【若越国境】野坂岳〜三国岳〜赤坂山☆海辺の街より湖国を目指して静寂の国境稜線へ
Posted: 2021年2月22日(月) 23:42
【 日 付 】2021年2月13日(土曜日)
【 山 域 】 若越国境
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】粟野駅8:05〜10:05野坂岳〜10:34山ルート分岐〜10:47茶屋谷山〜11:31芦谷山〜12:24新庄乗越12:30〜13:31三国山13:36〜14:04赤坂山から14:27武奈の木平〜14:59マキノ高原温泉さらさ15:00
高島トレイルには三つの三国岳があるが、そのうち最北に位置する三国岳はかつては近江、若狭、越前の三国の境界であった。赤坂山から三国岳を経て乗鞍岳へと続く若狭越前の国境稜線を縦走したのは今から三年前の初秋、長男と次男を伴っての家族での山行であった。静寂の支配する濃厚な山毛欅の大樹の森に圧倒されながら、積雪期にもこの尾根を縦走してみたいと思いながら、昨年、一昨年とその機会を逸していた。
この日、普段は天気図を読んでから山行先を考えることが多いのだが、この日は若狭の国と湖国の間を歩く計画しか頭に浮かばなかった。前の週の午前中に芦原岳から眺めた野坂岳から三国岳へと続く稜線を一望し、今季こそはと思いを新たにしたためであったかもしれない。同じく芦原岳から乗鞍岳から岩籠山への縦走も考えたのだが、この縦走はマキノから国境へのバスが一つの律速段階となるのが問題だ。
天気を確認すると、この日は近畿は全般的に雲が多いらしいが、日本海側の若狭地方は天気がいいようだ。敦賀駅で小浜線に乗り換えると車内には意外と多くの人が乗車している。粟野駅で下車したのは私一人のみだった。夏に庄部谷山に向かった時も、この駅で下車したのは私一人だったことを思い出す。
この日は近畿は全般的に曇りであるが、日本海側の若狭地方は天気がいいようだ。粟野から野坂岳にいこいの森から登るのが一般的ではあるが、既に踏み固められたガチガチのトレースとなっているであろう一般登山道を避けて、一ノ岳から北東に伸びる尾根を登ることに決めていた。舞鶴若狭自動車道の下を潜ると、すぐに右手の尾根に取り付く。
尾根に広がる雑木林は明瞭な踏み跡こそないものの良好に管理されているのだろう、下生のない歩きやすい樹林が広がる。p211を過ぎてわずかに松の若木の藪を抜けるとすぐに左手から遊歩道が上ってきて、幅広い道となった。尾根の正面にはこれから辿る一ノ岳とそのピークの直下に広がる白い斜面が姿を見せる。
林道に合流すると林道の法面はあまりにも急峻で到底攀じ登る気にはなれない。はてどうしたものかと思ったが林道を少し左手に下るとCコースと書かれた道標があり、遊歩道が容易に尾根に導いてくれる。
尾根にはベンチの設けられた展望台があり、早速にも敦賀湾と市街の展望が大きく開ける。遊歩道は左手の斜面をトラバースしてゆくが、尾根上には明瞭な踏み跡が続いている。足元にちらほらと雪が出てくるようになると、雪の上には真新しい踏み跡がある。どうやら先行者がいるようだ。
下生の少ない自然林の広々とした尾根となり、朝陽が差し込む明るい樹林の中を進む。尾根の傾斜が徐々に増していく。斜面の上に単独行の男性の姿が見える。ご挨拶すると、上まで行ったが足元の雪が崩れて斜面を登ることが出来ないので諦めて引き返してきたらしい。ワカンを持って来れば良かったと後悔されておられる。アイゼンはあるので、下まで降ってから一般登山ルートでもう一度登り直されるとのことであった。
行者岩への分岐があるあたりでようやく足元の雪が深くなってきたのでスノーシューを装着する。先ほどの男性が引き返されたのはこのあたりのようだ。確かに急斜面ではあるが、スノーシューでは難なく登ってゆくことが出来る。下から見上げた一ノ岳に白い斜面が広がっていたのはこのあたりだろう。疎らに生える樹々の間からは背後に敦賀湾の展望が大きく広がる。このルートをすっかり気に入ってしまった。
やがて斜面の上部に至ると傾斜も徐々に緩くなり、切り開かれた平坦地のある小ピークに到達する。標識も何もないが、ここが地図では電波塔の記号が印された一ノ岳のピークだろう。尾根からはニノ岳と野坂岳が視界に入る。
尾根を進むとその先のコルで一般登山道と合流することになる。予想通り、登山道はトレースでガチガチに踏み固められている。スノーシューを履くまでもないのだが、リュックに括り付けてチェーンスパイクを取り出すのも面倒なので山頂までの間、完成されたトレースの上をスノーシューで通すことにした。
ニノ岳を過ぎると樹高の高いブナの壮麗な樹林となる。既に山頂から下山してこられる登山者も多いが、チェーンスパイクかアイゼンの方ばかりで、スノーシューで登る者は異様に思われたかもしれない。
山頂に到着した時には誰もおられず、静寂の山頂を独占する。360度の好展望が広がり、北には紺碧の日本海を眺望する。東では乗鞍岳から岩籠山にかけての稜線を視線で辿ってみる。そして南に向けて大きく蛇行する国境稜線の彼方に三国岳が見える。
野坂岳の眺望の素晴らしさを初めて堪能することが出来る。これまでに訪れた時はいずれも雲の中であった。芦谷山から右手の庄部谷山にかけて広がる稜線を北側から眺めたのは初めてだが、低山とは思えぬ風格があることに今更ながらに気がつく。芦谷山の彼方に三国岳が微かに山頂を覗かせている。
野坂岳の南斜面の灌木は全て雪に埋もれ、広い雪原が広がっている。しばしの間ではあるが、壮大な光景を見ながら斜面を下ってゆく。左手に伸びる尾根を下降するとすぐにも山毛欅の樹林へと入る。
野坂岳の南北の尾根はいずれも山毛欅の樹林が魅力ではあるが、北尾根では繊細な樹影の高木が多いのに対して、南尾根は疎林の中で枝ぶりを大きく広げて存在感を誇示するような大樹が目立つ。
やがて山ルートへの分岐に到来するとトレースは全て山ルートを下降していく。さすがに三国岳方面に向かうトレースは見当たらない。山へ下降する尾根には樹木のない雪原が続いており、積雪期のこのコースも魅力的に思える。
分岐より先には無雪期には灌木とユズリハの藪が広がるところだが、雪の下には藪があるとは到底、想像も出来ない景色だ。広々としたなだらかな尾根を進む。まだ雪がしまっているせいか、スノーシューはほとんど沈み込まない。ラッセルを覚悟していたところではあるが、予想外に快速で進むことが出来る。
トレースのない無垢の尾根歩きがずっと続くことを期待していたが、茶屋谷山のあたりから尾根に突然、二日前の休日のものと思われる数人分のトレースの後が現れる。おそらく山の登山口からこの茶屋谷山に突き上げる尾根を登ってこられたものと思われる。
芦谷山にかけての稜線には雪庇が発達し、こんなに展望が良かったかなと思うほどに東側に良好な展望が広がり、乗鞍岳から岩籠山への稜線を再び視線で辿る。
芦谷山の手前では急登となるが、斜面のトレースの上にスノーシューを乗せてもほとんど沈まないお陰で楽に登れてしまう。この急登をラッセルすることになると体力を消耗することになっただろう。
芦谷山到着は11時半、野坂岳からおよそ1時間半。想定以上の順調なコースタイムで来ている。トレースは芦谷山のピークで終わっているので、ここからは再び無垢の雪稜を歩くことになる。
芦谷山のあたりのブナ林はこの若越国境の白眉とも言うべき素晴らしい山毛欅の樹林が広がっている。この三日間、連続で素晴らしい山毛欅の樹林を歩いてきたが、樹林の壮麗さという点で一段レベルが高いように思われる。ここを訪れるのは既に5回目だが、その度に樹林の素晴らしさに驚嘆することになる。
とりわけ素晴らしいのは庄部谷山への尾根のジャンクション・ピークの北側のca830mの小ピークだ。ピークの中央は山毛欅の高木に取り囲まれた広地となっており、山毛欅の樹々が織りなす穹窿が聖堂のような荘厳さを感じさせる。
庄部谷山への尾根の最初のピークca830mの上には細い一本の風力計測器が見える。将来、建設される風力発電機に至適な高度を計測中だ。庄部谷山からこの芦谷山のピークは悉く風力発電のための風車が建設される予定らしいが、このピークも例外ではなく、山毛欅の樹林をこうして見上げることが出来るの機会もあとわずかだろう。
尾根が南西へと方向を変えるca740mの南斜面からは新庄乗越を挟んで三国岳が大きく見える。
新庄乗越にかけては二重尾根の複雑な地形となっている。東西どちらの尾根を下っても乗越にはたどり着くには問題がなさそうだ。新庄乗越は数年前の台風によると思われる杉の倒木が相変わらず散乱しているが、積雪のせいもあって歩きやすくなっている。三国岳への登り返しの前に行動食で軽く休憩する。
ここからは無雪期には深い掘割の道があるのだが、斜面にはかろうじて雪に埋もれた掘割の道の痕跡が見える。このあたりは丈の高い熊笹が繁茂しているところではあり、笹の中をガサゴソと遠ざかる大型動物の気配を感じた覚えがあるが、今は一面の雪の斜面に覆われている。意外と雪の状態はよく、沈み込みもそれほど深くない。
乗越からの急登を過ぎて、斜面が緩やかになると目の前には送電線鉄塔が現れ、三国岳にかけて好展望のパノラマの尾根となる。送電線が進む芦原岳から乗鞍岳にかけての稜線は野坂岳からは彼方に見えていたが、今はすぐ東隣に望むことが出来る。
三国岳の山頂部の東側にはなだらかな緩斜面に疎林が広がっており、気の向くままに逍遥する誘惑にかられる。その疎林の彼方は先日、辿ったばかりの芦原岳の山容が広がる。
北尾根にはいくつかのスキーのシュプールが刻まれていた。樹木のまばらな雪稜を辿って三国岳を目指す。西側にはようやく赤坂山、寒風と続いてゆく江若国境の展望が広がる。
三国岳の山頂から一気に琵琶湖の展望が大きく視界に飛び込むのは感動の瞬間だ。白く輝く湖は茫洋として、その先はどこまでも湖が広がっているかのように思える。
相変わらず風もなく、暑いくらいだ。赤坂山に向かう雪原の広がる尾根には数日以内のワカンとスキーのトレースともう一つ、ほとんど消えかかっているスノーシューの跡を認める。スキーは1組のシュプール以外は全て黒河峠の方に向かっている。意外にもこの数日のうちに三国岳を訪れた人は少ないようだ。
スノーシューは山毛欅の若木の濃厚な樹林が広がるca820mのピークの西側をトラバースして、p814に向かっている。数日前の私のトレースの痕だ。微かなトレースを辿る。やがてp814では再びワカンやスキーのトレースが現れる。
p814からは明王の禿はパスして、小さな谷を経て赤坂山に登り返す。明王の禿は数日前とは異なり、かなり地面が露出している。赤坂山の山頂には大人数のパーティーが見える。
赤坂山に到着したのは時刻はほぼ14時。すでに山頂は無人で粟柄越までの広々とした稜線にも人影はない。日本海と琵琶湖の両方を眺めるひと時の贅沢を堪能する。
マキノ高原には16時頃に下山できればいいと思っていたが、この分で行くと15時13分のバスに間に合うことが出来そうだ。土日祝は次の16時13分のバスが運休なのでその次のバスは17時13分となる。このバスはマキノ駅からのJRの乗り継ぎが非常に悪く、米原経由で新幹線で京都に戻ることになる。
赤坂山の南斜面からは無数のトレースがある。スピード・アップを図るためにスノーシューを脱いで送電線鉄塔をめがけて降る。しかし、スノーシューを脱いだのは大きな間違いであった。午後になって雪が緩んでいるせいか、踏み抜きまくる。送電線鉄塔からはガチガチに踏み固められたトレースとなり、踏み抜くこともなくなった。ここからは多くの人が下山しておられる。
マキノ高原に下山するとスキー場には雪がまだらに残っているばかりだ。先を歩かれておられたパーティーの一人が「朝よりもかなり少なくなっている〜!」と他のメンバーに話しかけておられた。マキノ高原にはバスが到着する10分ほどに到着した。
バスがマキノ駅に到着すると新快速までの時間は駅の南のコンビニにビールを買いに行くだけの時間の余裕があるのが有難い。ついでに駅前の湖魚の料理店では氷魚の木の芽煮を購入する。新快速に乗り込みむと、高島トレイルの雪の稜線を眺めながら早速にもビールのプルタブを開けるのだった。
茶屋谷山から芦谷山にかけてのトレースはこのrepをアップしようとする直前に風力発電計画に対して意見書を提出すべく滋賀山友会が山毛欅の調査のために訪れたものらしい。福井県の計画ではあるが隣県の山友会の池県に少しでも耳を傾けてくれると良いのだが。
https://www.shigasanyu.com/2021/02/11/個 ... 根-ブナ巨木の調査/
【 山 域 】 若越国境
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】粟野駅8:05〜10:05野坂岳〜10:34山ルート分岐〜10:47茶屋谷山〜11:31芦谷山〜12:24新庄乗越12:30〜13:31三国山13:36〜14:04赤坂山から14:27武奈の木平〜14:59マキノ高原温泉さらさ15:00
高島トレイルには三つの三国岳があるが、そのうち最北に位置する三国岳はかつては近江、若狭、越前の三国の境界であった。赤坂山から三国岳を経て乗鞍岳へと続く若狭越前の国境稜線を縦走したのは今から三年前の初秋、長男と次男を伴っての家族での山行であった。静寂の支配する濃厚な山毛欅の大樹の森に圧倒されながら、積雪期にもこの尾根を縦走してみたいと思いながら、昨年、一昨年とその機会を逸していた。
この日、普段は天気図を読んでから山行先を考えることが多いのだが、この日は若狭の国と湖国の間を歩く計画しか頭に浮かばなかった。前の週の午前中に芦原岳から眺めた野坂岳から三国岳へと続く稜線を一望し、今季こそはと思いを新たにしたためであったかもしれない。同じく芦原岳から乗鞍岳から岩籠山への縦走も考えたのだが、この縦走はマキノから国境へのバスが一つの律速段階となるのが問題だ。
天気を確認すると、この日は近畿は全般的に雲が多いらしいが、日本海側の若狭地方は天気がいいようだ。敦賀駅で小浜線に乗り換えると車内には意外と多くの人が乗車している。粟野駅で下車したのは私一人のみだった。夏に庄部谷山に向かった時も、この駅で下車したのは私一人だったことを思い出す。
この日は近畿は全般的に曇りであるが、日本海側の若狭地方は天気がいいようだ。粟野から野坂岳にいこいの森から登るのが一般的ではあるが、既に踏み固められたガチガチのトレースとなっているであろう一般登山道を避けて、一ノ岳から北東に伸びる尾根を登ることに決めていた。舞鶴若狭自動車道の下を潜ると、すぐに右手の尾根に取り付く。
尾根に広がる雑木林は明瞭な踏み跡こそないものの良好に管理されているのだろう、下生のない歩きやすい樹林が広がる。p211を過ぎてわずかに松の若木の藪を抜けるとすぐに左手から遊歩道が上ってきて、幅広い道となった。尾根の正面にはこれから辿る一ノ岳とそのピークの直下に広がる白い斜面が姿を見せる。
林道に合流すると林道の法面はあまりにも急峻で到底攀じ登る気にはなれない。はてどうしたものかと思ったが林道を少し左手に下るとCコースと書かれた道標があり、遊歩道が容易に尾根に導いてくれる。
尾根にはベンチの設けられた展望台があり、早速にも敦賀湾と市街の展望が大きく開ける。遊歩道は左手の斜面をトラバースしてゆくが、尾根上には明瞭な踏み跡が続いている。足元にちらほらと雪が出てくるようになると、雪の上には真新しい踏み跡がある。どうやら先行者がいるようだ。
下生の少ない自然林の広々とした尾根となり、朝陽が差し込む明るい樹林の中を進む。尾根の傾斜が徐々に増していく。斜面の上に単独行の男性の姿が見える。ご挨拶すると、上まで行ったが足元の雪が崩れて斜面を登ることが出来ないので諦めて引き返してきたらしい。ワカンを持って来れば良かったと後悔されておられる。アイゼンはあるので、下まで降ってから一般登山ルートでもう一度登り直されるとのことであった。
行者岩への分岐があるあたりでようやく足元の雪が深くなってきたのでスノーシューを装着する。先ほどの男性が引き返されたのはこのあたりのようだ。確かに急斜面ではあるが、スノーシューでは難なく登ってゆくことが出来る。下から見上げた一ノ岳に白い斜面が広がっていたのはこのあたりだろう。疎らに生える樹々の間からは背後に敦賀湾の展望が大きく広がる。このルートをすっかり気に入ってしまった。
やがて斜面の上部に至ると傾斜も徐々に緩くなり、切り開かれた平坦地のある小ピークに到達する。標識も何もないが、ここが地図では電波塔の記号が印された一ノ岳のピークだろう。尾根からはニノ岳と野坂岳が視界に入る。
尾根を進むとその先のコルで一般登山道と合流することになる。予想通り、登山道はトレースでガチガチに踏み固められている。スノーシューを履くまでもないのだが、リュックに括り付けてチェーンスパイクを取り出すのも面倒なので山頂までの間、完成されたトレースの上をスノーシューで通すことにした。
ニノ岳を過ぎると樹高の高いブナの壮麗な樹林となる。既に山頂から下山してこられる登山者も多いが、チェーンスパイクかアイゼンの方ばかりで、スノーシューで登る者は異様に思われたかもしれない。
山頂に到着した時には誰もおられず、静寂の山頂を独占する。360度の好展望が広がり、北には紺碧の日本海を眺望する。東では乗鞍岳から岩籠山にかけての稜線を視線で辿ってみる。そして南に向けて大きく蛇行する国境稜線の彼方に三国岳が見える。
野坂岳の眺望の素晴らしさを初めて堪能することが出来る。これまでに訪れた時はいずれも雲の中であった。芦谷山から右手の庄部谷山にかけて広がる稜線を北側から眺めたのは初めてだが、低山とは思えぬ風格があることに今更ながらに気がつく。芦谷山の彼方に三国岳が微かに山頂を覗かせている。
野坂岳の南斜面の灌木は全て雪に埋もれ、広い雪原が広がっている。しばしの間ではあるが、壮大な光景を見ながら斜面を下ってゆく。左手に伸びる尾根を下降するとすぐにも山毛欅の樹林へと入る。
野坂岳の南北の尾根はいずれも山毛欅の樹林が魅力ではあるが、北尾根では繊細な樹影の高木が多いのに対して、南尾根は疎林の中で枝ぶりを大きく広げて存在感を誇示するような大樹が目立つ。
やがて山ルートへの分岐に到来するとトレースは全て山ルートを下降していく。さすがに三国岳方面に向かうトレースは見当たらない。山へ下降する尾根には樹木のない雪原が続いており、積雪期のこのコースも魅力的に思える。
分岐より先には無雪期には灌木とユズリハの藪が広がるところだが、雪の下には藪があるとは到底、想像も出来ない景色だ。広々としたなだらかな尾根を進む。まだ雪がしまっているせいか、スノーシューはほとんど沈み込まない。ラッセルを覚悟していたところではあるが、予想外に快速で進むことが出来る。
トレースのない無垢の尾根歩きがずっと続くことを期待していたが、茶屋谷山のあたりから尾根に突然、二日前の休日のものと思われる数人分のトレースの後が現れる。おそらく山の登山口からこの茶屋谷山に突き上げる尾根を登ってこられたものと思われる。
芦谷山にかけての稜線には雪庇が発達し、こんなに展望が良かったかなと思うほどに東側に良好な展望が広がり、乗鞍岳から岩籠山への稜線を再び視線で辿る。
芦谷山の手前では急登となるが、斜面のトレースの上にスノーシューを乗せてもほとんど沈まないお陰で楽に登れてしまう。この急登をラッセルすることになると体力を消耗することになっただろう。
芦谷山到着は11時半、野坂岳からおよそ1時間半。想定以上の順調なコースタイムで来ている。トレースは芦谷山のピークで終わっているので、ここからは再び無垢の雪稜を歩くことになる。
芦谷山のあたりのブナ林はこの若越国境の白眉とも言うべき素晴らしい山毛欅の樹林が広がっている。この三日間、連続で素晴らしい山毛欅の樹林を歩いてきたが、樹林の壮麗さという点で一段レベルが高いように思われる。ここを訪れるのは既に5回目だが、その度に樹林の素晴らしさに驚嘆することになる。
とりわけ素晴らしいのは庄部谷山への尾根のジャンクション・ピークの北側のca830mの小ピークだ。ピークの中央は山毛欅の高木に取り囲まれた広地となっており、山毛欅の樹々が織りなす穹窿が聖堂のような荘厳さを感じさせる。
庄部谷山への尾根の最初のピークca830mの上には細い一本の風力計測器が見える。将来、建設される風力発電機に至適な高度を計測中だ。庄部谷山からこの芦谷山のピークは悉く風力発電のための風車が建設される予定らしいが、このピークも例外ではなく、山毛欅の樹林をこうして見上げることが出来るの機会もあとわずかだろう。
尾根が南西へと方向を変えるca740mの南斜面からは新庄乗越を挟んで三国岳が大きく見える。
新庄乗越にかけては二重尾根の複雑な地形となっている。東西どちらの尾根を下っても乗越にはたどり着くには問題がなさそうだ。新庄乗越は数年前の台風によると思われる杉の倒木が相変わらず散乱しているが、積雪のせいもあって歩きやすくなっている。三国岳への登り返しの前に行動食で軽く休憩する。
ここからは無雪期には深い掘割の道があるのだが、斜面にはかろうじて雪に埋もれた掘割の道の痕跡が見える。このあたりは丈の高い熊笹が繁茂しているところではあり、笹の中をガサゴソと遠ざかる大型動物の気配を感じた覚えがあるが、今は一面の雪の斜面に覆われている。意外と雪の状態はよく、沈み込みもそれほど深くない。
乗越からの急登を過ぎて、斜面が緩やかになると目の前には送電線鉄塔が現れ、三国岳にかけて好展望のパノラマの尾根となる。送電線が進む芦原岳から乗鞍岳にかけての稜線は野坂岳からは彼方に見えていたが、今はすぐ東隣に望むことが出来る。
三国岳の山頂部の東側にはなだらかな緩斜面に疎林が広がっており、気の向くままに逍遥する誘惑にかられる。その疎林の彼方は先日、辿ったばかりの芦原岳の山容が広がる。
北尾根にはいくつかのスキーのシュプールが刻まれていた。樹木のまばらな雪稜を辿って三国岳を目指す。西側にはようやく赤坂山、寒風と続いてゆく江若国境の展望が広がる。
三国岳の山頂から一気に琵琶湖の展望が大きく視界に飛び込むのは感動の瞬間だ。白く輝く湖は茫洋として、その先はどこまでも湖が広がっているかのように思える。
相変わらず風もなく、暑いくらいだ。赤坂山に向かう雪原の広がる尾根には数日以内のワカンとスキーのトレースともう一つ、ほとんど消えかかっているスノーシューの跡を認める。スキーは1組のシュプール以外は全て黒河峠の方に向かっている。意外にもこの数日のうちに三国岳を訪れた人は少ないようだ。
スノーシューは山毛欅の若木の濃厚な樹林が広がるca820mのピークの西側をトラバースして、p814に向かっている。数日前の私のトレースの痕だ。微かなトレースを辿る。やがてp814では再びワカンやスキーのトレースが現れる。
p814からは明王の禿はパスして、小さな谷を経て赤坂山に登り返す。明王の禿は数日前とは異なり、かなり地面が露出している。赤坂山の山頂には大人数のパーティーが見える。
赤坂山に到着したのは時刻はほぼ14時。すでに山頂は無人で粟柄越までの広々とした稜線にも人影はない。日本海と琵琶湖の両方を眺めるひと時の贅沢を堪能する。
マキノ高原には16時頃に下山できればいいと思っていたが、この分で行くと15時13分のバスに間に合うことが出来そうだ。土日祝は次の16時13分のバスが運休なのでその次のバスは17時13分となる。このバスはマキノ駅からのJRの乗り継ぎが非常に悪く、米原経由で新幹線で京都に戻ることになる。
赤坂山の南斜面からは無数のトレースがある。スピード・アップを図るためにスノーシューを脱いで送電線鉄塔をめがけて降る。しかし、スノーシューを脱いだのは大きな間違いであった。午後になって雪が緩んでいるせいか、踏み抜きまくる。送電線鉄塔からはガチガチに踏み固められたトレースとなり、踏み抜くこともなくなった。ここからは多くの人が下山しておられる。
マキノ高原に下山するとスキー場には雪がまだらに残っているばかりだ。先を歩かれておられたパーティーの一人が「朝よりもかなり少なくなっている〜!」と他のメンバーに話しかけておられた。マキノ高原にはバスが到着する10分ほどに到着した。
バスがマキノ駅に到着すると新快速までの時間は駅の南のコンビニにビールを買いに行くだけの時間の余裕があるのが有難い。ついでに駅前の湖魚の料理店では氷魚の木の芽煮を購入する。新快速に乗り込みむと、高島トレイルの雪の稜線を眺めながら早速にもビールのプルタブを開けるのだった。
茶屋谷山から芦谷山にかけてのトレースはこのrepをアップしようとする直前に風力発電計画に対して意見書を提出すべく滋賀山友会が山毛欅の調査のために訪れたものらしい。福井県の計画ではあるが隣県の山友会の池県に少しでも耳を傾けてくれると良いのだが。
https://www.shigasanyu.com/2021/02/11/個 ... 根-ブナ巨木の調査/