【日 時】 8月10日(土)
【地 図】
http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.html ... 8858542128
【同行者】 山日和・ふ~さん
【天 候】 晴れ
【ルート】 宮妻峡P(7:48)~中ノ谷入渓点(8:12)~北中ノ谷出合(10:08)~鎌尾根(12:03)~鎌ヶ岳分岐(12:24/13:12)~鎌キラ尾根分岐(13:24)~カズラ谷三俣(15:00)~ 宮妻峡P(15:56)
10日、四万十市西土佐で40.7℃という恐ろしい最高気温が観測された。これまでの観測史上第一位は、埼玉県熊谷と岐阜県多治見市の東西の横綱(?)で40.9℃。この日の酷暑は史上第四位にランクインする勢いだったらしい。
こんな時に山登りに出かけるなんて狂気じみているのだが、その狂気じみた登山に驚喜する輩がここにいた。
- 中ノ谷カズラ谷ルート(山日和氏提供)
林道を歩くと早くも玉の汗。中ノ谷の出合が待ち遠しい。南中谷の橋桁から待ちわびた恋人に会うかのように河床に降り立つ。久しぶりの中ノ谷だ。じゃぶじゃぶ顔を洗う。沢床にへたり込みたい気分を押さえて、挨拶代わりの小滝を登れば堰堤だ。
- 三段10m
端正な三段10m滝。干天続きで水量に乏しいとは言え、優美なご尊顔。左辺に取り付いて水芯に戦いを挑む山日和氏の動きがぴたりと止まった。あるはずのフットホールドを探りあぐねている。やむなく水芯を渡って右辺の岩壁を登る作戦に切り替える。
第二の堰堤を越えて小滝をつなぐと「くの字」型の滝。流芯を突破すると、左岸の崩落を見る。その奥に斜滝が控える。洞門にえぐられたトユ状、ざっと6mほど。そこに取り付くには、岩塊の崩落によって堰き止められて水深を増した釜が最初の関門となる。
山日和氏が先行。陽光を浴びてエメラルドに輝く釜をへつり、つるつるに磨かれた滝に何とか取り付く。四つ足動物のように手足を巧妙に動かして重心のバランスを取りながら高度を上げていく。お見事!
- トユ状6m斜滝
続いてチョックストーンの二段10m。下段が二条になっている。落ち口によじ登るのに、山日和氏は空身でクリア。すぐにザックを引き上げる。私は何とかステミングで四肢を突っ張り、体を捻って芋虫のように滝頭へ。
ゴルジュになったりゴーロ歩きになったりするが、やがて絵画を見るかのような二段7mを見る。左岸より斜上するバンドを伝って、水流の右岸側を直上するラインで攻める。
やがて左岸に8mほどの岸壁を擁した支流を入れる。これが北中ノ谷だ。かつて中ノ谷を遡行した折には、本流通しで鎌尾根に出た。北中ノ谷は私にとって初遡行となるから奮い立つ。
北中ノ谷へは一旦、本流のゴルジュに突入する必要がある。上段の皿を伏せたような大岩は、なりふり構わず腹ばいにズリズリ移動して抜ける。ここで巻き道を使って北中ノ谷に降り立った。
ぐっと水量が少なくなる。ナメ滝を上がると、ホールドに乏しいトユ状の連瀑帯がある。その先、沢の屈曲点がシャワー直下の涼味あふれるクライミングになる。冷たくて悲鳴が上がる。笑いが止まらない。大人の楽しいお遊びゲレンデである。
ぬめり感のある滝を登ると、先ほどのシャワー滝の滝頭だ。陽光に照らされて、きらきら光る水流が花崗岩の河床を滑っていく。
- 天然のシャワー
その先、沢は伏流帯に転じる。ほどなくして水流が現れるが、細流もあっという間に尽き果てる。本流を捨てて左手の岩壁に取り付くが、これがボロボロで泣けてくる。
先行の私が岩壁の登攀に取り付いた。だが、これが妙に辛口に転じる。垂壁にも思える岩壁のカンテを辿って灌木にすがりつつ、ボロボロ壁の登攀となる。危険を察知して山日和氏はエスケープルートを探す。
私はと言えば、戻り返すタイミングを逸してしまい、ただただ追い上げられる結末になった。完璧なルートミスである。灌木は細いし、岩の隙間に根っこが張り付いているだけなので、絶対の信頼はおけない。朽ち木をひっつかめば悲惨。
眼下の山日和氏と再会を約束して慎重に高度を上げていく。うまい具合にトラバースできるバンドに届いて窮地を脱する。
山日和氏とランデブーして高度を上げる。水を出て岡に上がると甲羅の干された亀となる。滴る汗・汗・汗・・・「滝の汗」なのか「汗の滝」なのかという極限状況に追い込まれた。そうこうするうち、緑の風の通る小台地のコバに飛び出した。
- エメラルドの釜
熱中症ぎりぎりである。二人、へたり込むようにしてザックを降ろす。水をがぶ飲みして息を吹き返す。この日、熱中症で搬送されたのは1229人だったそうだ。我々は危うく1230番目と1231番目の搬送者になるところだった。
鎌尾根を目指すが、これまた、ド暑い。日陰を選ぶが、笹丈が煩わしくなってくる。かと言ってザレ地の縁を歩くと真夏のぎらつく陽光にあぶられる。
稜線に出ると水沢岳や雨乞岳、御在所岳の展望に祝福された。食事中の三人組の登山者と会話を交わす。
鎌ヶ岳の猛々しい南西面を直近で眺めるビューポイントにへたり込んでランチタイム。ほっと一息である。放心状態。私の足の下を何か長い物がすり抜けていく。ぎょっとして見るとマムシである。見なかったことにしよう。心を無にした私に、蛇は敵対心を抱かずにすり抜けた・・・ということか。
- 鎌ヶ岳
当初の下山ルート候補はジャリガ谷かジャリナカ尾根(空中回廊)だった。だが、この気象条件では、尾根歩きやジャリ下部の林道歩きこそ、狂気の沙汰だろう。
そこで、カズラ谷登山道を少し辿り、カズラ谷が寄り添ってくれるのを待った。時宜を見て谷筋にドロップイン。絶妙の降下作戦と言える。細流が太くなるのを待つ・待つ・待つ・・・
そんな我らを沢ガニが斜に構えながら迎える。丁寧に岩壁を下ると10mの支流を合わせる。脳天からシャワーを浴びて蘇生する。水溜まりにはヒダサンショウウオの幼生が三匹。招かれざる客との共生を許してくれる自然の懐の深さに感謝。
S字のスラブ滝をフリーで下る頃には岩質が水性岩の黒に変化する。可能な限り水芯を下って連瀑のシャワーを堪能する。それでも足りず、ヘルメットに水を汲んで頭からひっかぶる。
- 三条10m
下降不能な滝はやむなく懸垂で解決するが、ロープ長にはくれぐれも注意したい。我々は途中の岩棚に救われた。下って見上げれば、黒ずんだスラブの三条直瀑だ。
そうこうするうち、三俣。沢を始めた頃はパートナーと、或いは単独で、このカズラ谷エリアを心ゆくまで探索したつもりだった。なのに、意外に記憶にないのは不徳の致すところである。
10m階段状、4~5mの連瀑帯、とうまい具合に下降を続ける。それでも、山日和氏が楽勝でクライムダウンした滝がうまく下れなかったりする。彼はわざわざクライムアップして、私に手足の置き場所を手ほどきしてくれる。彼が恋の手ほどきに明るいのも妙に納得する。
- カズラ谷10m滝
やがて崩壊した造林小屋を経て堰堤を越えると、登山道に合流である。名残を惜しんで本日、何度目からの沐浴である。首まで釜に沈んで沈思黙考。おかげで熱中症搬送者リストに載らずに済んだのかも。
茶畑の中をゆるゆる蛇行する県道を車で辿りながら、一日の充実を反芻する。
ふ~さん