【日付】2020年11月14日(土)
【山域】奥美濃/ホハレ峠~門入
【ルート】黒谷ピストン
【天候】晴れ
【メンバー】B&Bシルバーコンビ
【コースタイム】ホハレ峠8:29-門入入り口沈下橋10:39-10:43八幡神社跡(記念碑)~村内散策・ランチ12:00-第1-2工区境界(涸れ谷から枝尾根)14:06-林道14:25-14:49分岐駐車地
蕎麦粒山への取付点としてホハレ峠を訪ねたのが始まりだった。もう、10年以上前のこと。その後、地形図の記述に騙されて?ヤブをうろついたこともあった。兎夢さんのレポなどで、新ホハレ峠は別の場所だと知った。
峠に立つと林道の右手から黒谷へ踏み分け道が下っている。これを辿れば門入の村跡へ行ける。ホハレ峠は揖斐から近江への産業道路の要衝だったのだ。
徳山ダムの完成・湛水で多くの集落が水底に沈んだなか、最上流の門入だけが水没を免れた。しかし、道路の寸断などで生活インフラがマヒし、暮らしが立ち行かなくなる。集団離村は2006年(平成18)9月。そんなに昔の話ではない。その経緯は民俗研究者や元住民の方々による記録に詳しい。
紅葉の秋にでも行ってみたいな…と思っていたら、たまたま、門入住民の暮らしとダムへの思いを追った大西暢夫氏の写真集の書評を目にした。写真集を買い求めるほどの殊勝さは持ち合わせないが、足を上げさせたのは、ここのところ続く小春日和のせいかもしれない。
と言うわけで、木之本ICからR303で待ち合わせの道の駅「さかうち」へ。Bさんと合流し、夜叉龍神社から1台でホハレ峠へ向かう。この道、ホハレ峠から先の拡幅工事をやっている。工事の仕事は土曜日休みでないからか、大きな荷を積んだトラックが前を走る。
観音像が建つ起点に設置された概略図によると、「作業路ホハレ線開設工事」。4m幅で門入地内までの3.8㎞。峠から少し先、現林道のウサギの耳形に突き出た小尾根を回り込んだ先から黒谷左岸を下り、co650辺りで谷をわたって右岸を下って行くルートのようだ。
さて、ホハレ峠から谷に下り始めると、遠くで銃声のような音が聞こえる。狩猟解禁でハンターが入ってるのか? それにしては頻繁に爆発音がする。銃声ならもっと乾いたパーンと言う感じだろう。もう少し響いて重さを感じさせる音。どうやら道路工事の爆破音のようだ。
黒谷の澄んだ水と周りの黄葉、上空の青空を愛でながら下って行く。時に谷は小さな滝が懸かり、目を楽しませてくれる。首が回らないので立ち止まって1回転。前だけ見て降りて行くのはもったいない。Bさんは健脚だ。先へどんどん進んでいく。門入までの標高差は350mほどだが距離が長いので傾斜はしれている。
地形図にある堰堤の100mほど上流にも堰堤がある。右岸に移らねばならないのだが、濡れずに渡れそうなところがない。どうせドボンするなら…と浅くなった堰堤の擁壁上を渡る。ほんの幅4,5mのことだが当然、登山靴に水が沁み込んでくる! 冬なら大変だが今ならまだ大丈夫だろう。
大堰堤は右岸の上から見下ろしながら通過。この大堰堤からは道幅がいっそう広くなる。堰堤工事用の道路だったのかもしれない。簡易ベッドを畳んで建てたような三角屋根のパイプ小屋の中に自転車がデポしてある。往年は頻繁に通行があったのだろう。平らな路面は今、草と雑木に覆われ、細い踏み跡が続くだけだが。
右手(山側)の斜面に石垣があらわれた。土砂の流出を防ぐ防護壁だろう。その上から金色に輝くカエデが覆いかぶさる。今度は浅黄色のカエデも。足許、上空、両サイド…と目の移動が忙しい。
直径1mもありそうな丸い土管が散らばっている沢との出合。どうやらこの土管を橋桁にしていた橋が水害で流されたのだろう。橋はないが小さな流れを石伝いで渡る。
いきなり両サイドに杉の大木が並ぶ。何となく神社の境内に似ている。真っすぐ伸びる参詣道?は薄暗い。杉並木が切れると、トンネルの出口のように眩しい光が飛び込んでくる。その向こうに人家の屋根。門入の入り口だ。
黒谷に掛かる沈下橋、西谷川の沈下橋を渡ると集落の中心地。銀杏の黄葉が盛りの石段を登ると八幡神社跡で、屋根だけの東屋の上に集団離村の記念碑が建つ。
東屋の中にはバイク2台と自転車1台、幌が架けられている。元住民が時々家屋の保全などのため来られているらしいが、その時に使うのだろう。
記念碑には元住民の名前と住居の位置が記されている。分校を見に行ってみようと、位置を確認して進んでみる。それらしい建物は見つからないなあ…、と思ったところで思い出した。離村の際、すべての建造物を解体したという。なので、今ある建物はその後にできたものばかりなのだ。
その時、今日初めての生物が姿を見せた。クマ?! 目の前に真っ黒のケモノ!
よく見ると犬やないか。そうだそうだ、レポにいつも出てきたウエルカム・ドッグだ。吠えながら5,6mまで近づいてくるが、近づくと後ずさり。なんだ、案外あかんたれだな?
と、その後ろから別の茶毛(♀)が現れた。こちらは恰幅がいい。年も食っているみたい。クロちゃんに代わり、のっそりと前に出る。アタイが相手じゃ!と言ってるみたい。
しかし、こちらの迫力に、彼女も後ずさり。吠えながら撤退する2匹に、「おまえら、ちゃんと留守番しいや」とエールを送って別れる。
分校跡は分らなかったが、「二生庵」と表札のある建物があった。玄関先一帯はテントウムシとカメムシの集会場になっていた。早々に引き揚げる。
八幡神社への帰り道、またクロと茶女の2匹が歓迎してくれる。せっかくだからお土産をあげようね。手持ちはアンパンくらいしかない。茶女を呼ぶと近づいてきた。警戒はしているが、やはり飼い犬だ。すぐ手許までやってきてパンを美味しそうに食べてくれた。クロはどこに隠れたのか姿を見せない。「クロー!」「クマ~!」と呼んでもダメ。あたりまえだ、出まかせの名前では通じんやろ。
このあと、神社跡の銀杏の下でランチし、門入を後にする。
結局、クロちゃんとは別れの挨拶もできないままだったのが心残り。そういえばクロちゃんの性別も確かめていなかった。
帰り道は遠かった~♪
という歌が昔あったが、なぜかその逆の感触。一度通った道は近く感じるのだろうか? 下りオンリーの往路と比べたら登りばかりの帰路はシンドイはずなのだが、快調に歩ける。180度視野が違うと新しい発見もある。下りで靴を濡らした渡渉点も、Bさんが濡れずに渡れるポイントを見つけてくれた。
峠が近付くとまた発破の衝撃音が響きだした。「ウサギ耳」の付け根あたりにショートカットしするつもりでいたのだが、発破現場ならヤバイので真っすぐ行こう…と思い直した。が、分岐までくると発破音は後ろに遠ざかっていた。
登れそうやな…。ガレた枯れ沢を埋める石を階段を登るように登る。途中から左の尾根に。カヤなどの雑木でややヤブっぽいが、なんとか進める。上部になるほどヤブは薄くなり20分ほどで林道に出る。
谷を挟んで工事の現場事務所が見える。この辺はすでに整備が終わり広く平坦で水溜りの一つも無い。ホハレ峠までの林道沿いの谷筋はブナの黄葉で埋まっていた。
作業路の工期は来年3月までなので、春の門入は賑わうかもしれない。今回はナメコに見限られたが、春になったらワラビ取りも兼ねて再訪したい気になった。
Bさん、一日お付き合い、ありがとうございました。
~びわ爺