【日 時】2011年3月5日(土)
【山 域】奥美濃 トガス1076.8m
【天 候】快晴
【コース】夜叉龍神社8:45---10:30 P854m 10:49---11:43トガス---12:16 Ca1090m台地13:54
---14:20トガス---14:54 P854m 15:12---16:01夜叉龍神社
週初めから原因不明のひざ(裏)痛が続いていた。普通に歩くには問題ないが、深く曲げたりひざを着いたり
すると痛む。半分あきらめムードで週末を迎えたが、土曜日は完璧な高気圧下。行くしかあるまい。
ちょっと軽めに一度敗退しているトガスへ行ってみよう。
今年の大雪で、池ノ又林道は当然ながら除雪されていない。いつもならある入口の駐車スペースもなく、夜
叉龍神社まで戻って車を止めた。犬の散歩をしていたお爺さんに「山かね」と聞かれる。「湧谷か?」「いえ、ト
ガスです」「気ぃ付けてな」。ちょっと小太りの犬が人なつっこくて可愛い。
出発直前に1台の車が入ってきた。登山者のようだ。こちらへ近づいて来て、「大ダワですか?」と聞く。先ほ
どと同じ答えをするが、「トガス」がどこだか知らないようだ。取り付きの楽な場所など教えてあげるとスノーシュ
ーの話題になった。こちらがライトニングアッセントの宣伝をすると、「こないだ買ったばっかりなんで見てくれま
せんか」とまだ袋に入ったままのスノーシューを持って来た。パイプフレームの一般的なヤツである。こちらもス
ノーシューを出して構造の比較説明をする。彼もこのスノーシューを知っていたようで、「グリップしそうですねえ」
と感心している。ワカンにしようか迷っていたので、「せっかく買ったんだから使ってみたらどうです?」と勧めた。
とにかく一度は履いてみないといいも悪いもわからないだろう。
林道を少し進んだ斜面から取り付く。前回はここから直上したが、今日は省エネ作戦。傾斜の緩い尾根に向か
ってトラバースして行くと、向こう半分が自然林の小尾根に乗り、ひと登りで主尾根の広場に出た。
ここは下から見えるイビデン川上発電所の導水管のてっぺんである。
雪は良く締まっている。ここ1~2日で積もったグラニュー糖のような新雪が5センチほど乗って雪面を真っ白に
化粧していた。快適さと美しさが両方手に入る抜群のコンディションと言える。
広い尾根は雑木の疎林が続く。この尾根の下部はほとんど高度を上げないような緩い勾配で、まったく気楽なス
ノーシューハイクである。3週続けての快晴は日頃の行いの良さの裏返しだろう。
雑木林の尾根は確かに悪くはないのだが、目立った木もないので変化に乏しい。いつまでも風景が変わらず、
少し飽きてきたところでやっとブナが姿を見せた。Ca600mを過ぎたあたりだ。
- 疎林の尾根
元々この山にはブナ林は期待していなかった。前回もこの雑木の尾根の印象が残るばかりだったのだ。
背後には大ダワの山頂が間近に迫り、右手には湧谷山からの尾根の先に蕎麦粒山が頭を見せ始めた。
蕎麦粒山の姿はこちらが高度を上げるにつれ、せり上がるようにその面積を増やしていった。
右手の谷側から植林が上がってくると854mピークに到着である。この手前で初めてトガスの姿を拝むことがで
きる。
- 蕎麦粒山が大きくなってきた
ここから少し下って、右手に大きな雪堤を残したヤセ尾根をトガスに向かう。不安定そうな雪堤の端を避けて、左
手の樹林を絡みながら進む。徐々にブナが増えてきた。
前回もかなり苦労した急斜面をなんとか凌げばCa950mの幅広い台地状の尾根に変わった。
前回の撤退地点はこのあたりだったろうか。尾根上はブナの純林となり、緩やかな勾配の広々した尾根は気持
ちのいい限りである。
何のストレスもなく最後のちょっとした登りをこなせばトガスの山頂。控え目な木製の看板がひとつあるだけの
素朴な頂上だ。疎林が広がる何の変哲もない、それでいていかにも奥美濃らしい質素な山頂である。
- 素朴なトガス山頂
少し写真を撮ってすぐに山頂を後にした。目的地は北側にあるCa1090m台地。地形図マニアならずとも気になり
そうな地形がある。しかもトガスよりわずかながら標高は高いのだ。
北に向けて歩き出すと東側の展望が全開となった。蕎麦粒山と能郷白山から続く越美国境の山々が見事であ
る。
トガスの北端の左側には浅い谷が入り込み、尾根を乗り換えるような形で左へ進路を変えた。
このふたつの尾根と谷が作り出す空間は絶品だった。これまであまり見られなかったブナやミズナラの大木が雪
面に落とす影と、雪面の微妙なうねりが見事な造形を生み出している。
- うねる雪と影の戯れ
少しやせた尾根も若いブナが立ち並んでご挨拶だ。小ギャップを駆け下りて、ミニ雪庇の残る山頂台地へスノーシ
ューのフレームを利かせて歩を進める。最高の気分だ。
最後は50mほど横に連なるミニ雪庇の一角を崩して、ステップを切って這い上がる。
- Ca1090m直下のミニ雪庇
トガス北峰とでも称したいそこはまさに天上の楽園だった。尾根の東側は無木立の展望台、西側にはブナが並
び、木の間越しに江美国境の山々が覗く。少し位置を変えれば木立ちに邪魔されることもなく、国境の山並みが
惜しげもなくその姿を露わにしてくれた。
- 高丸と烏帽子
堂々たる金糞は言うに及ばず、大ダワ、猫ヶ洞、横山、神又峰、左千方、三国、高丸、烏帽子、三周は少し陰
になっているようだ。そして北から東に目を転じれば、不動、千回沢、冠、若丸、杉谷、能郷白山、磯倉、五蛇池、
蕎麦粒、湧谷。その向うには先週歩いた天狗と黒津が頭を出している。越美国境稜線の奥には姥ヶ岳や銀杏峰
部子山。はるか遠くには白山と別山、。乗鞍と御岳も視認できた。
- 能郷白山と蕎麦粒山
この山でこれほど素晴らしい展望が得られるとは想像もしなかった。もし5年前に山頂まで到達していたら今日は
なかったかもしれない。トガスという山は私の中では奥美濃の押えておきたいピークのひとつ。その程度の位置
付けだったからだ。無展望でも一度山頂に立っていれば再訪しようとは思わなかっただろう。それほどこの山に
寄せる期待は軽いものだったのである。自分の不明を恥じねばならない。許せ、トガスよ。
ことほど左様にこのCa1090m台地の展望と佇まいは素晴らしいものだった。トガスの三角点だけを踏んで引き返
す登山者は哀れという他ないだろう。
蕎麦粒と能郷白山を目の前にしてどっかと腰を降ろせば、先週は食えなかった鍋の味も一段と引き立つという
もの。ビールの喉越しもまた格別である。
食後のコーヒーを忘れてしまったが、ビールを忘れるよりは千倍マシである。
台地の北の方へ少し足を伸ばせばまた違った角度の展望が得られた。もう満腹だが、まだまだいくらでも入りそ
うでもある。
去り難い思いをザックに詰め込んでトガス山頂へ戻る。最初はホハレ峠方面への周回も頭にあったのだが、
そんな気はとうに消え失せていた。あの筆舌に尽くしがたい展望の余韻を味わいながら往路を戻ろう。
幸い雪はほとんど腐ることもなく、あっという間に導水管上部台地に到着した。
上から覗き込むと強烈な角度で導水管が伸び、すぐそこに林道の除雪終了点が見えた。点検にでも来たのか、
うまい具合にツボ足のトレースが残されていたので最後のアトラクションと、スノーシューを外して斜面に飛び込
んだ。あっという間に発電所の施設に降り立つ。
- 導水管横を下る
橋を渡って車道に出ると、またまた朝のお爺さんが犬を散歩させていた。
「トガスへ行って来たか」「はい」。人なつこい犬は雪の壁の上で尻尾を振っている。
大ダワ行きの彼はまだ戻っていなかった。どういうコース取りをしたのだろうか。周回ルートを教えてあげればよ
かった。
まだ日は高い。今日は明るいうちに温泉に入れそうだ。
山日和