遭難者捜索 犬帰し谷
Posted: 2012年2月20日(月) 18:03
鈴鹿・御池岳
2011.2.19(SUN) 晴れ 同行者 K隊長、とっちゃん
コース 国道306犬帰し橋=犬帰し谷=大滝=荷ガ岳=丸尾=906北尾根=国道
藤原岳大貝戸休息所に設けられた遭難対策本部は、早朝から集結した大勢の山男で立錐の余地もなかった。三重岳連、日本山岳会東海支部、鈴鹿アルパインクラブ等々の団体、地元警察と一般有志。総勢100名位になるだろうか。いなべ警察の挨拶に次いで気丈にも不明者の奥さんが挨拶されたが憔悴の色は隠せない。そして捜索責任者による状況説明とコースの割り振りが行われた。遭難から一週間、ギリギリの線だ。天気と人員に恵まれた今日こそは見つけたいという意気込みが会場に漲っていた。
私らのような組織に属さないものは、名簿記入後、地図に示された捜索ルートの穴を見て自己申告する。丸尾とコグルミ谷の間がぽっかりと空いている。不明の原因が事故であるなら、危険な犬帰し谷に迷い込んだ可能性も十分あり得ると思った。出掛ける前に乗り合わせで集まった藤原パーキングで偶然会った緑水さんも、「俺もここが怪しいと思う」とのこと。
前日、とっちゃんから「明日何処行くの」というメールがあった。何処の山でもいいけど、どうせなら御池岳にしたら少しはお役に立つかなと返信した。例え空振りでも歩いた場所は除外され、範囲が絞れるからである。歩人倶楽部隊長から本部情報をもらい、合流して3名の犬帰し隊の結成となった。私は数回犬帰しに入っているが、とっちゃんと隊長は初めてなので大乗り気である。しかし二人はクライマーなのでヘルメット、ハーネス、ロープという御池岳のイメージから想像できないいでたちで頼もしい。
306ゲート前に着くと警察がすぐ鍵を開けてくれた。いつもコソコソ裏口入学しているが、今日ばかりは大手を振って堂々の国道入場行進だ。犬帰し橋手前の空き地で準備していると警察車両が止まって「ここがコグルミ谷ですか?」と聞いてきた。警察とはいえ素人はこんなレベルなのである。私のイメージではアルプスや海外の山で活動している山岳会の人たちも、そんなにローカルの山に詳しいとも思えない。それとも普段は結構ローカルなのだろうか。
犬帰し谷は橋と大きな高度差があるのでロープを伝って下りる。夏は投下されたゴミだらけだが、今日は雪の下。大石がゴロゴロする谷芯も締まった雪で歩きやすい。しかしドッサリ降った訳でもなく、油断していると大穴を開ける。ルートは慎重に選ぶ。体が温まったころ大滝が見えてきた。どうせ巻くから近づかなくてもいいが、今日は捜索なので見に行く。滝と言ってもカラ滝で、垂直の岩の壁が行く手をさえぎっている。隊長がこんな場所があるならカムやハーケンを持ってくればよかったと言っていたが、別に捜索だから無理に登らんでもいいさ。不明者が滝の下に落ちていなかったことが確認できてOK。
少し戻って巻く。巻きも結構危ないが今日は3人なので安心だ。雪の付いたルンゼを途中まで登るが、雪の少ない上部はアイゼンが効かず厄介だ。せっかく隊長がロープを持ってきているので張ってもらう。メインロープからプルージックを取って登るが、範囲が制約されて却って登りにくい。でも心理的には安心。支点回収のとっちゃんを待って出発するが、まだ気の抜けない登りが続く。やたらのどが渇くので、見晴らしのいいテラスでひと休み。
650m付近からトラバしつつ下降点を探る。いざとなれば懸垂できるので安心して下る。なんとかロープのお世話にならない傾斜を、ピッケルでブレーキをかけつつ滑り下りていく。谷芯にザックをデポし、巻いた部分を戻って見に行った。遭難者の足跡があったにしてももう消えているだろう。それを計算に入れても人の気配は感じられなかった。県警のヘリが上空を通過していく。
傾斜が立ってくると谷沿いに歩きやすい場所はなく、右岸斜面をトラバースしながら谷を観察する。これがまた骨の折れる仕事である。私は何度もこの付近に来ているが、毎度苦労している。いっそ谷芯を沢靴で登るのが一番楽だろう。カラ滝からは想像できない豊かな水量があるのだ。とっちゃんから「お腹空いたよー」の泣きが入る。あらもう12時をとっくに過ぎている。3人がようやく座れる場所で昼食とする。
食後の詰めの斜面はもうヘロヘロ。隊長と競うように稜線を目指す。お互い20歩登ってはハアハアゼイゼイと立ち止まる。とっちゃんはすっかりお疲れモード。マイペースでずっと後方を歩いている。ようやく荷ガ岳直下の丸尾に出た。ここからは複数の足跡があるので登っても無駄だが、区切りとして県境稜線まで行った。隊長が本部へ無線連絡をする。どこの隊もカラ振りのようだ。いったい遭難者はどこへ消えたのだ? 空から見ている杣人さん、教えてくれー。
帰路は丸尾・906から磁北に伸びる尾根を下った。大滝巻きで一部上がった尾根である。丸尾を下った場合、迷い込む可能性はある。ここも本部の地図では捜索されていなかった。獣以外踏み跡はなく、真っ白でフカフカの新雪を蹴散らして下っていく。捜索ではあるが、快適で面白い下りである。あちこち大きな雪庇が東側に盛り上がっている。ここから西の見通しは良く、コグルミ右岸尾根を始め、尾根と谷の波が素晴らしい。しかしこのどこかに今も行方不明の人がいるかと思うと胸が痛い。
帰りに報告のため本部に立ち寄る。奥さんが丁寧に礼を述べられる。「いや私ら捜索がなくても、どうせどこかの山に行ってるんだから全然構いませんよ。見つられずにすいません」と言っておいた。ルート報告のあとコーヒーや軽食の接待があった。親戚の人たちだろうか。こういうのを見ると、一つの遭難でいったいどれだけの人に迷惑がかかるのだろうと思わざるを得ない。本人は自分のしでかしたことだから仕方ない。しかし夫が突然消えたショックだけでも相当な心労の奥さんが、こうして捜索隊ひとりひとりに気を使わなければならないのは気の毒で見ていられない。
この地獄絵図は単独山行の帰結である。単独で山へ入ることは罪悪ではなかろうか。それはしかし私自身にも跳ね返ってくるし、やぶこぎネットの多くの人にも当てはまる。でも私は家内にあんな苦労は絶対させたくない。大きな警鐘を目の当たりにして、考えさせられる一日となった。
ハリマオ
2011.2.19(SUN) 晴れ 同行者 K隊長、とっちゃん
コース 国道306犬帰し橋=犬帰し谷=大滝=荷ガ岳=丸尾=906北尾根=国道
藤原岳大貝戸休息所に設けられた遭難対策本部は、早朝から集結した大勢の山男で立錐の余地もなかった。三重岳連、日本山岳会東海支部、鈴鹿アルパインクラブ等々の団体、地元警察と一般有志。総勢100名位になるだろうか。いなべ警察の挨拶に次いで気丈にも不明者の奥さんが挨拶されたが憔悴の色は隠せない。そして捜索責任者による状況説明とコースの割り振りが行われた。遭難から一週間、ギリギリの線だ。天気と人員に恵まれた今日こそは見つけたいという意気込みが会場に漲っていた。
私らのような組織に属さないものは、名簿記入後、地図に示された捜索ルートの穴を見て自己申告する。丸尾とコグルミ谷の間がぽっかりと空いている。不明の原因が事故であるなら、危険な犬帰し谷に迷い込んだ可能性も十分あり得ると思った。出掛ける前に乗り合わせで集まった藤原パーキングで偶然会った緑水さんも、「俺もここが怪しいと思う」とのこと。
前日、とっちゃんから「明日何処行くの」というメールがあった。何処の山でもいいけど、どうせなら御池岳にしたら少しはお役に立つかなと返信した。例え空振りでも歩いた場所は除外され、範囲が絞れるからである。歩人倶楽部隊長から本部情報をもらい、合流して3名の犬帰し隊の結成となった。私は数回犬帰しに入っているが、とっちゃんと隊長は初めてなので大乗り気である。しかし二人はクライマーなのでヘルメット、ハーネス、ロープという御池岳のイメージから想像できないいでたちで頼もしい。
306ゲート前に着くと警察がすぐ鍵を開けてくれた。いつもコソコソ裏口入学しているが、今日ばかりは大手を振って堂々の国道入場行進だ。犬帰し橋手前の空き地で準備していると警察車両が止まって「ここがコグルミ谷ですか?」と聞いてきた。警察とはいえ素人はこんなレベルなのである。私のイメージではアルプスや海外の山で活動している山岳会の人たちも、そんなにローカルの山に詳しいとも思えない。それとも普段は結構ローカルなのだろうか。
犬帰し谷は橋と大きな高度差があるのでロープを伝って下りる。夏は投下されたゴミだらけだが、今日は雪の下。大石がゴロゴロする谷芯も締まった雪で歩きやすい。しかしドッサリ降った訳でもなく、油断していると大穴を開ける。ルートは慎重に選ぶ。体が温まったころ大滝が見えてきた。どうせ巻くから近づかなくてもいいが、今日は捜索なので見に行く。滝と言ってもカラ滝で、垂直の岩の壁が行く手をさえぎっている。隊長がこんな場所があるならカムやハーケンを持ってくればよかったと言っていたが、別に捜索だから無理に登らんでもいいさ。不明者が滝の下に落ちていなかったことが確認できてOK。
少し戻って巻く。巻きも結構危ないが今日は3人なので安心だ。雪の付いたルンゼを途中まで登るが、雪の少ない上部はアイゼンが効かず厄介だ。せっかく隊長がロープを持ってきているので張ってもらう。メインロープからプルージックを取って登るが、範囲が制約されて却って登りにくい。でも心理的には安心。支点回収のとっちゃんを待って出発するが、まだ気の抜けない登りが続く。やたらのどが渇くので、見晴らしのいいテラスでひと休み。
650m付近からトラバしつつ下降点を探る。いざとなれば懸垂できるので安心して下る。なんとかロープのお世話にならない傾斜を、ピッケルでブレーキをかけつつ滑り下りていく。谷芯にザックをデポし、巻いた部分を戻って見に行った。遭難者の足跡があったにしてももう消えているだろう。それを計算に入れても人の気配は感じられなかった。県警のヘリが上空を通過していく。
傾斜が立ってくると谷沿いに歩きやすい場所はなく、右岸斜面をトラバースしながら谷を観察する。これがまた骨の折れる仕事である。私は何度もこの付近に来ているが、毎度苦労している。いっそ谷芯を沢靴で登るのが一番楽だろう。カラ滝からは想像できない豊かな水量があるのだ。とっちゃんから「お腹空いたよー」の泣きが入る。あらもう12時をとっくに過ぎている。3人がようやく座れる場所で昼食とする。
食後の詰めの斜面はもうヘロヘロ。隊長と競うように稜線を目指す。お互い20歩登ってはハアハアゼイゼイと立ち止まる。とっちゃんはすっかりお疲れモード。マイペースでずっと後方を歩いている。ようやく荷ガ岳直下の丸尾に出た。ここからは複数の足跡があるので登っても無駄だが、区切りとして県境稜線まで行った。隊長が本部へ無線連絡をする。どこの隊もカラ振りのようだ。いったい遭難者はどこへ消えたのだ? 空から見ている杣人さん、教えてくれー。
帰路は丸尾・906から磁北に伸びる尾根を下った。大滝巻きで一部上がった尾根である。丸尾を下った場合、迷い込む可能性はある。ここも本部の地図では捜索されていなかった。獣以外踏み跡はなく、真っ白でフカフカの新雪を蹴散らして下っていく。捜索ではあるが、快適で面白い下りである。あちこち大きな雪庇が東側に盛り上がっている。ここから西の見通しは良く、コグルミ右岸尾根を始め、尾根と谷の波が素晴らしい。しかしこのどこかに今も行方不明の人がいるかと思うと胸が痛い。
帰りに報告のため本部に立ち寄る。奥さんが丁寧に礼を述べられる。「いや私ら捜索がなくても、どうせどこかの山に行ってるんだから全然構いませんよ。見つられずにすいません」と言っておいた。ルート報告のあとコーヒーや軽食の接待があった。親戚の人たちだろうか。こういうのを見ると、一つの遭難でいったいどれだけの人に迷惑がかかるのだろうと思わざるを得ない。本人は自分のしでかしたことだから仕方ない。しかし夫が突然消えたショックだけでも相当な心労の奥さんが、こうして捜索隊ひとりひとりに気を使わなければならないのは気の毒で見ていられない。
この地獄絵図は単独山行の帰結である。単独で山へ入ることは罪悪ではなかろうか。それはしかし私自身にも跳ね返ってくるし、やぶこぎネットの多くの人にも当てはまる。でも私は家内にあんな苦労は絶対させたくない。大きな警鐘を目の当たりにして、考えさせられる一日となった。
ハリマオ
私らのような組織に属さないものは、名簿記入後、地図に示された捜索ルートの穴を見て自己申告する。丸尾とコグルミ谷の間がぽっかりと空いている。不明の原因が事故であるなら、危険な犬帰し谷に迷い込んだ可能性も十分あり得ると思った。