山歩き:燕岳デビュー
山の週間天気というのは変りやすいもので、予定していてもがっかりすることが多い。
明日こそはと意気込んでいたら急転、落ち込み、何気なく他の山の天気を見る。
ほう、あの方面ならなんとかもちそうなんだ、ということで当該地区の山を調べる。
車移動と登山で日帰りが可能なのは・・・燕岳、人気の山なのが少し不安。
北ア入門の山だそうで、万年初心者の自分には最適、気分はピークとかランドネ。
- 燕岳
【山行日】2015年7月22日(水)
【山 域】飛騨山脈:燕岳、中房温泉
【天 候】晴れ時々曇りのち雨
【形 態】往復 単族 中装
【コース】中房・燕岳登山口第1駐車場、起点
P5:50--6:05登山口--6:42第2ベンチ--7:45合戦小屋7:51--8:45燕山荘9:00--
--9:25燕岳9:51--10:10燕山荘10:20--10:46合戦小屋10:52--
--11:43第2ベンチ--12:13登山口--12:22P
平日とはいえ人気の山なので駐車場が心配、歩き始めも朝早くがいいだろう。
ということで逆算すると、高速利用で4時間だから、家を1時半に出発する。
深夜の東名・中央道はともに静かで、PAで駐車している車両だけは多かった。
予定通り順調に進み、安曇野あたりで常念山脈にモルゲンロートが見られた。
天気はまだ大丈夫、ただ山間に入ってから駐車場までの10キロの道がとても時間がかかった。
有明荘周辺から駐車車両が増えたが、第1Pには幸運にも数台の空きがあった。
駐車場から10分ほど歩くと中房・燕岳登山口で、立派なトイレや休憩所がある。
すでに何人もの人が食事をしたり、準備をしたりで、にぎわっている。
登山口も間違えようがないので、さっさと入っていく、出発。
樹林帯の薄暗く湿っぽい中を登山道はジグザグに上がっていく。
木の根っこの張り出しが多くて、人工の階段とともに足場になっている。
少しカラフルな装備の二人連れや、仲間連れが目立つのはどこでも同じか。
道はよく整備されていて、ベンチなど休憩場所も随所適所にあり、よく利用されている。
さすがに標高があるので暑さを感じることもなくどんどん上がっていく。
枝尾根に上がり足元の影を見ると、自分の身体から後光がさしている。
まいったな、また仏に近づいたか。
この山の登山道は東斜面にあるので樹林帯を過ぎると朝日をしっかりと浴びる。
まだ帽子をかぶるほどではないので、首だけ手ぬぐいで覆う。
平日の登山道だから人は多くはないが、朝早くから下りて来る人にどんどん会う。
樹間からは時々、谷を隔てた向こうの山並みが見える。
歩いたことのない山脈で、大天井岳とか常念岳という名前を知っているだけ。
でもまあそんな美しい山姿を垣間見るだけでも気がまぎれていい。
少し開けてきて確かな尾根にのると、合戦小屋に着いた。
小屋といっても峠の休憩茶屋みたいなもので、休んでいる人が多い。
朝からずっとひっきりなしに聞こえていたヘリコプター音はここではなかった。
汗でびっしょりとぬれた手ぬぐいをここで交換して、先へ進む。
道は徐々になだらかになり、樹木が低くなって視界が広がるようになる。
ガスがところどころで湧き上がるが天気はまだ上々、抜けた青空は気分がいい。
左右に後ろに、ずっと遠くまで景色が見えるが、山座が多すぎて特定はとても難しい。
やがて尾根の山腹をトラバースしながら進む道の傍らに花畑が見られるようになる。
そして前方の行き着く先の崖上に立派な砦のような山荘が見えた。
ただ目的地が見えていてもまだ距離は1キロあり、なかなか近づかない。
少し進むと、山荘から右手の稜線上には特異な岩石峰が連なり、見事なものだ。
- 連なる岩石群
なるほど、求められるものがきちんとそろっている、人気の山になるわけだ。
そんな間も、下山する人の途切れる事はなく、みなさん満足して帰っていく。
昨日も今朝も素晴らしい天気だったそうだ。
花畑の上方には大きく手をふり、泊まった人に声をかけて見送る山荘スタッフの姿があった。
稜線の鞍部に出ると、前方にはとにかく雄大な景観が広がった。
飛騨山脈の北部の山々で、裏銀座とかなんとか呼ばれているのが眼前にある。
そこは、燕山荘と燕岳の分岐にもなっていて、山の交差点でもある。
- 山の交差点
まずは要塞のような燕山荘の広場に上がり、景色を楽しむことにしよう。
泊まった人を送り出して、次の仕事の前のほんの少しの休息を過ごす燕山荘スタッフ。
それにしても眺めのよい場所で、周囲にある岩の造形も面白い。
人気の縦走コース、表銀座の始まりだけすこし見ることにする。
さて次は、燕岳山頂を目指すとしよう。
小屋どまりで軽い荷物しか持たない人も多いが、通りすがりの自分は来たままに進む。
山頂までの1キロ、ざーっと見ただけで、石庭のようなこの稜線の見所の多さがわかる。
ガイドブックや雑誌でみたことのある名前の付いた岩をいくつみつけられるだろうか。
花崗岩の白いざれた道をたらたらと進む。
白砂の斜面にはピンクのコマクサが一面にまばらに咲いている。
- コマクサ
へえ、これがイルカ岩、らしいわ。
- イルカ岩
燕山荘のすぐ南にもよく似た岩があったけど、目と口が違うのだろうか。
先へ進むと、屏風に二つ穴が開いたような岩がある。
この穴から向こうを臨むような構図が面白そうだけど、岩に上がるのは禁止らしい。
平板に撮るが、傍らには過去の文字の彫り後が生々しい。
踏み跡は千千に乱れるが、なんやかや燕岳山頂にむかっているらしい。
遠くから見てるともっと分かりやすかったが、幾重にも岩が重なっていた。
回り込んで、岩の間を通り、高みを目指して上がっていく。
- 高みをめざす
山頂には先客がふたり、ずっと前を歩いていた大阪のおねえさんもいた。
話を聞いていると、テレビで放映中の田中陽希の話題が出た。
見てはいないが、百名山一筆書きの人であり、現在二百名山に挑戦中なのだそうで。
だからその内、彼はここ燕岳に来ることになる。
その時、燕岳がどうして百名山に選ばれなかったか明らかになるかもしれない、だって。
ふーん、じゃあ今日、下山後、あまりこだわりのない俺が、先に意見を提示しておこう(後述)。
ふたりが去り、自分ひとり、ここでゆっくり昼食を取る。
それにしても見渡す限りとはよく言ったもので、360度、見事な展望なこと。
北側に続く稜線が荒々しくも美しく、北燕岳が指し呼の位置にある。
- 北燕岳
当初はそこへも行く予定だったが、面倒くさくなってしまった。
往復1時間はかかりそうだし、天気も気になる、と都合のよい理由をいっぱい考える。
ふと下を見ると、あらまあ、雷鳥さんじゃあーりませんか。
母は子をしっかりと見張りながら、ゆったりと歩いていった。
さてと再び山頂に戻り、荷を整えたら、帰ることにしよう。
山頂から稜線を通してむこう燕山荘へ続く眺めもそれはそれでいい。
ぽつりぽつりと、小屋泊まりの山頂散歩組の人に会う。
それにしても砦と見間違えた燕山荘だが、こうやって見るとそれ以上だ、威容で異様だ。
- 燕山荘要塞
まさしく現代日本版マチュピチュ遺跡だわ。
山の交差点でもう一度、雄大な景色を見ながら、他の人と山座を特定する。
裏銀座コースの山並みは以前、フォッサマグナ縦走の時に歩いているからよく分かる。
ガスがどんどん上がってきてあきらめかけていた時、その山頂が一度も見えなかった山が見えた。
すぐ目の前の山で、近すぎて、でもだれもが知っている山だ。
再びすぐにガスに覆われて、てっぺんが隠れると、特徴のない山になってしまった。
なんかようやく踏ん切りがついたようで、ガスとともに下り始める。
合戦尾根はなだらかな歩きやすい道で、足にやさしい。
ガスがかかる前はずっと日差しが強かったようで、日射病手前の方もちらほら。
これで足元に気をつけて下っていけば、と思っていたら大間違いだった。
まだ登ってくる人がいて、すれ違いに気をつけなければならなかった。
まあ下りの分、こちらには余裕があって、その都度、よい休憩になる。
しかし、20人以上の中高年団体が2組、その次に、学校登山で中学生150名。
もっと元気で威勢のいい男子高校生が分かれて3組、そしてその後ろにはJKの一団が。
待つのも大変なので、「こわいおじさんが通るぞ」と声をあげても無視されるだけ。
さすがに人気のある山だとは思うが。
それ以上に、天気が悪くなるのがわかっていても予定を変えられずに入山するみなさん。
いろんな都合や事情があり、北ア入門コースも大切なんでしょうが、ご苦労様です。
早朝、ひっきりなしに荷揚げのヘリコプターが飛んでいたのも必然だな。
合戦小屋のスイカはケーブルで引き上げているらしいが、なんともはや。
それでも一個体の八分の一のスイカ片は、一切れ八百円でどんどん食されている。
そんなことを少し考えたりしていると、ぱらぱらと雨が降り出した。
天気は下り坂、午前中いっぱいすらもたなかったことになる。
自分のよみはあたったことになる、オホン。
整備されていても雨で濡れるとすべりやすい道なので、慎重に下る。
下山後、折角なので中房温泉の立ち寄り湯に入っていく。
昔、家族で一般客として訪れたとき、登山者ではないので断られたことがある。
今は、立派な広い駐車場まで用意して、門戸を広げているらしい。
家への帰り、高速道路は高いのでケチって一般道を使用、眠くてとても辛い6時間だった。
さて入門の山の感想、初めての山が御在所で中道を歩いた山ガールの気分、かな。
後述、どうでもいい話。
「燕岳はどうして百名山に選ばれなかったか」
だいたい、ふもとから見ても、標高も山姿も目立つ山ではない。
花崗岩の特徴のある山頂は見事だが、空木岳や甲斐駒が岳、鳳凰山、南駒が岳がある。
百名山に選ばれなかった(二百名山だが)から、騒がれている部分が大きい。
その選ばれなかった点を逆手にとって、優れた特徴をアピールする営業努力を続けたこと。
その特徴とは、ふもとに温泉、途中に休憩小屋、稜線の花畑、頂上周辺の連峰の美しさなど。
そして、北ア入門の山とか3大急登とかスイカやホルン、イルカといった都市伝説を広めたこと。
以上だが、この山を歩いていてよく似た山とそのコースを思い出した。
白山の平瀬道コースがそれ。途中の休憩小屋を除けばほとんど同じ特徴になる。
しかも、両者をそれぞれ対で比較すると、すべてにおいて白山平瀬道が勝っている。
といっても白山平瀬道も人気のコースだから、俺がぐだぐだ言う事は何もないんだけど。
ということで、結論。
燕岳が逆に選ばれていたら、凡百な百名山として今日の人気はなかったのではないか。