【 日 付 】2019年11月10日
【 山 域 】鈴鹿
【メンバー】シュークリーム、雨子庵、Biwa爺、山猫(敬称略)
【 天 候 】晴れのち曇り
【 ルート 】上高地13:44〜14:34コクイ谷出合〜15:55クラ谷分岐〜16:09沢谷峠〜16:41武平峠下の駐車地
この日の出発地点は杠葉尾ではあるが、下山ルートは神崎川に沿った道を歩き、荒れた瀬戸峠越とその後の長い舗装路を一人で黙々と歩くことを覚悟していたが、武平峠から来られたBiwa爺さんが「杠葉尾なら帰り道やから車に乗せてったろか?」とご親切な申し出を頂く。Biwa爺さんとはおよそ二年前、次男を連れて周回した厳冬の綿向山の下山でオンバノフトコロから登山口までほぼ前後して歩いた時以来の嬉しい同行である。同じく武平峠から来られた雨子庵さんとシュークリームさんもご一緒だ。
- 人が去った鈴鹿の上高地のカツラの樹
シュークリームさんが「地獄谷かコクイ谷かのルートがいいかと思うけど、Biwa爺さんの体力を考えるとコクイ谷がいいかと思うな」と仰る。・・・ということで帰りのルートが決まった。どちらのルートも私は歩いたことがなかったので、とても魅力的に思われる。
愛知川の広い河岸段丘には紅葉真っ盛りの樹林が続く。傾いた午後の陽光がさすと赤、黄、橙色と様々な色に輝く透過光がキラキラと音を立てて樹林の中を溢れ落ちてゆく。この美しい錦繍をレンズに収めようと努力をするものの写真のモニターに映る映像を見る度に幻滅を繰り返すことになる。
美しい紅葉に見惚れて各人、思い思いに写真を撮ったり用を足したりしているうちに後ろから声が聞こえた。「何してんの〜?」この声は間違えようがない。ぐーさんのものだ。雨ちゃんが「グーさんも一緒に行きませんか?」とお誘いするも「そっちの方がようけ歩かなあかんもん、そんなん儂、嫌や」と上水晶谷を一人で登って行かれた。途端に谷には静寂が戻る。
- コクイ谷
コクイ谷に入ると、谷沿いには上水晶谷と同様、青白色の石が多く見られ、紅葉の木々と美しいコントラスを呈する。午後の光が傾くの早いせいだろうか、それとも谷が深いせいだろうか、先ほどまでふんだんに降り注いでいた光は既に谷には届かない。透過光による紅葉の輝きはないものの、紅葉のコントラストは深みを増し、随所で色鮮やかな紅の色が目を惹く。
- コクイ谷奥の紅葉
沢沿いには明瞭な踏み跡が続いている。踏み跡を辿ると次々とかつての炭焼き窯の跡の石垣が現れる。その窯跡はそれぞれがとても大きく立派だ。
- 窯跡
炭焼き窯の跡のみならずかつての住居の跡と思われる石積みも見られる。程なく右岸には数段に亘る長い石垣の段々が現れた。集落の跡だろうか。
- 石垣
散逸した一升瓶や食器の破片の間に土が詰まった小さな小瓶を見つけられる。「この瓶の底のユダヤのマークはなんや?」とBiwa爺さんが訊かれると、すかさず「これが例のカゴメのマークですよ」と雨ちゃんが応える。「海苔の佃煮の瓶じゃないかな」。ガラス瓶を頂いて、沢の水で中を洗って見ると、わりばしさんが鉱山跡で拾ってきたという瓶ほどの鮮やかな青みはないが、灰色がかった水色の瓶は何十年ぶりかで透明な輝きを見せるのだった。
往時の濃厚な人々の営みの痕跡とは対照的に険しい様相を見せる。炭焼き窯のあとで休憩していると、少し後ろを歩かれていたトレラン・スタイルの若者が「こういう険しい道は自分達は全く慣れていないので、後ろをついて行っていいですか?」とお声をかけられる。雨子庵さんはご親切にもお二人の若者にお菓子を差し出す。
- 紅葉の美しい谷奥の平流に
- 平流を振り返って
シューさん、Biwa爺、雨ちゃんの後、若者二人が続く
再び出発すると沢は広いV字谷となる。沢を離れたかと思うと、再び小さな流れと急斜面を落ちる小滝が現れる。渡渉地点の前に設けられた「親子自然教室」の案内は明らかにこの場所にそぐわない。滝の落ち壺の上を渡渉して、対岸の斜面をトラバースする明瞭な踏み跡を辿る。コクイ谷の対岸の紅葉がなんとも綺麗であった。
- 沢谷の出合からの紅葉の斜面
すかさずシュークリームさんに呼び止められる。本来の道は沢谷の右岸に沿って進むらしい。ところで、この斜面はBiwa爺さんがかつて道を間違えて登った箇所らしい。本来の登山道も一見、かなりわかりにくい。「確かにここは分かりにくいところなんだな〜」と雨ちゃん。
小さな沢沿に進むと流れの緩やかな平流となり、まもなく雨乞岳からの一般登山道と合流した。地図上では「クラ谷分岐」と記されているが、「沢谷分岐」と呼称するのが適切なのではなかろうか。ここで後ろをついて来られた若者二人は「どうも有難うございました」と丁寧にご挨拶をされ、先に行かれた。
沢谷峠にかけて沢谷の緩やかな源頭を辿る。後ろからはシュークリームさんが雨ちゃんによく行かれるらしい人形浄瑠璃のお話をされておられる。「仮名手本忠臣蔵」のことらしい。その話をきっかけにお二人には意外な共通点があることを知る。お二人とも学生時代に演劇部に所属されていたらしい。
沢谷峠にたどり着くと、すぐ近くに鎌ヶ岳の鋭鋒が大きく見える。雨ちゃん曰く「ここから見ると鎌ヶ岳は尖って見えるな〜」。「どこから見ても尖っているかと思いますが」と不肖山猫。
鈴鹿スカイラインを走る車のエンジン音が急に大きく聞こえるようになる。シュークリームさんからこの先から雨量計測器のところに下るルートがあるのでそれで降りましょうとのご提案を頂く。そういえば、前回、郡界尾根を下った時、このルートへの分岐を通りがかり、このルートも気になっていたのだった。沢谷峠から郡界尾根へのルートを少し辿ると樹肌に直接太いペンで「武平峠→近道(20分)」と書かれた案内がある。
後ろからは雨ちゃんのダイエットと体脂肪率のモニタリングのお話を聞きながら急下降を下る。四月にグーさん主催の天井桟敷ツアーでご一緒させて以来、それほど体型は変わっておられないように思われるが、今回のオフ会でも雨ちゃんの姿を見た方々が口々に「雨ちゃん痩せたね〜」と仰っておられたのを思い出す。
杉の植林地の中の急な斜面の下りは幾度か足元で靴がズルッと滑る。「ここで滑って尻餅をつかないのはバランス感覚と足の筋力のせいやな〜」とBiwa爺さんが仰るが、ズルッという音を幾度も立てていたのはもっぱら私ばかりであったように思う。
雨量計測器にたどり着き、最初のカーブを曲がると先ほどの若者二人が武平峠を経て車に戻られたところであった。Biwa爺さんが愛車を停められたのはそのわずか10mほど上であった。
さてシューさんと雨ちゃんにお別れのご挨拶をしてBiwa爺さんの車に乗り込む。Biwa爺さんの車が鈴鹿スカイラインを下り初めて、理解した。Biwa爺さんは杠葉尾が武平峠からの下りにあると誤解されていたことを。「時々、このR477とR421を勘違いするんや〜」・・・確かに自分も踏襲しそうである。
「でも、ここから杠葉尾に回って下さるとしたら三重県側からの方が近くないですか?」「それもそうかもしれんな」・・・ということで鈴鹿スカイラインの途中でUターンして頂き武平峠へと引き返す。すぐに車の脇で帰り支度を整えておられるシュークリームさんの傍を通り過ぎる。武平峠の駐車場からは雨ちゃんも手を振って下さる。駐車場には他には一台の車も見当たらなかった。
杠葉尾に着く頃にはすっかり夜の帳が降りたところであった。Biwa爺さんには石榑トンネルを潜ってかなり遠回りをして杠葉尾まで周って頂くことになってしまったが、お陰でオフ会の思い出を一層、楽しいものにして下さったのだった。ご一緒させて頂いた雨ちゃん、シューさん、そして何よりも親切なお申し出をいただいたBiwa爺さんに感謝である。