竪穴と沢を巡って・・鈴北岳周辺捜索
平成24年(2012年)3月11日(日)
【鈴鹿】鈴北岳周辺
捜索ポイント・・・①竪穴1――竪穴2
②鞍掛尾根北東斜面の沢周辺
メンバー・・・りゅうさん、つうさん、とっちゃん(都津茶女)
お天気・・・晴れのち小雪
朝、テレビから聞こえてくる声に、雪山テント泊の準備をしている私の手が、ぱたっと止まった。「明日は、3.11震災から1年になる・・・・。」
1年前の震災でも、いまだ沢山の方々が行方不明のままである。そして、家族の方々は、身内や友人が見つかることを願い、今も継続した捜索が行われている。
同じ捜索でも、今回の雪山での遭難とは、全くちがうことなのに、放送を聞いたとたん、私の心の中では、一つに繋がってしまったのだ。
会のテント山行に、山スキーで参加予定だったが、中止となった。山仲間たちから、一回くらい、ゆっくりリフレッシュした方がいいよと言ってくださり、その心使いがありがたく、ちょうど同じ日に計画されていたS会のテント泊に参加させていただくことにしたのだが。
気持ちは、完全に切り替わってしまった。何か一つでもお役に立てば幸いと、今週も捜索に参加させてもらうことにした。
K隊長は、カタクリ峠から白瀬峠までの間の、枝沢を一つづつ、丹念に見てつぶしていく予定とのことである。自分が気になっている鞍掛峠~鈴北間の尾根の滋賀県側とは、地域が全くちがう。さて、私はどうしよう。
くしくも、つうさん、りゅうさんが、鞍掛峠~間の1056P間の尾根の三重県側が気になっているとのこと。また、竪穴の中の捜索もしたいとのことであった。
時間に余裕があれば、もしくは、ルートしだいでは、滋賀県側も少しは歩けるかもしれないとの思いも少しはあり、久々のメンバーとの同行を希望した。
お二人は、あくまでも個人山行のスタンスなので、今回は、私も同じスタンスで参加することにした。
集合場所の、藤原パーキングには、30分以上早く着いてしまいそうだったので、とりあえず、大貝戸休憩所に集合している、K隊長と本部の方に挨拶だけはしてこよう。それに、昨日までの捜索の状況も、できれば知っておいた方がいい。
気になっていた、尾根の滋賀県側一帯は、昨日、捜索に参加された方々によって捜索がすでに終わっているようだ。では、落ち着いて、今日のルートに集中しよう。
今日は、別行動になる、K隊長、uttiyさん、RINちゃん、とおるさん、くまちゃん、それに長い間ご無沙汰しているじんじんさんにも出会えた。
どなたかと思えば、pikkoroさんに、ケルトさん、ご無沙汰です。それに、グーさんの姿もあるではないか。といったところで、知り合いオンパレードである。本部で情報を聞いて、Pikkoroさんケルトさんチームは、グーさんのお誘いで一緒に行動するそうでだ。
こちらの集合時間が近づき、本部の名簿には記載せず、説明の途中で失礼して、藤原パーキングに向かう。準備をしながら待っていると、りゅうさん、つうさんが現われた。12月の鬼が牙以来3ケ月ぶりに、よじよじ仲間が三人揃って、今日は、二点に絞っての捜索である。
鞍掛峠前駐車場に着くと、りゅうさんのお知り合いであり、前回捜索チームでご一緒したKさんのグループ、Nさんのご家族、Nさんの奥様を鈴北岳まで案内するという方々などが、すでに到着されていた。
それぞれに、目的の場所に散っていく。Nさんのご家族は、捜索の人が多く入るこのあたりで、ここで無線機を持って、車の中で待機しておられるようである。
<竪穴捜索>
登りやすそうな尾根の末端から取り付き、左の側の支沢に振りながら登っていく。なかなかの急傾斜となっていくが、りゅうさんは、大きく沢側にふって丹念にしっかりとした捜索目線で周囲を見ながら登っていく。つうさん、私も、少し距離をとりながら、注意深く登っていく。
平坦な場所に出て、ちょっと休憩。自分がいっぱいいっぱいでは、捜索は出来ないと言う、りゅうさんの意見が、ちょっと心に響く。そういう日もあったなと。
思った以上に、雪が解けているので、斜面の土は、ずるずる滑るが、積もった雪の下の竪穴を踏み抜く心配は少なくなって、ありがたい。しかし、私達の知らない竪穴が潜んでいることだって考えられるので、捜索の目と竪穴注意の二つの目で周囲を見ながら、登っていく。
小尾根を越えると、広がりを見せた斜面は、なかなか気持ちのいい場所である。一つ目の竪穴は、あのあたりではないかと地図を見て進む。
サワグルミだろうかすくっと立った木の写真を撮ろうとしていると、感を働かせながら先に進んでいるりゅうさんから、「あったよ。」の声がした。いち早く見つかったようである。この竪穴は、ハリマオさんによれば、その前にマンテマさんが見つけていたようだ。
まだらに雪が残っているは、竪穴の周囲の雪はほとんど解けてしまっている。二人が、ロープやハーネスなどの準備をしている間、竪穴の周辺の様子を写真に納めた。「つうさんから、記録係りお願いね。」の声。「はい了解。」
手際よい段取りの、りゅうさんのザイル確保で、先ずは、言い出しっぺの、つうさんが、竪穴を覗きに行く。竪穴1(つうさん名下竜の穴・ハリマオさん名クワバラの穴)は、雪が積もっている時は、上部は雪庇のようになっていた可能性があり、いきなり落ちるような感じがする。踏み抜けば、竪穴に落ちる。周囲はすり鉢状に広がってはいるが、かといって、穴の中まで転落してしまうかといえば、穴の入り口は、止まるのかどうか微妙な大きさである。
中に入れればとの思いがあったらしいが、ここは、入るには狭いと判断。ザイルを着けたまま、穴の上部に下りそこから見るだけにすることになった。つうさんが、竪穴にライトを照らして、見るが人の落下した気配は見受けられないようだ。雪ガ解けて今は露出している周囲の岩や苔の損傷もなさそうである。しかし、雪が積もっていた時であれば、ここがどのような状態であったのかは、わからない。
竪穴は苦手だという、りゅうさんも、ハーネスを付けて、同じく竪穴は苦手な私も、中まで入って下るの分けではないので、念のため覗きに行くことになった。ここは、雪がある無しに関わらず、登っていく分には良いが、上から下ってくる場合、危険である。
次に、竪穴2(つうさん名上竜の穴・ハリマオさん名小竜の穴)に向かって登っていく。まだらに残っていた雪が、だんだん一面の残雪になる。周囲は、豊かな広がりを見せ、この辺りもなかなかいい雰囲気に包まれる。しかし、この周辺に、他にも知らない竪穴があるかもしれないと思うと、雪を踏み抜く度に、ドキッとした。
竪穴2は、今は亡き御池杣人さんから、ハリマオさんが聞いた穴だという。竪穴2に近づく。今度は、つうさんから「ここだよ。」の声。尾根を大きく振って捜索目線で歩いていた、りゅうさんも到着で、二人で、どこから降りるかの検討が始まっている。
私は、少し離れた所から、まずは、周辺の写真を写す。ここは、竪穴1よりも穴は広く、深い。一度、この竪穴に入ったことのある、つうさんは、中まで入って捜索する気持ち満々であったが、如何せん、入り口近くに、硬い雪のブロックや折れて飛んできた落ち葉や枝がある。
周囲の雪が緩んでいる時期でもあり、岩も場合によっては緩んでいるかもしれない。入ったはいいが、上部から、それらの一つが落ちてきたらと思うと、二重遭難は絶対してはならないことから、今回は、上部からの観察のみにとどめておくことで意見が一致した。
入り口左右の立ち木を、支点にしてりゅうさんがザイルをセットし、先ずは、つうさんが覗きに行く。上部の雪の塊は、まだしっかりとしており、その位置からライトで覗く。
中段あたりにも、雪があり、その先は岩盤らしきものが見えた。そのあたりが中段で、もっと下まで竪穴は延びている。ここでも、三人交代しながら、穴の上部に降り、中の状況や、周囲の状況を、確認する。
この竪穴の上部は雪の斜面となっていて、上から下っている時、もしも転倒したら、ピッケルですぐ停止しない限り確実に、そのまま、スーット滑って穴に落ちる。滑落状態になると厳しい条件だ。
しかし、雪の多い時期は入り口にも雪が積もっている可能性が高い。が、雪の下の空洞に落ち込む可能性もある。今の雪の状態と、3月11日時点での雪の状態とでは全くちがうため、なかなか適切な予測はつきにくかった。
次は、りゅうさん、その次は私と、三人の目で覗くが、ここも、見える範囲内では、人の形跡はなかった。
ここは、以前ケービングの方たちが調査にこられた場所でもある。
石灰岩の多い地形が生み出す、ドリーネや竪穴。御池岳は、美しく魅力的である反面、もう一方では、バリエーションを歩く場合には、注意を喚起しなければならない場所でもある。
もうすこし登って、ランチとした。
ここから御池岳を見上げると、風が強いのだろうか、今日も霧氷がついている。無線からは、Nさんの奥様を案内している方から、鈴北の頂上に着かれたとの声が聞こえてきた。今日は、いいお天気で、頂上の景色が見られたようだ。
今日は、装備が重いと、三人ともガスコンロを持っていなかった。
それと分かっていたら、持ってきたのだが、後の祭り。昨夜から入れておいたポットは、ぬるま湯になっているが、カップラーメンに注ぐ。十分にはほぐれないラーメンはちょっと味気ない。
しょうが湯をふるまってくれるという、つうさんにも、とんだ落とし穴が・・。ポットの中は、悲しくも冷めた水になっていたのだ。ひたすら恐縮の、つうさんであった。
<②鞍掛尾根北東斜面の支沢周辺>
1058Pから、りゅうさんが気になっているという支沢を下って捜索することになった。ピークからはタテ谷に向かって広い尾根が派生している。その尾根と鞍掛尾根の間にある支沢への転落はないか確認することになった。この周辺の尾根については、1ルートは、捜索で入られているが、斜面のほとんど捜索が入っておらず、りゅうさん、つうさんはかなり気になっているようだ。
今日の雪質と装備でできる滑落停止の姿勢をりゅうさんに伝授してもらう。ピッケルでの滑落停止姿勢についても復習をする。瞬時にできるように普段の練習が必要だが、なかなかそれが出来ていない。
右に沢を見ながら急な斜面を、りゅうさん先頭で下って行く。捜索であるので、後ろをつかず、三人できるだけ広がって下るようにする。無線は捜索本部と同じ周波数に合わせてあるが、個人山行ということで、発信は控えていた。
自宅に帰ってから、パソコンメールを読んでいたら、K隊長から前夜に、無線で情報交換しようとのメールが入っていたのだが、その時は、知らず、コールをしていてくれたことに気がついていなかった。どうも、竪穴2で、捜索をしていた時あたりに呼んでいてくれたようである。
斜面の下部をトラバースしながら、沢への滑落がないか、また、斜面の途中に何か痕跡がないか、立ち止まっては確認しながら、下っていった。
途中、無線から、なにかがあったらしく、交信が入った。本部に立ち寄る途中、思いがけないことの状況が分かったが、後日、新聞の記事をK隊長が送ってくれた。
下部では、沢から離れ、峠に近い方向にトラバース。この辺りは国道に近いのではあるが、なかなかいい雰囲気の場所もある。今日歩いた一帯は、かつてスキー場とされる計画もあったようである。そうならず鈴北・御池が無傷で残ったことに感謝する。
鞍掛峠近くの崩壊地の法面工事の頃の工事道らしき所に着地し、峠に戻ると、Nさんのご両親が、車から降りてこられ、少しお話をした。今日も、残念であった。
本部に立ち寄り、りゅうさん、つうさんが竪穴の危険について話をする。ハリマオさんからも、竪穴があることを聞いているとのことであった。今後いなべ市担当の方で何らかの対処をしてくださることを願った。
今日の捜索ルートについては、つうさんからのログを、私から本部遭対事務局に後日送ることにして、つうさんと解散した。りゅうさんは、Kさんが戻ってこられるのを待ち、私は、K隊長グループが戻ってくるのを待って、それぞれ、今日の状況の話や今後の可能性のことを話して解散した。
捜索に関わっても、人それぞれ色んな考え方や、関わり方がある。でも、そこからプラスとなることが生まれることを願う。
私自身は、捜索に関わらせてもらうことになって、そこに集まる善意の輪に入れていただき、人の心の素晴らしさに触れることができたことを、とてもありがたく感じている。こういう形で山に関わることもまた清々しいものであり、自分自身の心も洗われていくような気持ちになる。
大震災でボランティアに関わられた方々が、かえって自分自身が勇気づけられたり、学ばせてもらったりと、来てよかったとおしゃる気持ちに、どこか似ているのかもしれない。
楽しみとしての山では、山の自然に癒されたり、充実感を得たりするが、こういう形でたまたま毎週山と関わらせていただき、人の心に癒されるということを実感した四週間であった。
山から戻って来て、今日もまた、捜索者にコーヒー等を出してくださっていたNさんの奥様は、今日は、案内の方と鈴北岳だけでなく丸山までピストンされたとのこと。あったかい日差しが雲に隠されると急に寒くなったと、茫々と広がる御池岳の様子を話してくださった。
藤原岳に先週案内してもらって登り、今週は、鈴北から御池丸山と、Nさんが辿った山々に登られた奥様。山との出会いがこんなにも、とんでもない形でやってきたが、山を好きになってくださるといいなぁと願いながら、本部を辞した。
☆~とっちゃん(都津茶女)~☆