初めてスノーシューというものを見たのは、20年前に仕事で行ったニューヨークの「山や」さんだった。
体重のある私は、その頃ワカンで雪山を歩いていたのだが、セカンドをしていてもさらに沈み、ほとんどどこへ行っても「ひとりラッセル」の状態だった。だから、雪山が楽しいという前にえらい、きついという感じが付いて回って、余りおもしろいものではなかった。そのため雪山というと、もっぱらアイゼンとピッケルでGWに行く北アルプス、八ヶ岳が中心となっていた。
そんな時にスノーシューというものを見た時は、これならもう少しマシではないかと期待を寄せたが、まずすぐには日本で見掛けることがなかった。それから、5年ほどするとMSRの「デナリ」を名古屋のお店で見つけた。ニューヨークで見たものとはちょっと感じが違ったが、購入してみた。
そしてそれを初めて使ったのが、鈴鹿の龍ヶ岳だったが、今から思うと雪がほとんど締まった状態で、スノーシューの本来の持ち味を発揮することがない状況であり、さらにトラバース時には横滑りし、ワカンよりも使い物にならないものだなあという感じだった。
それから何度かは使ってみたが、イメージは大して変わらなかった。ほとんど使わなくなってからさらに数年が経って、山日和さんたちが、「スノー衆」と称して、みんなでスノーシューを履いて雪山を楽しんでいることを知った時は、ちょっと衝撃だった。まさにそれが、スノーシューを見直す切っ掛けとなったわけだ。
取り敢えずは、「デナリ」が有ったものだから、それを使っていたが、昨年の1月にどのお店でも定価販売だったMSRの「ライトニング」が、何かの間違いか好日山荘で3割近い値引きで売っていたのを見つけ、思わず購入してしまった。
これを履いて、新雪の雪山を歩いてみると、まるっきり違うので驚いた。私の雪山世界が一変したようだった。今まで、苦痛の苦労でしかなかった雪山ラッセル山行が、楽しいものに変わったのだ。雪山を楽しみながら歩けるのだ。今度は私自身が、雪山に「はまって」しまったというわけだ。
また、今シーズンの北陸、湖北地方の大雪も有り、そして湖北というところが意外と近いということにも気が付いて、私の湖北通いが始まった。ほとんど入り浸っていると言っても過言ではないくらいだ。
そして、目標というか歩き通したいと思ったのが、江濃の国境稜線踏破である。そして、それは基本的に滋賀県方面から行くというものだ。まだ、ほとんど歩いていないので、どこまで歩けるのか分からないが、少しずつでもやって行き、踏破したいと思っている。
【 日 付 】 2018年2月18日
【 山 域 】 湖北地方 五台山、虎子山
【メンバー】 寺島国之、榊原計国
【 天 候 】 晴れ
【 ルート 】 姉川上流漁業協同組合養魚場7:39-11:08五台山11:17-12:00県境稜線12:11-13:33虎子山14:08-県境線を離れる14:24-姉川上流漁業協同組合養魚場16:57
- 五台山、虎子山周回
虎子山は、無雪期に国見峠からドライブのついでみたいにして登ったことがあるが、ほとんど「虎子山へ登った」という感じはなかった。そこで、いつか違うルートから行きたいものだと思っていたが、他のルートは無雪期だと登山道も無く、ヤブでとても難しい。そこで、積雪期という事になるが、取り敢えず確認できたのは岐阜県側の国見岳スキー場から登るというものだった。滋賀県側からだとけっこう距離が有り、考えてみてもなかった。
そんな中、山日和さんから西尾根を使うとおもしろいよと教えてもらった。また、草川さんの、「琵琶湖の北に連なる山」の中にも積雪期に西尾根を使って虎子山に登っている紹介が有った。それに近くの五台山の紹介も有り、それならばそのふたつを繋げて周回してみようと考えたわけだ。
草川さんの五台山紹介は、「吉槻集落の北はずれ、下谷の左岸に沿う尾根」から登っているが、それだと虎子山から西尾根を辿って下りて来てから車道を歩いて駐車地に戻らなくてはならい。そこで、足俣川の出合近くから右岸尾根を上がって周回し左岸尾根を下りて戻ることにした。
朝7時過ぎに足俣川の姉川出合に着いて、車の停めるところを捜す。辺りは一面積雪で、除雪してあるところは車の通るところだし、そうでなければ積雪で入ることもできない。ようやく、姉川上流漁業協同組合養魚場という建物の前にスペースがある。今はやっていないようなので、その前に駐めることにした。
7:39出発。北側にある尾根に上がり、それを辿って行けばよい。雪原となっている田んぼを突っ切って、尾根に上がり標高点322mから本格的な尾根歩きとなる。
雪は降り積もったばかりで、けっこうなラッセルだ。そんな中、しっかりと踏まれたトレースがあるではないか。あれっと思ったが、どうも狭い。スノーシューの片足分の幅もないのだ。そのトレースは、ヤブの中にも突き進んでいる。どうもこれは、動物の里通いのトレースのようだ。しかし、しっかりと踏み固められていて、片足分とはいえ、ずいぶん助かった。
9:20 標高点684mに辿り着くと、南に伊吹山が見えてきた。この辺りからみる伊吹山は、さすがに大きい。雪は、残雪というにはほど遠いが、40cmも50cmも毎足沈んでいたことを思うとずいぶん楽になった。残雪期への移り変わりが始まったというところだろう。
10:05 標高点946m 積雪はさらに増し、沈み具合も少し増した感じにはなるが、所々固い斜面も現れる。けっこう大きな雪庇が、張り出している。辺りの見通しが利くようになり、目指す五台山や県境稜線も見えて来る。天気は、予報を裏切って、けっこういい天気だ。ずっと曇りを覚悟していたから、思わぬご褒美に感じた。
10:26三角点992.5mの展望台を越え、さらに三つのピークを越えて標高1047mの五台山に着く。11:08
ひょっとしたら、五台山に辿り着くのも無理かもしれないと思っていたので、取り敢えずは、安堵の気持ちだ。また、時間と状況からいって、十分に県境稜線に辿り着き、虎子山に辿り着く見通しが立ったと感じられた。
五台山の山頂部からは、方向を90°北に向けて曲り、山腹を下りて行かなければいけなかったのに、尾根通しにそのまま歩いてしまった。それを30mくらい下りて気が付いたが、この辺りはあらかじめ確認し、心積もりをしておかなければいけないところだった。
五台山からは、一旦標高1000mくらいまで下りてから登り返す。1075mの小ピークに上がると美濃側の山々がいっぺんに姿を現した。しかし、ここは県境稜線ではないのだ。県境稜線は、ここから少し下がったca.1060mのところを通っている。県境稜線到達、12:00
ここで、携帯GPSを落としたことに気が付いた。先ほどの1075mの小ピークで確認したので、落としてからそうは間がないはずだ。真っ青に成りながら見つかると信じて少し戻ってみると、雪の中に微かに一部が覗いていた。助かった。これが無雪期ならばヤブの中に隠れてしまって、見つけるのは難しかったことだろう。
今回は、虎子山も目的だが、一番の目的は、県境稜線を歩くことだ。だから、何とか県境稜線まで辿り着いたことは、ちょっとした感慨があった。今から未踏の県境稜線を踏んで、虎子山へ向かうんだという気持ちだ。
- 虎子山
少し稜線を南へ歩いてみると展望台のような見晴らしのよいところがあった。ここからの一番のご馳走は、貝月山だった。南アルプスの伊奈側からみた仙丈岳のようだ。鎗ヶ先もその名の通り、ちょこんと突き上げて、その通りの姿を見せている。この時間にここまで来られれば、山日和さん御得意の闇下(先日は、ついにスノー衆の連中も巻き込んでの闇下だったという噂もありました)になることもないないだろうという見通しも付き、ちょくちょく立ち止まっては展望を楽しみながら行く。鞍部の標高点1013m 12:37 からは、虎子山山頂まで170mの登りになる。
- 虎子山最後の急登
13:11 標高ca.1100mからは急登になる。一歩一歩、もう急がずに登って行くが、40mばかり登るともうどうにも上がって行かない。足を振り上げて前に出すが、足下の雪と共に滑り落ちて来てしまう。足下で極小の表層雪崩が起きている状態なのだ。どうにも上がって行かないので、やむなく右のヤブに逃げる。これまた悲惨なヤブ漕ぎが待っていたが、まだ何とか進むことができる。しばらくの激闘で何とか緩やかなところまで上がった。何ときつい長い時間だと思ったが、後でみてみると10分足らずのものだった。これまた人生と一緒だなあと思ってしまう。
後は、揺るかな尾根を辿って虎子山山頂へ。13:33到着。標高1183.2mの山頂だ。遅くなってしまったお昼を、展望を楽しみながら頂く。お昼は、三角点ピークでしたが、実際には、その次のピークの方が少し高いようだ。しかし、三角点がここにあるので、ここが山頂ということだろう。無雪期に来た時とは丸っきり違って、来たことがあるという感じはしない。標識も雪の下に埋まり、ただテープが巻いてあるのが見えるのみだ。このテープも後で無雪期の写真を見てみると、はるかに高いところに巻いてあった。テープは、積雪時に巻かれたものであろう。
14:08 山頂出発。二つの同じ様な高さの小ピークを越えて、県境線から離れる。その間の雪庇の造形は見事だ。まるで、砂漠に見る風紋とよく似ている。実際には砂漠の風紋は、写真やテレビでおなじみなだけで見たことがないのだが、目の前にある方は実物だ。
- 美しい雪庇の造形と伊吹山
標高点1163mを過ぎて、尾根の途中から左へ振らなければいけないと意識しながら歩いていたら、少し早めに曲がってしまい、しばらくして気が付いたのでトラバースしながら本来の尾根を目指した。方向はずいぶん違うのに尾根だけ見ていると違う尾根を行ってしまうことはしばしばある。道間違いは、ほとんど下山で起こるので要注意だ。本当は、こんなところもコンパスを使って歩けばそんな間違いはしないだろうに、GPSに頼ってついついサボってしまう。やはりこれではいけないと再認識。
- 伊吹北尾根全景
尾根が西に向くと一気に琵琶湖が目の前に広がる。雄大な風景だ。琵琶湖畔の町の様子も見える。高山とはまた違うみごとな景観だと思う。
- 琵琶湖
それからしばらく行って、事件は起きた。雪庇からある程度の距離を保って歩いていたつもりだったが、突然足下が揺らいだ。慌てて飛び退いた、何ていうカッコイイものではなく、山側に倒れ込んで這って逃げて難を逃れた。浅野さんが、雪庇を踏み抜いて20mくらい落ちた話は聞いていたが、単なる不注意だと思っていた。しかし、思いもよらないところから崩れ落ちたのは驚いた。また、その音がすごかった。まさに低音の爆音のようだった。振り返って見ると、足跡が突然切れ落ちている。よく落ちずに済んだものだ。
- 雪庇崩壊現場
標高点946mは、ちょっとした広場のようだった。15:16 通過。さらに下って、標高点630m 15:54を過ぎると道跡のような感じが現れた。そして、事件はまたまた起きた。何だか左足の感じがおかしいと思ったら、左のスノーシューのリベットが2ヶ所も取れていた。実は、つい先日も右のスノーシューのリベットが2ヶ所取れて、直してもらったばかりだった。今度は、対照的な反対側の全く同じ場所が取れたから、そういうことかと思ったが、まずはどうしましょうだ。
一旦は、左足のスノーシューを脱いで歩いてみたが、何と無い方は股まで沈んでしまう。それでは、とても右脚の太腿が持たないので、どうしようかと思ったら、テラくんが準備していたヒモで固めてくれた。何とかまともに歩くことができて大助かりだった。
16:31 ca.340mで除雪してある林道へ出たので、そこでスノーシューを脱いで駐車地へ戻った。16:57 いろいろあったが、何とか無事に戻り、今日のたらふく歩いた疲労感に大満足である。