【美山】ヤブオフ前夜は芦生の森に廃村と古道を訪ね大段谷山へ
Posted: 2019年6月02日(日) 20:30
【 日 付 】2019年5月25日(土曜日)
【 山 域 】美山
【メンバー】山猫、家内
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】須後(芦生山の家)駐車場9:44~10:15廃村灰野10:22~11:47p813~12:19大段谷山~13:54芦生山の家駐車場
この日は天気に関わらず美山を訪れることを決めていた。訪れたい場所があったのだが、そのついでに山行を考える。ついでとはいえ、美山の界隈には八ヶ峰、ホサビ山、ハナノ段山、奥八丁山とまだ登ったことはないものの魅力的な山が目白押しではある。散々迷った挙句、選んだのは大段谷山を選ぶことにした。足を踏み入れたことのない芦生のトロッコ軌道を辿った先にある古い廃村跡、そして大段谷山から北東に伸びる尾根上に通じる芦生古道に惹かれたのが一応の理由である。
芦生の森を訪れるのは事前の申し込みが面倒くさいと思っていたのでこれまで敬遠していたのだが、入林届の提出は意外と簡単であった。京都大学の研究林の入り口にあるboxにある用紙に記入して、箱に投函するばかりだ。ほとんど通常の登山届と変わらない。
廃村灰野に向かうにはトロッコの軌道跡を進む。線路が敷かれた橋を渡ると、軌道は植林の中へと入ってゆく。
植林の中では新緑の樹々に木漏れ陽が落とす斑な透過光が鮮やかな若緑を点描する。早速にも足元の枕木の間では数多くのトキワハゼの花々が出迎えてくれる。軌道の上からは多くのタニウツギの花も彩りを添える。
枕木がコンクリートであるせいもあるだろうか、まだそれほど古くはない印象である。1975年頃まで木材を運んでいたらしい。
トロッコの軌道を歩くという経験は始めてであるが、平行に敷かれた二本のレールの存在は非現実的であり、ノスタルジックな感覚を呼び起こす。まずは思い出すのは映画スタンド・バイ・ミー、それから芥川龍之介のかの有名な短編小説だろう。最近、久しぶりに芥川龍之介の作品を読み直してみたが、歩きながら主人公の良平がトロッコを押して進む悦びに思いを馳せる。リンリンと鳴るリズミカルな熊鈴を音もこの軌道を辿る愉しさを盛り上げるのに一役買ってくれるようだ。
植林が切れると左手に由良川の緩やかな清流の音を聞きながら進んでゆく。軌道沿いには次々とサワグルミ、トチノキ、カツラの巨樹が現れる。
再び杉の植林地の中に入るとまもなく苔むした長い石垣が現れ、灰野の廃村跡に辿り着いたことを知る。整然と段々に築かれた石垣と垂直に生える杉の樹々は森の中に不思議な縦と横の線を描いている。樹高の高い杉の植林の梢からわずかに木漏れ陽が差し込むばかりの鬱蒼としたこの廃村跡には霊的な雰囲気が漂う。
さて、灰野からは大段谷山へ入るための登山道を辿りたいところであるが、登山道への分岐の標識などは一切ない。廃村跡を奥へと進むと斜面をジグザグに登ってゆく踏み跡を見つける。踏み跡は谷から離れて、左岸の急斜面を上へ上へと登ってゆく。まもなく植林地の杉の樹の間に他に抜きん出て一際太い芦生杉の巨木が目に入る。さすがは芦生の森である。林の奥からは早くも蝉の声が聞こえ始める。
かなり高くまで登ったところで、ようやく道は水平なトラバース道に入る。小さな谷を越えるところでは道は明らかに崩落しており、踏み跡も消えている。谷の向こう側で細い道を見つけることが出来るからいいものの、この登山道は山と高原地図に記されている実線よりも破線のほうが相応しいような気がする。
やがて左手から沢の音が聞こえてくると、道は灰野川の沢筋へと下ってゆく。すでに沢の流れはかなり細くなっている。広い谷を登ってゆくと、立派な炭窯の跡が次々と現れる。
地図では登山路は沢を離れて再び左岸の尾根上へと登ってゆくことになっているが、この尾根は下山で辿る予定であるのと、谷沿いに微かな踏み跡がついているので、踏み跡を辿って沢を詰めることにする。やがて谷の傾斜がきつくなり始めるあたりで再び炭焼窯の跡が現れる。踏み跡はここから先は消えており、どうやらこの炭焼窯にたどり着くための杣道だったようだ。
沢の源頭はどちらも急斜面となっているが、p813へと登る尾根に取り付くことにする。尾根は植林地となり、急斜面をジグザグと登る。斜面を登りきって、なだらかな源頭にたどり着くと主のようなカツラの巨木が新緑の枝ぶりを広げている。
尾根にたどり着くと途端に隣の赤崎西谷から吹きがってくる涼しい風が急登で火照った躰を冷ましてくれる。P813の東側の斜面に下ってみると展望が開けており、佐々里峠から小野村割岳に向かって続く長い稜線を眺望する。P813のピークはこの日の山行の最高地点となるが、倒木が折り重なり荒れた印象である。倒木の上に立って見回すと、佐々里峠からやってくる明瞭な踏み跡が目に入る。
尾根を北西に大段谷山にむけて辿ると、すぐに灰野からの登山路との分岐に出る。尾根上に目立つのはホオノキとミズナラの樹である。ホオノキの梢に目を凝らすと樹の高いところでは白い花を咲かせているものが多い。
アップダウンの少ない広い尾根を進むが、大段谷山の手前のピークからは意外と下る。地図を眺めると大段谷山の山頂はこの手前のピークca810mよりも低く、標高は795.1mである。山頂は山毛欅や楓の樹林のなだらかな台地であり、山名標がなければ山頂と認識するのは難しいだろう。
先程の分岐に戻ると、下山は灰野谷の左岸尾根を辿るようになる。道は掘割式の古道となる。このあたりでも尾根の周りには芦生杉の巨木が散見する。右手の灰野谷へと降りてゆく分岐点に来ると古い道標が地面に置かれている。尾根上の道を指す道標には「須後(ハイキング道には不適当)」と記されている。確かにテープ類は少なく、踏み跡は不明瞭であるが、尾根筋は明瞭であり、尾根上の小ピークp730を過ぎると、なだらか尾根が延々と続く。尾根が北西に大きく方向を転じると、樹林の切れ目からは訪れたばかりの大段谷山のピークを望む。
高低差のないなだらかな尾根を辿るまではよかったのだが、やがて尾根が下りにさし掛かると北山分水嶺クラブの地図では右手の急斜面を下る破線がついているのだが、慎重に探したつもりであるが踏み跡が見当たらない。尾根を先に進んでみるが、尾根上の踏み跡も不明瞭になり始める。
やむを得ない。急斜面は杉の植林地であり、斜面の起伏が見えやすい。下りやすいところを選んでジグザグに斜面を下ると、やがて斜面は緩やかになり、下の方に軌道のレールと由良川の流れが目に入った。
再び軌道に降り立つと向こうからやってくる30人ほどのパーティーに出遭う。向こうからすれば杉林の中から忽然と我々が現れたので驚かれたようだ。「何処に行かれておられたんですか?」先頭のガイドかリーダーと思しき男性から質問を頂く。説明が難しいので大段谷山ですとお答えするが、「それはずいぶんと健脚ですね」と驚かれる。普通のコースをピストン往復するのであれば、それほど難しい登山ではないと思われるが、おそらく大段谷山を登ることを目的にこの芦生の森に足を踏み入れる人は少ないのだろう。由良川にかかる橋の上でさらに二人組の男性とすれ違う。やはり芦生の森はそれなりに人気のようだ。
橋をわたると涼しい日陰から一気に日なたに出たせいだろうか、照りつけるような陽射しと午後の熱気の中に飛び込むことになる。京都大学の研究センターの敷地でも無造作に置かれた古いトロッコがじりじりと陽射しに焼かれているようだ。失礼かもしれないが玩具のように小さなディーゼル・エンジンを中央に載せた車両は、果たしてよくぞこんなもので木材を運搬することが出来るものだと感心せざるを得ない。トロッコの先では終わりかけの石楠花の花が我々の山行を労ってくれる。
須後の駐車場に戻ると朝に来た時には他には一台もなかった駐車場はかなりの数の車が停められている。芦生の集落を辞すと美山へと向かう。かやぶきの里を通りがかると驚く程、大勢の人である。最後はこの日の本来の目的であった紅花山芍薬の咲く美山の森を訪ねる。極めて良好に手入れされた杉林の中で、木立を吹き抜ける風にそよぐ紅花の繊細な花弁と木漏れ陽の戯れに眼福を充たすのだった。
森を出ると集落の軒先では紫陽花が咲き始めている。今年も早くも夏が暑くなりそうな予感がする。この日、京都市内に帰り着いた夕方16時半の時点で、電光掲示板の温度計は36℃を示している。家内はこの日の暑さのせいか、光化学スモッグのせいか相当に疲れた様子であった。気弱な声を出す「明日のオフ会、無事、行けるかな~」
【 山 域 】美山
【メンバー】山猫、家内
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】須後(芦生山の家)駐車場9:44~10:15廃村灰野10:22~11:47p813~12:19大段谷山~13:54芦生山の家駐車場
この日は天気に関わらず美山を訪れることを決めていた。訪れたい場所があったのだが、そのついでに山行を考える。ついでとはいえ、美山の界隈には八ヶ峰、ホサビ山、ハナノ段山、奥八丁山とまだ登ったことはないものの魅力的な山が目白押しではある。散々迷った挙句、選んだのは大段谷山を選ぶことにした。足を踏み入れたことのない芦生のトロッコ軌道を辿った先にある古い廃村跡、そして大段谷山から北東に伸びる尾根上に通じる芦生古道に惹かれたのが一応の理由である。
芦生の森を訪れるのは事前の申し込みが面倒くさいと思っていたのでこれまで敬遠していたのだが、入林届の提出は意外と簡単であった。京都大学の研究林の入り口にあるboxにある用紙に記入して、箱に投函するばかりだ。ほとんど通常の登山届と変わらない。
廃村灰野に向かうにはトロッコの軌道跡を進む。線路が敷かれた橋を渡ると、軌道は植林の中へと入ってゆく。
植林の中では新緑の樹々に木漏れ陽が落とす斑な透過光が鮮やかな若緑を点描する。早速にも足元の枕木の間では数多くのトキワハゼの花々が出迎えてくれる。軌道の上からは多くのタニウツギの花も彩りを添える。
枕木がコンクリートであるせいもあるだろうか、まだそれほど古くはない印象である。1975年頃まで木材を運んでいたらしい。
トロッコの軌道を歩くという経験は始めてであるが、平行に敷かれた二本のレールの存在は非現実的であり、ノスタルジックな感覚を呼び起こす。まずは思い出すのは映画スタンド・バイ・ミー、それから芥川龍之介のかの有名な短編小説だろう。最近、久しぶりに芥川龍之介の作品を読み直してみたが、歩きながら主人公の良平がトロッコを押して進む悦びに思いを馳せる。リンリンと鳴るリズミカルな熊鈴を音もこの軌道を辿る愉しさを盛り上げるのに一役買ってくれるようだ。
植林が切れると左手に由良川の緩やかな清流の音を聞きながら進んでゆく。軌道沿いには次々とサワグルミ、トチノキ、カツラの巨樹が現れる。
再び杉の植林地の中に入るとまもなく苔むした長い石垣が現れ、灰野の廃村跡に辿り着いたことを知る。整然と段々に築かれた石垣と垂直に生える杉の樹々は森の中に不思議な縦と横の線を描いている。樹高の高い杉の植林の梢からわずかに木漏れ陽が差し込むばかりの鬱蒼としたこの廃村跡には霊的な雰囲気が漂う。
さて、灰野からは大段谷山へ入るための登山道を辿りたいところであるが、登山道への分岐の標識などは一切ない。廃村跡を奥へと進むと斜面をジグザグに登ってゆく踏み跡を見つける。踏み跡は谷から離れて、左岸の急斜面を上へ上へと登ってゆく。まもなく植林地の杉の樹の間に他に抜きん出て一際太い芦生杉の巨木が目に入る。さすがは芦生の森である。林の奥からは早くも蝉の声が聞こえ始める。
かなり高くまで登ったところで、ようやく道は水平なトラバース道に入る。小さな谷を越えるところでは道は明らかに崩落しており、踏み跡も消えている。谷の向こう側で細い道を見つけることが出来るからいいものの、この登山道は山と高原地図に記されている実線よりも破線のほうが相応しいような気がする。
やがて左手から沢の音が聞こえてくると、道は灰野川の沢筋へと下ってゆく。すでに沢の流れはかなり細くなっている。広い谷を登ってゆくと、立派な炭窯の跡が次々と現れる。
地図では登山路は沢を離れて再び左岸の尾根上へと登ってゆくことになっているが、この尾根は下山で辿る予定であるのと、谷沿いに微かな踏み跡がついているので、踏み跡を辿って沢を詰めることにする。やがて谷の傾斜がきつくなり始めるあたりで再び炭焼窯の跡が現れる。踏み跡はここから先は消えており、どうやらこの炭焼窯にたどり着くための杣道だったようだ。
沢の源頭はどちらも急斜面となっているが、p813へと登る尾根に取り付くことにする。尾根は植林地となり、急斜面をジグザグと登る。斜面を登りきって、なだらかな源頭にたどり着くと主のようなカツラの巨木が新緑の枝ぶりを広げている。
尾根にたどり着くと途端に隣の赤崎西谷から吹きがってくる涼しい風が急登で火照った躰を冷ましてくれる。P813の東側の斜面に下ってみると展望が開けており、佐々里峠から小野村割岳に向かって続く長い稜線を眺望する。P813のピークはこの日の山行の最高地点となるが、倒木が折り重なり荒れた印象である。倒木の上に立って見回すと、佐々里峠からやってくる明瞭な踏み跡が目に入る。
尾根を北西に大段谷山にむけて辿ると、すぐに灰野からの登山路との分岐に出る。尾根上に目立つのはホオノキとミズナラの樹である。ホオノキの梢に目を凝らすと樹の高いところでは白い花を咲かせているものが多い。
アップダウンの少ない広い尾根を進むが、大段谷山の手前のピークからは意外と下る。地図を眺めると大段谷山の山頂はこの手前のピークca810mよりも低く、標高は795.1mである。山頂は山毛欅や楓の樹林のなだらかな台地であり、山名標がなければ山頂と認識するのは難しいだろう。
先程の分岐に戻ると、下山は灰野谷の左岸尾根を辿るようになる。道は掘割式の古道となる。このあたりでも尾根の周りには芦生杉の巨木が散見する。右手の灰野谷へと降りてゆく分岐点に来ると古い道標が地面に置かれている。尾根上の道を指す道標には「須後(ハイキング道には不適当)」と記されている。確かにテープ類は少なく、踏み跡は不明瞭であるが、尾根筋は明瞭であり、尾根上の小ピークp730を過ぎると、なだらか尾根が延々と続く。尾根が北西に大きく方向を転じると、樹林の切れ目からは訪れたばかりの大段谷山のピークを望む。
高低差のないなだらかな尾根を辿るまではよかったのだが、やがて尾根が下りにさし掛かると北山分水嶺クラブの地図では右手の急斜面を下る破線がついているのだが、慎重に探したつもりであるが踏み跡が見当たらない。尾根を先に進んでみるが、尾根上の踏み跡も不明瞭になり始める。
やむを得ない。急斜面は杉の植林地であり、斜面の起伏が見えやすい。下りやすいところを選んでジグザグに斜面を下ると、やがて斜面は緩やかになり、下の方に軌道のレールと由良川の流れが目に入った。
再び軌道に降り立つと向こうからやってくる30人ほどのパーティーに出遭う。向こうからすれば杉林の中から忽然と我々が現れたので驚かれたようだ。「何処に行かれておられたんですか?」先頭のガイドかリーダーと思しき男性から質問を頂く。説明が難しいので大段谷山ですとお答えするが、「それはずいぶんと健脚ですね」と驚かれる。普通のコースをピストン往復するのであれば、それほど難しい登山ではないと思われるが、おそらく大段谷山を登ることを目的にこの芦生の森に足を踏み入れる人は少ないのだろう。由良川にかかる橋の上でさらに二人組の男性とすれ違う。やはり芦生の森はそれなりに人気のようだ。
橋をわたると涼しい日陰から一気に日なたに出たせいだろうか、照りつけるような陽射しと午後の熱気の中に飛び込むことになる。京都大学の研究センターの敷地でも無造作に置かれた古いトロッコがじりじりと陽射しに焼かれているようだ。失礼かもしれないが玩具のように小さなディーゼル・エンジンを中央に載せた車両は、果たしてよくぞこんなもので木材を運搬することが出来るものだと感心せざるを得ない。トロッコの先では終わりかけの石楠花の花が我々の山行を労ってくれる。
須後の駐車場に戻ると朝に来た時には他には一台もなかった駐車場はかなりの数の車が停められている。芦生の集落を辞すと美山へと向かう。かやぶきの里を通りがかると驚く程、大勢の人である。最後はこの日の本来の目的であった紅花山芍薬の咲く美山の森を訪ねる。極めて良好に手入れされた杉林の中で、木立を吹き抜ける風にそよぐ紅花の繊細な花弁と木漏れ陽の戯れに眼福を充たすのだった。
森を出ると集落の軒先では紫陽花が咲き始めている。今年も早くも夏が暑くなりそうな予感がする。この日、京都市内に帰り着いた夕方16時半の時点で、電光掲示板の温度計は36℃を示している。家内はこの日の暑さのせいか、光化学スモッグのせいか相当に疲れた様子であった。気弱な声を出す「明日のオフ会、無事、行けるかな~」