おはようございます。
元越谷、木屋谷川と歩き慣れた沢を歩いているうちに、沢に対するモチベーションも持ち直してきたようだ。
本日の目的地は白山東面の大白川支流大白水谷(おじらみだに)。沢泊でのんびりというつもりだったが、天気の加
減で日帰りとなった。日帰りでこの沢をやる場合、通常は核心部を過ぎた二俣から大倉山への尾根に逃げるというの
がほとんどである。しかし自分のポリシーからしても核心部のつまみ食いはしたくないし、第一美しくない。
体力が持つかどうかの不安はあるが、とにかく御前峰山頂を目指そう。それもダイレクトで。闇下は想定の範囲内。
休み明けの仕事が辛いのを我慢しさえすればなんとかなるだろう。
山日和哲学が炸裂してますね。
それにしても、翌日の仕事はきつかったですね・・・って鉄人「山日和」は平気の平左だったかも。
大白川の駐車場からほんの少し戻ったところが入渓点である。最近はDOCでしか来ていないので、この駐車場で車
を見るのも久し振りだ。
やたら白っぽい流れに入る。この谷は何の成分なのか、異様に白い岩で構成されている。と言うより水の流れた部分
が白くなっているのだ。まさに文字通り「白水谷」である。
転法輪谷の出合まではまったくの平流。眠気を催してきそうな渓相が続いた。
休憩中に若者2人のパーティーが通過して行った。雑誌から出てきたようなスタイリッシュな出で立ちで、おっさん2人
パーティーとえらい違いである。2人の年令を足しても我々のひとり分まで行かないだろう。こういう若者が次代の沢登
りを背負っていくと思うと頼もしい限りだ。
よくぞ、あの長い林道をDOCで上がったものですね。途中でバッテリー切れになるはずです。逆に、あの長いダウンヒルは最高でしょう!
それにしても、不思議に白濁した水でしたね。岩も白変していたりで、たんぽぽさんと入渓した地獄谷の赤い岩とのコントラストが面白かったですよ。
二俣を左に取るとゴルジュの始まりだ。まずは挨拶代わりの2条5m。これは真ん中の岩場を上がってすぐに8m滝と
対面。右の岩壁にルートがあり、少し上がってから滝身に向かって登る。ホールドは豊富だ。
続いて3m滝を手前に配して25m大滝の登場である。3m滝の陰になって見えなかったが、先ほどのパーティーが登攀
準備中だった。瀑風を避けて様子を眺めていると、トップは下部にビレイポイントが見つからないようで行ったり来たりし
ており、かなり時間が掛かりそうに思えた。先が長いので残念だが右からの巻きを選択したが、こいつが悪かった。
ズルズルのルンゼは手掛かりも少なく、乏しい立ち木と草の根まとめ持ちでじりじりと上がっていく。ふ~さんはアイス
バイルを叩き込みながら続いた。落ち口のラインで流れの方へトラバースすると、小さいルンゼから簡単に沢へ復帰す
ることができた。
ちょうどセカンドが上がってきたところで、「難しかった?」と聞いてみると「全然」という答え。この大滝を登れなかったの
は残念だが、あの泥臭い巻きの方が我々には相応しいと言えるかもしれない。
最初、彼らは、途中でかなり手こずってたので、時間がかかりそうな予感もありました。カムが使えるクラックを探しているようにも見えました。
落石の巣のようなルンゼのギャップを掻き登り、ブッシュをひっつかんだり、草付きをだましながら登ったり・・・の消耗戦。
スライダー斜瀑5m、末広がり4mと越え、巨岩に挟まれた2mばかりの小滝で行き詰った。瀑芯突破は深い釜から取り
付くのが難しそうだし、頭からまともにシャワーを浴びる。右の草付きからの巻きはトラバースがかなり悪そう。右手の
巨岩の3mあたりの地点にはホールドがあるが届かない。結局選んだのはショルダー作戦である。ふ~さんの肩に乗っ
て空身で這い上がり、ザックを荷揚げした後ふ~さんを引っ張り上げた。
巨岩の下に割れた岩の残骸が転がっていたので、元々は普通に登れたのかもしれないが、なかなか面白いアトラクシ
ョンだった。
豪快な煙突状15m滝を右のルンゼから巻くと(この谷の巻きはほとんど右だ)、谷はいよいよ白さを増して、漂白した
ような岩が増えてきた。谷巾いっぱいに流れ落ちる5mのスダレ滝を快適に直登。続く長さ30mのナメ滝が美しい。
あの段差のあるショルダー越えには、智恵を使いましたねぇ。2mの小滝に行き詰まったばかりに3~4mの岩壁越え。それがまた、いやらしくてなかなか取り付けない。
5年前の同じ滝の写真を発掘して送ってくれましたね。ありがとうございます。明らかに、岩の崩落がルートを難しくしてしまったようです。
やはり、ある意味、岩が不安定だということを念頭に溯行する必要があるということですね。
2条5m、末広がり4mと続いたところで10m滝に突き当たった。左の斜上ラインを探るが中間部のホールドが乏しく登れ
そうにない。左の草付きも急な上にズルズルだ。落ち口へ続くバンドに乗りさえすればなんとかなりそうである。
結局斜上ラインの途中から真上へ上がってバンドに到達したのだが、微妙なホールドとバランスで少し気持ちの悪い
登攀だった。掴んだ岩が抜けない保証はないので、確認の上押さえ込むようにしなければならなかった。
ここで本日唯一のアンザイレン。アンカーを取れなかったので、ロープの流れからふ~さんには斜上ルートを上がるよう
に叫んだのだが、聞こえなかったようで同じラインを上がってきた。
こいつは、お疲れさまでした。中間部から、3本ほどラインを引きながら、どれが有利かと画策しましたね。さすが、山日和さん、安定感のある登りでした。
美しいナメ滝を3つ越えたところで連瀑帯は終了。Ca1800mの二俣に到着した。
本流は右だが、大倉山先のコルに突き上げる左俣も同じような規模で合流している。ここまで4時間半。ほぼ読み通り
のペースで来ている。
実は心配していたヒザは心配ない状態に戻っていたものの、体力が持つかどうかが大きな不安だった。しかし時刻は
まだ11時。遡行を切り上げて大倉山へ逃げようなんて口が裂けても言えない。山頂はともかく室堂平へと続く源頭まで
はと頑張ることにした。この時は何も口には出さなかったのだが。
「このまま山頂まで行くぜっ!」という気迫より、「山頂を目指す以外の選択肢なんてありませんよ」という自然な感じかな、あの時は。麦草でも、伊那前でも、そんな感じ?
ビールも抜きの簡単な昼食後、本流に進む。さすがに水量を減じた大白水谷は、しばらく平流が続いた後一気に高度
を上げ始める。しかし滝と呼べる規模の落差は数えるほどしかなく、間断なく続く段差を水が流れているといった趣きで
ある。いくつか現れる滝もすべて気持ちよく直登が可能だ。
その中にいかにもふ~さん好みの滝があった。鈴ヶ沢でも見た一面にコケの張り付いた滝。
緑色の滝というのはなかなかお目にかかれないのではないだろうか。例によって嘗め回すように鑑賞、撮影の後、腰ま
で浸かって滝身に取り付いた。どうも見るだけでは我慢できないようだ。私は巻くつもりだったが渋々後に従う。
あのね~。人を変人扱いしおって(^_^;)
進行方向はガスで覆われ出した。振り返れば下界の方は晴れ間が出ている。奥三方岳の荒々しいガレが頭を出して
いた。
不意に傾斜が緩むと、流れはもう小川の雰囲気だ。谷間は大きく広がり、河岸台地はお花畑が続く。
ハクサンコザクラ、カラマツソウ、クルマユリ、ミヤマタンポポ、ミヤマキンポウゲ等々、花にはいささか遅いだろうとの予
想を裏切るうれしい出会いだ。
カンクラ雪渓と名付けられたここは、盛夏なら雪の上をステップを切って歩くところだろうが、今日は全長10mほどの残
骸があっただけだ。
源頭に近付くほど傾斜が緩くなり、ついに谷の形は失われて一面のお花畑となった。遡行を続けて良かったと心から思
わせてくれる素晴らしい源頭部である。
明るく素晴らしい源頭部。努力が報われる予感に充ち満ちていました。
突然ガスのベールが剥ぎ取られ、眩しい青空が広がった。山頂を見上げると首が痛いぐらい間近にせり上がっている。
山頂ダイレクトにこだわって、ハイマツ漕ぎをせずに済むルートを目で探る。県境ラインはハイマツの密生のようだが、東
斜面は疎らで露岩も多く、なんとか繋いで行けそうだ。大白水谷と転法輪谷の中間尾根から右よりにルートを取る。
しかしこの登りは苦しかった。等高線の詰まり具合を見れば当然だ。10歩進んでは立ち止まるという繰り返し。
足元のイワギキョウの群落が慰めてくれる。
山頂まであと少しの、山頂直下から転法輪谷へ落ちるルンゼの手前で休憩していると、岩の間で何かが動いたのが
見えた。注意深く見ていると、小さく可愛い顔が頭を出した。オコジョだ。急いでふ~さんに告げるとすぐに姿を隠してし
まったが、しばらくするとまた違う場所からこちらを見つめている。慌ててカメラを出したがそれを2回ほど繰り返して消え
てしまった。
オコジョ君も激励してくれたので、最後のワンピッチを頑張ろう。そこから少し上がるとどこから続いているのか踏み跡ら
しきものがあった。
可愛らしいオコジョでした。警戒しているというより、あちらさんも、我々のことを興味津々で見つめてるようでした。
標柱が見えた。家族連れらしい3人パーティーが寛いでいる。今日は室堂泊まりなのだろう。
白山御前峰山頂に立った。出発から9時間が経過していた。ふ~さんとガッチリ握手。午後3時頃から雨模様と言う予
報にも関わらず、雲が多いものの頭上には真っ青な空が広がっている。
何度も来ている山頂。今年5月に来た時は何の感慨も湧かなかった山頂に、今日は満足感と達成感の笑みが止まら
ない。この喜びは大白水谷を最後まで詰めなければ決して味わうことができなかっただろう。登山としての沢登りを完
結させるためには、山頂というのは必要不可欠な存在だ。ふ~さんもまた同じ思いを抱いているに違いない。
まさに、その通りですよ。自然に笑みがこぼれてくる・・・。
名残惜しい気持ちを山頂に残して、登山道を下山開始。一般道の下りならガンガン飛ばせると思っていたのが甘かっ
た。さすがに足が言うことを聞かない。渓流シューズのままのふーさんも足を傷めたようで、不似合いなほどお上品な歩
き方である。室堂平ではハクサンフウロが満開だ。今年は遅くまで花が楽しめるようだ。
ありゃありゃ。私の歩きはいつでも上品なんですよ。内股で小股でさ。
室堂から大倉山の尾根に入ると、登ってきた大白水谷の源流がすぐそこに見えた。
「こんなに丸見えやったんか。悪いことはでけへんなあ。」と笑いあう。
それにしても、源頭部から御前峰へ続くラインもまた一望のもと。よく登ったものだと改めて感慨にふける。
右手を見下ろせばたんぽぽワールドのゾロ谷が、なんでこんなところを登る気になるのかというような殺伐とした雰囲気
で荒々しい姿を見せていた。驚いたことに、はるか下方の標高1500mに満たないようなところで雪渓が谷を埋めていた。
ゾロ谷は雪が深いんですね。あらためて、そう感じました。
カンバ帯からブナ林へ変わるあたりで暗くなった。最後の休憩がてらヘッデンを点灯する。
真っ暗なブナ林を坦々と下っていると、前方に光が見えた。ヘッデンの灯りのようだ。登山者?下山者?
すぐに追い付くと3人パーティーのひとりがかなりバテているようだった。3人ともヘッデンを点けているし、ここからは問
題のない道だ。ゆっくり歩けば大丈夫だろう。
彼らは、かなりきつそうでしたね。でも、我々が駐車地を出発する頃には、無事に下山してくるのが確認できましたから安心できました。
大白川の明りが木の間にチラチラしている。もうすぐだ。闇下の時の明りは勇気付けてくれる。
泊まりの登山者車だけが数台残された大白川の駐車場に到着。出発から13時間が経過していた。再びガッチリと握手。
さすがに疲れた。が、今はやり切ったという満足感が疲労感を遥かに凌駕している。
気掛かりなのは、しらみずの湯の営業時間だけだ。
山日和
しらみずの湯は、我々のためにわざわざ店じまいせず、待っていてくださったんでしょう(^O^)
最高の湯でした。
いろいろありがとうございました。
ふ~さん