【 日 付 】2018年12月9日(日)
【 山 域 】台高
【メンバー】+家内
【 天 候 】曇り
【 ルート 】千秋林道駐車場7:30~10:39桧塚0~11:00桧塚奥峰11:04~11:17桧塚奥峰南斜面(昼食)11:57~12:20ヒキウス平12:24~12:29p1353m峰12:32~12:56P1394 13:02~13:11判官平~13:36明神岳~13:58明神平14:07~15:40奥山谷出合~16:02ワサビ谷出合~16:54駐車場
この週末、ほぼ典型的な西高東低の気圧配置となり、いよいよこの冬一番という寒波が関西に訪れる。山行先はまず霧氷の山が前提となるが、比良も鈴鹿も一日中天気が悪そうだ。北からかかる雲の切れ目を狙って、台高を選ぶことにする。この時期ならまだ無難に登山口までたどり着けそうなので、桧塚の木屋谷の側からのルートに照準を絞る。当初、マナコ谷から登るルートを考えるが、折角、高見トンネルを通って三重側から回り込むので、明神平からは辿った場合には行かないであろうポイントを歩いてみたいという勘定が割り込んでくる。地図を眺めているうちに桧塚から東に伸びる尾根に興味が惹かれ、イズミ谷の右岸またはカクレ谷の左岸の尾根を登ることを思いつく。勿論、林道から木屋谷川に下降して、無事に渡渉することが出来ればの話である。
京都の自宅を4時半に出る。国道166号線を辿って、東吉野村に入りトンネルを潜って木津峠を越えると、視界に高見山が大きく飛び込んでくる。高見山も案の定、上の方は白くなっている。最後まで迷ったのは高見山ではあったが、高見山からの縦走はもう少し積雪した時期の方がよかろう。高見山トンネルにかけて国道を登ってゆくと、電光表示板の温度表示は-2℃を表示している。目指す木屋谷林道まではまだまだ時間がかかる。結局、駐車場に辿り着いたのは7時半前であった。
我々が車を停めて身支度を整えているとすぐに三重ナンバーの車で男性三人のパーティーが到着される。おはようございますと挨拶を交わしコース取りをお伺いすると、マナコ谷から桧塚に登り、明神平から奥山谷を下山するとのことであった。我々も、もしも木屋谷川を無事、渡渉することが出来ない場合には、同じルートを辿ることになる可能性が高いと説明させて頂く。「頑張って下さい」とのお言葉とともに浮かべられ笑顔には、同時に呆れられたような表情があったのは気のせいだろうか。
車止めのチェーンを越えて木屋谷林道を歩き始める。林道を歩き始めると早速にも、上の方で白く霧氷を纏った桧塚(正確には口桧とのこと)が姿を顕す。丁度、ピークの辺りに雲がかかっているようだ。何とか少しでも雲が上がってくれたらいいのだが。
林道が最初に右に大きくカーブするあたりがイズミ谷の出合のあたりである。林道から覗き込むと、谷までの斜面はあまりにも急峻で下降出来そうなところが容易に見つからない。少し進んだところで一箇所、少し緩やかな斜面を見つけ、下ってみるもその先はやはりかなりの急斜面となっている。谷底まで辿り着くのはやはり難しいかと諦めかけたところで、降りて下さいといわんばかりに樹に結わえられた一丈のトラロープが目に入る。ロープを伝って下降してみると、なんとそこからも急斜面をトラバースするロープがある。対岸の植林地に入るための作業用のものだろうか。結局、次々とロープが連続しており、4本のロープの助けをかりて無事、谷底まで下降することが出来るのであった。
木屋谷川は水量もそれなりにあるのだが、なんとか無事、飛び石を伝って渡渉することが出来る。谷に沿ってカクレ谷まで移動するのは困難と思われ、イズミ谷の右岸尾根となる急斜面に取り付く。登り始めは杉の植林であり、勾配はかなりキツいが登れないほどではない。慎重に足場を選びながら登ってゆく。
尾根筋を辿るようになるとすこし勾配がマシになり、右手のイズミ谷にかけては自然林が広がっている。いつしか期待通りに雲があがってくれたのだろう、落葉した樹々の合間から見える桧塚はすっきりと山頂部を見せている。
東稜のもうすぐに稜線が近づいてきた思われるあたりで作業林道に出る。こんな高さまで林道がつけられていることに驚くばかりだ。林道の直下の斜面からはようやく樹間に桧塚の山頂がすっきりと見える場所を探すことが出来る。霧氷を纏った山頂部には時折、光があたって明滅するかのように白く輝く。
林道から上はいよいよ植林地も終わる。落葉した明るい自然林に朝陽が差し込み、樹々に長い影を落としている。なだらかな斜面を辿り、まもなく桧塚東稜の広い尾根に出る。期待通りのブナの大木が目立つ尾根の光景を目にした瞬間、この東稜に辿り着くまでの労苦が報われるような気がした。
樹々は薄衣のようにわずかに霧氷を纏っているが、その薄い樹氷に時折、雲の合間から陽光が降り注ぐ瞬間、繊細なガラス細工のようにキラキラと輝く。足元には茶褐色の落葉の上に薄っすらと雪がまぶされている。
桧塚の山頂への登りの手前では北側に広い蕨の草原が広がっている。茶褐色の草原の中で孤在する樹々は霧氷が際立つ。光があたる瞬間にはさらに霧氷の白さがさらに明るく輝くのである。落葉や蕨の落ちついた茶褐色と霧氷の白銀がみせるコントラストはまさに交錯する秋と冬の境界線を景色の上に描いているようだ。
草原の斜面の上部に出ると、辿ってきた尾根の霧氷の樹々を振り返ることになる。雲の合間からさす陽光がサーチライトの様に白銀の霧氷の樹々の上を猛烈な勢いで過ぎ去ってゆく。その速度から上空を通過してゆく風の強さを知ることが出来る。尾根から三重県側はすっかりと晴れており、遠くの山々を見晴らすのだが、台高山脈の上で雲の境界線があるようだ。
樹々の間から隣の稜線ではヒキウス平と尾根の先にある1353m峰がやはり霧氷を見せている。これから、この美しい稜線を訪れるかと思うと否が応でも期待が高まる。
- 桧塚
桧塚への山頂に辿り着くと、樹々の霧氷の程度がスケールアップする。あたりもすっかりと白い積雪に覆われている。いよいよ境界線を越えて冬の世界に一歩、足を踏み入れる。すぐ上の手が届きそうなところに雲があるのだが、その雲の中から桧塚奥峰のピークが姿を顕す。この辺りの雲の高さがまさに桧塚奥峰の高さ、1420m前後にあるだあろう。
桧塚奥峰への鞍部ではマナコ谷から登ってくるルートと合流する。こちらのハゲ尾根も白く化粧が施されており、霧氷を纏った樹々と下方の植林地の深緑が美しいコントラストを呈している。
- 桧塚奥峰にて、雲の中からヒキウス平が現れる
最後にこのピークに立った時には猛吹雪の中から桧塚やヒキウス平が一瞬だけ、幻影のように姿を見せただけであった。ほとんどホワイトアウト状態の悪天候に桧塚への往復を諦めたのだった。桧塚奥峰への登りから振り返ると霧氷で化粧を施された姿をスッキリと見せてくれる。この日も桧塚から奥峰の短い稜線はそれなりに風が強い。雲に覆われていたヒキウス平も再び姿を顕す。
桧塚奥峰のピークに辿り着くと明神平の方から来られた二人の男性が辿り着くのとほぼ同時であった。桧塚から奥峰へと辿る我々の姿がずっと見えていたとのこと。他にも二人組の男女が斜面の南側で休憩されておられた。結局、登山口で一緒になったパーティーを除くと、この日に山中で出遭ったのはこの二組だけであった。
- 桧塚奥峰の南斜面の休憩地点よりヒキウス平を望む
手前の樹林の林に光があたって霧氷が白く輝く
桧塚奥峰からはまずはヒキウス平に向かって蕨の草原を下ってゆく。この斜面は風の影になっているのだろう、上空では相変わらず風鳴りの音が聞こえるが、この斜面では嘘のように風が穏やかだ。ヒキウス平を真正面に望む斜面の中腹でランチとする。ここでも上空を猛スピードで通過してゆく雲の切れ目から光線が差し込み、再びサーチライトの様にヒキウス平、そして右手の1394m峰からの尾根の霧氷の樹林を照らしてゆくのだった。
この日はまずは豚まんを蒸す。次はキーマカレーを予定していたのだが、迂闊にもザックのサイドに入れていた水は早くもかなり凍ってしまっている。ライスを容器のまま蒸すことを試みるもさすがにそれでは調理出来ない。これで10分以上の時間とガスを無駄にする。結局、フライパンでライスを蒸し焼きにすることで何とか食べることが出来る状態にこぎつけることが出来るのであった。下界では不味い飯でも山の上では味覚の評価はかなり閾値が下がるものだ。キーマカレーの味はヒキウス平という極上の光景お陰か、何とも美味に感じられるのだった。
しかし、調理に手間取った間に急速に指先がかじかむ。慌ててグローブを二重にする。景色は素晴らしいがこの寒さの中では長い休憩は無用である。再び斜面を下ってヌタハラ谷源頭の右俣を渡ると右手の1394m峰から源頭部に伸びてくる小さな尾根に乗る。
- ヒキウス平に
今度は左俣を渡って、ヒキウス平へと直接登る。このヒキウス平の展望と霧氷の素晴らしさはまた格別である。背後には辿ってきた桧塚と奥峰の両方を望む。霧氷を纏った山々に囲まれた別天地である。
- p1353北斜面より桧塚奥峰と桧塚
ヒキウス平からは尾根の先にある1353m峰に辿り着く。尾根上にはわずかに一組の足跡がついている。1353m峰は北側と南側にそれぞれ開けた斜面を有し、北側から辿ってきた桧塚の東尾根を見晴らす。南側からは千石山(奥ノ迷峰)から赤グラ山へと至る台高山脈の主脈が見える。どうやら南の方は雲は少ないようだ。
ピークからはヒキウス平に戻ると尾根伝いに明神岳から桧塚奥峰へのコースのジャンクションとなる1394m峰に向かう。雲の切れ目から時折差し込んでいた陽光は全く消えて、灰白色の雲がどこまでまでも広がっている。しかし、いつの間に雲の高さが上がったようで、先程までは緞帳を下ろしたかのように雲の中であった明神岳が姿を見せている。どうやら雲の上昇とともに風もすっかり和らいだようだ。明神平方面が雲の中であれば桧塚奥峰から千秋峰を経て下るつもりであったが、この天気なら明神平を周って、予定通り奥山谷を下ることにしよう。まだ13時前であり時間はまだ十分にある。
1394m峰から判官平の方に向かうと雪の上には多数の足跡がある。判官平の方からは女性を含む2~3人の声が風に乗って聞こえてる。樹々の間からは明神岳が顔を覗かせる。明神岳に近づくにつれて足元の雪が多くなるようだ。明神岳への登りをつめると、ピークからは南側に展望が広がり、笹ヶ峰から奥ノ迷峰へと連なる稜線が見えている。奥ノ迷峰のあたりだけにスポットライトの様にわずかに光があたっている。遠くに望む大峰山脈は上の方は相変わらず雲の中だ。
明神平へは霧氷で凍りついた蕨の草原をなだらかに下ってゆく。臙脂色であったはずの蕨は霧氷により枯野色というのだろうか、わずかに赤みがかった白茶色を呈している。その草原の中に白銀の樹々が浮かび上がる。静寂に支配され人の気配のない明神平には新雪の上をあるく微かな音だけがどこまでも響いていくようだ。明神平の西端に来ると遠く金剛山と葛城山を望む。薊岳に向かって南西に伸びる稜線もすっかり霧氷を纏って白くなっている。
明神平からは奥山谷に入る。雪の上に数人の踏み跡がついているのは早朝、駐車場でお遭いしたパーティーのものと思われる。沢に沿って下るうちに急速に足元の雪が薄くなる。周りを見渡すと霧氷の境界であった。源頭部は歩きやすく広い谷であるが、落葉のせいもあるのだろうか、踏み跡が意外にも薄い。先行者の踏み跡に助けられながらも樹につけられたテープを追ってゆく。しかし先行する踏み跡は樹のテープが示す踏み跡とは違う方向に向かっていく。
勿論、我々は樹のテープを追うしかない。しかしテープもそう頻繁ではない。二度ほど踏み跡を見失う。いずれも沢沿いに下ったところであったが、左岸の斜面の上をトラバースしてゆく踏み跡をみつける。どうやら奥山谷出合いまでは基本的には左岸の斜面のトラバースのようだ。奥山谷出合いで沢を渡渉するのだが、その最後の石で家内が足を滑らせて両足を沢の中にドボン。
ここからは右岸をトラバース道となる。踏み跡の不明瞭な箇所はない。しかし、ルート・ファインディングをしながら進んだせいだろうか。奥山谷の出合いのあたりまででかなりの時間を要する。山と高原地図のコースタイムでは明神平から下りはワサビ谷出合いまで1時間半となっている。さほど大きな道迷いをしなかったつもりであるがここまで?を要する。コースタイムを上回ることは滅多にないのだが。
ワサビ谷で渡渉した直後に思わぬところで足を掬われることになった。積もった落葉の下には地面があると思って足を載せたところがなんと落葉の吹き溜まりであった。岩の上を1~2mほど少滑落する。幸い大きな怪我はなかったが、一つ間違えると大変なことになりかねないところであった。
ワサビ谷出合いからもトラバース道が続く。道に架けられた丸木橋は完全に崩壊しているものもある。足元のみならず、木に打ち付けられている釘に引っ掛からないように慎重に注意して通過する必要がある。最後は杉の植林地となり、ほどなく林道に出る。
車を停めた林道の駐車場まで戻ると、驚いたことに早朝に出遭った3人組のパーティーが車に乗り込んで出発しようとしておられるところであった。「とっくにお帰りになったものと思っておりましたが・・・」と声をかけると、奥山谷で道迷いのため、何度か行ったり来たりすることになったとのこと。明神平には霧氷の季節にも幾度か来られておられるようではあったが、奥山谷の道はかなり荒廃しているとのことであった。
帰宅後にヤマレコを見ても、奥山谷の登山路は年々崩壊が進行し、通行が困難になってゆくと書かれているものがあった。家内はこのルートはもう懲り懲りのようである。しかし、新緑や紅葉の季節も美しそうな谷であり、このまま登山道が整備されずに荒れてゆくのは残念極まりない。
もうすぐ、この台高も雪がすべてを覆いつくすことになるだろう。訪れたい冬の台高の山はまだまだ尽きない。
※このレポはヤマレコにおける以下のレコを加筆・改訂したものです。
https://www.yamareco.com/modules/yamare ... 74221.html