【若狭】マザーツリーに抱かれて 新雪の大御影山
Posted: 2020年2月13日(木) 21:14
【日 付】2020年2月11日(火)
【山 域】若狭 大御影山
【天 候】晴れ
【コース】松屋7:55---9:05 P597---11:15ノロ尾の高12:40---13:00大御影山---14:35三重嶽分岐---
15:15イヤ谷左岸尾根分岐---16:30能登又谷林道---17:10松屋
夜半、熊川のあたりで降っていた雪は、三方まで来ると止んでいた。と言うより、路面が濡れていない。
もともとこの付近では降っていなかったのか。
明けた土曜日の朝。耳川の奥にかかる雲はピンクに染まっている。今日は安定した天気のようだ。
この2日ほどの降雪で、異常に雪の少なかった耳川流域の山々にも少しは積もっただろう。
松屋の駐車場に車を止めて出発。能登又谷への林道は竹竿で通せんぼしてあるのかと思ったら、ただ竹が倒れ
ていただけだった。
最初から雪を踏んで歩けるとは思っていなかった。せいぜい10センチ程度の積雪ではあるが、土の上を歩くより
は雪山気分が出ていい。標高が低いのでこのあたりは雨だったのか、グズグズの腐れ雪だ。
標高500mを超えたあたりからしっかりと積もり始めた。スノーシューを履いてもいい雪量だが、止まりたく
ないので597m標高点まではとノンストップで歩く。
積雪は50センチオーバーというところか。
煩わしいヤブは雪の下に隠れるだけは積もっているので、意外にスッキリしている。
シャーベット状になった小さな池を横目で見て、コルから急登にかかる。この登りの途中にあるブナの巨木は
一見の価値がある。腕をL字に上げたような枝を持つブナは、私が「剛腕ブナ」と呼んでいる、力強い立ち姿の
ブナである。(剛腕ブナというネーミングはハリマオさんのパクリだが)
今日は昨年新調してから一度も使っていなかったスノーシュー、「LIGHTNING EXPLORER」のデビュー戦である。
このスノーシューのバインディングシステムは素晴らしい。踵側を一度靴に合わせて調節すれば、次からはつま
先側のベルトを差し込んで、レバーをカチャカチャと動かすだけで締めてくれる、ラチェット式と呼ばれるシス
テムだ。装着の簡単さ、確実に締まっていることを実感できるレバーの操作性は申し分なく、感動的ですらある。
ベルト式のように引っ張る力も必要ない。外す時もリリースレバーを押して、前のベルトを抜くだけである。
ベルト式の「LIGHTNING ASSENT」と比較すると、脱着に要する時間は四分の一程度で済むのではないだろうか。
このあたりでは新雪が20センチぐらい積もったようだが、湿った雪で重い。
沈みはくるぶしから足首程度なのでさほどの負担にはならないが、もう少し潜ると今の体力では厳しいだろう。
ヒールリフターを利かせて急斜面にステップを刻む。ブナとスギの混交林を抜けると、ねじ曲がった潅木が尾
根芯に繁る緩やかな尾根となる。頭上には申し分のない青空が広がっている。
積雪は1メートルはあるだろうか。潅木の方へ寄ると、まだ固まっていない雪に股までボソっとはまり込むこ
とがあるので注意が必要だ。ここは展望を捨てて、北側斜面のブナ林を楽しみながら歩く方が得策と言える。
その展望はまさに全開。やや霞がちで遠望は利かないものの、野坂山地の山並み、伊吹から金糞、越美国境、
鈴鹿北部の山々を手中にすることができる。山に区切られた狭い範囲ながら、琵琶湖の湖面も光を帯びていた。
雪のノロ尾の高は実にいい。もともと下生えの少ない場所ではあるが、雪の上にスックと立つブナの饗宴は素
晴らしい。
時間は少し早いが、マザーツリーの下でランチタイムとしよう。ちょうど根元の窪みに腰掛けられるスペース
があり、風を除けるのにおあつらえ向きだ。ここで大御影山の反射板方向を眺めながら昼飯を食うのが自分の作
法。美浜トレイルの標識はわずかに頭を出している程度で、思ったよりも雪が多いのがうれしい。
ここからの下山路は自由自在。いろんなオプションがある。時間も早いので、大日方面へできるだけ進んでみ
るか。
大御影山頂とノロ尾の高を結ぶ尾根は大雪原となっている。先ほどはわずかしか見えなかった琵琶湖は、その
面積を広げている。北には若狭の海や青葉山の姿が美しい。
雪の少なさゆえ、雪庇がほとんどできていないのがやや物足りないのと、霧氷があればというところだが、スノ
ーシューハイクを楽しめるだけでも今年の場合は満足すべきかもしれない。
大御影山の大きな看板はなくなっていた。あれが埋まるほど雪は積もっていないはずだが。
9月に来た時は荒れて雑然とした印象だった近江坂も、「色の白いは七難隠す」で、掘り込まれた道がまるで
ボブスレーコースのように滑らかな曲線を描いて、美しい風景を作り出していた。
左に目をやると、三重嶽の堂々たる姿が印象的だ。
ブナ林はどこまでも続く。下山ポイントを2カ所通過して、三重嶽の分岐までやってきた。
大日まで行くのも面倒なので、イヤ谷の左岸尾根を下ろう。さらに続くブナのプロムナードを堪能しながら、お
なじみの巨木に挨拶をして進む。おっと、尾根の分岐点を過ぎてしまった。
少し戻ってイヤ谷左岸尾根に入る。この尾根は特段素晴らしいというわけではないが、無雪期でもまずまず歩き
やすい、いいルートである。この山域には素晴らしい尾根が多過ぎるので、つい辛口の採点になってしまうのか
もしれないが。
尾根の下部はユズリハジャングルと杉林。
茗荷谷出合に着地するよう気を付けていたつもりだったが、何をトチ狂ったのか真東への尾根に乗ってしまった。
このまま進めば林道法面の高いガケに出てしまう。右へトラバースして林道の上部へソフトランディング。事な
きを得た。
これで今日の山旅も終わったと安堵したところで、最後に思わぬハプニングが待っていた。
林道を歩いているとシカが横切った。と思ったら、何やら重そうなものを引きずっている。
どうやらワナに掛かってしまったらしい。逃げようとするが、進むに進めないシカ。足首にはワイヤーががっち
り食い込んでいて、ワイヤーの先には十字に組んだ丸太があった。かわいそうだが仕方がない。
ワナを仕掛けた方にも事情があり、ゆきずりの登山者の感傷でどうこう言うべきものでもない。
後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去るが、振り返った時、「行かないで」という目でじっとこちらを見つめ
ていたシカが哀れだった。
山日和
【山 域】若狭 大御影山
【天 候】晴れ
【コース】松屋7:55---9:05 P597---11:15ノロ尾の高12:40---13:00大御影山---14:35三重嶽分岐---
15:15イヤ谷左岸尾根分岐---16:30能登又谷林道---17:10松屋
夜半、熊川のあたりで降っていた雪は、三方まで来ると止んでいた。と言うより、路面が濡れていない。
もともとこの付近では降っていなかったのか。
明けた土曜日の朝。耳川の奥にかかる雲はピンクに染まっている。今日は安定した天気のようだ。
この2日ほどの降雪で、異常に雪の少なかった耳川流域の山々にも少しは積もっただろう。
松屋の駐車場に車を止めて出発。能登又谷への林道は竹竿で通せんぼしてあるのかと思ったら、ただ竹が倒れ
ていただけだった。
最初から雪を踏んで歩けるとは思っていなかった。せいぜい10センチ程度の積雪ではあるが、土の上を歩くより
は雪山気分が出ていい。標高が低いのでこのあたりは雨だったのか、グズグズの腐れ雪だ。
標高500mを超えたあたりからしっかりと積もり始めた。スノーシューを履いてもいい雪量だが、止まりたく
ないので597m標高点まではとノンストップで歩く。
積雪は50センチオーバーというところか。
煩わしいヤブは雪の下に隠れるだけは積もっているので、意外にスッキリしている。
シャーベット状になった小さな池を横目で見て、コルから急登にかかる。この登りの途中にあるブナの巨木は
一見の価値がある。腕をL字に上げたような枝を持つブナは、私が「剛腕ブナ」と呼んでいる、力強い立ち姿の
ブナである。(剛腕ブナというネーミングはハリマオさんのパクリだが)
今日は昨年新調してから一度も使っていなかったスノーシュー、「LIGHTNING EXPLORER」のデビュー戦である。
このスノーシューのバインディングシステムは素晴らしい。踵側を一度靴に合わせて調節すれば、次からはつま
先側のベルトを差し込んで、レバーをカチャカチャと動かすだけで締めてくれる、ラチェット式と呼ばれるシス
テムだ。装着の簡単さ、確実に締まっていることを実感できるレバーの操作性は申し分なく、感動的ですらある。
ベルト式のように引っ張る力も必要ない。外す時もリリースレバーを押して、前のベルトを抜くだけである。
ベルト式の「LIGHTNING ASSENT」と比較すると、脱着に要する時間は四分の一程度で済むのではないだろうか。
このあたりでは新雪が20センチぐらい積もったようだが、湿った雪で重い。
沈みはくるぶしから足首程度なのでさほどの負担にはならないが、もう少し潜ると今の体力では厳しいだろう。
ヒールリフターを利かせて急斜面にステップを刻む。ブナとスギの混交林を抜けると、ねじ曲がった潅木が尾
根芯に繁る緩やかな尾根となる。頭上には申し分のない青空が広がっている。
積雪は1メートルはあるだろうか。潅木の方へ寄ると、まだ固まっていない雪に股までボソっとはまり込むこ
とがあるので注意が必要だ。ここは展望を捨てて、北側斜面のブナ林を楽しみながら歩く方が得策と言える。
その展望はまさに全開。やや霞がちで遠望は利かないものの、野坂山地の山並み、伊吹から金糞、越美国境、
鈴鹿北部の山々を手中にすることができる。山に区切られた狭い範囲ながら、琵琶湖の湖面も光を帯びていた。
雪のノロ尾の高は実にいい。もともと下生えの少ない場所ではあるが、雪の上にスックと立つブナの饗宴は素
晴らしい。
時間は少し早いが、マザーツリーの下でランチタイムとしよう。ちょうど根元の窪みに腰掛けられるスペース
があり、風を除けるのにおあつらえ向きだ。ここで大御影山の反射板方向を眺めながら昼飯を食うのが自分の作
法。美浜トレイルの標識はわずかに頭を出している程度で、思ったよりも雪が多いのがうれしい。
ここからの下山路は自由自在。いろんなオプションがある。時間も早いので、大日方面へできるだけ進んでみ
るか。
大御影山頂とノロ尾の高を結ぶ尾根は大雪原となっている。先ほどはわずかしか見えなかった琵琶湖は、その
面積を広げている。北には若狭の海や青葉山の姿が美しい。
雪の少なさゆえ、雪庇がほとんどできていないのがやや物足りないのと、霧氷があればというところだが、スノ
ーシューハイクを楽しめるだけでも今年の場合は満足すべきかもしれない。
大御影山の大きな看板はなくなっていた。あれが埋まるほど雪は積もっていないはずだが。
9月に来た時は荒れて雑然とした印象だった近江坂も、「色の白いは七難隠す」で、掘り込まれた道がまるで
ボブスレーコースのように滑らかな曲線を描いて、美しい風景を作り出していた。
左に目をやると、三重嶽の堂々たる姿が印象的だ。
ブナ林はどこまでも続く。下山ポイントを2カ所通過して、三重嶽の分岐までやってきた。
大日まで行くのも面倒なので、イヤ谷の左岸尾根を下ろう。さらに続くブナのプロムナードを堪能しながら、お
なじみの巨木に挨拶をして進む。おっと、尾根の分岐点を過ぎてしまった。
少し戻ってイヤ谷左岸尾根に入る。この尾根は特段素晴らしいというわけではないが、無雪期でもまずまず歩き
やすい、いいルートである。この山域には素晴らしい尾根が多過ぎるので、つい辛口の採点になってしまうのか
もしれないが。
尾根の下部はユズリハジャングルと杉林。
茗荷谷出合に着地するよう気を付けていたつもりだったが、何をトチ狂ったのか真東への尾根に乗ってしまった。
このまま進めば林道法面の高いガケに出てしまう。右へトラバースして林道の上部へソフトランディング。事な
きを得た。
これで今日の山旅も終わったと安堵したところで、最後に思わぬハプニングが待っていた。
林道を歩いているとシカが横切った。と思ったら、何やら重そうなものを引きずっている。
どうやらワナに掛かってしまったらしい。逃げようとするが、進むに進めないシカ。足首にはワイヤーががっち
り食い込んでいて、ワイヤーの先には十字に組んだ丸太があった。かわいそうだが仕方がない。
ワナを仕掛けた方にも事情があり、ゆきずりの登山者の感傷でどうこう言うべきものでもない。
後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去るが、振り返った時、「行かないで」という目でじっとこちらを見つめ
ていたシカが哀れだった。
山日和