【江美国境】 スノーシュー山旅の歓び 輝く峰へ 金糞岳
Posted: 2019年2月19日(火) 17:33
【日付】 2019年2月5日(火)
【山域】 江美国境
【メンバー】 sato 、夫
【天候】 晴れ
【ルート】 八草トンネル岐阜県側出口6:30~8:25金糞岳北尾根・886m地点~11:00金糞岳山頂11:40~
14:35八草峠~16:40駐車地
雪の季節、わたしの暮らす地から湖北の山並みを望む時、一際白く輝く金糞岳に目が吸い寄せられる。
人の雑多な想いなど突き放すように冷ややかに美しく光る白銀の峰。
その冷たさ美しさに無性に触れたくなり、真っ白な雪のベールに包まれる二月になると、金糞岳へとからだが向かう。
この冬も、湖北の山が初めて雪化粧した日から、金糞岳を歩くわたしがこころに描かれた。
胸の奥から突き上げてくる衝動をぐっと押し抑え、想いを重ねていく。
二月に入り、二人の都合が合った最初の日、待ち焦がれた峰へ出発する。
薄明るくなった頃、スノーシューを履き、眼下に流れる八草川の物悲しい川音を聞きながら、旧国道303号線を歩いていく。
川が二股、本流炉谷と右股砥谷に分かれる少し手前に架かる橋を渡ると、斜面に刻まれた畑の跡が目に映る。
江戸時代に近江から移り住んだ木地師によって始まり1919年に幕を閉じた八草村が、この周辺に存在していたという事実を、
物言わぬ畑の跡が物語る。
山と人との歴史が積み重なった山襞の中へと踏み込む。選んだ尾根は雪は少ないがそれほどやぶには捕まらず、順調に標高を上げていく。
斜面の先の空が近くなる。待ちに待った風景まであと一歩。胸の高まりを深呼吸して沈め、よいしょと、金糞岳へと続く尾根に乗る。
陽光を浴びきらきらと輝くブナの木々に迎えられ、へなへなとその場に座り込む。
黄色味を帯びた朝の柔らかな空に向かい気持ちよさげに枝を広げるブナを、口を開けぽかんと見上げる。
「そろそろ行こうか。」と夫の声。あぁそうだ、まだ先は長いのだ。
春のような陽気の中、絵に描いたような風景が続いていく。青い空に白い雲、清々しいブナの林、光り輝く奥美濃の山やま・・・。
ちっぽけな想いを大層に抱えて訪れたわたしに、圧倒的な存在感を放ち、威厳を見せつけるのではなかったのか。
こんなに楽しくてよいのだろうかと少し心配になる。
歩いては立ち止まり、風景に見とれながら歩いていると、山頂への最後の登りの地点に着いていた。
金糞岳山頂。からだが記憶する限りなく白く冷たい世界はそこにはなく、柔らかな空気がわたしを包み込んだ。
初めて見る金糞岳の穏やかな表情に胸が熱くなる。今日は山の神様がわたしたちを招待してくださったのだ。
こころの中で手を合わせお昼ご飯にする。食事を終え時計を見ると11時半過ぎ。江美国境稜線の方に目をやる。
「周回できるかな」左足に聞く。「大丈夫」と足が答える。
「じゃあ行こう」決まったら夫は早い。そそくさと立ち上がる。
こころに刻まれた鋭く光る白銀の峰ではなく、ちょっと気の抜けたような白倉の頭へと足を進める。
ホワイトアウトの中、国境稜線の分岐地点を見落とさないよう緊張しながら歩いた年を思い出す。
あの頃はGPSもスノーシューも持っていなかった。今日は進む方向も見渡せる。スノーシューで足取りも軽やか。分岐地点にあっけなく着く。
たっぷりの雪の中、ラッセルをしながら進んだ国境稜線は、ところどころ土が見えたり、やぶがうるさくなったりして思うように歩けない。
大丈夫だなんて、根拠のない確信を持つことの傲慢さ危なさを、山は警告してくれる。
あともう少しと思ってからどのくらい時間が経ったのだろう。お地蔵様の姿が見えてホッとする。
少し先まで稜線を歩く予定だったが、やぶに時間をとられそうだったので、峠からは車道を歩く。
融けかかった湿り雪に足取りは重くなり、夫との距離がどんどんと開いていく。
そうだった。あの年、薄暗くなった滋賀県側の車道をワカンでズルズルと歩き、疲れ果て、スノーシューを買おうと決意したんだ。
今、スノーシューを履いて、思いもよらなかった金糞岳周回という山旅をしている。こんなに歩けるようになったんだ。わたしって幸せだ・・・。
疲れてくると一人の会話が始まり、思い出話が続いていく。
往きに刻んだ二つの足跡が現れ、車の音が聞こえ始める。コロンとした愛車が見えたと同時に、力が抜けた。
荷物を降ろし、歩いた道のりを目で辿る。
昨シーズン楽しむことが出来なかったスノーシュー山旅。この冬は歩く歓びに浸る日々。
昨冬、胸にこみ上げてくるものに重石を乗せ、食い入るように見つめていた輝く峰。
そんなわたしに山の神様は、この冬、周回山旅というプレゼントを下さった。
【山域】 江美国境
【メンバー】 sato 、夫
【天候】 晴れ
【ルート】 八草トンネル岐阜県側出口6:30~8:25金糞岳北尾根・886m地点~11:00金糞岳山頂11:40~
14:35八草峠~16:40駐車地
雪の季節、わたしの暮らす地から湖北の山並みを望む時、一際白く輝く金糞岳に目が吸い寄せられる。
人の雑多な想いなど突き放すように冷ややかに美しく光る白銀の峰。
その冷たさ美しさに無性に触れたくなり、真っ白な雪のベールに包まれる二月になると、金糞岳へとからだが向かう。
この冬も、湖北の山が初めて雪化粧した日から、金糞岳を歩くわたしがこころに描かれた。
胸の奥から突き上げてくる衝動をぐっと押し抑え、想いを重ねていく。
二月に入り、二人の都合が合った最初の日、待ち焦がれた峰へ出発する。
薄明るくなった頃、スノーシューを履き、眼下に流れる八草川の物悲しい川音を聞きながら、旧国道303号線を歩いていく。
川が二股、本流炉谷と右股砥谷に分かれる少し手前に架かる橋を渡ると、斜面に刻まれた畑の跡が目に映る。
江戸時代に近江から移り住んだ木地師によって始まり1919年に幕を閉じた八草村が、この周辺に存在していたという事実を、
物言わぬ畑の跡が物語る。
山と人との歴史が積み重なった山襞の中へと踏み込む。選んだ尾根は雪は少ないがそれほどやぶには捕まらず、順調に標高を上げていく。
斜面の先の空が近くなる。待ちに待った風景まであと一歩。胸の高まりを深呼吸して沈め、よいしょと、金糞岳へと続く尾根に乗る。
陽光を浴びきらきらと輝くブナの木々に迎えられ、へなへなとその場に座り込む。
黄色味を帯びた朝の柔らかな空に向かい気持ちよさげに枝を広げるブナを、口を開けぽかんと見上げる。
「そろそろ行こうか。」と夫の声。あぁそうだ、まだ先は長いのだ。
春のような陽気の中、絵に描いたような風景が続いていく。青い空に白い雲、清々しいブナの林、光り輝く奥美濃の山やま・・・。
ちっぽけな想いを大層に抱えて訪れたわたしに、圧倒的な存在感を放ち、威厳を見せつけるのではなかったのか。
こんなに楽しくてよいのだろうかと少し心配になる。
歩いては立ち止まり、風景に見とれながら歩いていると、山頂への最後の登りの地点に着いていた。
金糞岳山頂。からだが記憶する限りなく白く冷たい世界はそこにはなく、柔らかな空気がわたしを包み込んだ。
初めて見る金糞岳の穏やかな表情に胸が熱くなる。今日は山の神様がわたしたちを招待してくださったのだ。
こころの中で手を合わせお昼ご飯にする。食事を終え時計を見ると11時半過ぎ。江美国境稜線の方に目をやる。
「周回できるかな」左足に聞く。「大丈夫」と足が答える。
「じゃあ行こう」決まったら夫は早い。そそくさと立ち上がる。
こころに刻まれた鋭く光る白銀の峰ではなく、ちょっと気の抜けたような白倉の頭へと足を進める。
ホワイトアウトの中、国境稜線の分岐地点を見落とさないよう緊張しながら歩いた年を思い出す。
あの頃はGPSもスノーシューも持っていなかった。今日は進む方向も見渡せる。スノーシューで足取りも軽やか。分岐地点にあっけなく着く。
たっぷりの雪の中、ラッセルをしながら進んだ国境稜線は、ところどころ土が見えたり、やぶがうるさくなったりして思うように歩けない。
大丈夫だなんて、根拠のない確信を持つことの傲慢さ危なさを、山は警告してくれる。
あともう少しと思ってからどのくらい時間が経ったのだろう。お地蔵様の姿が見えてホッとする。
少し先まで稜線を歩く予定だったが、やぶに時間をとられそうだったので、峠からは車道を歩く。
融けかかった湿り雪に足取りは重くなり、夫との距離がどんどんと開いていく。
そうだった。あの年、薄暗くなった滋賀県側の車道をワカンでズルズルと歩き、疲れ果て、スノーシューを買おうと決意したんだ。
今、スノーシューを履いて、思いもよらなかった金糞岳周回という山旅をしている。こんなに歩けるようになったんだ。わたしって幸せだ・・・。
疲れてくると一人の会話が始まり、思い出話が続いていく。
往きに刻んだ二つの足跡が現れ、車の音が聞こえ始める。コロンとした愛車が見えたと同時に、力が抜けた。
荷物を降ろし、歩いた道のりを目で辿る。
昨シーズン楽しむことが出来なかったスノーシュー山旅。この冬は歩く歓びに浸る日々。
昨冬、胸にこみ上げてくるものに重石を乗せ、食い入るように見つめていた輝く峰。
そんなわたしに山の神様は、この冬、周回山旅というプレゼントを下さった。