【若狭】庄部谷山の光と影

山行記、山の思い出、限定
フォーラムルール
新規トピックは文頭に以下のテンプレートをなるべく使ってください。
【 日 付 】
【 山 域 】 
【メンバー】
【 天 候 】
【 ルート 】
※ユーザーでなくても返信が可能です。ユーザー名に名前を入れて返信してください。
返信する
アバター
山日和
記事: 3585
登録日時: 2011年2月20日(日) 10:12
お住まい: 大阪府箕面市

【若狭】庄部谷山の光と影

投稿記事 by 山日和 »

【日 付】2023年10月7日(土)
【山 域】若狭 庄部谷山周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】林道駐車地8:05---8:45吊橋---9:15甲森谷出合---10:15ご神木カツラ10:35---11:10トタテ出合---12:30稜線
     ---12:55庄部谷山14:30---14:50ブナ巨木---16:15駐車地

 怒り、憤りでもなく悲しみとも違う。この複雑な感情をなんと表現すればいいのだろう。
足繁く通った最愛の山の変わり果てた姿。話には聞いていたが、自分の目で見るのが恐くてしばらく訪れることができ
なかった。ようやくその現実を目の当たりにして文字通り言葉を失うしかなかった。

 通い慣れた横谷川の送電鉄塔巡視路を歩く。巡視路とは名ばかりで崩れた斜面も多く、足を濡らさずに歩くことは不
可能だ。渓流シューズや長靴が必要なバリエーションルートである。
ゴルジュ状の横谷川の流れは美しく、水流沿いに遡行するのも楽しいが、時間の節約のために巡視路を辿る。
最初の傾いた吊橋から30分ほどで甲森谷の出合に到着。本流を渡渉して甲森谷に入る。


PA070015_1.JPG

 甲森谷を歩くのは4年振りだ。最近は水害で荒れた谷を見慣れているせいか、荒れの少ないこの谷は新鮮に映る。
多少流倒木があるにせよ、流れを遮るような箇所はまったくなく、初めて訪れた頃とあまり変わらないように見えた。

 滝と呼べる落差が皆無の谷は、豊かな森の中をただひたすら穏やかに流れている。ところどころに現れる河岸台地に
は必ず炭焼窯跡があり、その傍らにはトチやカツラの巨木が切られずに佇んでいる。
かつては新庄の生活の山(今でもこの一帯は新庄の財産区である)であったが、この谷は植林もされず、素晴らしい森が
そのまま残されているのだ。

PA070053_1.JPG

 左に支流の白谷を分けると、いよいよ「トチのカツラのワンダーランド」の入口である。
谷の正面に炭焼窯跡を前に控えたカツラの巨樹が現れた。このカツラはまさにご神木という佇まいで、炭焼窯跡はさな
がら祭壇のようだ。幹周りは軽く10mを超えるだろうカツラの巨樹を前にすると、なにか厳かな気分になる。
この木だけではなく、まわりに点在するトチの大木の森が、何とも言えないひとつの空間を作り出しているのだろう。
ワンダーランドの凄いところは、このカツラがまだ序の口だということである。

PA070068_1.JPG

 谷を奥へ進んで行くと、まずは右岸斜面に7mぐらいはありそうなトチの巨樹が出迎えてくれる。
そして、まったく勾配のないような緩やかな谷の両岸の台地には、次々とカツラの巨樹が現れる。
初めてこの風景を見た時の驚きを思い出す。何の期待もせずに訪れたこの場所に、想像を絶するような荘厳なカツラの
森が眠っていたとは。
 あれから20年。登山雑誌で紹介されたり、SNSの発達で少しは有名になったかもしれないが、少なくともここで登山
者に会ったことはない。
 今日は天気が良過ぎて、太陽の光をいっぱいに浴びた森は幽邃さに欠ける。この深いカツラの森には曇り空の方が似
合うと思う。

PA070076_1.JPG

 カツラの森でひと息いれて上流に向かう。これまでと少し様相が変わり、谷筋にようやく傾斜が付いてきた。
まず出会うのが左岸に大きな岩屋を抱えた大産石室の滝だ。谷の水量が少なく感じていた割には結構勢いがいい。
いつも水流沿いをシャワーで登るのだが、今日はあまり水を被りたくない。
右岸側に細引きのようなものが垂れ下がっていた。残置ロープにしてはあまりに細過ぎる。ここを懸垂下降で下りたこ
とはあるが登ったことはない。見るとホールドも十分でヌメりもなく登れそうだ。

PA070103_1.JPG

 滝の上に上がってみると、細引きは木の根に巻かれたスリングに付けられたカラビナに繋がっていた。
いったい何のためのものだろう。スリングとカラビナは懸垂下降用だろうが、残置する意味がわからない。
自分の時そうしたように、木の根に直接ロープを掛けてもまったく問題ないのである。カラビナにはご丁寧にフルネーム
で書かれた名前シールが貼られていた。

 次に現れる5m滝を巻き上がるとトタテ(谷の名前)の出合に到着。予定ではトタテを遡行して稜線に抜けるつもりだった
が計画変更。左岸の尾根から稜線を目指すことにした。
強烈な急斜面を、岩を縫いながら木の根を頼りに高度を上げる。昔やぶこぎネットのツアーで歩いた尾根なのだが、こん
なところを登らせたのだろうか。

 傾斜が緩んで手を使わずに歩けるようになると台風の傷痕だろうか、今度は倒木が目立ち始めた。
標高が上がるとブナの密度が濃くなってくる。
 稜線が近付いてきた。しかし見慣れた風景とは違う。見えているブナの森がやけに明るいのだ。
あのピークのまわりに濃密なブナ林で、昼でも薄暗いはずなのである。


1696756096303_1.jpg

 稜線に到達してその違和感の正体を知った。一面のブナ林は無残に伐採され、風況観測塔とソーラーパネルが設置され
ていた。そして味気ない地肌を晒して林道が稜線上に延びている。ブナの切り株が無数に点在していた。
観測塔を支えるワイヤーを張るためだけに伐採されたところもある。想像以上の惨状を目にして絶句してしまった。
 地球温暖化を防ぐためという口実での風力発電の推進。地球環境を守るために自然エネルギーに転換しようとしている
はずなのに、そのために二度と元に戻らない自然破壊をするという矛盾。
事業者は環境のことなどまったく考えていない。ただそこに金の匂いがするから寄ってくるだけだ。
計画ではこの稜線に数十基もの風車が立つらしいが、風車の寿命と言われる30年も経てば、放棄された風車が並ぶ廃墟の
森となるだろう。


PA070146_1.JPG

 気を取り直して庄部谷山へ向かうが、林道も尾根上に延びている。ピークを巻くように付けられているので、その部分
のブナ林だけは健在だ。庄部谷山の山頂が変わっていないのが救いである。
いつものように庄部谷の源頭に腰を降ろしてランチタイムとした。美味いはずのビールの味もほろ苦い。
(ビールだからあたり前だが)

PA070171_1.JPG
 
 山頂西側の台地も実にいいところだったが、林道に蹂躙されて見る影もない。
逃げるように804m標高点から西の尾根に入った。この尾根は無事で、おなじみのブナ並木と、この界隈でもトップクラス
のブナの巨木が迎えてくれた。
 518m標高点から駐車地を目がけて北西の尾根を下る。ヤブもなくまあまあ歩きやすいと言える尾根だろう。
最後は林道の法面の弱点を見つけて車の50mほど後方に着地。
 変わらぬ美しい谷と変わり果てた尾根。光と影の両方を見た一日だった。
自分の気持ちを整理するには少し時間がかかるかもしれない。

                       山日和
SHIGEKI
記事: 1031
登録日時: 2011年7月25日(月) 18:30

Re: 【若狭】庄部谷山の光と影

投稿記事 by SHIGEKI »

山日和さん 行かれましたか~

【日 付】2023年10月7日(土)
【山 域】若狭 庄部谷山周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】林道駐車地8:05---8:45吊橋---9:15甲森谷出合---10:15ご神木カツラ10:35---11:10トタテ出合---12:30稜線
     ---12:55庄部谷山14:30---14:50ブナ巨木---16:15駐車地

 怒り、憤りでもなく悲しみとも違う。この複雑な感情をなんと表現すればいいのだろう。
足繁く通った最愛の山の変わり果てた姿。話には聞いていたが、自分の目で見るのが恐くてしばらく訪れることができ
なかった。ようやくその現実を目の当たりにして文字通り言葉を失うしかなかった。

観測塔を支えるワイヤーを張るためだけに伐採されたところもある。想像以上の惨状を目にして絶句してしまった。
 地球温暖化を防ぐためという口実での風力発電の推進。地球環境を守るために自然エネルギーに転換しようとしている
はずなのに、そのために二度と元に戻らない自然破壊をするという矛盾。
事業者は環境のことなどまったく考えていない。ただそこに金の匂いがするから寄ってくるだけだ。
計画ではこの稜線に数十基もの風車が立つらしいが、風車の寿命と言われる30年も経てば、放棄された風車が並ぶ廃墟の
森となるだろう。

全くその通りですね。詳しいコメントはやめときます。

初めて山日和さんに連れて行ってもらったのが、『2006/7/8』 !!

瓜生氏が岳人に紹介したのは 『2008 8月号』

「桂の森は見事 尾根ラインには豊かな自然林 その静寂さはたまらない。」(抜粋)

などと書いておられる。

不肖Sその後 11か12回ここで夜を過ごしています。

2006/7/8の大産石室の滝
2006/7/8の大産石室の滝

                SHIGEKI
アバター
山日和
記事: 3585
登録日時: 2011年2月20日(日) 10:12
お住まい: 大阪府箕面市

Re: 【若狭】庄部谷山の光と影

投稿記事 by 山日和 »

SHIGEKI さん、どうもです。

山日和さん 行かれましたか~

ついに行ってしまいました。

全くその通りですね。詳しいコメントはやめときます。

コメントのしようもないかもですね。 :oops:


PA070088_1.JPG

初めて山日和さんに連れて行ってもらったのが、『2006/7/8』 !!

瓜生氏が岳人に紹介したのは 『2008 8月号』

「桂の森は見事 尾根ラインには豊かな自然林 その静寂さはたまらない。」(抜粋)

などと書いておられる。

瓜生さんが岳人に書いてましたか。それは知りませんでした。
一般的には2016年に草川さんが紹介してからですよね。

不肖Sその後 11か12回ここで夜を過ごしています。

それは凄い!!
私は昼間しか知りません。 :mrgreen:

          山日和
sato
記事: 422
登録日時: 2019年2月13日(水) 12:55

Re: 【若狭】庄部谷山の光と影

投稿記事 by sato »

山日和さま

こんばんは。
感想がすっかり遅くなってしまいすみません。
草川啓三さんの『湖西の山を歩く』で出会って以来、分け入るごとに魅了されていった野坂山地の山やま。
愛してやまない山域が、今、やるせない現実に直面している。
庄部谷山の現状を目の当たりにして、私も何とも言えない感情、ぐるぐるした思いに包まれています。

甲森谷は、8年前、どのような谷なのか全く知らずに、草川さんとご一緒させていただき驚愕しました。
うつくしいブナの林が広がるお山から生まれた水が集まった谷には、こんなにも妙なる世界が展開していたのだと。
初夏の季節外れの台風が去った後の山旅で、その日も途中から雨が降り出し、
緑の草木はより煌めき、澄んだ流れは躍動感に溢れ、いのちのよろこびを謳歌していました。

この素晴らしい谷が、「トチとカツラのワンダーランド」と呼ばれていることは、山日和さんからお聞きして知りました。
山日和さんが名付け親なのですね。まさに不思議の森、奇跡のような世界ですね。
薪炭に適さず、昔から縁起がよいとされてきたカツラや、実が救荒食となったトチは、切られることなくおおきく育ち、
森の守り神となり、こうして何百年も谷を見守り続けてきたのですね。
大産石室の滝も、初めて見た時、深い感動に包まれました。完全なるひとつのうつくしい世界を感じました。
名付けた方もカミを感じたのだろうと思いました。
トタテ谷は、入り口が扉のような滝から、そう呼ばれているのでしょうか。
流木が邪魔をしていて、もういいか、と尾根に逃げてしまったのが、ちょっとこころ残りでした。

楽しく歩いてきましたが、左岸尾根の倒木地帯から、気持ちも足取りも重くなってきました。
いつもならうれしいのに、前方の青く光る空の明るさが怖くなりました。
辿り着いたブナの稜線で見た光景は、話を聞いて想像していた以上に残酷でした。

春、夏、秋、冬、このお山から、かけがえのないたくさんの贈り物をいただいてきました。
私が出会った輝きの数々が次々と浮かび上がり、走馬灯のように脳裏を駆け巡りました。
「何かを得るには何かを捨てなければならない」という言葉がありますが、誰が何を得るのでしょう。
そして、失われたものは戻ってはこない。
青空の下、穏やかに輝く庄部谷源頭はどこまでもやさしく、涙が出そうになりました。

野坂山地の風力発電の建設計画は、三十三間山にも挙がっています。全国各地のお山でも風力発電計画が進んでいます。
11月23日から25日、大津市和邇の、比良雪稜会の会長ご夫妻が営んでいらっしゃる
「るーむ橅」というカフェのギャラリーで、「私たちは、なぜ今も、風力発電取り止めを言い続けるのか」
のパネル展が行われます。最終日、25日の13時からは、ジャズ演奏会もあります。
ぐるぐるしてばかりの私ですが、風力発電について考え、学んでいきたいです。

sato
IMG_20231016_192829_(1000_x_563_ピクセル).jpg
アバター
山日和
記事: 3585
登録日時: 2011年2月20日(日) 10:12
お住まい: 大阪府箕面市

Re: 【若狭】庄部谷山の光と影

投稿記事 by 山日和 »

satoさん、どうもです。

私が初めて甲森谷を訪れたのが18年前。草川さんの「湖西の山を歩く」を読んで、庄部谷山の
名前を初めて知りました。その本には概念図に甲森谷の名前だけ書かれており、ガイドは違うコースでした。どんなところだろうと別に期待もせずに訪れたのですが、穏やかで美しい谷と驚くようなカツラの森にすっかり魅了されてしまったのでした。
「トチとカツラのワンダーランド」と名付けてやぶこぎにレポをアップしたのがその頃です。
「関西屈指の鉄塔巡視路」や「奇跡の里山」というフレーズも編み出しました。
多少水害の荒れはあるものの、美しい森と谷は変わらぬ姿で出迎えてくれますね。
トタテは倒木をくぐるのにびしょ濡れになりそうだったこともありますが、2段目の滝は右壁の登りと落ち口へのトラバースがちょっと渋いので、今の自分に自信が持てなかったというも、突っ込んで行かなかった大きな理由です。以前なら考えることなく登ってましたが。

尾根の上部から稜線を見上げた時の嫌な感じは忘れられません。日差しが通るはずがないのに妙に明るいまばらなブナの森の姿。
そしてピークに達した時の驚きと悲しみと憤り。やぶこぎのツアーで行った時は、あのピークでランチタイムでした。okuちゃんが児玉スイカを担ぎ上げてくれて、みんなで分け合ったことを思い出します。(ヘシコも持ってきてくれました)

18年前から今まで、何度訪れたことでしょう。庄部谷山のあらゆる尾根と谷を歩いてきましたが、飽きることはなく、その度に新たな感動を与えてくれました。
庄部谷山が最愛の山であると同時に、大御影山や雲谷山への入口でもある美浜新庄は、心のふるさととも言うべき場所でした。自分の山人生の中で、ダントツに訪れている場所です。
その新庄の人々が風車建設を是とした心持ちは、その地に住まない人間にははかり知れません。
たいして植林もせずに、よくぞあれだけの森を残してくれたものだと感謝していました。
だからと言って、新庄の人々を責める気にはなれません。
地球環境と日本のエネルギー政策。どうするのがベスト、ベターなのか、自分の中でも答を出せずにいます。

確かなことはただひとつ、あの素晴らしいブナ林はもう戻ってこないということだけです。

                   山日和


14年前のピーク
14年前のピーク
14年前の稜線
14年前の稜線
返信する