【 日 付 】2023年2月11日(土)
【 山 域 】伊吹山地
【メンバー】山猫、家内、Nさん、yukkyさん、nahoさん
【 天 候 】晴れのち曇り
【 ルート 】向山谷林道入口7:48〜10:10鳥越山10:12〜10:48鳥越峠11:00〜11:31大朝ノ頭11:33坂内村登山道合流地点11:39小朝の頭北方コル12:32金糞岳12:51〜13:02ca.1250m(ランチ)14:02=14:53鳥越峠14:59〜16:00p1057〜17:13林道入口
この週末、yukkyさんから金糞岳へのご提案をいただく。積雪期の金糞岳への一般的なルートは高山からの周回ルートが一般的だが、このルートは全体で18kmを越えることになる。初めて金糞岳に登ったのは5年前、残雪期のこと、このルートを家内と共に7時間半で周回してはいるが、この時は長時間の山行を見越して朝6時に高山キャンプ場を出発している。一般的には9時間前後を要することが多いようだが、それも雪がある程度、締まっていることが前提だ。
カナ山から鳥越山を経て新穂峠に至るまでNさん達と共に江美国境稜線を縦走したのはブナの紅葉の美しい一昨年の秋であったが、以来、積雪期のブナ林を再び歩いてみたいと思っていた。甲津原から鳥越峠を越えて金糞岳に向かう山行記録は見当たらないが、金糞岳と向山谷の尾根の組み合わせはなんとも魅力的に思える。折しも向山谷左岸尾根を辿るスノー衆が二週間前に開催されたところある。
Yukkyさんに提案させて頂いたところ、二つ返事で快諾を頂く。Nさんもお誘いさせて頂くが、金糞岳は周回ルートが長いからと二の足を踏んでおられたらしいが、金糞岳の山頂までは7kmほどであり、このルートならと同行して下さることになった。このルートは積雪期では金糞岳への最短コースであろう。
前日の金曜日は日がな冷たい雨が降り続いていた。山の上は雪が降っていることを期待して眠りにつく。名神高速を東に向かうと彦根が近づいたところで正面に大きく伊吹山の姿が飛び込んでくるが、この季節にしては驚くほどに雪が少ない。その左手に見える金糞岳は伊吹山より遙かに白いが、伊吹山の様子からすると前日の降雪はなかったようだ。
米原で高速を降りて待ち合わせの伊吹の里に向かうとまず驚いたのは奥伊吹スキー場へ向かう車の多さだ。甲津原まで延々と車の列が続いている。甲津原の集落では向山谷に入る林道の入口まで除雪されており、目指す尾根の取り付きまで難なくアプローチすることが出来る。
尾根の末端には△544.9mの点標がある。点名は向山というらしい。この小さな丘の上には関西電力のものと思われる建物あり、建物に沿ってその裏手の植林に入るとすぐにも雪の上に明瞭なトレースが目に入る。二週間前はラッセルがかなり深かったものと思われるが、トレースの深さはわずか10cmにも満たなくなっていた。
植林はすぐにも終わり、自然林の尾根を緩やかに登ってゆく。前日はこのあたりでも雨だったようだ。新雪は見られないどころか降雨後の水を吸った雪が続く。右手から植林が登ってくるがそれもそう長くは続かない。尾根の東側には随所で展望が広がり、谷を挟んだすぐ反対側には奥伊吹スキー場を擁するブンゲンが大きな山容を広げている。
Ca870mで小さな頭に乗ると、ブンゲンから南に続く稜線の彼方に伊吹山の山頂部が見える。尾根の左手の樹間から金糞岳の光り輝く銀嶺を垣間見ると久しぶりに間近に仰ぐその雪稜に心奪われることになる。尾根上のスノー衆のトレースはこのあたりから次第に不明瞭になる。標高が1000mを超えると途端にブナの純林が広がるようになった。
国境稜線のジャンクション・ピークは梢の高い壮麗なブナに囲まれた広場となっている。雪を纏ったブナに囲まれたこの広場でのランチはブナの宮殿における幻想的な宴となったであろう。スノー衆のテーブルの痕跡はないかと山頂広場の雪の上に目を凝らすが、宴の跡は残念ながら既に跡形なく消えてしまった様だった。
東側の鳥越山のピークにかけて南側に雪庇の発達したたおやかな吊尾根が続いている。鳥越山の山頂に到達すると、さらにその北側の尾根にもブナの回廊の間に広々としたプロムナードが続いていた。無雪期にはリョウブなどの多くの低木が繁茂していたが、雪の下に低木の藪が覆い隠されていることが俄には信じられないほどにブナの樹間に広々とした空間が広がっている。
鳥越山の山頂を後にすると鳥越峠に向かって国境尾根を西に進む。すぐに右手の樹間からいよいよ金糞岳の山容が大きく視界に飛び込んでくる。まずは向山谷の右岸尾根とのジャンクション・ピークとの鞍部にかけて100mほどの急下降となる。
再びピークに向かって登り返すと斜面の上部では樹々が疎になり、背後に奥美濃の山々の大展望が広がった。右手には蕎麦粒山の鋭鋒と能郷白山の大きな山容の間にクリークをかけたような純白の白山が見える。
鳥越峠には大きな石碑がある筈だが完全に雪に埋もれており、その場所を類推することも出来ない。2m近くは積雪があるのだろう。峠からは南西に琵琶湖の展望が大きく広がり、Yさんの歓声が上がる。山上からの琵琶湖の景色を眺める度に思うが、この琵琶湖の眺望は富士山と同様、近江の山の大きな魅力の一つと言えよう。
鳥越峠からは正面に金糞岳を眺めながらしばらくは林道を辿る。カーブミラーはほとんど雪に埋まりそうだ。林道から稜線に上がる夏道はルンゼ状に見えるので、その手前の小ピークに上がる尾根に取り付く。樹木のない雪稜の尾根は急登ではあったがわずかな登りで無難に稜線に乗ることが出来る。
小さなコルを越えるとしばらくはブナ林の急登となる。急登を登りきったあたりで上から降りて来られる男性がおられる。高山を6時に出発されたらしい。下山はカナ山を経由されるとのこと。内心では下山で辿る尾根にトレースが刻まれることを少し残念に思うが、男性には「その尾根はブナ林が続くのでいいと思います」と返答する。少し上に登るとヒップソリの跡が斜面に刻まれている。先ほどの男性のもののようだ。
以前に金糞岳を周回してこの稜線を下降した時には壮麗なブナの樹林がすぐに終わって物足りなく感じたものだったが、この日は既に散々、ブナの樹林を歩いてきたせいもあろうか、ブナの樹林の彼方に伸びてゆく白銀の稜線が目に入るとその高揚感に胸を躍らせるのだった。やがて樹林を抜けて稜線に乗ると琵琶湖に向かって伸びてゆく尾根の展望に期待以上の爽快感を感じるのだった。
稜線では少し冷たい風が感じられるようになる。後ろから登って来られた単独行のワカンの男性が我々を追い抜いていった。山頂ではさらに冷たい風が吹いていることが予想されるので、山頂での稜線の樹の脇にリュックをデポして空身で山頂を往復することにする。あとは山頂までは僅かな登りだ。彼方の白山から視線を右に移すと御嶽、乗鞍の左に朧げに見える白い山塊は槍穂高だろう。
山頂に到着すると北西斜面の樹々には僅かに霧氷がついていた。やはり山頂を吹き抜ける風は冷たい。とはいえ一昨年に北尾根からこの山頂を訪れた時には立っているのも辛いほどの暴風が吹いていたが、その時に比べればこの日は快晴微風といえよう。その北尾根には真新しいトレースが刻まれていた。北尾根の先には土蔵岳とオオダワ、その向こうには烏帽子岳、黒壁、三周ヶ岳といった奥美濃の山々が白い峰が連ねている。
一面の雪原が広がるこの山頂が無雪期は低木の藪が繁茂しており、眺望もほとんど得られないとは俄には信じ難いところだろう。この金糞岳のスケールと爽快感を堪能するのはやはりこの積雪期に限る。この金糞岳からは南湖に至るまで琵琶湖を見渡すことが出来るので、いつになく琵琶湖のスケールが大きく感じられる。折しも太陽の位置の加減で蒼い湖水が東側のみが眩い反射を放っていた。その左手では伊吹山、霊仙山、御池岳が見える。霊仙山も山頂部以外は黒々としており、今年も相当に雪が少なさそうだ。
右手に広がる純白の白倉岳に向かって先ほどの男性が登り返しているのが目に入る。この日は絶好の好天が期待できるので、高山からは少なくとも数組は登山者が登っていることかと思ったが、意外なことに他には白倉岳の稜線を歩いているのは誰もいないようだった。山頂からの好展望を堪能し、再び尾根を引き返す。先ほどリュックをデポした地点から僅かに下がると急に風も感じられなくなる。
尾根から右手の緩斜面に下降し、正面に琵琶湖を眺めながらランチ・タイムにする。この日は前回の江美国境稜線の山行の時にも作らせていただいた鴨肉のリゾットを料理する。珍しくハナビラタケが手に入ったので舞茸の代わりにする。ハナビラタケの食感はパスタやリゾットには抜群だ。yukkyさんとnahoさんは二人ともガスコンロを持参されており、yukkyさんは宍粟米のお餅を焼き、nahoさんは小豆のあんこを温めてぜんざいを作って下さる。
風もなく照りつける陽射しが暑く感じられるほどであった。ランチの時間が短く感じられたが1時間があっという間に過ぎてしまったらしい。腹が満たされたところでいよいよ下山の途につく。yukkyさんとnahoさんが中々来られないと思いきや、どうやらお二人はヒップそりを堪能されていたようだ。
林道にはルンゼ状の夏道を下降する。新雪が積もっていたら表層雪崩が怖いところだと思うが、この日の湿った雪質ならその心配はまずないだろう。鳥越峠まで再び林道を戻ると、登り返して向山谷の右岸尾根に入る。広々とした尾根上にはやはり先ほどすれ違った男性のスノーシューのトレースが続いている。尾根を下るとおそらくは先週のものと思われる数組のスノーシューの跡もあるようだ。
Ca1080mのジャンクションからは波打つように小さなピークがいくつも連なるが、高低差は50mもない。尾根上には若木ではあるがブナの回廊が延々と続くのが嬉しい。先ほどまで蒼空が広がっていら空には高曇りの雲が広がり始めたかと思うと、急速に乳液を溶かしたかのような白い空が広がった。下降点となるピークp1057はとりわけ好展望が広がる。その北斜面からは金糞岳から延々と辿ってきた尾根が一望のもとであり、東側には午前中に辿った甲津原から鳥越山にかけて一直線に登ってゆく尾根の全容を眺めることができる。
ここからはいよいよ甲津原にかけての急下降の尾根に入る。最初は自然林の蘇林の尾根を下降してゆくが、ca850mから左手に分岐する杉の植林まじりの支尾根に入るとしばらくの間、かなりの激下りとなる。先日のスノー衆では山日和導師の当初の予定ではこの尾根を下降する予定だったそうだが、この下降は間違いなく「アトラクション」になったことだろう。下降の厳しさに後ろを振り返るが皆さんは順調に降ってこられる。
Cs750mのあたりでようやく尾根の傾斜が緩くなったと思い、尾根をそのまま直進したのは間違いであった。地図では尾根の形が不明瞭であるが、右手に伸びる尾根に入る必要があるのだった。少し登り返してp689を経る予定の尾根に入るとあとは緩やかに尾根となる。
林道が近づいたところで集落のあたりから17時を知らせる「赤とんぼ」の唄が大音量で流れてきた。しばらく前は17時だとかなり薄暗かったが、日が長くなったものだと思う。林道に着地すると向山谷にかかる橋を渡って出発地に戻ろことが出来る。
皆さんとお別れして甲津原から県道に入ると奥伊吹スキー場からの車が朝以上に延々と連なっている。米原のICに向かうと急速に夜の帷が降りてくる。麗しきブナ林と白銀の稜線の余韻に浸りながら、京都に向かうのだった。