの林床は低木が密生している。ここでも登山道に雪が現れると雪の下に枝を捉われた樹々が道を塞ぎ、途端に歩きにくくなる。雪が残っている区間がそう長くなったのが有難いが、さなくば通過に時間を要したことだろう。
浄法寺山の西側は積雪期はそれなりの急登だったのだが、登山道はうまくジグザグに付けられており、楽に降ることが出来る。山頂部よりも標高がわずかに下がったせいか、冠岳にかけてのなだらかな稜線になると、新緑の樹々が多くなり、色鮮やかだ。折しも新緑のブナの樹林に朝陽が差し込み、背後から若緑色の透過光を林の中に散らす。標高が下がるにつれて、下の尾根でも白花の錨草を多く見かけるようになる。
- 丈競山(左)と浄法寺山(右)
冠岳も360度の展望のピークだった憶えがあるのだが、周囲は背丈ほどの笹や灌木が密生しており、展望が効かない。積雪期に辿ったca830mのピークの様子が気になるのと、山日和さんにその様子を報告するお約束をしていたこともあったので、そこまで足を運んでみる。あわよくばここから積雪期に辿ったコースを降ろうという魂胆である。
登山道はピークの南側をトラバースして行くので、登山道を離れて低木の藪の中を進んでみるが豪雪のせいで密生する樹々が横向きに生えている中を藪漕ぎで進むのは容易ではない。ca830mのピークからの下降は諦めて、冠岳の東側から林道終点に下降する尾根を降ることにする。
最初はかなりの急下降であるが、トラロープが張ってあるので危険なことはない。この登山道は下降するにつれ咲き出したばかりの鮮やかな雪国三葉躑躅が両側を華やかに彩るようになる。足を止めると地味な色ではあるが、薄黄瓔珞躑躅(ウスギヨウラクツツジ)の花も多く咲いている。
やがて谷筋に下降すると小さな木橋で沢を渡りながら下流に進み、舗装された林道に飛び出す。あとは長い林道歩きとなる。林道がじょんころ広場に近くづくと林道沿いには数多くのイタドリが生えている。これだけ多く生えているというのもこのあたりにはまだ鹿が多くないということだろうか。折角なので数本、戴いて行くことにする。
前回の積雪期に辿った植林の尾根の地点に来ると、驚いたことに積雪期は雪以外は何もなかった植林の林床に低木が密生していることである。この有様では先のca830mのピークから無理して藪こぎして尾根を降ったら大変なことになっただろう。
じょんころ広場に戻ると二つの駐車場はほぼ満車に近い状態だった。多くの登山者は時計まわりのルートで丈競山に向かったのだろう。三人組のパーティーが出発してゆくところだった。空には晴れ空が広がっている。広場の藤棚の下で湯を沸かし、再びコーヒーを淹れる。藤棚から下垂する白藤は昨日に比べてかなり花が開花したように思われる。
車に乗り込むと、R364を北上して山中温泉を訪れる。山中温泉の日帰り温泉で有名な菊の湯は男湯と女湯が別の建物で、少し離れているのだった。ネットでは日帰り入浴が可能とされている多くの旅館がコロナ禍を理由に日帰り入浴をしていない。なんとか入浴可能な施設を見つけたのはグランドホテルだった。11時から12時は清掃時間とのことで、40分ほど入浴することにした。
温泉に浸かった後は再びR364を南下して、栢野(かやの)の大杉を訪れる。樹齢2300年とされている杉の巨樹は確かに大迫力だ。道路を隔てた杉の反対側には大杉茶屋があり、蓬で作られた草団子とジェラートを買う。ジェラートはどちらかというとシャーベットの食感だった。再び丸岡の竹田まで戻ると、地元の物産品の販売所を兼ねた「たけだや」このあたりの名物「丸そば」をいただく。ひやむぎのような丸い麺は柔らかい食感と喉ごしが特徴で、美味であった。
福井大学病院前のスーパーを再訪して永平寺揚げを入手すると最後は「さぎり屋」で若鮎の天ぷらと越前そばを頂いてから、ようやく京都への帰路に着くのだった。山行時間は短かったが、多くの春の花々と温泉、そして越前の味覚に家内も十分に充足感を感じてくれたようだ。
下山後、イタドリと永平寺の厚揚げを一緒に甘辛く炊いてみる。蕗の食感に似てはいるが、独特の爽やかな味わいだ。そして厚揚げとは抜群の相性を誇るようだった。