(2日目)
21日(2日目) テン泊地 7:24 --- 8:27 岩井谷(河原小屋付近?)--- 8:57 岩井谷大滝下 --- 9:43 岩井谷大滝源頭 --- 10:40 細いゴルジュ内のCS滝(遡行打ち切り)--- 11:40 ca1260m稜線 --- 11:53 テン泊地
外はもう明るいが,今日はのんびりの日だ.6時に起きて,朝食.今日のメニューはベーコンエッグ,餅2個とカフェオレ.いずれもフライパンひとつで調理可能だ.昨晩はもう少し冷え込むかと思ったのだが,以外に暖かく,持ってきたダウンジャケットを着ると暑いくらいだった.朝も冷え込んでいない.
テントから少し離れた場所で用を足していると,後ろの方で大型動物が落ち葉を踏む音がする.イノシシでも来たのかと見てみると,水が湧いている場所に小柄な女性が佇んでいる.何でこんなところに朝から女性がいるの?頭の中でクエスチョンマークが点滅し始める.とりあえず「こんにちは」と声をかけてみるが,そのあとの言葉が出てこなくて,しばらく沈黙してしまった.こんなところに一人で来る女性なんて一人しか知らないんだけど,まさかね.仕事で朝から晩までコンピュータの画面とにらめっこしていて,最近とみに視力が落ちているせいか顔がよく見えない.
しばらくそのまま突っ立っていたら向こうから声をかけてくれた.「シュークリームさん?」.あっ,やっぱりあきんちょかあ.それにしても神出鬼没な子やなあ.まさかこんなところでばったりするなんて.そういえば,今年の山菜闇天の時に桃源郷の場所を教えたんだった.来るかもとは思っていたけど,まさか同じ日にここで出くわすなんてなんという偶然.
地池高の近くにテントを張って,嘉茂助谷の頭まで往復するという.「これから先は道が不明瞭なので,気をつけて行ってらっしゃい」.「機会があったら今度はここ桃源郷にテントを張ってね」と心の中で話しかける.
あきんちょを見送ったあと,私は沢装備で岩井谷に向かう.桃源郷すぐ横のca1240mピークからP1152, P1109をへて岩井谷に下りている尾根を辿る.この尾根を下るのは2回目だが,相変わらず緩斜面の気持ちのいい尾根だ.基本的に鹿道をたどるが,一部では明らかに人間がつけたと思われる明瞭な杣道が出てくる.岩井谷に近づくにつれて明瞭になる九十九折れの道をたどると,やすやすと岩井谷に着いた.
- 雰囲気のいい河原小屋付近
この辺りは河原小屋と呼ばれる雰囲気のいい場所だ.確かに右岸の一段上がったところに平坦地があり,昔はなんらかの小屋があったのかもしれない.真砂谷経由でここまで来る道があるらしいので,私がたどった尾根に見られる杣道はその続きで,昔は多くの人がたどった道なのかもしれない.確かにこの尾根は歩きやすく,海山町から大台ケ原に至る良いルートになるだろう.
河原小屋から雰囲気の良い渓を上流へとたどる.おそらく岩井谷の中で最もほんわかした場所だろう.今日は暑いので,太もも辺りまで水に浸かるとひんやりして気持ちがいい.この谷をそのまま真っ直ぐにたどると河原小屋谷となり,テン泊地へと登りつめる.本谷は十字峡を右へ90度曲がる.曲がってすぐに番人のようにゴルジュに6m滝がかかる.ここは右岸の岩をあがることができる.岩場なので,ちょっといやらしい一手は,岩の隙間にカムを一発かませて登る.
- 十字峡の6m滝
さらに簡単な滝を一つ越えると雰囲気のいいなめ.そして,その奥に日を浴びてキラキラ輝く岩井谷大滝がドーンと現れる.70mとも80mとも言われる直瀑だ.滝下は平坦な岩盤になっており,日当たりがいいので,舞台に寝そべりながら滝見物の気分だ.この滝に会うのはこれで2回目.いつ来てもほれぼれするような姿形のいい滝だ.
しばらく滝を楽しんだ後,右岸ルンゼから巻き始める.どきどき.最初は普通の急斜面.壁が切れた辺りで弱点をついて壁をすり抜けるのだが,ここら辺からモンキークライムとなる.安全を確保するためロープを出す.20mロープをダブルにして使うので,落ちると最大20mの滑落になる計算だが,実際には途中の木に絡むように上るので,落ちてもせいぜい数m程度だろう.3ピッチで壁の上に抜けたので,落ち口に向かってトラバースし,数mの懸垂下降で落ち口にジャストで降りることができた.自分のコースファインディングもなかなかのものだと自画自賛する.
- 岩井谷大滝落ち口
大滝の上は12〜3mほどの滝.ここは右岸を巻く.次に深い釜の奥に3mほどのCS滝.泳いで取り付けば簡単に直登できそうだが,単独ではあまり泳ぎたくないので,ここも右岸巻き.さらに10mクラスの滝が二つほど続き,なかなか楽しませてくれる.流石に台高で最も難しいと言われる岩井谷,こんな上流部でもしっかりゴルジュと滝のオンパレードだ.
- 大滝の上の滝
- 泳いで取り付けそうだが
- 2段の滝
トイ状の滑滝を気持ち良く直登し,右に直角に曲がり,ついで左に曲がると狭い廊下の奥に3mほどのCS滝が見えた.両サイドはスベスベの垂壁になっており,とてもへつれる状態ではない.泳いで取り付いても登れそうには見えないし.ちょっと考えてここでギブアップすることにした.今日のミッションは岩井谷大滝を登ることがメインで,ここまで遡行できれば120%達成といっていいだろう.
- 気持ちのいいなめ滝(直登)
- 狭いゴルジュの奥のCS滝
地形図を確認するとテン場にほど近いca1260m稜線から右岸側に尾根が降りてきていることがわかった.この尾根に乗ってしまえばおそらく稜線までは行けそうだと判断する.右岸の登れそうなところから遮二無二登り,なんとか目的の尾根にのる.ここでパンを一個頬張って小休憩.あとは標高差200mほどを登って稜線に到達した.真っ赤に咲き誇るヤマツツジがきれいだった.
稜線からはわずか15分弱でテン場着.ほぼ理想的な周回コースだった.あとは桃源郷で寝そべって読書したり,ラジオを聴いたり,焚き火したり,お酒を飲んだり,のんびり過ごす.今日もいい1日だった.あきんちょは迷わずに帰れたのかな?