【山行日】2020年8月13日~15日
【山域】北ア・湯俣~竹村新道~野口五郎岳~ブナ立尾根
【メンバー】Tさん、アオバ*ト
【天候】13日:雨のち曇り 14日:晴れ 15日:曇り時々晴れ
【ルート】13日:高瀬ダム~湯俣(晴嵐荘 泊)
14日:湯俣~竹村新道~野口五郎岳(野口五郎小屋 泊)
15日:野口五郎小屋~烏帽子小屋~ブナ立尾根~高瀬ダム
本当は伊藤新道に行きたくて、竹村新道を登るつもりじゃなかったけど、でも気が付いたら、ちゃっかり竹村新道を楽しんで、この道をすっかり好きになっていました。
COVID19が猛威をふるう中、三密さえ避ければ大丈夫と信じて、早いうちから晴嵐荘のテント場を予約していました。しかしながらいつまでも続く梅雨の長雨。晴嵐荘さんのオープンの日にちも先に延びて、高瀬川の小屋前の渡渉も腰近くまであるという話。これじゃ伊藤新道は無理っぽい。でも行ったことない湯俣にだけでも行ってみたい。今回は下見だけでいいから。しかしながらせっかくの夏休み、稜線まで上がってみたい気もします。ならばしょうがない、登りで使いたくなかったけど、竹村新道登ってみますか。竹村新道登ったら上にはテント場ないから小屋泊ですよ。というわけで、この状況下ですが、小屋泊縦走、楽しんできました。
親切なタクシーのおじさんにトンネルの入り口で写真を撮ってもらい歩き始める。
いつもならにぎわっているのだろうが、誰もいない。早朝はお猿さんもいないのか。
薄暗いトンネルを通り、小雨の中、傘さして静かな林道を歩く。川沿いの雨に潤んだ緑の山道に入り、木道に導かれて進んで行くと、何人かの人たちとすれ違う。皆デイパックだ。どうも早朝から湯俣まで行って日帰りしている様子。荒れた河原の向こうに晴嵐荘が見え始めた頃、ひとり大きなザックを背負った背の高い若者とすれ違う。Tさんがどこに行ってきたのかと聞いている。北鎌尾根を登って伊藤新道を降りてきたらしい。湯俣から水俣川を遡り、千天出合。末端から北鎌尾根!カッコいい~。わたしも生まれ変わったら、そんなカッコいいことやってみたい。
いよいよ晴嵐荘さんから電話で脅かされていた小屋前の渡渉。あ、これなら渡れるよ。飛び石用に大きな石を重機で移動してくださったようだ。
(ちなみに、ここ半月ほどの間に仮橋が設置されたもよう。)
荷物を置いて、湯俣川の噴湯丘まで行くことにする。小屋から少し上流側を再び対岸へ渡渉するのだが、さっきより川幅広く、浅そうに見えて意外と深い。油断すると足をすくわれてしまいそうになるが、これまた楽しくて、すでに上機嫌。
出合いの水俣川に掛かる朽ちかけた吊り橋を見たときには、テンションmax。二つの流れを分かつ尾根の末端には山の神。手を合わせて、古びたフィックスロープにつかまって湯俣川に降り立つ。
黄褐色のガレガレの壁となんとも言えないとろんとした乳白色をおびた水色の湯俣川。噴湯丘のあたり一帯は地形図に「地獄」と書いてある。まさしくこの世の果てのファンタジーワールド。宇宙人が作ったオブジェのような噴湯丘の写真を撮って小屋に戻る。
さて、内湯で汗を流したら、お待ちかねのビール!晩ごはんは小屋番さん特製スパイスカレー。スパイスはホールをミルで挽いているというこだわりよう。サラダとスープとデザート付き。
ここの小屋番さんはひとりですごく頑張っていらっしゃると思う。食事作りだけでなくて、本当に諸々。今夜の宿泊客は小屋泊り4名。テントは小屋前に2張、河原に3張程度。こんな状況ではその頑張りが報われず本当に大変だと思うけれど、なんとか切り抜けてほしいと思う。とにかく今夜は、温泉付き極楽の夜。
早朝4時、静まりかえった晴嵐荘を後にする。今夜の宿、野口五郎小屋のお母さんには、湯俣から行くので遅くなりますと伝えておいた。でも心配させないよう15時には着きたい。いつもさんざんヘッデンのお世話になっているけど、きょうは気合を入れてがんばろう。小屋のすぐ裏から、竹村新道始まります。かなりの急登だけど、早朝は涼しいし、荷物も軽いしガンガン行ける。整備され過ぎていない、ほどよいワイルド感が楽しい。そして今回特筆すべきこと、本日このルート貸し切りであります。
針葉樹と灌木の樹林帯の急登の中、一息つくと眼下に湯俣川が見えた。ここにも「りゅう」がいた。青くミルキーなウロコを持った「りゅう」が内に激しさを秘めつつ横たわっていた。いつか、その背に乗ることはできるだろうか。
登るにつれて左手にそびえるトンガリたちが気になる。あれってもしかして?もう一登りすると、左手にこっちに来いと言わんばかりの踏み跡。一段登って、驚愕する。
突如として、槍ヶ岳第一劇場あらわる。コーフンしつつ高度を上げる。いくつも無料の貸し切り天井桟敷席を通過する。これでもかっていうくらい登って、湯俣岳。樹林の合間から野口五郎岳の稜線も見えた。天気も上々、すばらしい。しかし、長い。これでまだ半分も来ていないのだ。ここからはアップダウンの連続。針葉樹の森、背丈以上の笹藪の中の道。湯俣岳から下った鞍部からの登りが長いこと。やっと針葉樹林の森林限界を越える。解放感と引き換えに背中にジリジリ、太陽の光。途端に足取りのろくなる。巻きで小さな木陰を見つけては、休憩コール。いちばんありがたかった食べ物、ジューシーハウスみかん。秘密兵器アミノバイタルリカバリーも仕込む。Tさんは、「シャツクール!」のサプライズに感激してる。灌木の中にブルーベリーがたくさん。くまさん、少し分けておくれよ。
大展望の南真砂岳。
今日はじめて人に会う。トレランのお兄さん。湯俣の渡渉は大丈夫かと聞いてくる。大丈夫と言うと、あっという間にすっ飛ばして行った。前方に大ガレ。地形図見ると毛虫がいっぱいの崖の上。やだなぁ。行くしかない。今日はお茶会もなし。大ガレ地帯、慎重に慎重に、足元しっかり見る。大丈夫、貸し切りの槍ヶ岳大劇場、まだまだ幕は下りない。
五郎沢側、緊張のトラバース。やっと稜線に出た。
岩稜帯を越えて野口五郎岳へ最後の登り。只々、白い砂礫の広い稜線。この荒涼感がたまらない。次第に雲が湧いてくる。急いでシャッターを切る。
トンガリ、最後までかくれなかった。
野口五郎小屋が眼下に見える。
白い砂礫の窪みで青い光を鈍く反射させていた。カッコいい。遠い国境の秘密基地みたいだった。
小屋前で誰かのラジオから流れるポップス。小屋のお父さんのにこやかな笑顔。受付のお兄ちゃんが奥のお母さんに湯俣からのお客さんが着いたよと叫ぶ。ロードムービーの主人公になったような幸せな時間。
泊り客15人ほど。これじゃ本当に大変だ。きっとまた来るから、がんばってほしい。
晩ごはん、これって二人分あるよってくらいすごいボリュームのライスカレー。
夜中、小屋が飛ばされそうなほど大風が吹き荒れていた。
早朝、強風のためなかなか出発できない。しばし小屋のお父さんとおしゃべり。見送られて小屋を後にする。砂礫の中、いくつもケルンが積まれている。ケルンに導かれて風に立ち向かう。渇いたケルンのたもとに寄り添う小さく白いイワツメクサが愛しかった。
(ここから濁沢登山口までのレポは省略。)
アオバ*ト