【 日 付 】2019年2月24日(日曜日)
【 山 域 】鈴鹿
【メンバー】山猫、家内、次男
【 天 候 】曇りのち晴れ
【 ルート 】林道起点8:29~奥の畑入口 9:48~12:11南雨乞岳12:51~13:05雨乞岳~13:31杉峠13:34~14:33蓮如上人旧跡~15:37林道起点
この日の山行先を最終的に雨乞岳にしたのは、昨年の11月の下旬、次男を伴って訪れた雨乞岳とイブネの霧氷は美しかったもののガスで視界が遮られており、次男に雨乞岳山頂付近からの美しい冬の眺望を見せたいとただそれだけの理由であった。最近のシュークリームさんのコース取りの後追いとなるのだが、今回は以前から訪れてみたかった奥の畑を経由して登ることにする。
岩ヶ谷林道の入り口の駐車地には既に8台の車が停められている。橋の向こうには1台。多くのパーティーが山に入られているようだ。高曇りの空から柔らかな朝日が降り注ぐ林道へと入る。林道の随所にみられる苔むした石垣は自然と調和しており、目を愉しませてくれる。同じような林道でもコンクリートの吹付けられた擁壁が続くとうんざりするのだが、この林道には一箇所もそのような箇所がないのが嬉しい。
古屋敷跡を過ぎ、千種街道が藤切谷にかかる橋を渡ると、蓮如上人が泊まったという窯跡の手前から左手の斜面をトラバースする明瞭な道が目に入る。道を縁取る石垣からすると相当に古い道であるに違いない。早速にも道の上には雪が現れるが踏み跡は全くついていない。
小さな渡渉を繰り返しながら沢沿いに進む。尾根を周りこんだところで谷が突然広くなり、目の前に雪原が出現した。正面には清水の頭のなだらかな稜線を望む。
雪の上を歩くことが出来る歓びを再び味わうことが出来ると期待したが、雪原を抜けるとすぐに雪は少なくなる。地面の露出した林の中を進むと、右手に大きく開けた雪原が樹林の向こうに見えた。
いよいよ奥の畑である。既に雪はかなり消失し、地面がところどころで露出してはいるものの、この山中に秘境の如く忽然と出現した開放感ある場所の魅力が損なわれる訳ではない。
- 奥の畑
奥の畑を奥にすすむにつれて形の美しい一本の巨樹が出迎えてくれる。奥の畑の主と云われるシオジの樹ではないだろうか。この場所の緑が生い茂る季節、秋の季節を予想してみる。
奥の畑からは沢沿いに谷の奥に進むと、やがて右手の斜面が近づいてくる。斜面をトラバースする踏み跡を歩いていると上から降りてくる単独行の男性とすれ違った。すぐ右手の斜面を上がってゆく明瞭な尾根にたどり着いたところでこの尾根を登ることにした。尾根の左手、東側の斜面は雪で覆われているが、尾根芯から西側の斜面では雪は完全に消失している。冬と春の境界線が尾根に引かれているようにも思える。夏道は尾根の向こう側の谷間から登るようだが、ここは雪のない尾根芯を登る方が遥かに登りやすい。
- 稜線への尾根
登るにつれて樹々が少なくなり、南雨乞岳から雨乞岳の斜面の展望が広がり、斜面で囲まれた谷間の壮大な広がりを感じることになる。次男も凄い凄いと喜びながら、機嫌よく急斜面を登ってゆく。
- 尾根を登るにつれて南雨乞~雨乞岳の斜面の景色が広がる
大峠からの主尾根に到達するとさらに展望が開け、南鈴鹿への主稜線が目に入る。清水の頭への稜線も南側斜面のみに残雪が残り、北側はすっかり融雪している。遠くに見える大きな山は仙ヶ岳のように思えるが、またたく間に南鈴鹿の山々の稜線の上に雲がかかる。私自身は尾根上にもう少し雪があることを期待していたので期待が外れたのだが、息子が好展望に大喜びしてくれるのを見ると救われる思いであった。
清水の頭の向こうに見える山を差し、「あれが去年の1月に登った綿向山だよ」というと、「山頂に大きな石が積んであったところだよね」・・・確かに山頂には石を積んで造られた山頂票があるのを思い出す。
- 清水の頭の奥には綿向山
南雨乞岳にかけて登ってゆくと徐々に笹が深くなる。南側斜面の雪の上が遥かに歩きやすい。しかし既に緩み始めた雪は随所で踏み抜きを生じる。健側の脚で深く踏み抜くと、患側の脚で踏ん張って脚を引き抜くことが先週の横山岳では困難だったのだが、今回はトレッキング・ポールの支えを借りて引き抜くことが出来るのは先週からの大きな進歩だ。
雪の上をよくよく見ると無数の細かい雪片が落ちている。落下した霧氷である。樹々が霧氷を纏っていたのはつい最近のことだろうが、果たしてこの先、再び樹々が霧氷を纏うことはあるのだろうか。
- 南雨乞岳へ
稜線を南雨乞岳へと向かう間に雨乞岳の山頂にガスがかかり始めたかと思うと、南雨乞岳の山頂にたどり着く頃には雨乞岳も東雨乞岳も山頂付近が雲に覆われることになった。南雨乞岳の狭い山頂部でランチを調理することにする。この日はお湯を沸かしてカップラーメンと豚の角煮丼である。南雨乞岳は足早に通り過ぎてしまうようなピークではあるが、山頂からのほぼ360度、見晴らすことが出来る展望が雨乞岳よりいいのは確かだろう。
南雨乞岳から雨乞岳にかけても尾根の東側のみに雪が残っている。ここで初めてチェーンスパイクを装着する。尾根芯の上にも雪があるので歩きやすい。雨乞岳の山頂直下で雪が切れると、わずかな距離ではあるが、笹薮の藪漕ぎとなる。
- 雨乞岳への稜線
雨乞岳はガスで眺望がないのだが、北斜面に入ると、すぐに雲が切れて、すぐ東側の東雨乞岳、目の前にイブネへの稜線への眺望が広がった。こちらも東側斜面のみに雪が見られる。前回、次男と登った時には次男は背丈を上回る笹薮の中を登ることになったのだが、その笹薮は有り難いことにまだ雪の下だ。右手に見える鈴鹿主稜線の釈迦岳にはほとんどといってもいいほど雪が見当たらない。「ここはこんなに綺麗な景色が広がっていたんだ~。前回はガスで何も見えなかったからね。」と次男は素直に喜んでくれる。
- 杉峠への下りより
正面にイブネを望んで
杉峠からの下りは意外と雪が残っていた。下り始めるとすぐに単独行の男性が登ってこられる。この日に出遭う二人目の方だ。「こんにちは」と挨拶を送るとすかさず「アイゼンを見かけませんでしか?、4日前に来た時にこの辺りまでは着けていたのを覚えているのですが」男性はどうやらアイゼンを探しに来られたらしい。前回の山行ではイブネに行かれたらしい。「もう少し先まで探しに行ってみます」とのこと、無事、アイゼンが見つかるといいのだが。
北側斜面のトラバース道から陽のあたる谷間を下るようになると、私は相変わらず幾度も雪を踏み抜く。踏み抜きを繰り返すうちに、踏み抜きを生じるのはほとんど右側の健側の脚であることに気がつく。横山岳でもそうであった。足先が接地するまで骨折を負った患側の脚で支えることが出来ないため、体重が乗ったまま雪の上に脚を下ろすことになるからだろう。
大樹が連続するようになると古い街道の趣となる。空には雲の合間に青空が覗き、柔らかい午後の光に包まれた大樹のシルエットを楽しみながら、先頭を下る息子の後を追う。イッタンボウソウから藤切谷を渡渉して右岸を下るようになると、陽当りがいいせいだろう。登山道の雪はすぐになくなる。
- イッタンボウソウのすぐ上の大樹
橋を渡り、蓮如上人の旧跡が近づいた頃、息子がパパが斜面の下に降りていったところだ、と道の下を指す。なぜこんな斜面を降りたのか一瞬、怪訝に思ったが、美しく苔むした石垣の上を道が通っているのだった。その石垣の写真を撮るために斜面の下に降りたことを思い出す。子供はささやかな出来事をよく覚えているものだと関心せざるを得ない。
蓮如上人の旧跡からは次男が機嫌よく歩いてくれたお蔭で1時間ばかりで駐車地まで戻る。下山の最後で「パパは今日はいつもよりだいぶ遅かったね。でもこれくらいだと丁度いい」という息子の足取りは一年前に比べると、いつの間にかかなりしっかりしてきたように思う。数年後には私がついて行けなくなるだろう。
雪が少なくて多少、残念な感じもあるのだが次男が「今日は楽しかった」と喜んでくれると、山行に対する努力が全て報われる感じがする。しかし、次男に鈴鹿の美しい雪景色を見せるのは改めて来年度以降の私の課題となろう。