【比良】権現山~蓬莱山~森山岳☆月下山行と早朝の池めぐり
Posted: 2018年11月29日(木) 21:30
【 日 付 】2018年11月25日(日)
【 山 域 】比良
【メンバー】+長男(高2)
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】平5:11~06:19権現山06:22~6:46ホッケ山~7:09小女郎ヶ池7:38~8:00蓬莱山~8:23森山岳~9:02長池~10:11葛川中村
夜に歩くのならば、出来ることなら満月の夜がいい。月明かりの下をヘッデンのライトを消して歩く愉しさを味わうことが出来るからだ。今年の山行を振り返ると5月の連休の後半に訪れた頸城山塊の高妻山と火打山に記憶は遡る。いずれも夕刻から登山を開始し、稜線までは月下山行。テントで軽く寝た後、翌朝は朝陽を浴びながら山頂を往復するという山行の機会に恵まれた。しかし、いつもそう上手く行くとは限らない。晴天の予報を信じ、家内と長男を伴って夕刻から登り始めた真冬の明神平は幽界のようなガスの中を歩く羽目になった。翌朝の桧塚奥峰からの復路では数分前につけてきたトレースが完全に消え去るほどのブリザードに見舞われ、明神平はホワイトアウト状態、ようやく晴天となったのはテントを畳んで明神平を去った後であった。
早朝より好天が期待されるこの日、久しぶりの長男との山行は満月の月明かりの下での権現山への登りから始まる。権現山へは最近は登りも下りも平集落から山頂に一直線に突き上げる北西尾根を使うことが多い。最近の台風の後でも下山で歩いており、どのあたりに倒木が集中しているのか、どのように迂回するのがよいかも頭の中に入っているつもりである。平集落のすぐ北側から尾根に取り付くと、容易の尾根芯に上がることが出来る。尾根の下部は杉の植林地であり、まずは倒木が集中するところがある。「このあたりの倒木はこのあたりだけだから」と長男を安心させる。すぐに倒木は少なくなり、歩きやすい尾根になる。
ひとしきり杉の植林地の急登を登りきると尾根の勾配が少し緩くなり、自然林となる。空には雲が多いが、雲の間から零れ落ちる月明かりで十分に林の中は明るい。ちなみに権現山の山頂に至るのにアラキ峠を経る登山道が一般的であるが、こちらは終始、単調な杉の植林地の中を歩くことになるので、折角の月明かりの中を歩行することが楽しめないのである。
あたりが一段と明るくなったかと思うと、いつしか空を広く覆っていた雲がなくなり、煌々と輝く月が林の中まで冷たい光を放っている。いよいよ私はヘッデンの明かりを消して月明かりの中を歩く。
再び杉林に差し掛かるが、林の中が非常に明るいのは多数の倒木のせいである。尾根がなだらかになる場所で風の通り道となるのであろう。昨年の台風でかなりの倒木があったのだが、今年の台風によるダメ押しの一撃により、それまで何とか通過可能であった尾根筋は折り重なる倒木でほぼ通過不能となってしまった。ここは尾根の北側の斜面をトラバースして倒木地帯を避ける。
倒木地帯を無事、通過すると、再び急登となるが、あとは山頂直下までは倒も下草もほとんどない、歩きやすいルートとなる。山頂が近づくにつれ、あたりは急速に明るくなってゆく。空が白み始めた頃にアラキ峠からの一般登山道と合流する。
権現山に限ったことではないが、斜面を登りきった先に琵琶湖が飛び込んできた瞬間の景色の壮大さには相変わらぬ感動を覚えるものだ。この日の出前の早朝の時間は尚更である。琵琶湖の向こうにはブルーグレイの雲の切れ目からラベンダー色の透明な空がみえる。鈴鹿の山々のシルエットの上は淡くオレンジ色に染まり、日の出の時間が近いことを予告している。
権現山の山頂に辿り着くと丁度、チリンチリンと熊鈴の音がホッケ山の方へと去ってゆくところだった。予定では眺望のよいホッケ山からご来迎を眺めたいと思っていたのだが、何とか間に合いそうだ。ホッケ山へはしばらくヒメシャラの樹林となる。ホッケ山の山頂直下で樹林を抜け出したところで後ろを振り返ると丁度、鈴鹿の山の上から日が昇り始めるところであった。朝陽のプリズムを受けて冬枯れの斜面は赤銅色に輝いてゆく。
山頂から北東の方向を眺めると、琵琶湖の湖面は雲海で覆い尽くされており、あたかも湖面が沸騰しているかの如くだ。湖は南に行くにしたがって雲海は薄くなってゆく。ゆっくりと太陽が昇るにつれて、雲海が切れたあたりに湖面に朝陽の反射が始まる。
ホッケ山から小女郎峠へは琵琶湖側に絶好の眺望が続き、まさに天空の回廊ともいうべきパノラマ・ルートである。長男は学校の登山同好会で蓬莱山から小女郎ヶ池を経て下山しているのだが、権現山から小女郎峠に至る素晴らしい稜線はまだ歩いたことはない。この朝の素晴らしい眺望を長男に見せたいというのも今回の山行の大きな目的の一つであった。
一昨日、鈴鹿にむかう途中で、琵琶湖の対岸から眺めた時には比良の上の方は白くなっていたので、少しは雪が残っていることも期待しではいたのだが、残念ながら、稜線上では雪は跡形もなく消失していた。その代わりに目にしたのは霜で薄化粧を施された下草である。霜化粧の蕨や笹も柔らかいピンク・ゴールドの光を浴びている。
小女郎峠から小女郎ヶ池の方を覗くと、山影のせいで、池のあたりは夜の残滓が漂っているようだ。池の畔に辿り着くと、日が差し込む前の水面は空の淡い水色に染まっている。ここでのんびりと朝陽が池に差し込むのを待つことにしよう。インスタントのクリームパスタと家内が用意してくれたおにぎりで朝食とする。
池の水面に映る樹のシルエットがわずかに揺らめくので、微風が水の上を通り過ぎてゆくことを知る。朝の光を待つ池の水は鈍い金属的な輝きを放つ。蓬莱山への稜線の上が徐々に明るくなり、やがて朝日が稜線の上に顔をだす。そろそろ引き上げる潮時だろう。
池を周回して再び小女郎峠に出る。太陽は雲に遮られるが、そのお陰で雲と湖面に反射する光にカメラのレンズを向けることが出来る。蓬莱山への登りにさしかかると、上から権現山の山頂で聞いた熊鈴の音がしたかと思うと、トレラン・スタイルのソロの男性と出遭う。栗原から早朝に登られて蓬莱山の山頂で日の出を楽しまれておられたとのこと。
蓬莱山の山頂に到着すると、琵琶湖の北の方はさらに多くの雲海が覆っている。百里ヶ岳の手間では小入谷にも雲海が湧いており、おにゅう峠からの景色がさぞかし美しいことだろう。伊吹山や霊仙山も遠く雲海の上に浮かび上がる。久々にこの早朝の蓬莱山山頂を独占する喜びを長男と共に味わう。日中にこの蓬莱山の山頂に到来した時の、ゴンドラで上がってきた多数の観光客の中にいる妙な居心地の悪さを感じなくて済むというのは有り難い。
ここからは森山岳へ向かう。尾根上の笹が減っている気がする。最初は季節のせいかと思ったが、鹿の食害が気になるところだ。森山岳手前の鞍部に差しかかると掘割式の古道が現れる。落葉が堆積した古道を森山岳のピーク直下まで辿ってみる。この古道はピークの南をトラバースして西側の尾根へと下っていくようだ。森山岳が近くなるとブナが続く美しい尾根となる。ブナの葉はすっかり散ってしまって、林の中はとても明るい。落葉の絨毯の上には朝の光がブナの長い影を落とす。冬になって湖面が凍りつく前にもう一度、来ることが出来るだろうか。
まずは北に進みむと眺望のよいピークで森山岳を振り返る。森山岳の展望台であり、秘かなお気に入りの場所である。ここから長池までは非常に複雑な地形なのだが、少しは地形と池のある場所を覚えてきたように思う。朧げな記憶を頼りに池を探していく。
池は既に水を失っているものが多く、違う季節には池があった筈だという脳裏の残像がなければ単なる湿地にしか見えない。それでも、複雑な山稜の間に潜むように存在する池や湿地は再び出遭えただけでも喜びを感じるものだ。わずかに残る池の水は秋の碧天の深い青を反映して美しい。
長池も池の大部分が水を失い、湿原と化している。茫漠とした湿原の草紅葉もそれはそれで晩秋の趣があっていいものだ。冬に家内と長男と訪れた時はこの池の上で昼食としたことを思い出す。春先には静かに水を湛えていた池は、初夏にはモリアオガエルの鳴き声で賑やかであった。晩秋の朝の池は再び静まりかえり、心ゆくまでゆっくりと時間を過ごしたいところではある。しかし、車を停めた平集落まで戻るのに朽木から京都方面に戻るバスを捕まえなくてはならない。
スガヤ池に挨拶をすると、ここからは鉄塔尾根を下る。尾根の上部は先日の台風21号でかなり荒れたようである。送電線巡視路のプラスチックの階段を巻き込んで根こそぎ倒れているブナの樹がある。途中から斜面の南側の杉の植林地の中を通過するところがあるのだが、ここはもとより杉の倒木で相当に荒れているところに、さらに今年の台風が追い打ちをかけたようだ。羊歯の生い茂る斜面の北側に踏み跡をみつけ、快適に下る。
鉄塔尾根の一番下の鉄塔まで下ってしまうとここから眼下に見下ろす展望はよいのだが、下山路が問題だ。送電線巡視路は遠回りになる上、先日の山日和さんのレポにもある通り、既に相当に荒れている。今日はバスの時間を気にして先を急ぐ必要があるので、オシロ谷の渡渉点を目指して右手の谷へ尾根に沿って下っていくことにする。送電線鉄塔の一番下まで下ると馬酔木の藪があるので、その手前から羊歯の草原を離れ、右手の尾根を目指して下る。樹高の高い一本のアカマツがあるのが目印だ。その傍らではこれまたコナラの大樹が見事な黄葉を見せてくれる。
斜面をジグザグに下ってゆくと、やがて尾根上には見覚えのある倒木の積み重なりが見えてくる。ここを避けて谷筋におりると造林公社の看板がある。ここからは一度、沢を渡渉するとすぐに沢の左岸から斜面をトラバースしてくる送電線巡視路と合流して、もう一度、沢を渡渉する。前回は6月の雨の後で、とりわけ水量が多かったのだが、今回は驚くほど水量が少ない。
杉の植林地の中につけられた明瞭な巡視路を下ると、伐採地に出る。伐採地の中を下っていると、すぐ下のR367を京都バスが通過して行くのが見えた。京都バスには乗り遅れたが、有り難いことに次善の手段があるのだった。
中村集落の手前では、以前は多数の倒木を乗り越えなければならなかったのが、倒木は綺麗サッパリと跡形なく片付けられている。雨戸が閉められた民家の前ではススキと紅葉が美しい。バス停に辿り着くと、堅田行きの江若バスがまもなく来る。これで午後の山行の約束に無事、間に合うことが出来るのだった。
今年の山行回数も遂にカウント・ダウンである。すべてが白い雪に覆いつくされてしまう前にもう一度、霜化粧を施した池を訪れることが出来るだろうか・・・
※上記記事はヤマレコにおける以下のレコを大幅に加筆・改訂したものです
https://www.yamareco.com/modules/yamare ... 60652.html
【 山 域 】比良
【メンバー】+長男(高2)
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】平5:11~06:19権現山06:22~6:46ホッケ山~7:09小女郎ヶ池7:38~8:00蓬莱山~8:23森山岳~9:02長池~10:11葛川中村
夜に歩くのならば、出来ることなら満月の夜がいい。月明かりの下をヘッデンのライトを消して歩く愉しさを味わうことが出来るからだ。今年の山行を振り返ると5月の連休の後半に訪れた頸城山塊の高妻山と火打山に記憶は遡る。いずれも夕刻から登山を開始し、稜線までは月下山行。テントで軽く寝た後、翌朝は朝陽を浴びながら山頂を往復するという山行の機会に恵まれた。しかし、いつもそう上手く行くとは限らない。晴天の予報を信じ、家内と長男を伴って夕刻から登り始めた真冬の明神平は幽界のようなガスの中を歩く羽目になった。翌朝の桧塚奥峰からの復路では数分前につけてきたトレースが完全に消え去るほどのブリザードに見舞われ、明神平はホワイトアウト状態、ようやく晴天となったのはテントを畳んで明神平を去った後であった。
早朝より好天が期待されるこの日、久しぶりの長男との山行は満月の月明かりの下での権現山への登りから始まる。権現山へは最近は登りも下りも平集落から山頂に一直線に突き上げる北西尾根を使うことが多い。最近の台風の後でも下山で歩いており、どのあたりに倒木が集中しているのか、どのように迂回するのがよいかも頭の中に入っているつもりである。平集落のすぐ北側から尾根に取り付くと、容易の尾根芯に上がることが出来る。尾根の下部は杉の植林地であり、まずは倒木が集中するところがある。「このあたりの倒木はこのあたりだけだから」と長男を安心させる。すぐに倒木は少なくなり、歩きやすい尾根になる。
ひとしきり杉の植林地の急登を登りきると尾根の勾配が少し緩くなり、自然林となる。空には雲が多いが、雲の間から零れ落ちる月明かりで十分に林の中は明るい。ちなみに権現山の山頂に至るのにアラキ峠を経る登山道が一般的であるが、こちらは終始、単調な杉の植林地の中を歩くことになるので、折角の月明かりの中を歩行することが楽しめないのである。
あたりが一段と明るくなったかと思うと、いつしか空を広く覆っていた雲がなくなり、煌々と輝く月が林の中まで冷たい光を放っている。いよいよ私はヘッデンの明かりを消して月明かりの中を歩く。
再び杉林に差し掛かるが、林の中が非常に明るいのは多数の倒木のせいである。尾根がなだらかになる場所で風の通り道となるのであろう。昨年の台風でかなりの倒木があったのだが、今年の台風によるダメ押しの一撃により、それまで何とか通過可能であった尾根筋は折り重なる倒木でほぼ通過不能となってしまった。ここは尾根の北側の斜面をトラバースして倒木地帯を避ける。
倒木地帯を無事、通過すると、再び急登となるが、あとは山頂直下までは倒も下草もほとんどない、歩きやすいルートとなる。山頂が近づくにつれ、あたりは急速に明るくなってゆく。空が白み始めた頃にアラキ峠からの一般登山道と合流する。
権現山に限ったことではないが、斜面を登りきった先に琵琶湖が飛び込んできた瞬間の景色の壮大さには相変わらぬ感動を覚えるものだ。この日の出前の早朝の時間は尚更である。琵琶湖の向こうにはブルーグレイの雲の切れ目からラベンダー色の透明な空がみえる。鈴鹿の山々のシルエットの上は淡くオレンジ色に染まり、日の出の時間が近いことを予告している。
権現山の山頂に辿り着くと丁度、チリンチリンと熊鈴の音がホッケ山の方へと去ってゆくところだった。予定では眺望のよいホッケ山からご来迎を眺めたいと思っていたのだが、何とか間に合いそうだ。ホッケ山へはしばらくヒメシャラの樹林となる。ホッケ山の山頂直下で樹林を抜け出したところで後ろを振り返ると丁度、鈴鹿の山の上から日が昇り始めるところであった。朝陽のプリズムを受けて冬枯れの斜面は赤銅色に輝いてゆく。
山頂から北東の方向を眺めると、琵琶湖の湖面は雲海で覆い尽くされており、あたかも湖面が沸騰しているかの如くだ。湖は南に行くにしたがって雲海は薄くなってゆく。ゆっくりと太陽が昇るにつれて、雲海が切れたあたりに湖面に朝陽の反射が始まる。
ホッケ山から小女郎峠へは琵琶湖側に絶好の眺望が続き、まさに天空の回廊ともいうべきパノラマ・ルートである。長男は学校の登山同好会で蓬莱山から小女郎ヶ池を経て下山しているのだが、権現山から小女郎峠に至る素晴らしい稜線はまだ歩いたことはない。この朝の素晴らしい眺望を長男に見せたいというのも今回の山行の大きな目的の一つであった。
一昨日、鈴鹿にむかう途中で、琵琶湖の対岸から眺めた時には比良の上の方は白くなっていたので、少しは雪が残っていることも期待しではいたのだが、残念ながら、稜線上では雪は跡形もなく消失していた。その代わりに目にしたのは霜で薄化粧を施された下草である。霜化粧の蕨や笹も柔らかいピンク・ゴールドの光を浴びている。
小女郎峠から小女郎ヶ池の方を覗くと、山影のせいで、池のあたりは夜の残滓が漂っているようだ。池の畔に辿り着くと、日が差し込む前の水面は空の淡い水色に染まっている。ここでのんびりと朝陽が池に差し込むのを待つことにしよう。インスタントのクリームパスタと家内が用意してくれたおにぎりで朝食とする。
池の水面に映る樹のシルエットがわずかに揺らめくので、微風が水の上を通り過ぎてゆくことを知る。朝の光を待つ池の水は鈍い金属的な輝きを放つ。蓬莱山への稜線の上が徐々に明るくなり、やがて朝日が稜線の上に顔をだす。そろそろ引き上げる潮時だろう。
池を周回して再び小女郎峠に出る。太陽は雲に遮られるが、そのお陰で雲と湖面に反射する光にカメラのレンズを向けることが出来る。蓬莱山への登りにさしかかると、上から権現山の山頂で聞いた熊鈴の音がしたかと思うと、トレラン・スタイルのソロの男性と出遭う。栗原から早朝に登られて蓬莱山の山頂で日の出を楽しまれておられたとのこと。
蓬莱山の山頂に到着すると、琵琶湖の北の方はさらに多くの雲海が覆っている。百里ヶ岳の手間では小入谷にも雲海が湧いており、おにゅう峠からの景色がさぞかし美しいことだろう。伊吹山や霊仙山も遠く雲海の上に浮かび上がる。久々にこの早朝の蓬莱山山頂を独占する喜びを長男と共に味わう。日中にこの蓬莱山の山頂に到来した時の、ゴンドラで上がってきた多数の観光客の中にいる妙な居心地の悪さを感じなくて済むというのは有り難い。
ここからは森山岳へ向かう。尾根上の笹が減っている気がする。最初は季節のせいかと思ったが、鹿の食害が気になるところだ。森山岳手前の鞍部に差しかかると掘割式の古道が現れる。落葉が堆積した古道を森山岳のピーク直下まで辿ってみる。この古道はピークの南をトラバースして西側の尾根へと下っていくようだ。森山岳が近くなるとブナが続く美しい尾根となる。ブナの葉はすっかり散ってしまって、林の中はとても明るい。落葉の絨毯の上には朝の光がブナの長い影を落とす。冬になって湖面が凍りつく前にもう一度、来ることが出来るだろうか。
まずは北に進みむと眺望のよいピークで森山岳を振り返る。森山岳の展望台であり、秘かなお気に入りの場所である。ここから長池までは非常に複雑な地形なのだが、少しは地形と池のある場所を覚えてきたように思う。朧げな記憶を頼りに池を探していく。
池は既に水を失っているものが多く、違う季節には池があった筈だという脳裏の残像がなければ単なる湿地にしか見えない。それでも、複雑な山稜の間に潜むように存在する池や湿地は再び出遭えただけでも喜びを感じるものだ。わずかに残る池の水は秋の碧天の深い青を反映して美しい。
長池も池の大部分が水を失い、湿原と化している。茫漠とした湿原の草紅葉もそれはそれで晩秋の趣があっていいものだ。冬に家内と長男と訪れた時はこの池の上で昼食としたことを思い出す。春先には静かに水を湛えていた池は、初夏にはモリアオガエルの鳴き声で賑やかであった。晩秋の朝の池は再び静まりかえり、心ゆくまでゆっくりと時間を過ごしたいところではある。しかし、車を停めた平集落まで戻るのに朽木から京都方面に戻るバスを捕まえなくてはならない。
スガヤ池に挨拶をすると、ここからは鉄塔尾根を下る。尾根の上部は先日の台風21号でかなり荒れたようである。送電線巡視路のプラスチックの階段を巻き込んで根こそぎ倒れているブナの樹がある。途中から斜面の南側の杉の植林地の中を通過するところがあるのだが、ここはもとより杉の倒木で相当に荒れているところに、さらに今年の台風が追い打ちをかけたようだ。羊歯の生い茂る斜面の北側に踏み跡をみつけ、快適に下る。
鉄塔尾根の一番下の鉄塔まで下ってしまうとここから眼下に見下ろす展望はよいのだが、下山路が問題だ。送電線巡視路は遠回りになる上、先日の山日和さんのレポにもある通り、既に相当に荒れている。今日はバスの時間を気にして先を急ぐ必要があるので、オシロ谷の渡渉点を目指して右手の谷へ尾根に沿って下っていくことにする。送電線鉄塔の一番下まで下ると馬酔木の藪があるので、その手前から羊歯の草原を離れ、右手の尾根を目指して下る。樹高の高い一本のアカマツがあるのが目印だ。その傍らではこれまたコナラの大樹が見事な黄葉を見せてくれる。
斜面をジグザグに下ってゆくと、やがて尾根上には見覚えのある倒木の積み重なりが見えてくる。ここを避けて谷筋におりると造林公社の看板がある。ここからは一度、沢を渡渉するとすぐに沢の左岸から斜面をトラバースしてくる送電線巡視路と合流して、もう一度、沢を渡渉する。前回は6月の雨の後で、とりわけ水量が多かったのだが、今回は驚くほど水量が少ない。
杉の植林地の中につけられた明瞭な巡視路を下ると、伐採地に出る。伐採地の中を下っていると、すぐ下のR367を京都バスが通過して行くのが見えた。京都バスには乗り遅れたが、有り難いことに次善の手段があるのだった。
中村集落の手前では、以前は多数の倒木を乗り越えなければならなかったのが、倒木は綺麗サッパリと跡形なく片付けられている。雨戸が閉められた民家の前ではススキと紅葉が美しい。バス停に辿り着くと、堅田行きの江若バスがまもなく来る。これで午後の山行の約束に無事、間に合うことが出来るのだった。
今年の山行回数も遂にカウント・ダウンである。すべてが白い雪に覆いつくされてしまう前にもう一度、霜化粧を施した池を訪れることが出来るだろうか・・・
※上記記事はヤマレコにおける以下のレコを大幅に加筆・改訂したものです
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