【 日 付 】2021年12月5日(日曜日)
【 山 域 】鈴鹿
【メンバー】山猫、家内
【 天 候 】晴れのち曇り
【 ルート 】あしたに橋8:02〜9:45オンバノフトコロ〜10:45綿向山10:49〜11:23祝ヶ岳〜11:54大峠11:59〜13:09清水頭13:14〜13:45南雨乞岳13:48〜14:03雨乞岳14:08〜14:29杉峠〜15:17ツルベ谷出合〜16:07岩ケ谷林道起点〜16:32あしたに橋
話は四年前の冬に遡る。寒波の後の晴天の日とあって当時小学五年生の次男を伴って訪れた綿向山の表参道は大勢の人で賑わっていたが、竜王山への尾根に入ると途端に出会う人もなく静寂が漂う。オンバノフトコロのピークでようやく先行する男性三人、女性一人のパーティーに追いつく。
その後、パーティーとは山行のスピードがほぼ同じなのか下山路は前後してご一緒に歩くことになる。尾根の送電線鉄塔の好展望地でパーティーの若い男性二人の会話が聞こえてくる。「ここから甲津畑に降りるルートがあるそうです。」「このルートを使うと綿向山から雨乞岳に周回出来る訳ですね。」
パーテイーとはその後もほぼ同じ速度で歩くことになり、林道に出たところでお別れする。リーダー格と思しき年配の男性が腰からぶら下げているアライグマの毛皮が印象的であった。
先週に引き続き、この週末の日曜日も寒波の後の晴天が期待出来そうだ。霧氷が期待出来そうな鈴鹿の山・・・ということで思い浮かんだのは綿向山と雨乞岳。二つの山を繋いで縦走するという四年越しの宿願を果たすのに格好の機会に思われた。
甲津畑の奥の谷に架かる橋(あしたに橋)の北詰の道路余地に車を停めて準備をしていると、次々と車が通り過ぎる。尾張小牧、大阪といった遠方からのナンバーからしても、鳴野橋の登山口に向かう登山者のものだろう。
谷沿いの林道を歩くとすぐにも正面に大きな堰堤が現れる。右手の植林の斜面の上の方にはガードレールが見える。どうやら堰堤を越える道があるようだ。斜面を登ると堰堤の手前で送電線の鉄塔の番号を記した道標がある。堰堤のすぐ右手から伸びる尾根に取り付く。踏み跡は薄いが間違いなく送電線巡視路だろう。
地面の土は柔らかく、いかにもヒルが多そうな雰囲気ではあるが、ヒルの心配をせずに歩けるののはこの季節ならではだ。すぐにも尾根の右手には広々とした伐採斜面が現れ、甲津畑の先には八日市と繖山の展望が広がる。谷を挟んだ対岸の尾根にもかなり標高の低いところから雪がついている。
尾根が細くなると尾根上には明瞭な踏み跡が続くようになる。送電線鉄塔からは大きく近江平野の展望が広がる。北側のカクレグラは冠雪した山頂部と山裾の紅葉とが綺麗なコントラストを見せてくれる。
右手に視線を辿るとオフ会への道中で歩いたカクレグラからタイジョウを経てイブネに至る稜線の先で、朝陽を背景に雨乞岳が大きな山容を広げている。
ca700mあたりでは尾根の左手は大きく崩落したガレ場となっているので、尾根の右側をトラバース気味に進む。あたりは棘のある灌木が多く、下手に素手で樹を掴むと大変なことになりそうだ。
p841を過ぎると植林帯となる。竜王山に至る稜線が近づくと小さなピークには三峯山と記された山名標が現れる。登山道との合流地点では「警告、この先登山道ではありません。関係者以外の立入りはご遠慮ください」と記された標札が立てられている。ご遠慮くださいとあるが、禁止している訳ではないとも解釈が可能かもしれない。
オンバノフトコロの展望地にたどり着くと霧氷を纏った綿向山が目の前にそびえ立つ。尾根上には数人分の真新しい踏み跡がある。すぐ先のあたりから先行者の声が聞こえてくる。綿向山への登りに差し掛かると先行する男女三人組のパーティーがアイゼンを装着しておられる。雪の上につけられていた足跡はこのパーティーによるものであった。ここから先はトレースがない。
尾根を登ると霧氷をまとったブナの樹々が次々と現れ、目を愉しませてくれる。稜線が近づくと樹間からは眺める西側斜面霧氷が壮観だ。上の方からは早速にも数組のパーティーが降りてくる。朝に登山口を出発した人達が丁度、下山の途につく頃合いなのだろう。
綿向山の山頂はやはり大勢の人で賑わっている。山頂から白銀の霧氷の樹林越しに真正面に雨乞岳を望むが、まだ先は長そうだ。
祠にお参りすると早々に山頂を退散し、先に進むことにする。北尾根への稜線では見事な霧氷に対する歓声があちこちから聞こえてくるようだ。
北尾根の分岐から北東へと伸びる尾根を進む。快適な草原状の緩斜面を降ってゆく。
なだらかな尾根の先には祝ヶ岳の鋭いピークがわずかに顔を覗かせている。二名分の足跡が雪の上につけられている。緩斜面が終わり祝ヶ岳への登りに差し掛かると尾根の左手を巻きながら低木の間を縫うように進んでゆく。祝ヶ岳の山頂が近づくと丁度、二人組の男性が引き返して来られるところだった。祝ヶ岳から先は当然、トレースはない。そしていよいよここからが間違いなく本日の核心部となる。
すぐにも尾根の右側に大きく崩落した荒々しいガレ場が現れる。先日、歩いた中央アルプスの麦草岳から木曽前岳の稜線を想起させる峻険さだ。尾根上には鈴鹿版の牙岩とでも命名したくなるような牙のような大きな岩が聳えている。
道は左手の低木の斜面をトラバースしながら下降することになるのだが、これが当然ながらかなり急斜面だ。斜面に薄く雪が積もっているところは慎重を要する。雪が多少積もっている方が明らかに歩きやすい。なんとか急斜面を無事に下降してガレ場を振り返ると、改めてガレ場の険阻な様相に驚くのだった。
しかし、まだまだ安心する訳にはいかない。急斜面のトラバースが続くので緊張を強いられる。むしろ狭いステップに岩に薄く雪が積もった箇所が多く、却ってこちらの方が危険だろう。
標高が低くなったせいか、あたりの樹木は霧氷は見られなくなる。山と高原地図ではこのあたりでは道は消えかけていると記されてはいるものの、あくまでも道は明瞭であり、ルートファインディングに苦心するような場所はないように思われた。小さなアップダウンを繰り返して大峠に辿り着いて、やれやれと一安心である。
大峠からは危険箇所はないものの、登り返しはかなり急登である。日当たりの良い斜面の雪は既に融けた後なのだろう、濡れた急斜面はかなり滑りやすい。大峠に向かって逆コースを辿る際にはこの急斜面の下降は安易ではないだろう。
急登が終わり尾根に乗るとシャクナゲの低木の藪の間を縫って迷路のような道が続く。以前、大峠に向かって逆にコースを辿ったことがあるが、シャクナゲの季節にも関わらず裏年だったせいかほとんどシャクナゲの花が見られなかった憶えがある。
やがて尾根が東向きに大きく方向を転じるca970mが近づくとシャクナゲの迷宮を抜け出し、自然林の疎林が広がるようになる。尾根の南側は植林ではあるが、尾根上は再び霧氷が見られようになり、緩やかに高度を上げるにつれて大きく発達した霧氷が見られるようになる。しかし、樹々からはバラバラと霧氷が絶え間なく落下してゆくのは致し方ない。
霧氷の樹林を抜けて清水頭に至ると樹木のない苔の裸地が広がる。
360度の大展望が広がり、鎌ヶ岳の鋭峰から延々と南に連なる鈴鹿主脈を一望することができる。振り返ると綿向山のシルエットが午後の陽光に浮き上がっている。
これから辿る雨乞岳に向かって尾根から北側斜面にかけて霧氷の樹林が広がっている。雨乞岳の山頂部では笹原の草原と霧氷のコントラストが鮮やかであり、笹原の中に点在する樹々が白い羊のようにも見える。振り返ると綿向山のシルエットが午後の陽光に浮き上がっている。
雨乞岳に向かって進むうちに空には急速に雲が広がってゆく。南雨乞岳のピークが近づくとリョウブと思われる低木のなかを進む。南雨乞岳のピークは樹林から飛び出し、再び360度の好展望が広がる。鎌ヶ岳の左手に広がる伊勢湾は空の色を反映して灰色の水を湛えているように見える。雨乞岳から東雨乞岳にかけてのたおやかな笹原の稜線が視界に入るが、数組のパーティーが稜線を歩んでいる。
南雨乞岳のあたりは熊笹の笹原は膝下ほどであるが、雨乞岳が近づくにつれて急に笹藪の丈が高くなり、山頂直下では背丈以上となる。笹藪の中にはしっかりと刈払いされた道があるので、道を外さない限り問題なく進むことが出来るが、家内は笹藪の藪漕ぎには相当に辟易したようだ。
山頂にはやはりかなりの人が訪れた気配があるが、すでに人影はない。山頂の北側からはイブネの彼方に御池岳、霊仙山に至る鈴鹿北部の山並みが一気に視界に飛び込む。霧氷イブネの東側斜面にもわずかに霧氷がついているようだが、この雨乞岳から東雨乞岳にかけての北側斜面における霧氷ほどではないように思える。
空が曇ったせいか空気は急に冷え込んでくるようだ。そのせいか雨乞だけの北側斜面では霧氷の落下があまりみられない。再び霧氷の樹林の中に入り、杉峠に降り立つ。つい一月ほど前、オフ会の帰路にSHIGEKIとご一緒に歩いた時には杉峠のあたりでは紅葉が見事だったが、今や樹々には紅葉の名残りもみられない。峠から千種街道を下降し始めるとすぐにも霧氷はみられなくなった。
まだ時間は14時台ではあるが、空に広がった雲のせいだろうか、急にあたりは薄暗くなったように感じる。振り返ると谷奥に霧氷を纏った雨乞岳の北斜面が依然として白い山肌を見せている。雪の上につけられた多くの足跡がこの日に往来した登山者の多さを物語るが、鉱山跡のあたりにくると足元の雪も疎らとなる。
岩ヶ谷林道の入口から車道を歩き始めると西の空にかかる雲の下から夕陽が顔を出したようだ。夕陽に照らされたカクレグラへの稜線が橙色に輝いてる。駐車地に戻り、日野のスーパーに寄り道して外に出ると、先ほどまでの雲はすっかり消えて、雲ひとつない夕空には一番星が瞬いていた。
家内は(いつもより)早くから出発した分、距離が長くなったと不服だったようだが、趣の異なる霧氷の名山を堪能するばかりでなく、宿願の綿向山から雨乞岳への縦走を無事に果たすことが出来たことに充足感を覚えた山行であった。