【若狭】晩秋のワンダーランドとブナ林の悲哀
Posted: 2018年11月21日(水) 21:22
【日 付】2018年11月18日(日)
【山 域】若狭 庄部谷山周辺
【天 候】晴れのち曇り
【コース】折戸谷林道駐車地8:21---8:52二俣---9:53 Ca830mピーク---10:42トタテ出合---11:28ご神木---12:22北尾根
---13:00庄部谷山14:30---15:34 P806m---16:35林道終点---16:54駐車地
折戸谷林道で準備をしていると、3人パーティーが歩いてきた。このあたりから山に登ると言えば粟柄越の登
山道かうつろ谷の沢登りぐらいのものだ。林道を終点方向に歩く登山者はまず見かけることはない。
聞いてみると、新庄乗越からアシ谷へ下りて、地形図の529m標高点のある湿地マークまで行ってから芦谷山へ
上がり、その後庄部谷山まで縦走して南尾根を下るという結構マニアックなコース取りである。
こちらは林道終点から茶屋谷を直進して、大杉谷との二俣から中間尾根を上がり、甲森谷のトタテ出合へ下り
てワンダーランドを散策。再び庄部谷山へ登り返すという効率無視プランだから人のことは言えない。
折戸谷奥の二俣はいいところだ。小広い台地にトチとサワグルミの大きな木が散在し、左岸には形をしっか
り残した炭焼窯跡がある。この近辺の窯はまん丸なものが多く、鈴鹿で見かける窯とは形が違う。
ミスドのオールドファッションを伏せたような感じである。
ふたつの流れの間からは緩やかに尾根が始まり、こっちへ来いと誘い掛けているようだ。ここで休憩しなけれ
ばどこで休むのかという雰囲気の漂う場所である。
この尾根は初見だ。下る予定の尾根も初めてで、甲森谷へ入るルートの新規開拓というわけだ。
少し上がったところに大木ではないがトチの木が1本あり、そのまわりを囲むように立つカエデの色付きが、谷
に差し込み始めた光にきらめいて実に美しかった。その上からはブナ林が始まり、なんで今まで来なかったのか
と思ったのも束の間、ブナ林はすぐに終わって植林混じりのヤブっぽい、面白くない尾根に変わってしまった。
そんなにうまい話しが転がっているはずはないのだ。
登り着いたCa830m台地はブナ林が広がるお気に入りの場所。しかしここでも台風の被害が爪痕を残していた。
ブナの大木が根っこから横転している。いささかショックを受けたが、これは後で目にする惨状の序章に過ぎな
かった。
台地の北東端から北西に伸びる尾根に乗った。緩やかでブナもそれなりにあり、なぜ今まで使わなかったのか、
甲森谷から稜線に上がるベストコースじゃないかなどと思いながら歩いていると様子がおかしくなってきた。
少々ヤブっぽいのは我慢できるが、末端に近づくと岩場が出てきて尾根通しに進めなくなった。左下を見ると穏
やかな流れが見え、割合楽に下れそうだ。しかしこれに釣られるとひどい目に遭ってしまう。
見えているのは甲森谷支流のトタテで、あの穏やかな流れの下には出合から始まる連瀑帯が待っているのだ。
右はその心配はないが相当な急傾斜である。一歩一歩慎重に足場を確かめながら二俣に着地。振り返って見ると
尾根の末端は取り付くシマもない壁である。その壁を見上げる右岸台地は実にいい雰囲気の場所だ。
2段の滝を簡単に巻いて大産石室の滝の落ち口に立つ。ここは何度も登っているが下るのは初めてである。
ルートを探ると左岸側に土の乗った細いバンドがある。しかしホールドになるものが何もなく、土がズルッと滑
ればアウトだ。登りならともかくちょっとリスクが高過ぎるので、右岸のガレたルンゼから斜面をトラバースし
て芦谷山南のピークから伸びる尾根に出た。
トチとカツラのワンダーランドでも何本かの木が倒れていたが、カツラの巨木群が無事だったのは救いだ。
去年の同時期に来た時は小雨模様の暗い空の下だった。晴れた秋の日に再訪したいと思っていたのだが、実際に
来てみると明る過ぎて、この森の持つ厳かな空気が失われているような気がした。昨年のしっとりとした雰囲気
の方がこの森には合っている。人間とは勝手なものである。
ワンダーランド入口にあるご神木の上の台地から庄部谷山北尾根を目指した。この尾根も初見だ。最初は尾根
というよりただの急斜面だが、しばしの我慢で尾根らしい形が出てきた。これぐらいの標高だとまだ紅葉も残っ
ており、急登に喘ぐ身の慰めになる。この日の初見4ルートの中で一番マシな尾根だった。
772m標高点の北で尾根に乗った頃には空はどんよりとした色に変わり始めた。このブナ林では青空が欲しかっ
たのだがうまくいかないものである。
山頂直下の定位置で今日は遅めのランチタイム。ワンダーランドで食べるのが最高なのだが、ビールを飲んで
メシを食った後に450m登るのは塗炭の苦しみだ。その時は一瞬迷ったが、先に登っておいてよかったと思う。
ここで別のショックな出来事が発覚した。箸を忘れたのだ。便利袋に入っているはずのモンベルの箸も見当たらない。
しかしここで鍋をあきらめるわけにはいかないのだ。手近にあった木の枝を長さを揃えて整形。なんとか使える
状態になった。やれやれである。
そのうち朝のパーティーがやってくると思っていたら、結局1時間半のランチタイムが過ぎても現れなかった。
こちらが着いた時には既に通過していたというのはいくら何でも早すぎるだろう。と思って出発してしばらく行
くと、Ca860mのあたりでそのパーティーと出会った。もう3時前である。日没が心配だから、近い新庄側へ下る
つもりだと言う。尾根の分岐が複雑で分かりにくいことを説明して、当初の南尾根を下りることを勧めた。
山レコで知り合ったパーティーらしく、庄部谷山も初めてのようだ。ちゃんとした登山道のあるところはいざ知
らず、こういう一般的でない山で初めてのところを、しかも時間に追われて下るのはリスクが伴う。
私のようにこのあたりの大抵のところを歩いている人間でも常に何かをやらかすのである。
美浜・敦賀市町境の稜線は延々とブナ林が続く素晴らしい稜線である。しかし今日はここで悲劇的な光景を目
にすることになってしまった。3mオーバークラスのブナの大木があっちにもこっちにも横たわり、無残な姿を晒
していた。ブナ林も自然なら台風も自然。ちっぽけな人間の感傷など大自然の中では何の意味もないだろう。
これも自然の摂理である以上しょうがないのだが、何とも言えないやるせなさを感じる。
P661mからは新庄乗越へ向かわず、ダイレクトに茶屋谷へ伸びる尾根を選択した。本日最後の新規開拓だった
のだが大失敗。まったくつまらない尾根の上に、最後にまたアトラクションを追加してしまった。
天気のせいもあり、夕闇が迫るのが思ったより早い。あのパーティーは無事下山できているだろうか。
心配しながら新庄へ向かって走っていると、道の真ん中に車が止まっている。どうやら車のライトで照らしなが
ら道端の湧き水を汲んでいるようだ。
クラクションを鳴らして合図をすると、振り返って手を上げたのはあのパーティーの人だった。
山日和
【山 域】若狭 庄部谷山周辺
【天 候】晴れのち曇り
【コース】折戸谷林道駐車地8:21---8:52二俣---9:53 Ca830mピーク---10:42トタテ出合---11:28ご神木---12:22北尾根
---13:00庄部谷山14:30---15:34 P806m---16:35林道終点---16:54駐車地
折戸谷林道で準備をしていると、3人パーティーが歩いてきた。このあたりから山に登ると言えば粟柄越の登
山道かうつろ谷の沢登りぐらいのものだ。林道を終点方向に歩く登山者はまず見かけることはない。
聞いてみると、新庄乗越からアシ谷へ下りて、地形図の529m標高点のある湿地マークまで行ってから芦谷山へ
上がり、その後庄部谷山まで縦走して南尾根を下るという結構マニアックなコース取りである。
こちらは林道終点から茶屋谷を直進して、大杉谷との二俣から中間尾根を上がり、甲森谷のトタテ出合へ下り
てワンダーランドを散策。再び庄部谷山へ登り返すという効率無視プランだから人のことは言えない。
折戸谷奥の二俣はいいところだ。小広い台地にトチとサワグルミの大きな木が散在し、左岸には形をしっか
り残した炭焼窯跡がある。この近辺の窯はまん丸なものが多く、鈴鹿で見かける窯とは形が違う。
ミスドのオールドファッションを伏せたような感じである。
ふたつの流れの間からは緩やかに尾根が始まり、こっちへ来いと誘い掛けているようだ。ここで休憩しなけれ
ばどこで休むのかという雰囲気の漂う場所である。
この尾根は初見だ。下る予定の尾根も初めてで、甲森谷へ入るルートの新規開拓というわけだ。
少し上がったところに大木ではないがトチの木が1本あり、そのまわりを囲むように立つカエデの色付きが、谷
に差し込み始めた光にきらめいて実に美しかった。その上からはブナ林が始まり、なんで今まで来なかったのか
と思ったのも束の間、ブナ林はすぐに終わって植林混じりのヤブっぽい、面白くない尾根に変わってしまった。
そんなにうまい話しが転がっているはずはないのだ。
登り着いたCa830m台地はブナ林が広がるお気に入りの場所。しかしここでも台風の被害が爪痕を残していた。
ブナの大木が根っこから横転している。いささかショックを受けたが、これは後で目にする惨状の序章に過ぎな
かった。
台地の北東端から北西に伸びる尾根に乗った。緩やかでブナもそれなりにあり、なぜ今まで使わなかったのか、
甲森谷から稜線に上がるベストコースじゃないかなどと思いながら歩いていると様子がおかしくなってきた。
少々ヤブっぽいのは我慢できるが、末端に近づくと岩場が出てきて尾根通しに進めなくなった。左下を見ると穏
やかな流れが見え、割合楽に下れそうだ。しかしこれに釣られるとひどい目に遭ってしまう。
見えているのは甲森谷支流のトタテで、あの穏やかな流れの下には出合から始まる連瀑帯が待っているのだ。
右はその心配はないが相当な急傾斜である。一歩一歩慎重に足場を確かめながら二俣に着地。振り返って見ると
尾根の末端は取り付くシマもない壁である。その壁を見上げる右岸台地は実にいい雰囲気の場所だ。
2段の滝を簡単に巻いて大産石室の滝の落ち口に立つ。ここは何度も登っているが下るのは初めてである。
ルートを探ると左岸側に土の乗った細いバンドがある。しかしホールドになるものが何もなく、土がズルッと滑
ればアウトだ。登りならともかくちょっとリスクが高過ぎるので、右岸のガレたルンゼから斜面をトラバースし
て芦谷山南のピークから伸びる尾根に出た。
トチとカツラのワンダーランドでも何本かの木が倒れていたが、カツラの巨木群が無事だったのは救いだ。
去年の同時期に来た時は小雨模様の暗い空の下だった。晴れた秋の日に再訪したいと思っていたのだが、実際に
来てみると明る過ぎて、この森の持つ厳かな空気が失われているような気がした。昨年のしっとりとした雰囲気
の方がこの森には合っている。人間とは勝手なものである。
ワンダーランド入口にあるご神木の上の台地から庄部谷山北尾根を目指した。この尾根も初見だ。最初は尾根
というよりただの急斜面だが、しばしの我慢で尾根らしい形が出てきた。これぐらいの標高だとまだ紅葉も残っ
ており、急登に喘ぐ身の慰めになる。この日の初見4ルートの中で一番マシな尾根だった。
772m標高点の北で尾根に乗った頃には空はどんよりとした色に変わり始めた。このブナ林では青空が欲しかっ
たのだがうまくいかないものである。
山頂直下の定位置で今日は遅めのランチタイム。ワンダーランドで食べるのが最高なのだが、ビールを飲んで
メシを食った後に450m登るのは塗炭の苦しみだ。その時は一瞬迷ったが、先に登っておいてよかったと思う。
ここで別のショックな出来事が発覚した。箸を忘れたのだ。便利袋に入っているはずのモンベルの箸も見当たらない。
しかしここで鍋をあきらめるわけにはいかないのだ。手近にあった木の枝を長さを揃えて整形。なんとか使える
状態になった。やれやれである。
そのうち朝のパーティーがやってくると思っていたら、結局1時間半のランチタイムが過ぎても現れなかった。
こちらが着いた時には既に通過していたというのはいくら何でも早すぎるだろう。と思って出発してしばらく行
くと、Ca860mのあたりでそのパーティーと出会った。もう3時前である。日没が心配だから、近い新庄側へ下る
つもりだと言う。尾根の分岐が複雑で分かりにくいことを説明して、当初の南尾根を下りることを勧めた。
山レコで知り合ったパーティーらしく、庄部谷山も初めてのようだ。ちゃんとした登山道のあるところはいざ知
らず、こういう一般的でない山で初めてのところを、しかも時間に追われて下るのはリスクが伴う。
私のようにこのあたりの大抵のところを歩いている人間でも常に何かをやらかすのである。
美浜・敦賀市町境の稜線は延々とブナ林が続く素晴らしい稜線である。しかし今日はここで悲劇的な光景を目
にすることになってしまった。3mオーバークラスのブナの大木があっちにもこっちにも横たわり、無残な姿を晒
していた。ブナ林も自然なら台風も自然。ちっぽけな人間の感傷など大自然の中では何の意味もないだろう。
これも自然の摂理である以上しょうがないのだが、何とも言えないやるせなさを感じる。
P661mからは新庄乗越へ向かわず、ダイレクトに茶屋谷へ伸びる尾根を選択した。本日最後の新規開拓だった
のだが大失敗。まったくつまらない尾根の上に、最後にまたアトラクションを追加してしまった。
天気のせいもあり、夕闇が迫るのが思ったより早い。あのパーティーは無事下山できているだろうか。
心配しながら新庄へ向かって走っていると、道の真ん中に車が止まっている。どうやら車のライトで照らしなが
ら道端の湧き水を汲んでいるようだ。
クラクションを鳴らして合図をすると、振り返って手を上げたのはあのパーティーの人だった。
山日和