職場の自室の窓から鈴鹿の山を見ると,県境稜線の黒いシルエットの向こうに雨乞岳の双耳峰が白く輝いている。まるで,昨日来てくれたことを忘れないでねと言いたげである。
天気予報を見ながら次回の山行を木曜日と決めたのだが,肝心の行き先が決まらない。鈴鹿とだけは決めてあるのだが。そんな時に,最近の山行記録を見てこのコースを決めたのが前日の水曜日だった。
【 日 付 】2019年2月14日(木)
【 山 域 】鈴鹿・雨乞岳
【メンバー】単独
【 天 候 】曇り
【 ルート 】林道ゲート 7:46 --- 8:31 桜地蔵 --- 9:08奥の畑入り口 --- 11:09 清水の頭 --- 11:56 雨乞岳 --- 12:20 杉峠(昼食)13:03 --- 13:51 蓮如上人旧跡 --- 15:11 林道ゲート
甲津畑の集落横を通り抜け,岩ヶ谷林道(千種街道)の起点までは自宅からちょうど1時間半だった。途中,全く雪がないのは予想通り。前回の御池であの程度の雪だったので,今回はあまり雪の期待はできそうにない。スノーシューはザックの重しで終始してしまう可能性も考え,軽いワカンを背負っていくことにする。
- ゆったり流れる渋川にかかる千種街道の橋
歩き始めてしばらくは渋川の流れを左に見ながら進む。この下流側には幾つかの滝をかける渋川もこの辺りには滝など全くなく,ほとんど高低差のなさそうな場所をただ水が流れているだけである。三重県側の沢は,東多古知谷や蛇谷などのように滝が連なって,そのまま稜線に突き上げるような急峻な沢が多いが,滋賀県側の沢はこの渋川や佐目子谷,神崎川のようにほとんど滝がなく,山の奥深くからゆったりと流れ出る沢が多い。その分,鈴鹿の山の奥深さを感じたり,静かな山歩きを楽しむには滋賀県側から入るのがいいかもと思ったりする。
千種街道も昔の山人の営みがそこかしこに残り,林道を歩いても飽きることがない。千種街道を滋賀県側から三重県側に通して歩くのも悪くないかなと思ったりする。1時間ほどで桜地蔵。今日の安全な山行を願ってお参りしていこう。この時期に綺麗な花が生けてあると思ったら造花だった。
- 奥の畑入り口
蓮如上人旧跡の手前を奥の畑に向けて右折する。私は奥の畑に入るのは初めてである。来ようと思いながら機会を逃し,そのままになってしまっていた。いいところのようだが,沢登りの対象にはなっていないので,年中沢登りの私には縁がなかったのだ。
未踏の場所なので,念のためチェーンスパイクをつけていくことにする。ばりルートということだが,入り口にははっきりとした道型が付いている。新雪が積もった時には滑り台になって怖いところだろう。沢仲間のmichiさんに,「奥の畑の入り口に怖いところがあるんですが,どうすれば通過できますか」と聞かれて,私は行ったことがないのでわからない」と答えたことを思い出した。今だったら,「一歩一歩ステップを切りながら通過する」と答えることができる。
- 一面銀世界の奥の畑
先週末の古いトレースがあったので,その通りに進むと自然に奥の畑に入ることができた。それまでほとんど雪がなかったのに,奥の畑は一面の銀世界だった。3方を斜面に囲まれているので,降るだけ降っても溶けるのは遅いのだろう。冬枯れの広葉樹林なので,明るく雰囲気がいい。主体はナラ類と,後はなんなのだろう。シオジの大木があるということだが,どれがそのシオジなのかわからなかった。
- 周りは霧氷祭り
周囲の斜面の8,900mより上は綺麗に霧氷が付いている。今日は曇り空で,気温が上がりそうにないので,きっと美しい霧氷を楽しむことができそうだ。何度か渡渉を繰り返しながら緩斜面を進んでいく。確かにいいところだ。こんなところでテントを張ると気持ちいいに違いない。春が楽しみだ。
緩やかに高度を上げていくと,周囲がいつの間にか霧氷の森に変わった。青空ならきっと素晴らしく綺麗なんだろうけどなと思うが,まあいつもいつもピーカンというわけにもいかないだろう。曇り空でも文句を言ってはいけない。
本谷を上がれるところまで上がり,すぐ上に稜線が見えるところで右斜面に取り付く。標高差100mもないだろう。やや急な坂をひと喘ぎするとすぐに綿向山と雨乞岳をつなぐ稜線に出た。すぐ右側に清水の頭。無雪期でも気持ちのいいところだが,積雪期は笹が雪に隠れて一面の雪原となり,鈴鹿でもアルペンちっくなところだ。
- 左:清水の頭 右:綿向山
ここまで来て清水の頭に挨拶していかない手はない。笹が雪の下に隠れ平坦になった雪原を西へ歩くと5分ほどで清水の頭に着いた。いいところだ。西に綿向山。ここからの綿向山はいい。東が雨乞岳。北にイブネから,さらにその向こうに御池,霊仙,伊吹山なども見える。南側には野洲川ダム。ここを起点にして雨乞岳南尾根から清水の頭の南尾根を周回するのもいい。
- 雨乞岳へのルート
清水の頭から雨乞岳までは極上の雪原歩き。一見遠くに見える雨乞岳頂上も,実は歩いて30分程度だ。ひと喘ぎで南雨乞岳へ,さらに雨乞岳本峰まではやはり極上の雪原歩き。こんなところを経験すると癖になってしまう。なにせ,つぼ足でルンルンと歩けてしまうのだ。
- 南雨乞岳から雨乞岳本峰を望む
周囲には見渡す限り誰もいない。自分一人だけに準備されたこの風景なのだ。無雪期であれば笹漕ぎで苦労するコースも笹が全て雪に隠れて平坦な雪原になっている。風さえなければ雨乞岳頂上で昼食にするところだが,それなりに風が吹いている。吹きさらしで風を遮る場所もないので,杉峠まで下って昼食休憩にしよう。
- 杉峠への途中でイブネを俯瞰する
イブネを正面に見ながら杉峠に下る。この下りも雪がしまっているせいで,チェーンスパイクだけで問題なく降ることができた。20分ほどであっさりと杉峠着。枯れた大杉の根元に陣取って昼食にする。気温が低いせいで,足が冷えたのか足が攣りかける。雪面にシートを敷き,そこに横になってのんびり昼食。まずは暖かい甘酒で疲れを取り,手抜きのコンビニおにぎり。ご飯が冷えて硬くなっている。
天気は回復傾向のはずだが,小雪がちらつき始めている。陽が当たれば気温が低くてもポカポカのはずなんだけど。風も時折吹き込んでくるので,適当に切り上げて下山することにする。トレースはどちらの方向にもない。今日,この山域にいるのは自分だけのようだ。
杉峠からの下りは雪に隠れてまったくコースがわからない。谷沿いに適当に降りるとそのうち古いトレースがでてきた。あとはトレースに従って降りるのみ。蓮如上人の旧跡あとでチェーンアイゼンを外し,歩きやすい林道を下った。
今日は雪をほとんど期待していなかったのだが,以外に雪の多いコースで,しかもこのところの冷え込みでつぼ足でも快適に歩くことができ,極上の雪山歩きを楽しむことができた。
来週からは気温も上がりそうで,そろそろ鈴鹿の雪も賞味期限切れかな。そろそろ北上することを考えたほうがいいかも。