山歩き目的のトレッキングではないのでやぶレポに上げるのはためらわれたのだが,yamanekoさんに「楽しみにしています」と書かれるとあげないわけにはいかない。まあ,冬の上高地がどんな感じなのかを伝えるだけでもそれなりにレポの意味はあるのかもしれない。
長野県松本市にあるS大学で,私の興味を引くワークショップが開催されることを聞きつけた。しかも,3日目には冬の上高地を案内してくれるという。すでに現役を引退した身でという気もしたが,面白そうなので行ってみることにした。主催者はS大学の博士課程の学生さんで,参加費無料である。
26日にS大学理学部の会場へ行き,参加者名簿を見ると事前登録で64人の参加であった。間近にアルプスを望むS大学らしく今回のテーマは「山」なのだという。まずはアルプスをはじめとする中部山岳の形成時期の推定法に関するお話,日本列島の成立過程に関するお話などの地学のお話から始まり,植物では高山植物や樹木,昆虫ではクワガタムシや水生昆虫のカゲロウ,水生動物では陸生貝や渓流魚,動物ではサンショウウオ,トノサマガエルからツキノワグマの話までお話は広範にわたる。それぞれの生物群をマニアックに研究する人たちの話は聞いていて飽きない。
26日の夕方は懇親会に申し込んでいたのだが,全豪オープンの決勝と重なったのでキャンセルさせてもらった。私は大いにいい加減である。
【 日 付 】2019年1月28日(月)
【 山 域 】北アルプス・上高地
【メンバー】シュークリーム,ほか7名
【 天 候 】曇りのち雪
【 ルート 】松本駅西口 8:50 ---
--- 10:19 大正池 --- 12:20 河童橋(昼食)13:00 ---
-- 13:10 明神 14:30 ---
--- 15:50 松本駅西口
28日朝9時に松本駅西口に迎えに来てもらい,2台の四駆でそのまま上高地に向かう。参加者は私を入れて8人である。現役で働いている研究者たちは皆多忙なので,ほとんど参加していない。結局,大学の学生さんたちと地元長野県で働いている人たちだけになった。こんな時はサンデー毎日のご身分がありがたい。
上高地へは釜トンネルの手前で降りて歩くのだと思い込んでいたのだが,運転手をしているT教授が,トンネルの手前でやおら車のフロントに「S大学山岳科学研究所」の看板を出した。もしかしたらと思ったら,この看板の威力は絶大で,車止めゲートが開き,そのまま車でトンネル内に入っていく。
「おお,ファンタスチック!!」
- この紋所が目に入らぬか
黄門様の印籠みたいだ。「この紋どころが目に入らぬか!」てなもんである。車はそのまま上高地に入り,大正池のトイレ前で降ろしてもらう。釜トンネル手前からの歩行時間90分が短縮された。
- 大正池付近
ここから河童橋まで歩くのだという。車は別ルートで河童橋に先行して,そこからまた車に乗って移動するのだそうな。大名トレッキングである。少し歩いてからスノーシュー装着。梓川に沿って河童橋方向に歩いていく。しっかりとしたトレースがあり,トレース通りに歩く分にはスノーシューも必要ない。
- いざ出発
なにせ参加者全員がマニアックな生物学者ないしその卵である。マニアックな会話をしながらのんびりと歩いていく。まず,キツネの足跡。「なんでキツネってわかるの?」と私。「足跡がまっすぐについているのが特長です」とS大生のT君。ついで,テンの足跡。「なんでわかるの?」と私。ついで,ウサギやサルの足跡も。その都度聞いていく。私も一応生物学者なのだが,私の専門はマニアックすぎてこんな時の役には立たない。
- キツネの足跡
T君がサルの糞を採集している。サルの糞から水生昆虫のDNAが出てくるので,水生昆虫を食べている可能性があるという。ちなみにT君は水生昆虫の研究者である。こんな真冬でも水生昆虫は活動しているという。外気温ー20度でも,水中や雪の下は0度が保たれているので,水中や積雪下は保護された環境なのだという。なるほど。
- 地衣類の観察
笹を指差して,「これはサルが食べたあとです」。「なるほど」と私。「冬でも地面から水分を吸収している樹木の樹皮だったらサルの餌になります」。なるほど。「これがサルが食べた樹皮のあと。噛み跡があるでしょ。」。なるほど。勉強することは山ほどある。雪の中で赤っぽく見えるのはケショウヤナギだそうな。皆さんそれぞれ詳しいが,特に長野県I市の博物館に学芸員として勤めるSさんは植物,動物,地衣類など広範な知識を持っている。小さな博物館で生物担当の学芸員は一人だけなので,いろいろなことを勉強する必要があるという。なるほど,そりゃ詳しくなるわな。
- やっぱ上高地です
- I
I市で学芸員をしているSさん
そんな感じで河童橋まで歩き,ビジターセンターの軒下で昼食休憩。午後から夕方にかけて前線が通過するそうで,天気は下り坂。風が強く,吹雪になってきた。S大生のY君は登山靴が間に合わなかったそうで,スニーカーで歩いている。「冷たくないの?」。「むちゃ冷たいっす」。そりゃそうだわな。帰ってから凍傷になっていなければいいけど。
- 赤いのはケショウヤナギ
河童橋で集合写真を撮って,車で明神まで移動。。明神では橋の架け替え工事中。梓川の川床が浅くなりすぎているので,冬の間に川床の浚渫工事をするのだという。
明神池の近くではBBCのカメラマンがスノーモンキーの撮影をしている。見ると,木の上に何匹ものサルが陣取って,お食事の最中である。サルは人馴れしているようで,近くまで行ってもそれほど気にかけずに食事をしている。ちょうど吹雪いてきたので,吹雪に耐えながら越冬するスノーモンキーの絶好の映像が撮れたことだろう。
そのあと,2時過ぎに車に分乗し,ノンストップで4時前には松本駅につくことができた。1日一緒に歩いて気心が知れたので,帰りの車内ではそれぞれの海外遠征の苦労話などで盛り上がった。
初めて行った冬の上高地。誰もいない静寂の森を想像していたのだが,意外に人の匂いがプンプンする場所だった。夏にはできないので,冬に集中的に修繕工事などをするのだという。なるほど,そういうことなんですね。
これまで狭く,深くやってきた自分の研究だが,これからは広く,浅く知識を吸収するのも残りの人生を豊かにするこつなのかもと思った上高地トレッキングだった。
山歩き目的のトレッキングではないのでやぶレポに上げるのはためらわれたのだが,yamanekoさんに「楽しみにしています」と書かれるとあげないわけにはいかない。まあ,冬の上高地がどんな感じなのかを伝えるだけでもそれなりにレポの意味はあるのかもしれない。
長野県松本市にあるS大学で,私の興味を引くワークショップが開催されることを聞きつけた。しかも,3日目には冬の上高地を案内してくれるという。すでに現役を引退した身でという気もしたが,面白そうなので行ってみることにした。主催者はS大学の博士課程の学生さんで,参加費無料である。
26日にS大学理学部の会場へ行き,参加者名簿を見ると事前登録で64人の参加であった。間近にアルプスを望むS大学らしく今回のテーマは「山」なのだという。まずはアルプスをはじめとする中部山岳の形成時期の推定法に関するお話,日本列島の成立過程に関するお話などの地学のお話から始まり,植物では高山植物や樹木,昆虫ではクワガタムシや水生昆虫のカゲロウ,水生動物では陸生貝や渓流魚,動物ではサンショウウオ,トノサマガエルからツキノワグマの話までお話は広範にわたる。それぞれの生物群をマニアックに研究する人たちの話は聞いていて飽きない。
26日の夕方は懇親会に申し込んでいたのだが,全豪オープンの決勝と重なったのでキャンセルさせてもらった。私は大いにいい加減である。
【 日 付 】2019年1月28日(月)
【 山 域 】北アルプス・上高地
【メンバー】シュークリーム,ほか7名
【 天 候 】曇りのち雪
【 ルート 】松本駅西口 8:50 --- 🚙 --- 10:19 大正池 --- 12:20 河童橋(昼食)13:00 --- 🚙 -- 13:10 明神 14:30 --- 🚙 --- 15:50 松本駅西口
28日朝9時に松本駅西口に迎えに来てもらい,2台の四駆でそのまま上高地に向かう。参加者は私を入れて8人である。現役で働いている研究者たちは皆多忙なので,ほとんど参加していない。結局,大学の学生さんたちと地元長野県で働いている人たちだけになった。こんな時はサンデー毎日のご身分がありがたい。
上高地へは釜トンネルの手前で降りて歩くのだと思い込んでいたのだが,運転手をしているT教授が,トンネルの手前でやおら車のフロントに「S大学山岳科学研究所」の看板を出した。もしかしたらと思ったら,この看板の威力は絶大で,車止めゲートが開き,そのまま車でトンネル内に入っていく。
「おお,ファンタスチック!!」
[attachment=7]P1280001.jpg[/attachment]
黄門様の印籠みたいだ。「この紋どころが目に入らぬか!」てなもんである。車はそのまま上高地に入り,大正池のトイレ前で降ろしてもらう。釜トンネル手前からの歩行時間90分が短縮された。
[attachment=6]P1280006.jpg[/attachment]
ここから河童橋まで歩くのだという。車は別ルートで河童橋に先行して,そこからまた車に乗って移動するのだそうな。大名トレッキングである。少し歩いてからスノーシュー装着。梓川に沿って河童橋方向に歩いていく。しっかりとしたトレースがあり,トレース通りに歩く分にはスノーシューも必要ない。
[attachment=5]P1280017.jpg[/attachment]
なにせ参加者全員がマニアックな生物学者ないしその卵である。マニアックな会話をしながらのんびりと歩いていく。まず,キツネの足跡。「なんでキツネってわかるの?」と私。「足跡がまっすぐについているのが特長です」とS大生のT君。ついで,テンの足跡。「なんでわかるの?」と私。ついで,ウサギやサルの足跡も。その都度聞いていく。私も一応生物学者なのだが,私の専門はマニアックすぎてこんな時の役には立たない。
[attachment=4]P1280025.jpg[/attachment]
T君がサルの糞を採集している。サルの糞から水生昆虫のDNAが出てくるので,水生昆虫を食べている可能性があるという。ちなみにT君は水生昆虫の研究者である。こんな真冬でも水生昆虫は活動しているという。外気温ー20度でも,水中や雪の下は0度が保たれているので,水中や積雪下は保護された環境なのだという。なるほど。
[attachment=3]P1280033.jpg[/attachment]
笹を指差して,「これはサルが食べたあとです」。「なるほど」と私。「冬でも地面から水分を吸収している樹木の樹皮だったらサルの餌になります」。なるほど。「これがサルが食べた樹皮のあと。噛み跡があるでしょ。」。なるほど。勉強することは山ほどある。雪の中で赤っぽく見えるのはケショウヤナギだそうな。皆さんそれぞれ詳しいが,特に長野県I市の博物館に学芸員として勤めるSさんは植物,動物,地衣類など広範な知識を持っている。小さな博物館で生物担当の学芸員は一人だけなので,いろいろなことを勉強する必要があるという。なるほど,そりゃ詳しくなるわな。
[attachment=2]P1280039.jpg[/attachment]
[attachment=1]P1280049.jpg[/attachment]
そんな感じで河童橋まで歩き,ビジターセンターの軒下で昼食休憩。午後から夕方にかけて前線が通過するそうで,天気は下り坂。風が強く,吹雪になってきた。S大生のY君は登山靴が間に合わなかったそうで,スニーカーで歩いている。「冷たくないの?」。「むちゃ冷たいっす」。そりゃそうだわな。帰ってから凍傷になっていなければいいけど。
[attachment=0]P1280064.jpg[/attachment]
河童橋で集合写真を撮って,車で明神まで移動。。明神では橋の架け替え工事中。梓川の川床が浅くなりすぎているので,冬の間に川床の浚渫工事をするのだという。
明神池の近くではBBCのカメラマンがスノーモンキーの撮影をしている。見ると,木の上に何匹ものサルが陣取って,お食事の最中である。サルは人馴れしているようで,近くまで行ってもそれほど気にかけずに食事をしている。ちょうど吹雪いてきたので,吹雪に耐えながら越冬するスノーモンキーの絶好の映像が撮れたことだろう。
[YouTube]qncOBbxX18U[/YouTube]
そのあと,2時過ぎに車に分乗し,ノンストップで4時前には松本駅につくことができた。1日一緒に歩いて気心が知れたので,帰りの車内ではそれぞれの海外遠征の苦労話などで盛り上がった。
初めて行った冬の上高地。誰もいない静寂の森を想像していたのだが,意外に人の匂いがプンプンする場所だった。夏にはできないので,冬に集中的に修繕工事などをするのだという。なるほど,そういうことなんですね。
これまで狭く,深くやってきた自分の研究だが,これからは広く,浅く知識を吸収するのも残りの人生を豊かにするこつなのかもと思った上高地トレッキングだった。