【山域】台高南部・花抜峠周辺
【山行日】2022年11月12日(土)
【天候】晴れのち曇り
【メンバー】タイラ、アオバ*ト
【コース】花抜峠登山口7:30〜小木森滝〜871〜1153〜真砂鬼丸谷上流右俣〜苔辻~花抜峠〜土倉古道〜登山口16:45
昨年の5月、大台ケ原からシュークリームさんお気に入りのテント場を使って、稜線伝いに嘉茂助谷の頭に行った。
往古川の河口からどこまでも広がる海の眺めは、言葉にできないくらいすばらしかった。
眼下に広がる往古川源流の自然林の森も美しくて、今にも下って降りて行きたくなった。
今度はきっと、海側から登って来ようと思った。
しかしながら、家から登山口までの距離、一度も走ったことのない長くダートな大台林道、崩れかけの土倉古道、等々、
不安材料がいっぱいで、なかなか実行に移せなかった。
昨年暮れ、わりばしさんのレポを読んで、矢も盾もたまらないほど行きたくなったが、今年春のチャンスを逃してしまった。
6月にグーさんがテント背負って行ってログも張っていてくれていたけど、さすがに夏はマネできなかった。
そんなことで、保留箱の中に入ったまま、忘れてしまいそうになっていたところ、お天気が安定してきた11月の週末、
タイラさんが行ってみない?と言ってきた。
グーさんのレポをもう一回読んで、わりばしさんのレポももう一回探し出して、
ずっと前のzippさんのすごく印象に残っていたレポも、ここのことだったんだと分かって、
シュークリームさんが滝を見に行った時のレポも見つけて、これだけ読んだら大丈夫だろうと思って行ってみることにした。
実際には、行ってみないことには、レポに書かれた細かなことは何一つ頭に入って来なくて、
壁にぶち当たってから、何でここのことをもっと詳しく読んでこなかったのかと後悔すること色々あった。
まずは、全然知らないエリア、基本ルートを歩いてみた。
土倉古道を辿って花抜峠から嘉茂助谷の頭ヘ登って、帰りは稜線を伝って千尋峠トンネルヘ戻るっていう基本ルート。(11月5日のこと)
いきなり間違って千尋峠に向う木馬道を進んでしまったり、帰り花抜山からの激下りに絶叫するハメになったり、
極めつけはトンネルのどっちに降りたらいいのか右往左往することになったり、やっぱり行ってみなくちゃわからないこと色々あった。
それで次はいよいよ、グーさんの辿った足跡を大ざっぱに頭に入れて、小木森滝を見に行って、源流の桃源郷を探しに行ってみようと思った。
小木森滝の落口から871への登り、さらに1153への登り、尾根を登るのが嫌いな私には、そこがいちばんの難所に思えて、
難儀なことに足突っ込んじゃったなぁという気も多少しないでもなかった。
小木森滝が見え始めた時、ありふれた書き方しかできないけれど、何だか自分の足が地面に着いているのが信じられなかった。
先に着いた平さんが、「虹が掛かっているよ!」と叫んでいた。
わりばしさんのレポに、虹が掛かっていると書いてあったけれど、自分も虹が見られるなんて思いもしなかったので、
今目の前にこんなにすごい光景があることがにわかに信じられなかった。
滝の中ほどに掛かった虹からは虹色の飛沫がきらめきながら舞っていた。
テラスに立って滝口から落ちてくる白い飛沫を見上げると頭がクラクラした。
すぐ近くに有るという窯跡を探し出せなかったことが心残りだったが、幸せな気持に満ちて、滝口ヘ上がった。
対岸ヘ飛び石で渡って末端から871への尾根に取り付いた。
末端はヤブっぽかったけれど、少しくぐり抜けると下生えのないスッキリした尾根になった。
あぁ良かった。でもきっとほとんど人の歩かない尾根、ひたすらまっすぐ上がるしかなくてしんどかった。
871のてっぺんに上がるまでに1153に向けてトラバースしようと思っていたが、気がついたらてっぺんまで登ってしまっていた。
展望もなく雑然としたとこだった。1153ヘの鞍部あたりで一息ついた。
これから向う稜線の空は、いつの間にか暗い雲が垂れこめていて憂鬱になった。
1153へも結構な急登で、もう11月なのに汗びっしょりになった。樹林はヒメシャラがたくさん目について、ブナもあった。
嘉茂助谷の頭の南峰から眺めた気持ちよさそうな自然林の森の中で、
こんなにも汗びっしょりになって疲労困憊するなんて、何だか笑えて来た。
1153からはとりあえずは尾根通しに進んで、おにぎりみたいに膨らんだ尾根に沢がゆるく上がってくるあたりをトラバースして、
(ここには道型がありました。私でも考えること、動物や昔の人はとっくに考えてた。)いちばんのゆるいところで八町滝上流の右俣に降りた。
落ちついた雰囲気のすてきな場所だった。
源流の桃源郷というのは左俣にあるらしく、
可能ならば、沢沿いに廻り込んで左俣の桃源郷を経て苔辻に上がりたかった。
少し下るとすぐに二股だったが、両側が立って狭くなり簡単には降りられなくなった。
タイラさんが先の様子を見に行ったが左俣の入口にも滝が掛かっているようだった。
わりばしさんが、昔の仕事のひとはこんなきびしいところを越えたりしない、杣道があるはずと書いておられたことを思い出した。
グーさんはどんなふうに越えたのだろう。右岸を目で追うが、楽に登れそうなラインはすぐに見つけられなかった。
探しているうちに時間が経つ。時間があれば尾根を乗り越えることもできるだろうが、左俣に降りる直前にまた難儀するかもしれない。
それにたぶん右俣を辿るより左俣のほうが上部が急なので時間がかかるような気がしていた。
それともう一つ、このとき決定的な勘違いしていて、右俣を遡って古道に合流して稜線と出合ったところが苔辻と思ってしまった。
桃源郷には行けなくても、緩い右俣を辿れば苔辻に出合う。なぜか、そんな思い込みもあって右俣を辿ることにした。
右俣を辿ると、すぐにすごい石積みが現れて驚いた。あっ!これ、わりばしさんとグーさんの写真で見たやつ。こんなところにあったのか。
まだ見ぬ左俣の風景に憧れつつも、右俣の風景にも心を動かされた。谷はカーブして少しずつ違う風景を映し出した。
やがてかすかな古道と出合い、もうすぐ苔辻だと思うと気持ちがはやるのだった。
どんなふうに苔辻と出合うのだろう。左手に苔辻が見えてきたけれど、なんか違ってた。
ここって苔辻じゃないような。それともわたしが苔辻と思ってたところが苔辻じゃなかったのか。
腰掛けてスープを入れて、おにぎりをかじる。「ここやっぱり苔辻じゃない。」
お昼も早々に切り上げて、本当の苔辻に向う。10分ほど歩くと美しい苔の原っぱが目の前に広がった。
海は曇って見えなかった。振り返ってみた。しばらく雲に覆われて見えなかった双耳峰の嘉茂助谷の頭が、
雲が風に流れて一瞬だけ姿を表した。
苔辻から東へ下って見る。もう一つの見たかった風景が広がっていた。
左俣を上がってきてこの風景を見たかったのにな、と思った。
すごくすごく悔しかったけれど、平静を装うことにする。
また来ればいいじゃん。
まだまだ一度で見つけられなかったものが残っているし、また来ればいいじゃん、と心の中で繰り返しつつ、
黙々と古道を下った。
アオバ*ト