黒蔵谷は下の廊下、中の廊下、上の廊下と呼ばれる3つの廊下を配し、下流部はほとんどがゴルジュ内の泳ぎと大滝の突破の連続である。michiさんから31日に休みが取れたので2泊3日の予定で黒蔵谷遡行、高山谷下降に挑戦しませんかとのお誘い。正直言って私は泳ぎ沢が苦手である。泊まり装備で行って溺れかけたトラウマがある。しかし、ライフジャケットを持っていけば大丈夫とのmichiさんの言葉に乗せられて行くことにした。まあ、今の私の能力でどれだけ泳ぎ沢に通用するのか試してみるのもいいだろう。
しかし、現実は甘くなかった。ラバーソールの天敵である錆色の藻が生えたツルツルの石と苦手の泳ぎと大滝のきわどい突破に体力気力共使い果たし、1日目にして敗退決定。まあ、その一部始終を報告します。
【 日 付 】2017年7月29日(土)〜30日(日)
【 山 域 】南紀 熊野川水系大塔川支流 黒蔵谷
【メンバー】michi、シュークリーム
【 天 候 】両日とも曇り一時雨
【 ルート 】
1日目:駐車地 6:00 --- 6:18 鮎返滝 --- 下の廊下 --- 8:57 出谷出会い --- 中の廊下 --- 11:18 6m滝--- 12:30 高山谷出会い(泊)
2日目:泊地 7:38 --- 10:35 出谷出会い --- 12:31鮎返滝 --- 13:25 大塔川 --- 13:45 駐車地
1日目:
1日目朝5時に駐車地に集合とのこと。michiさん張り切っているなあと思いながら、深夜2時半に自宅を出る。それにしても自宅から2時間半で川湯温泉の奧の林道までたどり着けるなんて、ちょっと前までは考えられなかったことだ。
6時に出発。駐車地から杣道をたどると黒蔵谷出会いのすぐ下流に降りる。右折して黒蔵谷。水温が高いせいか流れの中の石のほとんどに赤錆色の藻がつき、ほとんど摩擦を感じずにツルッと滑る。滑って捻挫をしないように気をつけないといけないなと思いがながら、腰が引けてしまう。
- 鮎返滝 左側を登る
しばらく行くと最初の関門、鮎返滝。いかにも南紀の滝らしく、水量豊富で立派な滝だ。ここは釜を泳いで滝の左に取り付き、登るコースだ。突撃隊長で泳いで行くが、ザックに外付けしていたロープが横向きになって、体全体が横になってしまい、コントロールがつかなくなる。這々の体で引き返し、michiさんにバトンタッチ。ロープで引っ張ってもらう。
滝左のテラスに上がり、さらに垂壁を4mほど登らなくてはならない。ホールドが細かく、厳しそう。カムが使えるようなスリットはなく、ハーケンを打つようなリスもない。意を決してフリーで登る。下が岩なので落ちることはできない。なんとか登りきり、michiさんを引き上げる。久しぶりに怖い思いをした。
滝を越えるとすぐに下の廊下。ロープをザックの中に無理やり押し込み、泳ぎ始めるが、やはり体が横になってコントロールがきかなくなる。しょうがないので、この後はずっとmichiさんにロープで引っ張ってもらうことにする。
- 下の廊下
この時点ですでに気分は下降モード。michiさんが気を使って「シュークリームさんと一緒に来ることができてよかった」と言ってくれるし、確かに美しい谷だとは思うが、自分が来るべき場所ではないように思えた。
- 出谷出会い付近
下の廊下を越え、出谷出会いを過ぎるとすぐに中の廊下が始まる。ここもmichiさんにロープで引っ張ってもらう。
- ロープを引っ張って泳ぐmichiさん
中の廊下の中に立派な6m滝。滝の左を登るのだが、取り付きが垂直でとても登れそうには見えない。michiさんが泳いで取り付く。2回ほど落ち、3回目に見事に上がる。この人の登攀能力はすごい。ロープで引っ張ってもらって私も上がろうとするが、ホールドもなく、岩はツルツルでとても登れない。michiさんはこんなところをどうやって登ったのだろうか。
- 中の廊下の6m滝 左側を登るのだが、つるつるで登れなかった
何度か試みるがとても登れない。水中に長いこと浸かっているうちに、体が冷えてきて力が抜けて行くのがわかる。michiさんに敗退の意思を伝えるが、許してくれない。なんとか試み、最後はmichiさんに無理やり引き上げてもらう。この時点ですでに戦意喪失。この状態でこれ以上進んで、事故でも起こすと取り返しのつかないことになる。まだ体力が残っているうちに撤退を決めるべきだろう。michiさんにもうこれ以上は進めないことを伝える。
時間は早いが、この先の高山谷出会いで沢泊することにする。高山谷出会いには沢泊に最適な平坦な場所があり、前住人が残していったものであろう薪がたくさん残されている。michiさんは今晩の食料の調達に、私は焚き火をしてのんびりする。まだ明るいうちからバーボンを飲み、焚き火の横で酔っ払って居眠りする。そのうち、michiさんがテントに引き上げたので、私もタープにくるまって寝る。虫もいなくて、寒くもなく、熟睡できた。
2日目:
今日はもうのんびりなので、ゆっくりめに6時に起きる。ゆっくりと朝食をすませる。michiさんから今日中に下山しましょうかとの提案。私ももうこれ以上突っ込む気はないので賛成する。
昨日たどったルートをそのまま下降するので気が楽だ。6m滝を懸垂で降りた後だろうか、michiさんが顔をしかめている。左足をひねったらしい。歩けるかと聞くと歩けるということなので、ゆっくりとでも歩いてもらうことにする。どうせ食料はあと二日分残っているので、歩けなくなったらもう一晩山中で過ごせばいい。
- 足を捻挫しながらも頑張るmichiさん
私が先行し、michiさんが後をゆっくりとついてくる。下降は水の流れに乗って泳げばいいし、昨日の経験でバランスをとって泳ぐコツも掴めたので、ゆっくりとではあるが自分で泳げるようになった。今回の一番の収穫だろう。余裕が出てきたので、周りの風景を見ることができる。よく見ると本当に美しい渓谷だ。
- 素晴らしい渓谷美
それでも、ほとんど水に浸かりっぱなしなのと、ぬるぬるの石に悩まされて疲れが蓄積してくる。時々派手に転ぶので、身体中アザだらけになっていることだろう。最後の鮎返滝を懸垂で下降するともうすぐそこが大塔川の出会いだ。ただ下降しただけなのに、いつもの倍疲れたような気がする。おそらく、ずっと水に浸かっていて、体が冷えたせいだろう。最後の気力を振り絞って林道まで上がる。生きて帰ってこれてよかった。
- 生きて帰ってこれた
二日間で遡行に6時間半、下降に6時間かかった沢旅だった。これでも黒蔵谷の下半分しか遡行できていない。結果的に敗退したとはいえ、私なりに力を使い果たしたので、反省点は特別ない。まあ、自分のような老人が行くべき谷ではなかったということだろう。足を引っ張ってしまったmichiさんには申し訳ないと思っている。
今回の教訓:老人に冷えは禁物
なお、休日が1日残っていたので、michiさんと二人で湯峰温泉に泊まってのんびりしてきました。私向きの沢旅で、いい時間を過ごすことができました。終わり。
黒蔵谷は下の廊下、中の廊下、上の廊下と呼ばれる3つの廊下を配し、下流部はほとんどがゴルジュ内の泳ぎと大滝の突破の連続である。michiさんから31日に休みが取れたので2泊3日の予定で黒蔵谷遡行、高山谷下降に挑戦しませんかとのお誘い。正直言って私は泳ぎ沢が苦手である。泊まり装備で行って溺れかけたトラウマがある。しかし、ライフジャケットを持っていけば大丈夫とのmichiさんの言葉に乗せられて行くことにした。まあ、今の私の能力でどれだけ泳ぎ沢に通用するのか試してみるのもいいだろう。
しかし、現実は甘くなかった。ラバーソールの天敵である錆色の藻が生えたツルツルの石と苦手の泳ぎと大滝のきわどい突破に体力気力共使い果たし、1日目にして敗退決定。まあ、その一部始終を報告します。
【 日 付 】2017年7月29日(土)〜30日(日)
【 山 域 】南紀 熊野川水系大塔川支流 黒蔵谷
【メンバー】michi、シュークリーム
【 天 候 】両日とも曇り一時雨
【 ルート 】
1日目:駐車地 6:00 --- 6:18 鮎返滝 --- 下の廊下 --- 8:57 出谷出会い --- 中の廊下 --- 11:18 6m滝--- 12:30 高山谷出会い(泊)
2日目:泊地 7:38 --- 10:35 出谷出会い --- 12:31鮎返滝 --- 13:25 大塔川 --- 13:45 駐車地
1日目:
1日目朝5時に駐車地に集合とのこと。michiさん張り切っているなあと思いながら、深夜2時半に自宅を出る。それにしても自宅から2時間半で川湯温泉の奧の林道までたどり着けるなんて、ちょっと前までは考えられなかったことだ。
6時に出発。駐車地から杣道をたどると黒蔵谷出会いのすぐ下流に降りる。右折して黒蔵谷。水温が高いせいか流れの中の石のほとんどに赤錆色の藻がつき、ほとんど摩擦を感じずにツルッと滑る。滑って捻挫をしないように気をつけないといけないなと思いがながら、腰が引けてしまう。
[attachment=0]P7290088.jpg[/attachment]
しばらく行くと最初の関門、鮎返滝。いかにも南紀の滝らしく、水量豊富で立派な滝だ。ここは釜を泳いで滝の左に取り付き、登るコースだ。突撃隊長で泳いで行くが、ザックに外付けしていたロープが横向きになって、体全体が横になってしまい、コントロールがつかなくなる。這々の体で引き返し、michiさんにバトンタッチ。ロープで引っ張ってもらう。
滝左のテラスに上がり、さらに垂壁を4mほど登らなくてはならない。ホールドが細かく、厳しそう。カムが使えるようなスリットはなく、ハーケンを打つようなリスもない。意を決してフリーで登る。下が岩なので落ちることはできない。なんとか登りきり、michiさんを引き上げる。久しぶりに怖い思いをした。
滝を越えるとすぐに下の廊下。ロープをザックの中に無理やり押し込み、泳ぎ始めるが、やはり体が横になってコントロールがきかなくなる。しょうがないので、この後はずっとmichiさんにロープで引っ張ってもらうことにする。
[attachment=1]P7290097.jpg[/attachment]
この時点ですでに気分は下降モード。michiさんが気を使って「シュークリームさんと一緒に来ることができてよかった」と言ってくれるし、確かに美しい谷だとは思うが、自分が来るべき場所ではないように思えた。
[attachment=2]P7290104.jpg[/attachment]
下の廊下を越え、出谷出会いを過ぎるとすぐに中の廊下が始まる。ここもmichiさんにロープで引っ張ってもらう。
[attachment=3]P7290116.jpg[/attachment]
中の廊下の中に立派な6m滝。滝の左を登るのだが、取り付きが垂直でとても登れそうには見えない。michiさんが泳いで取り付く。2回ほど落ち、3回目に見事に上がる。この人の登攀能力はすごい。ロープで引っ張ってもらって私も上がろうとするが、ホールドもなく、岩はツルツルでとても登れない。michiさんはこんなところをどうやって登ったのだろうか。
[attachment=4]P7290126.jpg[/attachment]
何度か試みるがとても登れない。水中に長いこと浸かっているうちに、体が冷えてきて力が抜けて行くのがわかる。michiさんに敗退の意思を伝えるが、許してくれない。なんとか試み、最後はmichiさんに無理やり引き上げてもらう。この時点ですでに戦意喪失。この状態でこれ以上進んで、事故でも起こすと取り返しのつかないことになる。まだ体力が残っているうちに撤退を決めるべきだろう。michiさんにもうこれ以上は進めないことを伝える。
時間は早いが、この先の高山谷出会いで沢泊することにする。高山谷出会いには沢泊に最適な平坦な場所があり、前住人が残していったものであろう薪がたくさん残されている。michiさんは今晩の食料の調達に、私は焚き火をしてのんびりする。まだ明るいうちからバーボンを飲み、焚き火の横で酔っ払って居眠りする。そのうち、michiさんがテントに引き上げたので、私もタープにくるまって寝る。虫もいなくて、寒くもなく、熟睡できた。
2日目:
今日はもうのんびりなので、ゆっくりめに6時に起きる。ゆっくりと朝食をすませる。michiさんから今日中に下山しましょうかとの提案。私ももうこれ以上突っ込む気はないので賛成する。
昨日たどったルートをそのまま下降するので気が楽だ。6m滝を懸垂で降りた後だろうか、michiさんが顔をしかめている。左足をひねったらしい。歩けるかと聞くと歩けるということなので、ゆっくりとでも歩いてもらうことにする。どうせ食料はあと二日分残っているので、歩けなくなったらもう一晩山中で過ごせばいい。
[attachment=5]P7300143.jpg[/attachment]
私が先行し、michiさんが後をゆっくりとついてくる。下降は水の流れに乗って泳げばいいし、昨日の経験でバランスをとって泳ぐコツも掴めたので、ゆっくりとではあるが自分で泳げるようになった。今回の一番の収穫だろう。余裕が出てきたので、周りの風景を見ることができる。よく見ると本当に美しい渓谷だ。
[attachment=6]P7300149.jpg[/attachment]
それでも、ほとんど水に浸かりっぱなしなのと、ぬるぬるの石に悩まされて疲れが蓄積してくる。時々派手に転ぶので、身体中アザだらけになっていることだろう。最後の鮎返滝を懸垂で下降するともうすぐそこが大塔川の出会いだ。ただ下降しただけなのに、いつもの倍疲れたような気がする。おそらく、ずっと水に浸かっていて、体が冷えたせいだろう。最後の気力を振り絞って林道まで上がる。生きて帰ってこれてよかった。
[attachment=7]P7300158.jpg[/attachment]
二日間で遡行に6時間半、下降に6時間かかった沢旅だった。これでも黒蔵谷の下半分しか遡行できていない。結果的に敗退したとはいえ、私なりに力を使い果たしたので、反省点は特別ない。まあ、自分のような老人が行くべき谷ではなかったということだろう。足を引っ張ってしまったmichiさんには申し訳ないと思っている。
今回の教訓:老人に冷えは禁物
なお、休日が1日残っていたので、michiさんと二人で湯峰温泉に泊まってのんびりしてきました。私向きの沢旅で、いい時間を過ごすことができました。終わり。