【 日 付 】2019年5月4日(土曜日)~5日(日曜日)
【 山 域 】台高
【メンバー】山猫、家内、次男
【 天 候 】5/4 快晴、5/5 晴れのち豪雨
【 ルート 】(5/4)大又林道終点駐車場10:32~10:57大又林道終点~12:19明神平12:36~12:52前山13:15~113:32明神岳~14:08笹ヶ峰~14:45千石山~16:40赤倉山16:47~17:13千里峰~17:27奥ノ平峰
(5/5)奥ノ平峰6:05~6:53池木屋山~7:48ホウキガ峰~9:50弥次平峰(ランチ)10:23~11:43霧ノ平~12:52馬ノ鞍峰~14:21明神滝分岐~14:50三之公林道終点~途中から車~15:45入之波温泉
【山行計画】
長い連休ではあるが、テン泊山行の機会はこの4日~5日の二日間しかない。幸いにも天候には恵まれるようだ。今回の山行先はまずアケボノツツジを目当てに選ぶことにした。昨年の夏、池口岳~聖岳への縦走の下山でご一緒になった方が四国は赤石山のアケボノツツジの魅力を語って下さったのを拝聴し、今年の5月はアケボノツツジに逢いに行くことを心に決めていた。アケボノツツジの名所としては大峰も脳裏をかすめたが、これまでの山行でグーさんや山日和さんから頂いた情報でテン場や水場を掌握していることもあり、台高を選択するのに躊躇はない。まだテン泊を経験したことのない次男もついてくるという。明神平から池木屋山を経て馬の鞍峰までの縦走の計画とした。バスで榛原から大又まで入ることも考えたが、次男が長時間の電車やバスは乗り物酔いのために嫌がることもあり、始発の特急に乗り大和上市からタクシーで登山口まで入ることにする。
【一日目】
大和上市で駅に降り立つと予約した近鉄タクシーの他にはタクシーが全く見当たらない。他のタクシーは吉野や大峰方面に出払っているとのこと。予約をしていなかったらここでタクシーを長時間待つ羽目に陥るところだったかもしれない。
大和上市のコンビニで500ml缶の一番搾り二本と次男のキリンレモンを購入し、凍らせた500mlのペットボトルを入れた保冷袋に入れると80L入る筈のリュックはほぼ限界まで膨らんだ。山の上で家内と乾杯をするためには次男の炭酸ジュースの負荷の追加は致し方がない。
大又から林道を入ると、新緑が一層、鮮やかになったようだ。タクシーの運転手も「新緑が綺麗やなー」と感心している。登山口に辿り着いて、タクシーを降りるとすでに駐車場はほぼ満車状態である。登山客が続々と歩き始めている。
明神の滝に来ると前回は厳冬期だったので滝がすっかり凍りついていたのを思い出す。水量が多く流れる姿を目にするのは始めてである。登山口を離れて、滝がよく見える場所まで谷沿いに登ってみる。明神の滝を越えると、上から高校生と思われる数十人のパーティーが下ってくる。植林を抜けて明神平が近づくあたりになると樹々の新緑はまだである。登山道の近くではまだ散り始めの桜の花が咲いている。
明神平に到着すると天王寺高校の山小屋であるあしび山荘を整備しておられるようで、周囲には大勢の人がいる。後のBiwa爺さんの情報によると、どうやら先程の大人数のパーティーは天王寺高校のパーティーだったようだ。明神平の東屋の南側の平地の芝生ではすでに二組ほどのファミリーが昼食をとっておられた。一組が出発したので、薊岳の見晴らしがきくところで巻きずしのランチとする。地面に地図を広げて次男に見せると地図の上にポツポツと小さな黒い点が増えてゆく。小さなダニだ!慌てて芝生を離れ、荷物をたたむ。
- 薊岳の望む絶好の展望地でランチ・・・の筈が
明神平をあとにすると急に人影が少なくなる。縦走コースからは外れるが、まず前山に立ち寄ることにする。前山の左手のスキー場跡は昨年末に縦走した時に霧の中でテントを張ったところであり、晴れた日の光景を確かめておきたかったこともある。
前山の山頂からわずかに南斜面を下ると大きく展望が広がり、中奥川源流域の谷を挟んで右手には二階岳、木の実矢塚、左手には赤クラ岳から白鬚岳へと続く長い尾根を見晴らす。今年の年始にこの中奥川流域を取り囲む山々を周回したところなのだが、その時は山の上は終始、雲の中で、全く眺望が得られなかったので、中奥川の源流域の景色を改めて前にするとこんなところだったのかと今更ながらに深い感慨が沸き起こる。
- 前山より中奥川源流域の展望
出発しようとしたが、ピークで休憩していた家内がまだ展望を見ていなかったので出発を遅らせると丁度、薊岳の方から二人連れが登ってこられた。挨拶をしたところで、まさかと思ったが、見覚えのある顔である。何と以前、厳冬の八丁平でお会いして以来、親しくさせて頂いている山友のM氏である。連れの長身の立派な体格の男性は大学に入られたばかりのご子息であった。
M氏は明神岳で戻られるというので、「それは勿体ない、桧塚奥峰まで行くのがいいですよ」とつい余計な口出しをする。まずは明神岳までは一緒に連れ立って歩く。随所にバイケイソウの緑が乾いた色の林床の中でよく目立つ。明神岳を過ぎたところでは私の容喙のせいか桧塚奥峰へと向かわれることになったM氏父子に訣れを告げて、台高主脈を南に下る。
笹ヶ峰、壮麗な山毛欅の林も素敵なところである。前回の山行では10m先も見えないような薄明の濃霧の中をコンパスとGPSのみを頼りに雪の上を歩いた記憶が蘇る。違う季節の山毛欅の林の表情を見てみたいと思っていたところである。笹ヶ峰の中では芽吹いたばかりの山毛欅の若緑色が鮮やかだ。
千石山への登りに差し掛かると樹のない開けた尾根となり、薊岳から明神岳への稜線を展望する。千石山から東峰への吊尾根に入ると桧塚奥峰が左手に綺麗にみえる。東峰を訪れるのはまずシャッポ尾根のアケボノツツジを見るという目的があったのだが、尾根の上部にはアケボノツツジは見当たらない。もう一つ、この東峰を訪れたのは、東峰の見晴らしのよい草原が続く南尾根を下るためである。絶景の中を気持ちよく下ってゆく。尾根には随所で色の濃い花が咲いている。満開のミツバツツジである。
- 千石山東峰南尾根から
- ミツバツツジと赤グラ山
本来の登山道が通る千石山の中間部から下ってくる尾根が近づいたところで、小さな沢を渡って尾根を乗り換える。赤倉山へは坂を登ったかと思うと、次の登りが現われるということを繰り返す。足元では小さな花が満開であり、その中を歩くと沈丁花にも似た甘い芳香が漂う。
赤倉山へのこの多段階的な登りにめげるかと心配したが、次男は泣き言を云うでもなく、快調に登ってゆく。右手には白鬚岳へと続く長い尾根が近づいてくる。尾根の北斜面では数多くの桜が満開のようだ。赤倉山と山頂が近づくと尾根上にはシャクナゲを多く見かけるが、花は全く咲いていない。それどころか、蕾すらあまり見かけない。赤倉山の山頂に着くとさすがに次男もそろそろ疲れたようだ。しかし、千里峰の左にこの日の目的地である奥の平峰が顔をのぞかせているのを目にすると、気力を出して歩いてくれる。
千里峰から奥の平峰まではあと一息。グーさんのお薦めに従って尾根から少し北側に斜面を下ったところをトラバースすると樹が少なく、開けた斜面からはシャッポ尾根を挟んでその向こうに桧塚を望む。この壮大なパノラマを望むには格好の展望台だろう。西陽を浴びて冬枯れの山肌は赤褐色に輝いている。シャッポ尾根の南斜面には桜の樹が多く咲いているようだ。
- グーさんのお気に入り場所から
奥ノ平峰に到着するとピークの北側にテントを張る。以前、宮ノ谷の右岸尾根から左岸尾根にかけて周回縦走した際にテントを張って朝食をとったところである。まずはグーさんに教えて頂いた南斜面の水場を探しに行く。水場への詳細な案内のお蔭ですぐにも水場が見つかる。お蔭で心置きなく焚き火が出来る。
- 奥ノ平峰の北尾根に幕営
まもなく西の空では夕陽の時間となり、赤倉山の右の肩に陽が沈んでゆく。夕陽がよく見える場所を求めて尾根を少し北に下ってみるが、尾根を少し下ると全く踏み跡のない灌木の藪となる。上空には雲はほとんどみられず、西の空にわずかにかかる雲は茜色に焼けている。久しぶりに見る山の上からの落日に次男も喜んでくれたことだろう。
テントに戻るとまずは大人はビール、次男は炭酸ジュースで乾杯である。テントの脇の檜の樹の下には薪の材料がふんだんに手に入るので早速にも焚き火をおこす。夕食は最初は手軽にカレーを温める。夜の帳が降りてきたところで、焚き火の上でアヒージョを調理する。600mlのペットボトルに入れてきた酒は飯高で入手した地酒、その名も「飯高」を味わう。皆、カレーとアヒージョで十分に満腹になったようだが、折角焚き火があるので、網の上でソーセージを焼いて食事を終える。
- 焚き火の上でアヒージョ
【二日目】
早朝4時過ぎに起きだすと東の空が赤く染まっている。まもなく日の出が始まると、太陽は雲の彼方で紅い斑点のような鈍い輝きを放つが、それも束の間、すぐに雲の中へと消えていった。出発準備に少し手間取り、予定より少し遅く6時過ぎの出発となる。池木屋山まではなだらかに尾根を登ってゆく。山頂に辿り着くと、初めて南東方面の眺望が開けるが、やはり壮大な雲海が広がっている。
池木屋山から先はいよいよ未踏の尾根だ。池木屋山からはホウキガ峰にかけて地図ではなだらかに見えるが、最初はかなりの急下降である。赤倉山から登尾にかけての長い尾根と林相といい尾根の雰囲気は似ているのだが、大きく異なる点はヒメシャラの幼木と思われる灌木の藪が連続することだ。その間につけられた踏み跡を辿るのは困難ではないが、積雪した状態では踏み跡を辿るのは困難であることが危惧される。
ホウキガ峰を過ぎると尾根上にはピンク色のアケボノツツジがチラホラと散見するようになる。小さなアップダウンを繰り返すうちにこの大黒尾根の中間地点であるp1258に到着する。このピークで尾根を右に曲がる必要があったのだが、踏み跡につられて尾根を直進してしまう。先に進んだところで踏み跡が不明瞭になり、道を間違えたことに気がつくが、ここは迷い込みやすいところだろう。本来の縦走路を目指して斜面をトラバースし始めると、鹿のものと思われる明瞭な踏み跡があり、容易にルート復帰する。
p1258を越えて最初の鞍部に辿り着くと地図では水場の印があるが、水場への案内は何もない。鞍部の細いヒメシャラと思われる樹に巻かれた古いテープにほとんどかすれかけた字で「水↓」と書いてあることに次男が気がつく。鞍部から南側の斜面に降りると谷の源頭から微かに水の音がする。岩の間からチョロチョロと湧き出す水を見つけると、すかさず次男が枯れ葉を差し入れて、水を汲みやすくする。教えたことはないが、いつの間にそのような知識を仕入れたのだろうかと感心する。
弥次平峰が近づくにつれ花を多くつけたアケボノツツジが多く見られるようになる。次男が「バイケイソウ、全く見当たらなくなったね」という。確かに明神岳のあたりで見かけて以来、見た覚えがない。山頂では早くも次男が「お腹が空いた」と空腹を訴える。ベーコンとカレーピラフを炒めて、スープと共に早めのランチをとる。
弥次平峰を後にして、尾根が西向きから南向きに方向を変えると急にあたりに新緑が進んだようだ。尾根上の山毛欅の若緑が美しい。ミツバツツジよりもアケボノツツジが目立つようになる。
シャクナゲも多く見られるようになるが、花はこのあたりでも全く見られない。わずかに咲きかけの二輪の花を見かけたのが、この山行中の唯一の花であった。
このあたりから尾根はヤセ尾根となり高低差は少ないものの急峻なアップダウンを繰り返すようになる。馬ノ鞍峰の手前の鞍部ではキレットとなる。キレットへの下りでは次男が落とした落石が猛烈な勢いで私の頭のすぐ近くを飛んでいった。
家内と次男は急峻な尾根の登り降りに疲れてきたようだ。コースタイムをオーバーして馬ノ鞍峰の山頂に辿り着く。丁度、反対側から大きな三脚に一眼レフを乗せた単独行の男性が山頂にたどり着かれるので、三人の写真を撮っていただく。
馬ノ鞍峰からはついに下りに入る。「もう登りはない?」と心配そうにきく次男に肯定の返事をすると、安心したらしい。新緑の山毛欅が続く尾根からジグザグと斜面を下ると、バイケイソウの大群落を越えて谷に下る。平坦な林に変わるとカクシ平に辿り着く。
カクシ平から林道終点までは地図ではそれほどの距離には思われないが、なかなかたどり着かない。次男はあとどのくらいと頻繁に私に尋ねる。GPSを確認して地図上の距離から時間を推測するものの、意外と時間がかかる。地図では直線のように記されているが、谷間を水平にトラバースする道は地図に記されているよりも実際にはかなり距離があるのだろう。次男は今回のゴール地点である入之波温泉に早く辿り着いて、温泉に入りたいのだろう。一心不乱に私の前を黙々と歩く。
ようやく林道終点に辿り着くと、広い駐車場には数台の車が停められている。明神滝からはカクシ平を目指す単独行の男性と、明神滝を目指す親娘と思われる二人連れの二組の登山者と擦れ違ったが、まだまだ山に入っておられる方々がおられるのだろう。これから長い林道歩きである。
きれいに舗装された林道を歩き始めたところで路面に黒い水玉があることに気がつく。ポツポツと小雨が降り始めたようだ。異様なのは路面の水玉が大きいことだ。この水玉の大きさを写真に撮っておかなかったことを後悔することになる。西の空が明るいので通り雨であることを期待したが、徐々に雨脚は強くなってゆく。レインウェアとザックカバーを取り出す。入之波温泉まではどんなに早く歩いても1時間半はかかるだろう。暗澹たる気持ちになって歩いているところ、何と後ろから来た和歌山ナンバーの車が止まって下さる。
馬ノ鞍峰から南へと稜線を辿ってこられたご夫婦であった。運転されるご主人は専ら後ろ姿しか見えなかったが、奥様は上品な顔立ちの美人である。今の我々にはご主人は観音様のようにも思えるのだった。車が走り出すとすぐにも、バケツをひっくり返したようなと形容したくなるような豪雨となった。ご主人が云う「台高はな、10円玉みたいな雨粒が降るんや。」おそらく今降っている雨はそのようなものだろう。
車の中では早速にも山の話で盛り上がるうちに、入之波温泉まではあっという間についてしまうのだった。タクシーの予約の時間にはまだまだ早かったが、既にタクシーは到着していた。しかし、歩いていたらタクシーを1時間以上待たせることになった挙げ句、座席を予約していた近鉄の特急にも乗れないところであった。なによりも入之波温泉の受付は16時までということを認識していなかったのだが、お蔭で温泉にも入ることが出来たのだった。車に乗せて頂いたご夫婦にはお礼の申し上げようもない。
次男もしきりと「乗せて貰えてよかったね。そうじゃないと大変だったね」と繰り返す。滅多に人に出遭わない静かな山ではあったが、山友との偶然の出遭い、それから人の厚意の有り難さが身に滲みた山行であった。次男にはかなりハードな山行だったかと思うが、それよりも焚き火が楽しさの印象が上回ったようだ。