【湖北】姉川源流周回の山旅
Posted: 2011年3月24日(木) 00:26
【日 付】2011年3月19日(土)
【山 域】湖北 姉川源流域
【天 候】晴れのち曇り
【ルート】甲津原中津又林道入口8:12---9:10林道終点---10:14県境稜線10:30---11:07新穂谷山---
12:20新穂山13:30---15:34鳥越山15:56---17:05浄水場---17:24駐車地
甲津原集落の外れ、中津又林道の入口に車を止めた。ここには農林漁業体験施設の「甲津原アグリコテージ」という
宿泊施設がある。
姉川源流の山々はこれまでノーマークだった。「近江湖北の山」でその存在を知ってはいたものの、植林主体の匂いが
してどうも食指が動かなかったのだ。
[attachment=4]P1000435_1.JPG[/attachment]
林道の除雪はコテージへの入口で終わっていた。目の前には一面の雪野原。2,3歩進んですぐにスノーシューを履く。
昨日までに降った雪で雪面は真っ白だ。
谷沿いの林道は部分的に滑り台を作っているが、恐さを感じるほどでもない。予想より時間をかけて林道終点に到着。
地図上でうずまき状に回り込んだ場所である。ひと息入れる。見上げる空は澄み切った真っ青だ。
805m標高点への尾根に乗る。緩やかな尾根はしばらくで植林も終わり、気持ちのいい雑木林へと変わった。雪はよく
締まって林道歩きより楽だ。
林道終点が645m。県境稜線の合流点が930mだから、300m足らずの登りでしかない。非常に効率よく県境稜線に立て
るルートと言えるだろう。
805mあたりから後方に真っ白な金糞岳の頭が姿を現わした。姉川の上流方向には新穂山(アリカミノ岳)がはるか遠く
に見える。
ほんの短い急登をこなすと唐突に県境稜線に出た。想像していたよりいい林が前後に伸びていた。
ここまで上がれば金糞岳もその姿を露わにしている。
ここから長い県境縦走の始まりである。岐阜県側に大きく張り出した姉川源流の岐阜・滋賀県境を馬蹄形に進んで、
1067mの新穂山、1074mの鳥越山を経て、そのまま南に伸びる長い尾根を甲津原へ下りようという企てである。
非常に雰囲気のいい947mピークを越えると新穂峠。ここには立派な標識がある。
「近江湖北の山」ではいかにも峠越えの旧道という佇まいだったらしいが、今では岐阜県側から林道が上がっており、昔
日の面影もないのだろう。しかし「色の白いは七難隠す」とはよく言ったもので、すべてが白い雪に覆われて醜い傷跡を
目にせずに済んでいる。
それにしてもブナの多い尾根だ。雑木と植林が主体のあまり潤いのない尾根を想像していたのだが、その予想は見事
に外れた。うれしい誤算とはこのことである。
[attachment=3]P1000527_1_1.JPG[/attachment]
1039.9mの新穂谷山(点名新穂)から次の1010mピークにかけても見事なブナ林が続いた。
岐阜県側は概ね伐採を受けているが稜線近くは植林も入っていないので展望はすこぶる良い。蕎麦粒山から小津三山
へのワイドなパノラマが殿又谷の彼方に展開した。中津又谷側の斜面はブナ林が広がる。
1010mピークには5本の尾根が集まり、どの尾根を見てもブナ林だ。尾根の端の方にテープが続いているところを見る
と、無雪期にも歩かれているようだ。
新穂山はまだ遠い。山頂に着いてもそれまで以上に長い下山路が待っているので気を緩めることはできない。
いや、下山路というのは正確な表現ではない。ここはまだ今日の行程の中間点なのである。
1010mピークから急斜面を駆け下りると稜線東側に堆積した雪堤を歩くようになる。部分的に雪庇も残っているので油
断は禁物だ。
[attachment=2]P1000554_1.JPG[/attachment]
幾度もアップダウンを繰り返した後、やっと新穂山の山頂に到達した。時間的にはほぼ予想通りだが、雪は締まっていな
いところもあり、軽いラッセルを強いられた。
山頂の岐阜県側は植林が入っており、展望という点ではここまでの稜線の方が上である。
それでも木を避けるようにして眺めれば、越美国境稜線の三国岳あたりから三周、黒丸、烏帽子に続く白い山並みが見
えた。もちろん金糞岳は稜線に立って以来ずっとこちらを見下ろしている。
風を避けて北側斜面に陣取り、高丸方面を眺めながら時間が過ぎた。
[attachment=1]パノラマ 4_2_1.JPG[/attachment]
鳥越山へ続く稜線もアップダウンが多く、とにかく長い。右手は植林ながら、左手は素晴らしいブナ林という片手落ちの
稜線を、左側だけ眺めながら歩く。姉川源流も実にいい雰囲気で、谷通しに訪れてみたいところだ。
1001mピークの先で針路は南へと変わる。ここからは滋賀県の西側が岐阜県という変則的な尾根が鳥越山まで続く。
目指す鳥越山ははるか彼方。新穂山から2時間と見積もったが本当に行けるのだろうか。
932mピーク手前の大下りで痩せた最低コルに下り立つ。ここから150m弱の登りをこなせば本日の登りは終了だ。
高い気温にも関わらず雪があまり緩んでいないのが救いである。
一歩一歩高度を稼げば932mピークを過ぎ鳥越山へのフィナーレに差しかかった。
空はすでに雲の面積が大半を占めるようになったが、ここから本日一番のブナの森が始まった。これまで同様、目立った
大木はないものの、形のいいブナの並木道が迎えてくれた。
[attachment=0]P1000676_1_1.JPG[/attachment]
激しい喪失感に苛まれていたこの1週間。山に登っていていいのかという迷いが胸に広がっていたが、もの言わぬブナ
達が重く沈んでいた心を癒してくれた。
実際に被災した人々に比べれば自分の喪失感など何ほどのものでもないのは分かっている。
しかし無関係な彼岸に立って毅然としていられるほど強くもない。今の自分にできることをするしかないのだ。
本日一番のブナ林を堪能して鳥越山に立つ。点名は「栗ヶ谷」。向山という名もあるらしい。
先ほどの新穂山は点名「大ヶ屋」。「アリカミノ岳」という名を草川氏は甲津原で採取したらしいが、どういう由来なのだろう。
このあたりの山々は正式な名称が何かわからないものが多い。
山頂すぐ西側の鳥越峠の奥に、金糞岳が大きく迫っている。
もうすぐ4時だ。ここから甲津原への尾根も長い。鳥越峠への分岐を過ぎるとブナ林も終わり、一転して雑木と潅木の尾
根に変わった。その代わり見晴しは良く、中津又谷の対岸に辿ってきた尾根を一望することができた。
途中で中津又林道へ逃げようかと809m標高点への分岐に立つとまだまだ白い尾根が続いている。逃げてもそれほど差
があるわけでもなさそうだ。尾根の末端まで見届けたいという思いに駆られて、更に南へと足を踏み出した。
新穂峠の南で稜線に乗って、中津又谷すなわち姉川の源流域をほぼ一周したわけだが、林道終点から上流では一切
植林は見られず、豊かな二次林に覆われていた。これはまさに想定外のことだった。
標高700mに近付くとさすがに植林が優勢となる。甲津原の集落が見えてきた。その上には奥伊吹のスキー場の全景
が覗く。
665mピークを過ぎ、まだらに地面が見え始めたがなんとかスノーシューを脱ぐことなく甲津原の浄水場に着地した。
スキー帰りのドライバーの視線を浴びながら、意外に勾配のある県道を駐車地へとぼとぼと歩いた。
今日もまた新たな発見にあふれた一日だった。
山日和
【山 域】湖北 姉川源流域
【天 候】晴れのち曇り
【ルート】甲津原中津又林道入口8:12---9:10林道終点---10:14県境稜線10:30---11:07新穂谷山---
12:20新穂山13:30---15:34鳥越山15:56---17:05浄水場---17:24駐車地
甲津原集落の外れ、中津又林道の入口に車を止めた。ここには農林漁業体験施設の「甲津原アグリコテージ」という
宿泊施設がある。
姉川源流の山々はこれまでノーマークだった。「近江湖北の山」でその存在を知ってはいたものの、植林主体の匂いが
してどうも食指が動かなかったのだ。
[attachment=4]P1000435_1.JPG[/attachment]
林道の除雪はコテージへの入口で終わっていた。目の前には一面の雪野原。2,3歩進んですぐにスノーシューを履く。
昨日までに降った雪で雪面は真っ白だ。
谷沿いの林道は部分的に滑り台を作っているが、恐さを感じるほどでもない。予想より時間をかけて林道終点に到着。
地図上でうずまき状に回り込んだ場所である。ひと息入れる。見上げる空は澄み切った真っ青だ。
805m標高点への尾根に乗る。緩やかな尾根はしばらくで植林も終わり、気持ちのいい雑木林へと変わった。雪はよく
締まって林道歩きより楽だ。
林道終点が645m。県境稜線の合流点が930mだから、300m足らずの登りでしかない。非常に効率よく県境稜線に立て
るルートと言えるだろう。
805mあたりから後方に真っ白な金糞岳の頭が姿を現わした。姉川の上流方向には新穂山(アリカミノ岳)がはるか遠く
に見える。
ほんの短い急登をこなすと唐突に県境稜線に出た。想像していたよりいい林が前後に伸びていた。
ここまで上がれば金糞岳もその姿を露わにしている。
ここから長い県境縦走の始まりである。岐阜県側に大きく張り出した姉川源流の岐阜・滋賀県境を馬蹄形に進んで、
1067mの新穂山、1074mの鳥越山を経て、そのまま南に伸びる長い尾根を甲津原へ下りようという企てである。
非常に雰囲気のいい947mピークを越えると新穂峠。ここには立派な標識がある。
「近江湖北の山」ではいかにも峠越えの旧道という佇まいだったらしいが、今では岐阜県側から林道が上がっており、昔
日の面影もないのだろう。しかし「色の白いは七難隠す」とはよく言ったもので、すべてが白い雪に覆われて醜い傷跡を
目にせずに済んでいる。
それにしてもブナの多い尾根だ。雑木と植林が主体のあまり潤いのない尾根を想像していたのだが、その予想は見事
に外れた。うれしい誤算とはこのことである。
[attachment=3]P1000527_1_1.JPG[/attachment]
1039.9mの新穂谷山(点名新穂)から次の1010mピークにかけても見事なブナ林が続いた。
岐阜県側は概ね伐採を受けているが稜線近くは植林も入っていないので展望はすこぶる良い。蕎麦粒山から小津三山
へのワイドなパノラマが殿又谷の彼方に展開した。中津又谷側の斜面はブナ林が広がる。
1010mピークには5本の尾根が集まり、どの尾根を見てもブナ林だ。尾根の端の方にテープが続いているところを見る
と、無雪期にも歩かれているようだ。
新穂山はまだ遠い。山頂に着いてもそれまで以上に長い下山路が待っているので気を緩めることはできない。
いや、下山路というのは正確な表現ではない。ここはまだ今日の行程の中間点なのである。
1010mピークから急斜面を駆け下りると稜線東側に堆積した雪堤を歩くようになる。部分的に雪庇も残っているので油
断は禁物だ。
[attachment=2]P1000554_1.JPG[/attachment]
幾度もアップダウンを繰り返した後、やっと新穂山の山頂に到達した。時間的にはほぼ予想通りだが、雪は締まっていな
いところもあり、軽いラッセルを強いられた。
山頂の岐阜県側は植林が入っており、展望という点ではここまでの稜線の方が上である。
それでも木を避けるようにして眺めれば、越美国境稜線の三国岳あたりから三周、黒丸、烏帽子に続く白い山並みが見
えた。もちろん金糞岳は稜線に立って以来ずっとこちらを見下ろしている。
風を避けて北側斜面に陣取り、高丸方面を眺めながら時間が過ぎた。
[attachment=1]パノラマ 4_2_1.JPG[/attachment]
鳥越山へ続く稜線もアップダウンが多く、とにかく長い。右手は植林ながら、左手は素晴らしいブナ林という片手落ちの
稜線を、左側だけ眺めながら歩く。姉川源流も実にいい雰囲気で、谷通しに訪れてみたいところだ。
1001mピークの先で針路は南へと変わる。ここからは滋賀県の西側が岐阜県という変則的な尾根が鳥越山まで続く。
目指す鳥越山ははるか彼方。新穂山から2時間と見積もったが本当に行けるのだろうか。
932mピーク手前の大下りで痩せた最低コルに下り立つ。ここから150m弱の登りをこなせば本日の登りは終了だ。
高い気温にも関わらず雪があまり緩んでいないのが救いである。
一歩一歩高度を稼げば932mピークを過ぎ鳥越山へのフィナーレに差しかかった。
空はすでに雲の面積が大半を占めるようになったが、ここから本日一番のブナの森が始まった。これまで同様、目立った
大木はないものの、形のいいブナの並木道が迎えてくれた。
[attachment=0]P1000676_1_1.JPG[/attachment]
激しい喪失感に苛まれていたこの1週間。山に登っていていいのかという迷いが胸に広がっていたが、もの言わぬブナ
達が重く沈んでいた心を癒してくれた。
実際に被災した人々に比べれば自分の喪失感など何ほどのものでもないのは分かっている。
しかし無関係な彼岸に立って毅然としていられるほど強くもない。今の自分にできることをするしかないのだ。
本日一番のブナ林を堪能して鳥越山に立つ。点名は「栗ヶ谷」。向山という名もあるらしい。
先ほどの新穂山は点名「大ヶ屋」。「アリカミノ岳」という名を草川氏は甲津原で採取したらしいが、どういう由来なのだろう。
このあたりの山々は正式な名称が何かわからないものが多い。
山頂すぐ西側の鳥越峠の奥に、金糞岳が大きく迫っている。
もうすぐ4時だ。ここから甲津原への尾根も長い。鳥越峠への分岐を過ぎるとブナ林も終わり、一転して雑木と潅木の尾
根に変わった。その代わり見晴しは良く、中津又谷の対岸に辿ってきた尾根を一望することができた。
途中で中津又林道へ逃げようかと809m標高点への分岐に立つとまだまだ白い尾根が続いている。逃げてもそれほど差
があるわけでもなさそうだ。尾根の末端まで見届けたいという思いに駆られて、更に南へと足を踏み出した。
新穂峠の南で稜線に乗って、中津又谷すなわち姉川の源流域をほぼ一周したわけだが、林道終点から上流では一切
植林は見られず、豊かな二次林に覆われていた。これはまさに想定外のことだった。
標高700mに近付くとさすがに植林が優勢となる。甲津原の集落が見えてきた。その上には奥伊吹のスキー場の全景
が覗く。
665mピークを過ぎ、まだらに地面が見え始めたがなんとかスノーシューを脱ぐことなく甲津原の浄水場に着地した。
スキー帰りのドライバーの視線を浴びながら、意外に勾配のある県道を駐車地へとぼとぼと歩いた。
今日もまた新たな発見にあふれた一日だった。
山日和