【日 付】2023年3月30日(木)
【山 域】白山前衛 口三方岳周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】単独
【コース】P11:00 ~口三方岳登山口11:11/17~標高564m北東 12:28/48~口三方登山口 13:14/15~P 13:27
*** 嵐の前の静けさ ***
早朝の白山セイモアスキー場。融雪が進み、今シーズンの営業が終了したのが3月14日。この時期、この時間帯、人影はまったく見当たらない。管理道路を使って車をセンターロッジまで上げる。ここが駐車予定地だった。
進行方向をさぐる。除雪が進んで舗装面が見えている。「どこまで車を上げるかで登頂の成否が決まりそう」という、いじましい考えが浮かんだ。これが命取りだった。
ほどなく、車はアイスバーンに突っ込む。操縦不能に陥った。雪壁に囲まれた道路は車幅ぎりぎり。何とか抜けださないと。赤ん坊に触れるように車を操作する。そろりバックする。いきなりズルっときた。慌ててフットブレーキとパーキングブレーキを踏み込む。
ところが、車は思わぬ方向に滑り出す。わーっ!雪壁に接触寸前!!前進を試みながら体勢を立て直す。だが、前にも後ろにも思うように進めない。打つ手がなく、車外に出る。いきなり、ツルッときた。 まるでスケートリンクのアイスの上だ。
チェーンスパイクを履いて、荷室にある非常用のバスタオルを敷き詰める。しかし、タイヤは空転する。バスタオルが「あ~れ~」と後ろに蹴散らされた。トラクション・コントロールのオン・オフを繰り返すが状況は変わらない。
わらにもすがる思いで、サーモスの熱湯を2本注いだが、焼け石にお湯だった(意味不明)。
ついに車の左が雪の側壁に突っ込んだ。ヤバっ!雪壁はコンクリートの硬さ。恐る恐る車外に出てみると、助手席ドアが後部スライドドアより1~2cm凹んでいる。あ~、やっちまった!
*** 加賀の国から神の使い ***
万策尽きた。スマホは3G。JAFのアプリを開く。ところが、アプリ上ではつながらない。やむなく電話に切り替えてコールする。窓口担当が出た!現状と現在地、さらに緯度経度の座標も伝える。金沢から急行してくれるそうだ。感謝!
到着予定は1時間後。ここは、もともと静かなんだけど、気持ち的に嵐が過ぎ去ったように静かになった。ふーっと息を吐き、シートをリクライニングする。目を閉じ、時間が過ぎるのを待つ。
しばらくして、レスキューの〇〇〇さんから「現場に急行しています」の連絡が入った。さらに待つ。再度、着信。スキー場の駐車場に着いたようだ。詳細な位置を問われ「スキー場の管理道路を上がって下さい」と伝える。ところが、いくら待っても現れない。
再びの着信。迷子になってるんだ。改めて現在地を詳しく説明する。が、いくつか問題点があった。一つは、担当の方は東西南北が苦手らしかった。ましてや緯度経度など。さらに、スマホの地理院地図を共有するのも未経験だった。互いの位置を共有する手段は他にもある。けれど、二人ともがそれを日常使いしていない状況では、かなり無理があった。
彼は、自分の現在地を口頭で説明する。でも、私がスキー場の駐車場を通過したのは、まだ暗い時間帯だった。彼の描写と、私の脳内記憶とが一致しない。『スノーシェッド・時計台・インフォメーションセンター・トイレ・温泉宿「清流」のマイクロバス・オンソリ谷・おぼく水』・・・様々なキーワードが飛び交うが、すべて不調に終わる。
*** 救出劇 ***
次の作戦に出る。ID検索を元にLINE交換。登山アプリに表示された現在地をスクショして送ろうとした。
すると、彼から逆提案があった。LINEのビデオ通話のインカメラを使って、現在地を私に配信しながら車を進めるというのだ。そこで、私は彼の撮影動画を確認しながら誘導していく。
スマホのディスプレーにセンターロッジが写し出された時のうれしさ!そして、遠くからレッカーのエンジン音が聞こえてきた時の安心感。
ようやく、彼の車が後方に姿を現した。〇〇〇さんが降りてた。互いにあいさつ。
さてと、車のすれ違いは不可能。救出は手作業だ。塩カルを撒き始める。パチパチ言いながら、ゆっくり氷が溶け始める。だが、塩カルもがっぷりあるわけではない。
続いて堅い雪壁をバールで突き崩していく。最後は、私が運転席に座り、彼の誘導で慎重に車を後退させる。方向転換するスペースは一切ないため、ぴりぴりする後退となった。その距離、660mほどだったが、うち550mほどは各所にアイスバーンが絡み、油断できない。
無事にセンターロッジに届いた時には、思わず神に感謝した。
*** カタクリと温泉 ***
彼が立ち去った後は、しばし呆然だった。この日の計画は崩れた。しばし、ふて寝。予定していた山はお預けだ。
気持ちを整えて、計画を変更して口三方岳登山口へと向かった。登山口に続く道路は落石と残雪があり、途中で車を置く。折りしも、白山市の職員が登山者用ポストを設置していた。4月1日が山開きか。警察・消防からの問い合わせもあるので、登山者数の実態を把握する必要があるらしい。
登山口からいきなりのカタクリ街道。キクザキイチゲ、コブシ、スミレ、イワウチワ、アブラチャン・・・花を愛でながら、のんびり散歩。最初の植林帯を抜けて残雪に乗った。樹間ながら、烏帽子山、荒倉峰、松尾山、奥三方山、奈良岳方面の展望に囲まれた。
ここで引き返す。千丈温泉「清流」に入るつもりだった。が、よりによってメンテナンスの臨時休業。車を流していたら、サウナ白山(ペンシオーネ・セイモア)が目に入った。
浴場の窓から中三方岳が見える。張り詰めていた気持ちがほどけていく。
ふ~さん