- 鞍掛尾根、一番奥が鈴北岳
御池テーブルランドにはこれまで沢筋を含めいろいろなルートで登っているが、大君ヶ畑から登ったことがない。落第忍者さんの定番ルートであり、冬季にテーブルランドにたどり着く確率のもっとも高いルートだろう。一度はチャレンジしてみるだけの価値がありそうだと、以前から候補に入れていたルートである。
休日出勤の代休を取るようにと言われ、10日間天気予報を睨みながら決めた1月31日。期待にたがわずいい山日和になりそうだ。
【 日 付 】2018年1月31日(水)
【 山 域 】鈴鹿・御池岳
【メンバー】単独
【 天 候 】晴れ、うす曇り
【 ルート 】 大君ヶ畑駐車地 7:20 --- 8:33 鞍掛橋 --- 10:30 送電線鉄塔 --- 11:50 鞍掛尾根 --- 12:50 鈴北岳 13:05 --- 14:28鞍掛橋--- 15:04駐車地
5時半に自宅を出発、国道1号線の鈴鹿峠を越えて日野町経由で行くと、1時間半で登山口の大君ヶ畑に着いた。意外と近いものだ。集落最奥の除雪終了地点には岐阜ナンバーの車が一台。すでに出発した後のようだ。国道は30センチほどの積雪があるので、「スノーシューが使えるところでは使う」というスノー衆の鉄則に従って、最初からスノーシュー着用だ。今日はドア・ツー・ドアのスノーシュー遊びが楽しめそう。
上流に向かって一筋のトレースが付いている。先週末のトレースだろう。その上に、ツボ足の真新しい足跡が一つ。岐阜ナンバーの車の主だろう。落第忍者さんのレポだと、駐車地から鞍掛橋まで約30分とのことだが、30分歩いても着く様子がない。「おいおい一体誰のコースタイムなんだよう」と思いながら、1時間15分ほどでようやく鞍掛橋についた。
先週末のトレースはここで尽き、途中でスノーシューを着用した単独行のトレースのみが林道奥に伸びている。雪質は28日のスノー衆の時とほぼ同じで、新雪ではあるのだが、やや重で決して快適な状態ではない。
送電線鉄塔のある尾根の末端から取り付き点を探しながら林道を辿ると、単独男性に追いついた。白髪の初老の男性だ。あとで聞いたが、岐阜県の池田町から来たという。私よりも年上に見えるが、私もすでに前期高齢者の仲間入りをしており、介護保険証もいただいている身。意外と同年代なのかもしれない。最初に男性が斜面に取り付くが、1分もしないうちにギブアップ。この人のスノーシューはMSRではないので、無理だろう。
最初の取り付きを無理やり登り、上を見ると急登がずっと続いている。無理やり登っていけないこともないが、おそらく尾根に出た時点で力尽きるに違いない。一旦仕切り直しをするため、降りる。男性はスノーシューを脱ぎ、ツボ足で林道の奥へ歩いて行った。一瞬、登山口で撤退という最悪のシナリオが頭に浮かぶが、まあ、お昼くらいまでは頑張ろうと、林道奥に進む。
取り付きやすそうな斜面を見つけて、登ってみることにする。男性はもっと奥へ行ったようだ。重い雪を一足ごとに2、3回ずつ踏みつけながら登ると、ゆっくりとだが、確実に標高を稼ぐことができる。時間さえ気にしなければ一人ラッセルでもそれほど疲れないことが分かった。まあ、この調子でどこまで行けるかわからないが、行けるところまで行って引き返せばいい。
そう思うと気が楽になり、ラッセルも楽しくなってきた。吹き溜まりではスノーシューでも膝のあたりまで潜るが、2、3回踏みつけてやればいい。斜面を登っていくと、林道に出、目の前を先の男性がツボ足で登っている。ずっと奥に行ったのかと思っていたが、すぐ隣の尾根を登っていたようだ。
私の方がペースが早いので、先頭を交代する。ツボ足よりはスノーシューの方がこういう状況下ではずっと歩きやすい。ようやく尾根上の送電線鉄塔にたどり着く。鞍掛橋からここまで2時間もかかってしまった。まだ鞍掛尾根までの半分の距離しか来ていない。鞍掛尾根までたどり着けるかどうかも怪しくなってきた。
- 左、鈴が岳
栄養補給をしていると男性も到着。気温が低いようで、アウター手袋が凍ってゴワゴワになっている。インナー手袋も濡れてしまったようで、手が痛い。アウター手袋はゴアテックス製なので水は通さないはずなのだが、長年使っているうちに防水機能を失ってしまったのだろうか。こんなことは初めてだ。手袋を脱ぎ、体温で手指を温めることにする。次に予備のメリノウール手袋に代えるとようやく暖かくなった。やっぱり、予備の手袋や靴下は冬山では必需品だ。
先行していた男性をすぐに追い抜き、先頭に立つ。尾根上は雪が吹き飛ばされて少ない、吹き溜まり箇所以外は快適に登っていくことができる。2、3度急登を喘ぎ、雰囲気のいい場所に出たと思ったら鞍掛尾根だった。
- 鞍掛尾根
すぐ近くに霊仙が真っ白な姿を見せて輝いている。1月20日に行った時には雪が少なく、黒く見えていたのに。やっぱ、山は雪化粧すると3割り増しになる。こんな綺麗な霊仙だったらもう一度行ってみてもいいなあ。
- 霊仙(左)と伊吹山(右)
その右隣には伊吹山が、さらにその右に見えているのは中央アルプス?疎林帯を抜けるとそこは白銀の世界だった。歩きやすそうな緩斜面の尾根が鈴北岳に向かって伸びている。無雪期に何度か歩いた尾根だが、冬になるとこんな風に変貌するんだねえ。雲の流れから上は風が強いと読んでいたのだが、意外に風が弱く、寒くはない。樹氷が青空に映えて綺麗だ。もっとピーカンだったらもっと綺麗なのにと思うが、それは贅沢過ぎるというものだろう。時刻はもう12時。斜面のずっと向こう、遠くに鈴北岳が見えている。
- 樹氷
あそこまで行けるだろうか。しかし、こんなピーカンの雪稜歩きが出来る機会は滅多にないだろう。行けるところまで行ってみよう。撤退期限を午後1時と定める。1時までに鈴北岳に到達できなければ、その時点で撤退だ。昼食時間を削ればなんとかなるだろう。
すばらしい白銀の雪稜に一人だけのフットプリントを刻んでいく。なんという贅沢な時間。来て良かったと思う瞬間だ。真っ白な霊仙と伊吹山を背に登っていく。いたるところシャッターチャンスなので、足が進まない。雪稜歩きを楽しんでいるうちに鈴北岳がすぐ近くに迫ってきた。期限の午後1時までには到達できそうだ。
- 風紋
12時50分、鈴北岳着。鈴北岳には人の足跡はおろか、見渡す限り人の姿は見えない。自分一人だけに許された絶景。西には琵琶湖の向こうに比良山系が白い帽子をかぶって輝いている。
先の男性はもう引き返したのだろうか。稜線上には姿が見えない・・・と思っていると、ゴマ粒みたいに見える点が動いている。人だ。先の男性だ。しかし、しばらくして稜線を下り始めた。鈴北岳まで遠いと見て撤退を決めたのだろう。時間はもう1時なので、妥当な判断だろう。
私も行動食で栄養補給ができたので、下ることにしよう。テーブルランドにはまた次の機会に来ればいい。
- たどり着けなかった御池テーブルランド
下りは早い。あっという間に送電線のある尾根の取り付きまで下って、その尾根を下り始めるとすぐに男性に追いついてしまった。どうも、下りが苦手のようだ。聞くと山に来るのは年に数回程度だという。悪いけどそのまま先行させてもらう。
下りはもちろんスノー衆流。トレースを外して直降すると、それこそあっという間に林道に降りてしまった。こういうところで2時間も悪戦苦闘していたんだねえ。鞍掛橋から駐車地までは長かった。疲れた足を引きずるようにしてようやく駐車地着。
滅多にない平日の山行を楽しんだ1日だった。まあ、4月から毎日が日曜日になるとこういう山行も増えてくるのだろうけど。一人ラッセルも時間さえ気にしなければこなせることがわかったし、すばらしい雪稜に自分だけのフットプリントを刻むことができたし、言うことのないすばらしい1日に感謝。
今週末は御池にリベンジかな?